25:訪ねて来た侍前編
「たのもおぉぉぉぉ!!! 何方かおられませぬか!?」
その日私が料理研究所で、たこ焼きの研究に勤しんでいるときに、その老いた侍は、唐突にエテールのお屋敷へとやって来た。
貴族のお屋敷にそんな訪ね方をすれば、たちまち護衛が出てきて、大騒ぎになりかねない状況である。
「こちらはエテール伯爵家のお屋敷です。只今主は出払っておられますので、お帰り願いたい。あと貴族のお屋敷に来られるならば、先ぶれぐらいは出しては如何ですか?」
その老いた侍に対応しているのは、声からしてダレルさんのようだ。
ダレルさんはエテール家の護衛で、可もなく不可もない、標準的な騎士である。
「これは申し訳ない。田舎者ですゆえ、こちらの事情が分かりかねますゆえに」
老いた侍は、ダレルさんに一礼すると、再び口を開く。
「実はこちらに聖獣様がおられると聞きまして、一目会っておこうと思った所存であります」
老いた侍はクマさんに用事があるようだ。
そのクマさんは、たった今そちらに飛んで行ったので、この老いた侍を、客としてもてなす気であろう。
「おう。ショウヘイじゃねえか」
「これはご無沙汰しております聖獣様・・・」
老いた侍の正体は、魔法闘技大会で素晴らしい殺陣を見せてくれた、ショウヘイ爺ちゃんだったようだ。
「おいぃ! ダレル! こいつぁあオイラの客だ! 中に入れるがいいな!?」
「えぇ? 聖獣様のお客様でしたか? それでは通さないわけにはいきませんね」
ダレルさんが道を開けると、ショウヘイ爺ちゃんは、クマさんに連れられて、ずかずかとエテール家の庭に入って来る。
「こちらは?」
「畳の方が落ち着くだろ? まあ入れよ」
クマさんはショウヘイ爺ちゃんを、料理研究所に招き入れる。
「おう嬢ちゃん。邪魔するぜ」「お邪魔いたす」
料理研究所に入って一番に、私に目を向けたショウヘイ爺ちゃんは、片目を開けてこちらを一瞥する。
「これはショウヘイ様。よくお出でくださいました」
私はお辞儀をして、ショウヘイ爺ちゃんに、挨拶する。
「こちらではあのような幼子に、料理を作らせておるのですかな?」
「ああ。あれはあの嬢ちゃんの趣味だから、気にしないであげてくれ」
ショウヘイ爺ちゃんは、顎をこすりつつ、私に目を向けながら、休憩所の方に向かった。
「ほう! これは驚きました! こんな場所で、本当に畳の部屋に出会えるとは、思いませんでした!」
料理研究所の休憩室の畳を見て、感嘆の声を上げるショウヘイ爺ちゃん。
そこにはミニゴーレムの動作確認に余念のない、アリスちゃんがいた。
「ほう? あのカラクリの玩具は、こちらの国のものですかな?」
「いや。さっきの嬢ちゃんが気まぐれで作った玩具だ」
ミニゴーレムは、確かに私が気まぐれで作った玩具だ。
しかしその動作にかかわるエーアイを作ったのは、クマさんだ。
「ほう? 先ほどの童がですかな? さすが、聖獣様のお近くに侍っているだけは、あるということですかな?」
そういって。部屋にある座布団を勝手に敷いて座る、ショウヘイ爺ちゃん。
「粗茶ですが」
私は一度行ってみたかった台詞を言いながら、お茶を出す。
ちなみにイーテルニル王国では「粗茶ですが」は、貴族的には失礼にあたるので、注意が必要だ。
日本人気質なショウヘイ爺ちゃんだからこその気遣いである。
「これはかたじけない。つつ~~・・・甘!!」
お茶に口を付けたショウヘイ爺ちゃんは、そのあまりの甘さに驚愕する。
出したお茶は、このイーテルニル王国特産の紅茶で、ビッグハニービーの蜂蜜が入れてあるのだ。
私は悪戯が成功したように、ニンマリする。
「つつ~~。そうか? 普通に美味いお茶だがな?」
甘党のクマさんは、普通にその甘~いお茶をすする。
「あ~!! クマちゃんだけずるい!! アリスにもおちゃちょうだい!!」
「はいはい。アリスちゃんにも今出しますよ」
そんな不貞腐れるアリスちゃんにも、私は甘~いお茶を淹れて差し出す。
「ところでこちらにはリンネ・イーテ・ドラゴンスレイヤー殿もご在宅と聞きましたが、今はどちらに?」
唐突に私の居場所を聞き出すショウヘイ爺ちゃん。
甘いお茶にも慣れたらしく、お茶をすすりつつクマさんに尋ねる。
「今そこでお盆を抱えて、ニマニマ笑っている嬢ちゃんがそうだが?」
「はあ・・・・はあ!? なんと!? この童がでございますか?」
ショウヘイ爺ちゃんは、私がドラゴンスレイヤーだということに、衝撃を受けたらしく、信じられないものを見るような目で、私を見る。
「巨剣の幼女が大会に乱入して、雷剣のディーンを倒した噂は聞きましたが、まさかこのような幼子が、本当にドラゴンスレイヤーであったなどと、思いもよりませんでした」
ショウヘイ爺ちゃんは、実際に私の試合は目の当たりにしていないのかもしれないね。
だから私の容姿を、知らなかったのだろう。
「実は嬢ちゃんが、ショウヘイから剣を習いたがっていてな。一つ教えてやっちゃあくれねえか?」
確かに以前私は、剣を習うのなら、ショウヘイ爺ちゃんだと言った覚えはある。
「はあ・・・しかし儂は、一回戦で敗退した、若輩者でございますよ? あの巨剣の幼女で名高い、リンネ殿に剣をお教えするなどとても・・・」
確かにショウヘイ爺ちゃんは、あのセンテオトル選手に理不尽な負け方をした。
でもその技が本物であることは、間違いない。
「私からもお願いします!! ぜひ剣の指南をお願いします!!」
私も機会があればショウヘイ爺ちゃんの剣を、習いたいとは思っていたのだ。
このチャンスを逃す手はない。
「ふ~・・・。仕方ありませんな。ではそちらの剣の腕を、見てからということで、如何でしょうか?」
「はい! ありがとうございます」
「すまねえな。ショウヘイ」
こうして私は、ショウヘイ爺ちゃんから、剣を習うことになったのだ。
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