01:旅の始まり
「いや~。ここから見る景色は壮観だね~」
リオノーラさんが、飛行中の魔道航空機ジャイロさん1号の窓から、外の風景を眺めながら言った。
現在私たちはジャイロさん1号に乗り、イーテルニル王国の、オルレアン領上空を飛行中だ。
なおジャイロさん1号は、私が土魔法で造り、多くの人たちの協力を得て完成させた、ヘリコプター型魔道航空機だ。
「エテールは見えないねえ?」
「エテールはもっと東の方ですから、通過しませんよ」
アリスちゃんの言葉に、私が答える。
数分前に王都を出た私たちが目指すのは、イーテルニル王国の南東に位置する、ムツ公国だ。
現在飛行中のオルレアン領を超えると、次はトゥルーズ領という、穀倉地帯の多い領地が見えて来るはずだ。
そこを超えると、ムツ公国が見えて来るのだ。
外交的な関係上、私たちは一度そのムツ公国に、立ち寄らねばならないらしい。
この世界の領空権の概念は薄く、黙って通過すればわからないようなものだが、許可なく上空を通過して騒ぎになれば、問題になる可能性もあるという。
その他にも色々と、貴族の都合上の問題があるようなのだが、面倒なので記憶にすら留めていない。
リオノーラさんが詳しいので、そこは良しとしておく。
ムツ公国には国王がおらず、公爵が国の頂点にいて、多くの貴族の意見をもとに国を運営している、貴族至上主義の国のようだ。
海に囲まれており、魚人の集落が多く存在しているようだが、その扱いについては、あまりいい噂を聞かない。
聞くところによると、魚人は奴隷のような扱いを受けているとか。
それを聞くと獣人にも見える、クマさんの扱われ方についても不安になる。
「嬢ちゃん。そろそろトゥルーズだぜ」
「おお! ものの四半刻でトゥルーズとは!!」
クマさんの言葉を聞いたリオノーラさんが驚愕する。
「先ほどからノエルさんは大人しいですが、どうかしましたか?」
ノエルさんは、ジャイロさんが飛び立ってからというもの、一言も口を開いていないのだ。
「何だか・・・うち、生きた心地がしないっす。空にいると思うと・・・」
ノエルさんは、高所恐怖症なのかもしれないね。
クノイチみたいなかっこなのに、高いところに登ったり、しないのかな?
それから数分でトゥルーズ領を通過すると、イーテルニル王国と、ムツ公国の国境が見えて来た。
その手前辺りにある、開けた場所は野営地だろうか?
そこに数人の人だかりが見える。
「一度国境手前の野営地に着陸する話だったよね? あそこのことじゃないかな?」
後部座席から身を乗り出して、リオノーラさんがその辺りを指し示す。
「それでは着陸します。皆さん着陸の衝撃に備えてください」
タカタカタカタカ・・・・
ジャイロさん一号が、着陸を開始すると、徐々に地面が近くなってくる。
先ほどから野営地にいた人たちは、わらわらと木や草むらなどの物陰に、隠れていく。
着陸とともに、風圧が辺りの草木をあおり、大きく揺らせる。
地面に機体が近くなると、機体の真下に取り付けた、風魔法の魔道具を起動させて、その衝撃をやわらげる。
ドシン!
「「うあ!」」
「ぎゃああああ!!」
うむ・・ジャイロさんの着陸は、いまだに上手くいかない。
スキッドが地面に当たった際の振動が、どうしても少し出てしまうのだ。
それにしてもノエルさんは驚きすぎ。
「嬢ちゃん。スキッドの破損の心配はないぞ」
「あいよ」
こんなときクマさんの魔力感知は便利だ。
見なくてもジャイロさんの、隅々まで感知して確認可能なのだ。
ジャイロさんの乗り込み口は、小さな子供ならば、梯子でもなければ乗り降りできない高さにある。
だが私とアリスちゃんは風魔法が使えるので、風魔法でふわっと飛んで降りる。
ちなみに大人ならば普通に乗り降りできなくもない高さなので、クマさんやノエルさん、リオノーラさんは、魔法も使わずに飛び降りていた。
「あの遠巻きに見ている人たちは何でしょうか?」
無事着陸を終えて地面に降りると、先ほどまでこの辺で集まっていて、今は遠巻きに私たちを見ている人たちが、気になって来る。
「多分ムツ公国の迎えの者たちだろう?」
リオノーラさんが、その私の疑問のに答えた。
彼らの服装から、貴族や騎士であるのが見て取れる。
馬車や馬もあるので、彼らが迎えの人たちであることは、確かのようだ。
「あの~!! 隠れていないで出てきてください。私たちはイーテルニル王国の者です」
私が叫ぶと、彼らはお互い顔を見合わせて、次にこちらに近寄って来た。
「いや~。新種の魔物でも飛んできたのかと思い、びっくりしましたよ」
すると貴族らしき黒を基調とした服装の、シルクハットをかぶった、茶髪の顎鬚をはやしたのっぽのおじさんが、代表してこちらに近づいて来た。
「魔道航空機で空を飛んで行くという連絡が、あったはずですよ?」
数日前にムツ王国には、国境前に魔道航空機で向かうむねは、伝えていると連絡は受けている。
「ははは。お恥ずかしながら。本当に空からそのようなものに乗って来るなど、思いもよらなかったのですよ。いや~さすがイーテルニル王国は魔法の国ですな~」
なるほど。この世界にある空飛ぶ乗り物は、ワイバーンくらいだ。
だがそのワイバーンですら、乗りこなすのは珍しい。
そんな中で、ヘリコプター型航空機のジャイロさんで乗り付けたら、驚くのも無理はないか。
私はジャイロさんをそのまま放っておくわけにはいかないので、収納魔法で収納した。
「なんと! 我が国にも収納の魔道具は数点ありますが、そのような巨大な乗り物を収納できるようなものはありませんぞ!」
収納魔法を普通に使っただけで驚かれてしまった。
この先何かするたびに驚かれるのは、先が思いやられる。
「魔法の国ですから、これぐらいは当たり前ですよ」
ここは便利な言葉、魔法の国で誤魔化しておく。
「そ、そうですな。魔法の国ですからな。当たり前なのですかな?」
「そんなことよりまだ、名乗りを上げておりませんよ」
そこへリオノーラさんが、自己紹介をもちかける。
「こ、これは失礼いたしました。貴族たるもの、まずは自己紹介からですな」
そこで茶髭のっぽのおじさんは、佇まいを整え、シルクハットをかぶり直して、挨拶の準備をする。
「吾輩はメルキオッレ・ムー・ベルトゥッチ子爵と申します。あなた方イーテルニル王国からの使節団の方々を、首都にある宮殿へご案内するように命ぜられて参りました」
うやうやしく貴族の挨拶をするメルキオッレ子爵。
私たちはムツ公国に入る名目として、使節団という形を取っている。
だが迎えが来ることも、首都の宮殿に行くことも初耳だ。
なるべく早めにカカオベルトを目指したい。
だが外交上の問題などもある。ここは断らない方がいいのだろう。
しかしこれからあの遅そうな馬車に、何日もガタガタと揺られて、その宮殿とやらに向かうのは、少し億劫だ。
そして私たちも、一人一人挨拶を済ませ、メルキオッレ子爵が案内する馬車へ向かう。
その馬車は大型で、車高も高く、二頭の馬が繋がれている。
乗り込み口の位置も高く、乗り込み口には階段が取り付けられている。
「さあお嬢様。お手をどうぞ」
御者のお兄さんが手を出して、乗り込むのを補助してくれるようだ。
先頭で乗り込もうとするアリスちゃんに、手が差し出された。
「けっこうよ」
そう言うとアリスちゃんは、風魔法で浮遊して、勝手に馬車に乗り込んでしまった。
いつも揺れのない快適なヘンツさんや、まるちゃんに乗りなれているせいか、これからガタガタと揺れる馬車に乗るので、ご機嫌斜めのようだ。
その様子を見て、驚きで少し固まっていた御者のお兄さんが、今度はこちらに手を差し出してくる。
「これはどうもご親切に」
私はその手を借りながら、よっこよっこと段差の高い階段を上っていく。
そして私がアリスちゃんの隣に座ろうというときに、その事件は起きた。
なんと私たちの次に乗り込もうとするクマさんの前に、二人の騎士が立ちはだかったのだ。
「獣人風情が貴族の乗る馬車に乗り込むなど、汚らわしい! 分をわきまえよ!」
その騎士の言葉を聞いたアリスちゃんの魔力が、いっきに高まるのを感じた。そして私も・・・
【★クマさん重大事件です!】↓
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「面白い!!」
「続きが読みたい!」
「クマさん!」
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