表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

251/721

10:シーレーン島

 翌朝から私は、さっそく魔道航空機ジャイロさん一号の点検を始めた。


 前日はあれからメルキオッレ子爵が再び謝罪に訪れたり、報酬についての話と、謁見の間で起こったことへの、改めての謝罪などで呼びだされ、けっこう忙しかったのだ。


 そして今私たちは、宮殿を出て、使用許可のあった港の船の整備場の、一角を借りて作業しているのだ。



「嬢ちゃんは甘いな? オイラいたちはあのやりたい放題の弟を糾弾するために、利用されたんだぜ?」



 私が簡単に謝罪を受け入れたと話したところ、クマさんはそんなことを言って来た。



「まさか~。あの公爵閣下やメルキオッレ子爵が、そんなことするわけないですって」



 あの人のよさそうな顔のメルキオッレ子爵や、温厚そうな公爵が、そんなことを画策するなんて、私にはとても思えなかった。


 するとクマさんとノエルさんは、お互いに顔を見合わせ、その後ため息をついた。



「「はあ~」」



 いったい何だというのだろうこの二人は?



「そんなことよりも、今日は底の部分に取り付けた、風の魔道具の見直しですよ! ガタッ! なんてかっこ悪い着陸はもうなしですからね!」



 私はそんな二人の様子から、苛立ちまじりにそう言った。



「はいはい嬢ちゃん。じゃあこの辺りからいじろうか?」



 そしてクマさんは、そんな私を軽くあしらうように、落ち着いた様子で、風の魔道具をいじり始める。


 ただこの点検が終わっても、飛び立つのはその翌日になるようだ。

 飛び立つ瞬間を見たい人たちが、沢山いるらしいので、飛び立つ時間の指定までされそうなのだ。


 アリスちゃんとリオノーラさんは、二人で魔闘技の特訓なんだそうだ。

 二人は武器にしても、魔法にしても共通する部分があるからね。

 それに戦闘スタイルもそっくりだ。


 今頃は浜辺でギャラリーに囲まれながら、風魔法で吹き飛ばし合っているのではないだろうか? 





 そして点検の翌日、多くの人々に囲まれる中、私たちはついに未踏の地、カカオベルトのある、ジュラ大陸へと飛び立つ日を迎えた。



「君の魔法や料理は素晴らしかったよ。またいつの日にか会おう。リンネ・イーテ・ドラゴンスレイヤー」



 そして一人一人がお世話になった、メルキオッレ子爵と握手を交わす。


 クマさんとメルキオッレ子爵が、握手を交わしたのは意外だったが、なにやら見つめ合い、含むような笑い方をしていたので、この二人の間に何かあったのかもしれない。



「ではさっそく、君たちの技術の粋を集めたという、ジャイロサン一号とやらの飛び立つさまを見せていただこう」



 護衛を連れて現れた、公爵閣下がそう告げると、私たちはさっそく飛び立つ準備を開始して、ジャイロさんに乗り込む。



「それではもう少し離れてください! 飛び立つ際の衝撃波がすごいですから!」



 私がそう言うと、周囲に集まっていた人々が、騎士の誘導で、ジャイロさんから離れていくのが見えた。



「それでは皆さん準備はいいですね? ジャイロさん一号! 離陸を開始します!!」



 私が離陸の操作をすると、ジャイロさんの頭のプロペラが、ゆっくりと回転を始める。


 そして徐々に回転速度を増していき、見えないくらい速くなると、ジャイロさんの機体はゆっくりとその巨体を、地面から離し、浮かび上がり始めた。



「「おおお!!」」


「飛んだぞ!!」「すごい!」



 ギャラリーからの歓声が上がり、驚いたり、感激したりする人々の様子も見られる。


 そして機体がある程度の高さまで到達すると、クマさんの方角の魔道具で確認しながら、機体を回転させて、目標の方角へと向けた。



「ジャイロさん! 前進を開始します!!」



 そして私たちの乗るジャイロさんは、首都ローレルの港から飛び立ち、カカオベルトに向けて、まっすぐに向かっていくのであった。






「リンネお姉ちゃん。カカオベルトまではどれくらいかかるの?」



 しばらく飛行すると、海を見飽きたアリスちゃんが、退屈そうに質問してくる。

 現在私たちはカカオベルトに向けて、ジャイロさん一号に乗ってフライト中だ。



「連続飛行でだいたい10刻てとこか? まあ一日の飛行時間は3刻とちょっとが限界だがな」


 

 その質問に答えたのはクマさんだった。



「帝国よりは遠いんだね?」



 確か帝国にワイバーンで行った時には、二日くらいかかった記憶がある。

 クマさんによると、ワイバーンの飛行速度が時速100キロくらいだそうだ。

 それに対してジャイロさんの飛行速度は、時速200キロと二倍くらい速い。


 連続飛行時間も同じくらいなので、休憩をはさんで、4日くらいかかる計算になるのか?



「ほう? 随分早いな? 馬車であれば何ヶ月もかかる場所だぞ?」



 リオノーラさんはそのジャイロさんの速度に、感心するように言った。



「クマさん。確か今日は、3刻の飛行の後に、この先の島に降りるんでしたよね?」

 


 ジャイロさんは3刻ちょっとで魔力切れになるので、一度着陸して、魔力を充填する必要があるのだ。



「ああ。この先にシーレーン島がある。島が見えてきたら、その海岸に降りようぜ」



 クマさんによるとシーレーン島は、魚人の部族が点々と集落をつくっている、けっこう大きな島のようだ。



「そんなところに島があって、よくムツ公国に占領されませんでしたね?」



 前世の世界では歴史上、アメリカ大陸や、オーストリア大陸など、先住民が住んでいた新大陸などは、例外なく後から大型船でやってきた白人などに占領され、支配されている。


 ならこんなまとまりのない部族ばかりの島なんて、あっという間に占領されてしまうのではないだろうか?



「何度か攻めていった貴族はいたらしいけどな。例外なく船を沈められているそうだ」


「確か噂では、あの島の魚人は船を沈めるんだったか?」



 クマさんの話に、リオノーラさんが言葉を追加する。



「ああ。あの島には身長3メートルになる、巨大な魚人も目撃されているんだぜ?」


「なんすかね? その大きな魚人は? そんな魚人にはなるべく会いたくないんすけど?」



 徐々に慣れて来たのか、空を恐れて青くなっていたノエルさんも、会話に参加する。


 船を沈める巨大な魚人か? まあそいつが犯人とは言えないんだけどね。ともかく物騒な話だな。



「そんな島に降りて、本当に大丈夫ですかね?」


 

 このジャイロさんが落とされるとは思わないけど、島に上陸した時に、戦闘にならないか心配だ。



「あ! あの島じゃないの!?」



 そんな心配をよそに、アリスちゃんの指さす先に、目的のシーレーン島らしき陸が見えて来た。


 




「まもなくシーレーン島上空に差し掛かります」



 そしてシーレーン島が見えてきてから、あっという間にシーレーン島上空に到達する。



「島の海岸に人が集まっているな? ジャイロサンを発見されたのかもな?」



 クマさんが最初に、島の海岸に集まる人の気配を感知する。

 そして島の海岸を上空から見ると、わらわらと人が集まるのが見えた。



「島の原住民の方々ですかね? 魚人族の?」


「まあそうだろうな?」


「どうするのだ? 着陸位置を変更するか?」


「とりあえず場所を変えてみます」



 私はとりあえず、方向を変えて、別の場所へジャイロさんを移動させる。



「いや。あいつら走って追って来る気だな」



 魚人の数人が、けっこうな速度でジャイロさんに向けて、走って来ているのが見える。

 このまま着陸すれば、原住民を巻き込む可能性がある。

 また彼らが敵対的な行動に出ないとも限らない。船を沈めるという噂のこともある。



「私が行って話をしてきましょう。クマさん操縦を変わってください」


「はあ!? 嬢ちゃん何言うてんの!?」


 

 クマさんが私の発言に、驚愕の表情で大阪弁になる。


 私はこのまま風魔法で飛び降りて、まず話をするつもりだ。

 最悪彼らを吹き飛ばして、場所を作る方法もあるのだ。



「それじゃあまた」



 私は言い終わると、ジャイロさんの操縦席から飛び降りた。



「嬢ちゃん現地語わからんやろぉぉぉ!!!」


「あ!」



 あじゃねえよ! と上から聞こえた気がするが、とりあえずジェスチャーとかで通じるかなとか、軽い気持ちで落下していく私だった。

【★クマさん重大事件です!】↓


 お読みいただきありがとうございます!

 ほんの少しでも・・・・


 「面白い!!」

 「続きが読みたい!」

 「クマさん!」


 と思っていただけたなら・・・


 ブックマークと

 画面下の広告下【☆☆☆☆☆】から評価をお願いします!!

 【★★★★★】評価だと嬉しいです!


 いつも誤字報告を下さる方、ありがとうございます!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ