07:予選5(第十四戦前編)
「予選の説明は、皆さんすでにご存じだと思いますが、王都冒険者ギルドで受付をしている、ギルド嬢のシェリルが務めさせていただきます」
王都冒険者ギルドの、ギルド嬢の名前・・・初めて聞いたよ。
「それでは皆さん。今一度ルールを説明しますので、よく聞いていてくださいね」
現在私は、予選の第十四戦に出るために、控室に来ている。
控室は有象無象の冒険者風の男たちで、ごった返している。
ちなみに控室は、奇数戦と偶数戦で分けているそうだ。
これは控室が混雑しないための工夫らしい。
説明役のシェリルさんによると、予選では、命を脅かすような魔法や攻撃は禁止のようだ。
これは本選では用意される、身代わりの魔道具が、人数分用意できないためだそうだ。
身代わりの魔道具は、試合の終了とともに、死亡はもちろん、試合で受けたダメージを、なかったことにしてくれる、摩訶不思議な魔道具だ。
ただこの会場でしか効果はないため、持ち出しても意味はないようだ。
また疲労や魔力消費はもとに戻せないために、連戦にならないように、本選での試合は一人一日一回までとなっている。
そして予選では持ち込みの魔道具の使用が許可されてはいるが、命を脅かす危険性のある魔道具や、卑劣な魔道具、また自分の魔力を使わない魔道具は、控室でのチェックで取り上げられるのだそうだ。
またポーション類の持ち込みも禁止だ。毒などもっての他だろう。
「では皆さんこの中から、予選で使う武器を選んでください」
シェリルさんが示した先には、木剣や木槍、木の杖や木の盾など、さまざまな木製の武器や防具が並んでいた。
次々と選手が武器を手に取り、素振りなどをして、持ち手の感覚を確かめる。
私以外全員が武器を手に取ると、私だけがポツーンと残された。
全員選んだ武器の調子を確認するのに集中しているためか、そんな私には見向きもしない。
ただ彼女を除いては。
「えっと・・・早く武器を選んでください。時間もありますので」
説明役のシェリルさんだ。
武器といっても私が持てば、どれも恐ろしい凶器になる。
私には過剰性能の武器強化があるのだ。
当たればどうなるかわからない。死ぬ可能性だってある。
悩んだ末に私が選んだのは、武器の棚の横に立てかけてあった、一冊の本だった。
「あの・・・それルールブックなんですけど?」
シェリルさんはその私の行動に戸惑っているようだが、これが一番安全だろう。
ただし本はこの世界においては高価な部類に入るのだ。
紙は高価だし、印刷などないこの世界では、本は全て手書きなのだ。
「あの・・・傷んだら弁償しますので」
「は、はあ・・・そういう問題ではないのですが・・・」
何かシェリルさんとはボタンの掛け違いがあるようだが、そろそろ時間も迫っていた。
「はあ・・・仕方ありませんね。基本的に貸し出しの武器は壊しても弁償にはなりませんが、本は高いので出来れば弁償していただけると助かります」
ついに諦めたシェリルさん。私の勝利であった。
「は~い! それでは皆さん時間ですので、列になって向こうの扉から出てくださ~い!」
シェリルさんの指示にそって、選手たちは、扉へ向かう。
私もその最後列に、目立たないように先ほどの本を脇に抱えてついて行く。
そして見えて来たのは、先ほど観客席から見ていた円形の舞台だった。
舞台にかかっている、幅2メートルほどの橋を渡って行くと、橋が取り去られ、そのまま選手達のみが取り残される。
私は舞台の隅の、日当たりのいい場所を見つけると、そこに腰かけて、足を舞台の外にプラプラと出しながら、その真下の溝にためてある池を見る。
だいたい水面まで2メートルといったとこだろうか?
観客席から見ると、低く見えていたが、改めて見るとけっこうな高さだ。
しかしこのくらいなら、落ちても怪我の心配はないだろう。もちろん落ちるつもりはないが。
「何だ? あの子供は?」
「どこから紛れ込んだんだ?」
観客席からはざわざわと、そんな感じの会話も聞こえてくるが、私は気にせず本を開き、読み始める。
「そこのお嬢ちゃんはどこの子だ?」
「何で子供がこんな場所に?」
そして選手達もざわざわと私を気にし出したころに、開始の合図が出る。
「それでは第十四戦目、開始です!!」
狡猾な選手たちが、私に戸惑う選手を死角から奇襲して、舞台の外に次々と落としていく。
どぼーん! どっぱーん!
そして池に落ちた選手の水柱が次々と上がる。
「くそぉ! きたねえぞ!」
そして池に落ちた選手が、罵声を上げる。
これは油断した方が悪いね。
「これは開始早々波乱の幕開けだ!」
司会進行のペネロピさんが、その様子に大興奮だ。
「あの少女が気になって、油断していたんだろうな?」
解説のジェロームおじさんは、私のことを聞いているのだろう、落ち着いた口調だ。
これで池に落ちて脱落した選手が6人。
残りは私も含めて9人となった。
本に夢中の私が残り人数を把握している理由は、魔力感知を使っているからだ。
実は本を読むこの行為は、ある魔法に集中するための擬態でもある。
「おい。お嬢ちゃん。そこから飛び降りてくれるかな? ここは危険なんだ」
私に話しかけてきたのは、お人好しな選手なのだろう。最初によく落ちなかったものだね。
この選手の心配しているのは、選手同士の乱闘に巻き込まれて、私が怪我をすることだろう。
だがその心配はない。私に攻撃を仕掛けてきそうな選手には、もれなく新魔法をお見舞いする。
「お構いなく。すぐに終わりますので」
私は笑顔でそう答えると、お人好しな選手と、丁度背中合わせになっていたスキンヘッドの選手の背中を、風魔法の叩くような風で叩いた。
ドン!
「ぐおっ!! てめえ!! やりやがったな!!」
「え!? 違!? 俺は・・・!!」
スキンヘッドの選手は勘違いして、ちょうど自分の後ろにいた、お人好しな選手へと挑みかかる。
そしてその勢いで私に突っ込んでこないように、徐々に押すような風で二人を方向転換。
勢いで崖っぷちに立たされたお人好しの選手。
ここでスキンヘッドの選手の背中を、押すような風で強く押すと、お人好しの選手もスキンヘッドの選手に押され、二人まとめて池にダイブしていった。
今回の新魔法は、私の魔力感知内のどこでも魔法を発動できるという、便利魔法である。
この魔法はエルフの里でミア婆ちゃんから教わった、離れた場所で魔力を扱う魔法技能である。
ただこの魔法技能、魔法を発動する位置の距離が遠いほど、消費魔力が大きい。
ミア婆ちゃんほどの長距離使用には、何か消費魔力を低くする、工夫があるようなのだが、それは教えてくれなかった。
そして単純で弱い魔法しか発動できないのも、なかなか難儀なところだ。
さらにある程度使用領域を把握するのに集中が必要なので、準備に時間もかかる。
ぶっちゃけ悪戯くらいにしか使えない魔法技能だ。この予選以外では。
私が舞台の上から、落ちた二人に手を振ると、スキンヘッドの選手は悔しそうに下を向き、お人好しの選手は再び下から私に声をかける。
「いい加減降りた方がいいぞ! そこは危ないから!」
そして選手達を小舟で引き上げに来た、ギルド職員が何か耳打ちすると、驚愕の表情で私を見た。
職員さんいったい何を言ったの?
そして後ろから再び魔力感知で危機を感じる。
どうやら卑劣な小男が、下卑た笑みを浮かべながら、私を蹴り落とそうと迫っているようだ。
【★クマさん重大事件です!】↓
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