19:エテールの街の市場
今回は買い物です。
昼食後、仕事の報酬を受け取るために、私たちは冒険者ギルドへ向かった。
この時間に冒険者ギルドを利用する冒険者はいないらしく、ギルド内は静まり返っている。
「薬草10株ですか・・・。
あれだけの時間採取していたにしては少ない収穫ですね。
まあまだリンネさんは幼いですし、初めての仕事です。そんなものかもしれませんが。少し期待外れではありますね」
私たちは今、仕事の成果をギルド嬢のお姉さん、サニーさんに報告している。
「期待にそえず申し訳ありません。ところで他に獲物があるのですが、どこに提出すればいいですか?」
「獲物ですか? 他には何も持っていないようですが? 収納ポーチでもお持ちでしょうか?」
「はい。収納ポーチは所持しています。獲物はこの収納ポーチの中です」
私は収納魔法の存在は明かさず、収納ポーチから取り出す風を装うことにした。
「えっと・・・ここで見せていただいても?」
獲物が小さいと思ったのか、サニーさんはここで獲物を見せることを要求してきた。
こんな平民のみすぼらしい少女が、大容量の収納ポーチを持っているはずはない。そう予想しての判断だろう。
そして解体済みの売りたいお肉や素材を、次々と積んでいくと、サニーさんの顔色が変わっていった。
ドタドタ!
「遅かったか・・・」
そこにギルド長が、慌てた様子で駆け込んできた。
「ギルド長・・・・」
サニーさんは助けを求めるような顔で、ギルド長を見た。
「それで嬢ちゃん。それで全部じゃないんだろ?」
ギルド長は、私たちの今日の収穫を、すでに知っているかのように尋ねてきた。
やはり先ほどの二人はギルドの調査員で、その二人から情報を得たのだろうなと、私は予測する。
「はい。ここには置ききれないので別の場所に出しましょうか?」
「それなら倉庫に案内するから、そちらに直接出してくれ。そこに置いたのも回収してくれると助かる」
受付に山積みにした素材を回収した後、クマさんと私は倉庫に案内されて、そこで今日の収穫を出した。
もちろん全部ではない。
角兎の肉、ビッグオストリッチの肉の一部と、卵は後で食べるために取っておくのだ。
「全部で報酬は、大金貨3枚と小金貨1枚、それから銅貨5枚になる」
金貨は初めて見るが、この世界のお金の価値はよくわからない。
後でクマさんに聞いてみよう。
「嬢ちゃん。使わない分はギルドに預けとくといいぜ。それから銅貨や小銀貨でもらっておいた方が使いやすいぞ」
クマさんが報酬に対する助言をくれる。
「報酬はクマさんと私で、半分ずつでいいですか」
「いや、その金は孤児院のためにとっておけ。どうせ全額孤児院のために使うんだろ? オイラ金には困っていないしな」
「はい。全額ではありませんが、大半はそうだと思います」
それならば報酬はありがたくもらっておくことにする。
「オイラ少し野暮用があるから、これから少し別行動するぜ。じゃあな」
クマさんは手をヒラヒラと振りながら、どこかへ行ってしまった。
「クマさんはいったいどこに用事があるのでしょうか? 私もこうしてはおられません。今日はこれからが本番です。さっそく市場に急がねば」
私はこれから作りたいもののために、市場を目指した。
「安いよ! 見ていっておくれ!」
「こっちも安いよ! 今なら2割引きだ!」
私は今、エテールの街の市場に来ている。
周囲では商品を売り込む販売人の、客を呼び込む声が頻繁にしており、賑わいを見せている。
この街はやはり門番のおじさんの言う通り小さい街なのか、あまり普人族以外は見かけない。
普人族と言うのはこの国で、獣人のケモ耳や尻尾や、エルフの長い耳のような特徴のある外観をもたない人種のことだ。
「このキャロット安いよ。今なら2割引きだ」
あった。まず私が目指すのはリンゴがあると思われる、八百屋さんだ。
「おばさん、そのキャロットください。それからアップルはありますか?」
「アップルかい? アップルなら味はあまり良くないが、この街の特産で安く手に入るから腐るほどあるよ」
私はそのアップルを手に取りまじまじと見た。
リンゴだ。少しサイズは小さいが、確かにこれはリンゴだ。
「おばさん、そのアップルあるだけください」
「変な嬢ちゃんだね。そんなにアップルを買ったら親御さんに叱られないかい?」
「いいんです。私が全部使うので」
このリンゴは全て私の料理研究で使う。
この街にないと思われるあるものを作るためだ。
それから私はついでとばかりに、他の気になる野菜も沢山買い込んだ。
「小金貨1枚になるが、本当に払えるのかい?」
「はい。どうぞ」
私が小金貨一枚を無造作に渡すと、八百屋のおばさんは驚いた顔をした。
「ところであそこにあるバスケットは売り物ですか?」
私は店の隅に積んである、少し大きめの木材で編み込んであるバスケットを指さした。
「こ、このバスケットかい? 沢山買ってくれたからおまけにしといてあげるよ」
「ありがとうございます」
私はバスケットを受け取ると、野菜を次々に放り込むふりをして収納魔法で収納した。
収納ポーチでは目立つと思ったため、このバスケットを収納魔法のカモフラージュにするためだ。
それを見ていた八百屋のおばさんは、不思議そうにそのバスケットを見ていた。
少し無理があったか?
「あとそのアップルは、街の城門の近くにある孤児院に届けてもらえませんか?」
リンゴを収納空間に入れるわけにはいかないのだ。
それはこのリンゴにいる微生物が、収納空間に入れることで、いなくなってしまう可能性があるからだ。
そして持って帰るにはその量は多すぎた。
身体強化で持てないことはないだろうが、目立つことこの上ないだろう。
「あ~。あの孤児院かい? アップルは孤児院への寄付だったのかいお嬢様」
お金の使い方から、どこかのお嬢様のお忍びかとでも思われたか?
「いえ。届けたら食べないように言っておいてください。全てリンネという少女に渡すように言付けてください」
「は、はあ・・・孤児のリンネちゃんね? よっぽどこのアップルが好きなんだねその娘・・・・」
その後、私は料理の研究に使う食材を、次々に買い込んでいった。
ただお米だけは見つけることが出来なかった。お米ちゃんが恋しいよ~。
【★クマさん重大事件です!】↓
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