13:孤児院
今回もグルメ? あります。
「挨拶が終わりましたら、夕食を配りますので皆さんと並んでください」
すると院長の助手のような、16歳くらいのお姉さんがワゴンを引いて食堂に入ってきた。
このお姉さんは修道服に、短髪の赤髪だ。頭には白いバレッタをしている。
子供たちがお姉さんの前に並ぶと、黒パンが一つに、水が配られていった。
黒パン再び。あと水~!!
ぐぅぅぅぅ~
そして子供たちのお腹の鳴く音が、どこからともなく聞こえる。
その様子にいた堪れなくなる幼女の私。
そしてクマさんの番が来ると・・・・
「申し訳ありませんが従魔の分はありません。従魔の食事はその主が用意することになっていますから」
お姉さんは目を伏せながらそう告げてきた。
「リンネさん。その従魔は手放すことをお勧めいたします。
あなたは貧しい孤児なのです。ここは身寄りもなく、一人で生活できなくなった子供が最終的に来る場所なのです。従魔を飼う余裕はないのですよ」
院長は悲しそうな目で、私を見ながらそう告げた。
「え~やだ! クマちゃんをここにおいて!」
「クマちゃんを追い出さないで!」
「わぁぁぁん! クマちゃん行っちゃやだ!」
クマちゃんを擁護する子供たちの声が、あちらこちらから聞こえてくる。クマちゃんの・・・。
なぜか私を睨みつけるクマちゃん。
どうして会って間もないこんなクマちゃんに、そこまで感情移入できるのだろうか?
「ワタシのパンを少しあげる」
「オレもクマちゃんにパンをわけるぞ」
そんな声まで聞こえてくる。
その声を聴いた院長とお姉さんは、何とも言えないような悲しい表情をするばかりだった。
「大丈夫ですよ。クマちょわんの餌は用意できますので」
ボフン!
クマさんの肉球が、私の右頬に炸裂した。
「やだな~。クマさん。ちょっとからかっただけじゃないですか?」
私は仕返しとばかりにクマさんを、ワシワシと撫でまわした。
「従魔の餌が用意できるのですか? その餌はどこに?」
「ここの庭を貸してください。そこで用意しますので」
私は院長に笑顔でニッコリ答えた。
「何をするつもりか知りませんが、従魔の餌は本当に用意できるんですか?」
「その前に庭は貸してもらえるんでしょうか?」
院長は少し考えると口を開いた。
「良いでしょう。庭を貸します。でもその従魔の餌を用意できないようであれば、その従魔は諦めなさい」
「クマちょわんは諦めません~♪」
ボフン!
私がそう言うと、再びクマさんの肉球が私の右頬に炸裂した。
クマさんと私、それから孤児院長は庭に出てきた。
そしてその後ろから、子供たちがぞろぞろとついてくる。
はじめ院長は、子供たちの同席を反対していたのだが、どうしてもクマさんの餌やりの様子が見たいと騒ぐため、仕方なく食事を後回しにしてついてきたのだ。
ドン!
私は遠慮なく庭に、土魔法で作った肉焼き機を置いた。
そして土魔法で作業台を作ると、その上に解凍したビッグボアの肉の塊を置いた。
院長の顔を見ると、目が飛び出るくらいに凝視して、こちらを見ていた。
だが私はひるまない、なぜならここでひるんだら、負けだと思ったからだ。
森で集めた薪を肉焼き機に入れると、焼きアミにオリーブ油を塗る。
このオリーブ油、じつはちゃんと分離していなかったので、表面にわずかにたまった油をこそぎ取って使っているのだ。
収納ポーチの中は、重さが存在しないようで、油の分離は上手くいかなかったのだ。なので後から水魔法で、油を操作して分離させてやろうと考えている。初めからこうしていれば良かったのだ。
火魔法で薪に火をつけて、火加減を調整する。
肉を数枚厚く切り取ると、焼きアミにのせて肉を焼く。
ジュゥゥゥゥゥゥゥ~
美味しそうな匂いが辺りに充満する。
子供たちも静まり返った様子で、その目は焼ける肉にくぎづけだ。
「リ、リンネさん。その肉はいったいどこで?」
その静寂を破ったのは、孤児院長だった。
「数日前に森で見かけて、ビッグボアを仕留めたんですよ。この剣を使ってね」
私は3メートルの土剣を発動して、軽々と上に掲げる。
「リ、リンネさんは、魔法を・・・お使いになられるの・・・・ですね?」
院長は、私の持つ巨大な土剣を見上げながら、驚いた様子でモノクルをかけ直す。
そのモノクルをかけ直す動作に、どういう意味があるのか分からないが。
私は土剣を地面にゆっくり置いた。
思いっきり置いて、料理中に砂煙が舞うのは嫌だからね。
そしてそのまま土に戻した。
戻し方はもちろんクマさんに習った。
「さあ、ご飯でちゅよ~」
私はあえて赤ちゃん言葉で、クマさんにステーキを勧める。
そして焼けた美味しそうなステーキを、皿にのせてクマさんに差し出すと、クマさんはフォークに刺したステーキに豪快にかぶりついた。
「「「わぁぁぁぁ!!」」」
子供たちの悲壮な声が辺りに響き渡った。
そして所作はどうしたクマさん?
「信じられませんリンネさん! ビッグボアの肉は貴族が食べるような高級肉ですよ。それを惜しげもなく従魔に与えるなんて!」
ビッグボアの肉は高級食材だったのか、どうりで美味しいわけだ。
私はもう一枚ビッグボアの肉を焼くと、今度は自分でかぶりついた。
「リンネちゃんずるい! それはクマちゃんのでしょ!?」
「ワタシもお肉食べたい!」
子供たちからは非難の嵐だ。
でも私が食べないと、多分この子たちは遠慮して食べてくれなさそうな気がしたんだよな。
「仕方ありませんね。皆さん自分のお皿を持って並んでください。肉を配ります。」
「「「わぁぁぁぁぁぁあああああ!!」」」
私のその言葉に、孤児院は大騒ぎとなってしまう。
皿を取りに走り出す子供。
転んで泣き出す子供。
何をして良いかわからずパニックを起こす子供。
私・・・しくじった。
パン! パン!
「皆さん静かに!!!」
その言葉に、子供たちはいっせいに静まり返る。
「年長の方は食堂に行って、お皿を人数分取ってきてください。他の方はリンネさんの前に年齢順に一列に並びなさい」
孤児院の院長は、やはり一味違うようだ。
しばらくすると、年長の男の子と女の子が、皿を持ってやってきた。
どうやらお姉さんも呼んできたらしい。
そして一列に並んだ子供たちに皿が配られると、肉を一人一枚ずつ配っていく。
「まだ食べてはいけませんよ。全員に配り終えたら、リンネさんにきちんとお礼を言って、お祈りをしてから頂くのです」
「「「えぇぇぇぇぇ!」」」
その言葉に、子供たちからは非難の声が上がるが、子供たちは我慢して、最後の一人まで配り終えるまで待っていた。
「「「リンネちゃんありがとう。神様。今日の糧に感謝します!」」」
そして食前の挨拶と、私へのお礼が済むと、皆一斉に肉にかぶりついた。
「うめぇぇぇぇ! 何だこりゃ!」
「ワタシこのお肉初めてかも~」
「う・・・うめぇ・・・」
子供たちの絶賛の声が上がる。美味しさのあまり泣き出す子までいた。
その様子に感極まった私は、土魔法で巨大なプレートを作成。
異世界初の塩焼きうどんを作るにまで至った。
塩焼きうどんには、余すことなく収集した山菜を入れ、薄切りにしたビッグボアの肉も入れた。
その夜孤児院は、お祭りのような騒がしさだった。
そしてどさくさに紛れて、クマさんがこっそり数人の子供と喋っているのを見てギョッとする私。
それはクマさんをからかった私への、ささやかな報復なのだろう。
食事も終わりに差し掛かり、すっかり辺りが静かになってきたころ、私は後かたづけを始めていた。
「リンネさん。後でお話があります。院長室まで来てください」
院長はそう一言告げると、孤児院の中へと入っていった。
私は孤児院に入って初日で、院長室へ呼び出しを受けてしまったのだ。
【★クマさん重大事件です!】↓
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「続きが読みたい!」
「クマさん!」
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