28:攫われてきた少女
今回は第三者視点です。
第三者視点~
さかのぼること一日前、それは月のない暗い夜だった。
どこからか帰宅途中と見られるある少女が、路地で唐突に抱えられ、連れ去られたのだ。
その素早い動きを、見ていた者はいなかった。
その少女の連れ攫いを予想して、少女に張り込んでいた、騎士を除いては。
「無事に連れて来たんだろうな?」
「はい。坊っちゃま・・・こちらに」
それは口に猿ぐつわをされて、ロープで縛られた、先ほど攫った少女だった。
少女を攫った男は、少女をばれないように布でくるみ、ある屋敷へと連れ去っていたのだ。
「それらしい持ち物はあったか?」
「はい。こちらに」
男が差し出したのは、少女の魔力がこもった緑の魔石をあしらった、羽根の胸飾りだった。
その胸飾りは、少女が姉よりプレゼントとして贈られ、今日より魔力を込めていたものだ。
「んんん!! んん~!!」
少女は猿ぐつわをされたままで叫ぶが、それは声にならない。
「例の地下牢に閉じ込めておけ」
「承知しましたジャメシー坊っちゃま」
そこはあの悪い噂の絶えない、カキストカワード伯爵家の屋敷だった。
メイドとして働いていたノエルが、玄関に喧騒を感じ取る。
こっそりと覗き見ると、このお屋敷の長男のジャメシーが、一人の少女を攫い、地下牢へと連れて行く指示を出したところだった。
ノエルはついにこのときが来たと、クマジロウより預かった、魔石型の緑の魔道具に魔力を込める。
すると魔道具が赤く変色し、そのまま光を失った。
あれ? 壊れたっすか?
いや。そんなはずはないっす。そんな壊れやすい魔道具を、あの聖獣様が渡すはずはないっすから。
ノエルはその魔道具の反応に、一瞬壊れたのかと思ったが、すぐに思い直した。
「何をしているのです!? アルメルさん!?」
そのときだった。上の階段を下りてやって来たメイド長に、ノエルはその不審な行動を、見られてしまったのだ。
「ちっ!!」
思わず舌打ちをしたノエルは、メイド長に瞬時に近寄る。
ドム!!
そして腹を叩くと、口を塞いだ。
メイド長はそのまま気を失い、倒れる。
「どうした!? 何をしている!?」
それに気づいた護衛が、階段を上に駆け上がって来る。
「メイド長が、どうやら階段から足を踏みはずして、落ちたようなのです」
とっさに思いついた嘘を言って、状況の回避を試みるノエル。
「ちっ! このごたついているときに! お前・・・! メイド長を部屋まで連れていけ!」
「はい! 承知しました!」
ノエルはしめたとばかりに、メイド長をかついで、メイド長の部屋を目指した。
こう見えてもウチは、身体強化が使えるっす。聖獣様から見ていただいて、その身体強化の効果も向上しているっす。メイド長なんか軽い軽い。
そう考えながら、調子に乗って軽々とメイド長を持ち上げるノエル。
「ん?」
すると護衛が軽々とメイド長をかつぐ、ノエルを怪しんで一睨みしする。
おっとまずい! 重そうにかつがないと、護衛に怪しまれるかもしれないっすね。
そしてノエルはメイド長を、重そうに抱える芝居をしながら、メイド長の部屋を目指した。
「このバカ息子が!! なぜ今勝手に私兵を動かした!?」
帰宅してすぐに、たいそうご立腹なのは、ジャメシーの父であり、カキストカワード伯爵家当主である、コスニーク・イーテ・カキストカワード伯爵だった。
その当主がご立腹の理由は、息子ジャメシーが、父のお抱えの人攫い専門の私兵に金をつかませ、勝手に動かしたことだった。
「今は騎士団どもの警戒が厳しいのだ。それに別の勢力も我々を嗅ぎまわっておるのだぞ? そのことは以前話して聞かせたはずだぞ!?」
「そう怒るなよ父上。人を攫うのは今回限りだ。それに嗅ぎ付けられた気配もない」
その父の怒りに対して、ジャメシーはそう言い訳をして取り繕う。
ジャメシーの攫ってきた少女は、ジャメシーの明日の対戦相手の、風剣のコーデリアの唯一可愛がる、血のつながりのある妹であった。
ジャメシーはその妹を人質に、姉のコーデリアを脅し、自分を勝たせるように強要するつもりであった。
妹の羽の胸飾りを奪った理由は、その姉に、本当に妹を攫ったことを示すためである。
ジャメシーは、その妹もすでに侯爵家に奉公に出ており、すぐに風剣のコーデリアが、その事実に気づくことはないと、たかをくくっているのだ。
だが真実は、当の侯爵家がすでにその事実に気づき、ジャメシーを泳がせていることなど、本人は知る由もない。
全ては裏に手を回していた、聖獣様の差配であった。
そして翌日早朝、クマジロウは動いた。
「なるべく試合が始まる前に、コーデリアの妹を返してえ。ジャメシーの思惑通りにはしたくねえしな」
クマジロウは光学迷彩で姿を消したままで、カキストカワード伯爵家の調査を開始したのだ。
それは前日の夜に、ノエルからあった魔道具による、対象の少女が攫われてきたという知らせがあったからである。
「聖獣様も人が悪いっすね。魔道具で知らせを受けたのなら、すぐに駆け付ければよかったす」
「わりい。オイラ昨晩は飲みすぎて寝てたわ」
そして昨晩、クマジロウが動けなかった理由は、別に飲みすぎて寝ていたわけではない。
各所に知らせ、準備していたのに他ならないが、それを知るものは、ごく少数であった。
ただクマジロウは、そういう裏の努力を悟られるのをひどく嫌う。照れ屋だけに・・・。
そして現在ノエルもクマジロウの魔道具により、光学迷彩で姿を消していた。
それはクマジロウを、少女が閉じ込められている場所に、案内するためであったが、探せど以前見た、地下への入口は見つからないのであった。
「やっぱ駄目か。オイラの魔力感知もこの地面には働かねえな」
そう、地下へ唯一通じると思われる床には、魔力を通さない何かの加工がなされているのであった。
そのために余計に調査は難航した。
その加工とは、魔力を含んだ魔法陣による、魔力妨害であった。
そしてその魔法陣すらどこにあるかわからない。
「ああ~! 嬢ちゃんなら力ずくでこの仕掛けをひっぺかして、ここに穴を開けられるのによ!」
「なんでリンネ様を連れてこなかったっす?」
「なんかよう。嬢ちゃんにはこういう裏の汚い部分には、あまり触れて欲しくねえのさ」
ドドドーン!!!
「ふああぁぁぁぁあああ!!」
そのとき入口の方から爆発音が響き、恐怖を掻き立てるような、怒りのこもった咆哮が響いた。
「嬢ちゃんの咆哮か!? なんでこんなところに!?」
「ひぃぃ!! 何なんすかね!? ドラゴンでも攻めて来たっすか!?」
その龍の咆哮は、リンネの怒りのこもった咆哮であった。
なぜこんなところにリンネがいるかというと、それは数時間前にさかのぼる。
それはジャメシーとコーデリアの試合が関係していた。
【★クマさん重大事件です!】↓
お読みいただきありがとうございます!
ほんの少しでも・・・・
「面白い!!」
「続きが読みたい!」
「クマさん!」
と思っていただけたなら・・・
ブックマークと
画面下の広告下【☆☆☆☆☆】から評価をお願いします!!
【★★★★★】評価だと嬉しいです!
いつも誤字報告を下さる方、ありがとうございます!!




