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33:襲撃

 そして竜の谷の上空に到達した私が見たのは、看板が無残にももぎ取られた、ホテルクマちゃんと、額から血を流しつつも、目の前の黒龍(ブラックドラゴン)ツィツィミネを睨みつける、アリスちゃんの姿だった。


 黒龍ツィツィミネはもぎ取った看板を左手で持ち、煽るようにアリスちゃんや、他の仲間達に見せつけているように見える。


 テペヨロトル坊やとセンテオトルさんの姿は見えない。


 アリスちゃんの騎士型ゴーレムまるちゃんは、ボロボロの状態でアリスちゃんの前にいるのが見える。

 リオノーラさんはアリスちゃんの右側に、ノエルさんをかばうように陣取っているようだ。


 私は上空からもぎ取られたそのホテルクマちゃんの看板を見て、胸が締め付けられる思いがした。


 悔しくて、悲しくて、涙が溢れて来る。

 皆との思い出や、色々な思いの詰まった私の家。大事な大事な私の家・・・。


 そして大切な妹のアリスちゃんに怪我をさせ、あんな表情をさせるほどに傷つけた黒龍ツィツィミネを、私は許すことができなかった。



「ツィツィミネェェェェ~!!!」


 トッパ~~~ン!!



 私はいつの間にか、土剣を発動させて、黒龍ツィツィミネに、急降下しながら叩き付けていた。


 その土剣は薄っすらと赤く光を帯びており、これほどの衝撃ならばひびくらいは入ると思ったのだが、びくともしていない様子だ。


 どこかの拳法家が、怒りは肉体を鋼鉄に変えると言っていたが、私の場合は土剣が鋼鉄に変わるのかもしれない。



 グガアアアア!


 ドカドカドカ・・・



 黒龍ツィツィミネは、そのまま吹き飛んで岩山に激突して、その衝撃で崩落した岩に、埋もれてしまった。


 私はそのままクマさんや、ガチャポンくん一号とともにゆっくりと着地する。



「お姉・・・ちゃん・・・」


「アリスちゃん!!」



 そして私を見て安心したのか、ぐらりと倒れ込むアリスちゃんに駆け寄った。



「今すぐに回復するから!!」



 倒れ込み、リオノーラさんに抱きかかえられたアリスちゃんに回復魔法をかけると、その出血の原因であろう、額の傷は消えてなくなった。


 念のために魔力感知で体中を調べたが、打撲や、痣があるくらいで、他に強いダメージは受けていないようだ。


 頭に衝撃を受けたのが倒れた原因とすると、少し心配だが、魔力感知で見ても頭部には悪い部分は見つからないし、ひとまずは安心だろう。



「嬢ちゃん油断するな!! 彼奴はまだ意識があるぞ!!」


 ドカ~~~ン!


 ウガアアアアア!!



 クマさんがそう注意を呼び掛けた瞬間、黒龍ツィツィミネは積み重なる岩を押しのけて、咆哮を上げながら立ち上がった。



「ふわあぁぁぁあああ!!!」



 私も負けじと、その身震いするような咆哮に、竜の咆哮で対抗する。



『そんな攻撃、この俺の体には毛ほども効かぬ!』


 カラン!!



 そう言い放つと黒龍ツィツィミネは、左手に持ったホテルクマちゃんの看板を、岩の瓦礫の中に投げつけた。



 ドンドンドンドン・・・・



 そして私に向けて突進してくる。



 ブオン!



 私は振り下ろされる黒龍ツィツィミネの爪を躱すと、そのがら空きの腹に、土剣で突きをお見舞いして差し上げた。



「はあ!!」


 ボフン!! ガフゥッ!!



 だがそれはただの突きではない。土剣がヒットした瞬間に、黒龍ツィツィミネの腹に伝わる衝撃を魔力でコントロールして、体の内部に伝えたのだ。


 ドラゴンの丈夫さはシュロトルやセンテオトルさんとの戦いで、嫌というほど経験している。


 ならば前世の知識にあった、中国武術の内功のごとく、体の内側にダメージを与えるのが有効であろう。



『き! 貴様何をした!? ドラゴンであるこの俺に・・・通用する打撃だと!?』



 今までに経験したことのないような痛みに、戸惑う黒龍ツィツィミネ。


 だが次に大きく口を開けると、魔力を集めだした。ブレス? いや少し違う? これは闇魔法の気配!!



『フハハハ!! この俺に痛みを与えたこと、後悔させてやるぞ!!』



 黒龍ツィツィミネは、黒い球体を作り出すと、まるでその大口で全てを吸い込むように、周囲の岩や瓦礫を吸い込み始める。


 

「ブラックホール!!」



 そう。それはまさに前世の知識にある、あらゆるものを吸い込む、あのブラックホールだったのだ。



「嬢ちゃん!! その手の大魔法の維持には繊細な操作が必要だ!! 同じ闇魔法で妨害すれば、簡単に打ち消せるぞ!!」



 私はクマさんに言われるがままに、黒龍ツィツィミネのブラックホールに、闇魔法で干渉して、その繊細な魔力構築を乱す。



 ぷしゅ~・・・・



 するとブラックホールは、何事もなかったようにかき消えた。

 そしてそのまま大口を開けつつ、唖然とした様子で固まる黒龍ツィツィミネ。



「ふわぁぁ~!!!」


 ドカ! バキ! ドン!



 私はそのまま咆哮しながら、土剣で黒龍ツィツィミネを何度も打据える。



 ドドド~ン!!



 そしてそのダメージに耐えきれず、黒龍ツィツィミネは、前のめりに倒れ伏す。



「終わりにしましょう・・・」



 私は冷たい眼差しで、黒龍ツィツィミネを見下ろす。

 そして現在最大の武器である、ミスリルの大太刀の巨大な柄を、収納魔法で出して握り込む。


 今の私であれば、この赤い魔力をまとったミスリルの大太刀であれば、ドラゴンのその硬い鱗に覆われた巨体であっても、切り裂ける気がするのだ。



「待て!! 殺すな!! 斬るならそのプライドの象徴である、角だけにしておいてくれ!!」



 そのとき、ホテルクマちゃんの中から駆け出したテペヨロトル坊やが、激しく私にそう訴えかけた。



「命拾いしましたね・・・」


 スパン!!



 私は居合に構え、ミスリルの大太刀を抜き放つと、収納魔法でしまい込んだ。



『ひっ!! お! 俺様の角が!!』



 すると黒龍ツィツィミネの三本あるうちの、鼻の頭にある一番大きな角が、切れ目に沿って斜めにずれ始める。


 黒龍ツィツィミネは慌ててその角が落ちないように両手で支えた。


 私は岩の崩落場所まで飛んで行くと、積み重なる岩から、変形してボロボロになったホテルクマちゃんの看板を拾い上げ、土魔法の操土で形を整えた。


 そしてホテルクマちゃんに近づき、ホテルクマちゃんの看板をもとの場所に操土でくっつけた。



「これで元通りだ~」



 そして私はにっこりと微笑んだ。



『ツィツィミネ!! 竜の谷で騒ぎを起こすとは何事だ!!』


『神妙にしろ!!』



 すると上空から守護龍と呼ばれる二体の白と赤のドラゴンが下りてきて、白龍が瞬く間に黒龍ツィツィミネを氷魔法で拘束する。



『おい貴様。その角はどうした?』



 涙目になりながら、その両手で斬れて落ちそうな角を支える、黒龍ツィツィミネに、何やら赤龍と白龍が話しかけながら、空へ飛びあがり、どこかへ連行していく。



「すまぬなリンネ・イーテ・ドラゴンスレイヤー。まどろみの中にいたために、奴らへの連絡が遅れてしまった」



 つまりテペヨロトル坊やは寝入っていたために、この騒動に気付かなかったと?



「それとツィツィミネを生かしておいてくれたこと、感謝する」



 テペヨロトル坊やは私に深く頭を下げた。



「リンネお姉ちゃん!!」



 すると目を覚ましたアリスちゃんが、私とクマさんに抱きついて来た。

 ごめんねアリスちゃん。お姉ちゃんがもっと早くに帰っていれば怖い思いをしないで済んだのに・・・。



「すまないリンネ殿。僕には手も足も出なかった・・・」



 そんな私の心中を察してか、護る立場であると息巻いていたリオノーラさんが、アリスちゃんの後からやって来て私に謝罪する。



「アリスね!! ドラゴンと戦ったんだよ!?」



 しかしアリスちゃんは、それはもう満面の笑みでそう答えたのだ。

 どうやらアリスちゃんは、恐怖より先に雄志が勝ったようだ。

 そしてそんなアリスちゃんの様子を、ギョッとした顔で見つめるリオノーラさん。


 徐々に武闘派になっていくアリスちゃんが、お姉ちゃんは心配です。

 それに国王がその話を聞いたらどう思うか・・・今から頭が痛い。



「リンネ様!! 怖かったっすよ!!」



 私に抱きつき泣きじゃくるノエルさん。女の子としてはこれが当然の反応であろう。

 ただノエルさんは出会った当初よりも随分と貧弱になった気がする。やはり鍛え直す必要があるのかもしれない。


 そして詳しく事情を聞くと、あの黒龍ツィツィミネは、私を出せと突然やって来て大騒ぎし、ホテルクマちゃんの看板をもぎ取ったらしい。


 その目的は私と戦いたかったという、何とも短絡的な犯行理由であった。





『獲物を持ち帰ったぞ。』



 それからしばらくホテルクマちゃんの中で、村での出来事を話しながら寛いでいると、センテオトルさんの帰還を知らせる念話が聞こえてきた。


 外に出ると、数体のドラゴンが大きな肉を抱えて、続々と地に降り立つのが見えた。


 そういえばセンテオトルさんは、私がドラゴノイドの村に行く前に、狩りに行くとか言っていたね。



『俺が出ている間にツィツィミネが迷惑をかけたようだな。』


「いえいえ。もう終わったことですから」



 誰に聞いたのかセンテオトルさんが、黒龍ツィツィミネの起こした事件に対して謝罪してきた。

 まあ私の中ではすでに終わっている事件だし、どうでもいいんだけどね。



「それにしても随分と大量だな? これだけの肉をどうする気だ?」



 クマさんがその大量の肉を見ながら、センテオトルさんに尋ねる。


 センテオトルさんが持ち帰ったのは、けっこうな量の肉だった。50キロ以上はあるのではないだろうか?



『ご馳走になった礼だ。受け取れ。』



 それはサシの入った肉で、大震竜アパドンの一番お気に入りの部位なのだそうだ。



「わ~い! 今日は焼き肉パーティーだ!!」



 その肉を見て、両手を上げて大喜びするアリスちゃん。この子本当にお肉好きだよね。


 その日夜の焼き肉パーティーは大盛り上がりだったよ。

 途中人化できるドラゴンがさらに数体加わり、お酒も入ってのどんちゃん騒ぎで・・・。


 まあお肉はとろけるような食感で、本当に美味しかったんだけどね。



【★クマさん重大事件です!】↓


 お読みいただきありがとうございます!

 ほんの少しでも・・・・


 「面白い!!」

 「続きが読みたい!」

 「クマさん!」


 と思っていただけたなら・・・


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