10:シーレーン島
翌朝から私は、さっそく魔道航空機ジャイロさん一号の点検を始めた。
前日はあれからメルキオッレ子爵が再び謝罪に訪れたり、報酬についての話と、謁見の間で起こったことへの、改めての謝罪などで呼びだされ、けっこう忙しかったのだ。
そして今私たちは、宮殿を出て、使用許可のあった港の船の整備場の、一角を借りて作業しているのだ。
「嬢ちゃんは甘いな? オイラいたちはあのやりたい放題の弟を糾弾するために、利用されたんだぜ?」
私が簡単に謝罪を受け入れたと話したところ、クマさんはそんなことを言って来た。
「まさか~。あの公爵閣下やメルキオッレ子爵が、そんなことするわけないですって」
あの人のよさそうな顔のメルキオッレ子爵や、温厚そうな公爵が、そんなことを画策するなんて、私にはとても思えなかった。
するとクマさんとノエルさんは、お互いに顔を見合わせ、その後ため息をついた。
「「はあ~」」
いったい何だというのだろうこの二人は?
「そんなことよりも、今日は底の部分に取り付けた、風の魔道具の見直しですよ! ガタッ! なんてかっこ悪い着陸はもうなしですからね!」
私はそんな二人の様子から、苛立ちまじりにそう言った。
「はいはい嬢ちゃん。じゃあこの辺りからいじろうか?」
そしてクマさんは、そんな私を軽くあしらうように、落ち着いた様子で、風の魔道具をいじり始める。
ただこの点検が終わっても、飛び立つのはその翌日になるようだ。
飛び立つ瞬間を見たい人たちが、沢山いるらしいので、飛び立つ時間の指定までされそうなのだ。
アリスちゃんとリオノーラさんは、二人で魔闘技の特訓なんだそうだ。
二人は武器にしても、魔法にしても共通する部分があるからね。
それに戦闘スタイルもそっくりだ。
今頃は浜辺でギャラリーに囲まれながら、風魔法で吹き飛ばし合っているのではないだろうか?
そして点検の翌日、多くの人々に囲まれる中、私たちはついに未踏の地、カカオベルトのある、ジュラ大陸へと飛び立つ日を迎えた。
「君の魔法や料理は素晴らしかったよ。またいつの日にか会おう。リンネ・イーテ・ドラゴンスレイヤー」
そして一人一人がお世話になった、メルキオッレ子爵と握手を交わす。
クマさんとメルキオッレ子爵が、握手を交わしたのは意外だったが、なにやら見つめ合い、含むような笑い方をしていたので、この二人の間に何かあったのかもしれない。
「ではさっそく、君たちの技術の粋を集めたという、ジャイロサン一号とやらの飛び立つさまを見せていただこう」
護衛を連れて現れた、公爵閣下がそう告げると、私たちはさっそく飛び立つ準備を開始して、ジャイロさんに乗り込む。
「それではもう少し離れてください! 飛び立つ際の衝撃波がすごいですから!」
私がそう言うと、周囲に集まっていた人々が、騎士の誘導で、ジャイロさんから離れていくのが見えた。
「それでは皆さん準備はいいですね? ジャイロさん一号! 離陸を開始します!!」
私が離陸の操作をすると、ジャイロさんの頭のプロペラが、ゆっくりと回転を始める。
そして徐々に回転速度を増していき、見えないくらい速くなると、ジャイロさんの機体はゆっくりとその巨体を、地面から離し、浮かび上がり始めた。
「「おおお!!」」
「飛んだぞ!!」「すごい!」
ギャラリーからの歓声が上がり、驚いたり、感激したりする人々の様子も見られる。
そして機体がある程度の高さまで到達すると、クマさんの方角の魔道具で確認しながら、機体を回転させて、目標の方角へと向けた。
「ジャイロさん! 前進を開始します!!」
そして私たちの乗るジャイロさんは、首都ローレルの港から飛び立ち、カカオベルトに向けて、まっすぐに向かっていくのであった。
「リンネお姉ちゃん。カカオベルトまではどれくらいかかるの?」
しばらく飛行すると、海を見飽きたアリスちゃんが、退屈そうに質問してくる。
現在私たちはカカオベルトに向けて、ジャイロさん一号に乗ってフライト中だ。
「連続飛行でだいたい10刻てとこか? まあ一日の飛行時間は3刻とちょっとが限界だがな」
その質問に答えたのはクマさんだった。
「帝国よりは遠いんだね?」
確か帝国にワイバーンで行った時には、二日くらいかかった記憶がある。
クマさんによると、ワイバーンの飛行速度が時速100キロくらいだそうだ。
それに対してジャイロさんの飛行速度は、時速200キロと二倍くらい速い。
連続飛行時間も同じくらいなので、休憩をはさんで、4日くらいかかる計算になるのか?
「ほう? 随分早いな? 馬車であれば何ヶ月もかかる場所だぞ?」
リオノーラさんはそのジャイロさんの速度に、感心するように言った。
「クマさん。確か今日は、3刻の飛行の後に、この先の島に降りるんでしたよね?」
ジャイロさんは3刻ちょっとで魔力切れになるので、一度着陸して、魔力を充填する必要があるのだ。
「ああ。この先にシーレーン島がある。島が見えてきたら、その海岸に降りようぜ」
クマさんによるとシーレーン島は、魚人の部族が点々と集落をつくっている、けっこう大きな島のようだ。
「そんなところに島があって、よくムツ公国に占領されませんでしたね?」
前世の世界では歴史上、アメリカ大陸や、オーストリア大陸など、先住民が住んでいた新大陸などは、例外なく後から大型船でやってきた白人などに占領され、支配されている。
ならこんなまとまりのない部族ばかりの島なんて、あっという間に占領されてしまうのではないだろうか?
「何度か攻めていった貴族はいたらしいけどな。例外なく船を沈められているそうだ」
「確か噂では、あの島の魚人は船を沈めるんだったか?」
クマさんの話に、リオノーラさんが言葉を追加する。
「ああ。あの島には身長3メートルになる、巨大な魚人も目撃されているんだぜ?」
「なんすかね? その大きな魚人は? そんな魚人にはなるべく会いたくないんすけど?」
徐々に慣れて来たのか、空を恐れて青くなっていたノエルさんも、会話に参加する。
船を沈める巨大な魚人か? まあそいつが犯人とは言えないんだけどね。ともかく物騒な話だな。
「そんな島に降りて、本当に大丈夫ですかね?」
このジャイロさんが落とされるとは思わないけど、島に上陸した時に、戦闘にならないか心配だ。
「あ! あの島じゃないの!?」
そんな心配をよそに、アリスちゃんの指さす先に、目的のシーレーン島らしき陸が見えて来た。
「まもなくシーレーン島上空に差し掛かります」
そしてシーレーン島が見えてきてから、あっという間にシーレーン島上空に到達する。
「島の海岸に人が集まっているな? ジャイロサンを発見されたのかもな?」
クマさんが最初に、島の海岸に集まる人の気配を感知する。
そして島の海岸を上空から見ると、わらわらと人が集まるのが見えた。
「島の原住民の方々ですかね? 魚人族の?」
「まあそうだろうな?」
「どうするのだ? 着陸位置を変更するか?」
「とりあえず場所を変えてみます」
私はとりあえず、方向を変えて、別の場所へジャイロさんを移動させる。
「いや。あいつら走って追って来る気だな」
魚人の数人が、けっこうな速度でジャイロさんに向けて、走って来ているのが見える。
このまま着陸すれば、原住民を巻き込む可能性がある。
また彼らが敵対的な行動に出ないとも限らない。船を沈めるという噂のこともある。
「私が行って話をしてきましょう。クマさん操縦を変わってください」
「はあ!? 嬢ちゃん何言うてんの!?」
クマさんが私の発言に、驚愕の表情で大阪弁になる。
私はこのまま風魔法で飛び降りて、まず話をするつもりだ。
最悪彼らを吹き飛ばして、場所を作る方法もあるのだ。
「それじゃあまた」
私は言い終わると、ジャイロさんの操縦席から飛び降りた。
「嬢ちゃん現地語わからんやろぉぉぉ!!!」
「あ!」
あじゃねえよ! と上から聞こえた気がするが、とりあえずジェスチャーとかで通じるかなとか、軽い気持ちで落下していく私だった。
【★クマさん重大事件です!】↓
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