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31:火竜トリケロン



「畳が完成したわ」


「儂のもじゃ」



 翌日エルフの奥さんと、お婆は、さっそく完成した畳を持ってきた。


 君たち畳作るの早くない?

  まだ頼んで2日だよ?


 

「えっと・・・娘さんは?」



 私は3人の畳の仕上がりを見比べたかったので、娘さんの畳の完成の有無も尋ねた。



「あの子ならまだ畳を作っているわよ」


「未熟者ぢゃから遅いんぢゃ」



 そこで急かす二人にアンパンを渡し、娘のエフィーちゃんのいる場所に案内してもらう。

 するとそこには、畳作りと格闘する、エフィーちゃんがいた。


 草の生い茂った庭の一角に板を敷いて、その上で作業をしているようだ。

 私は奥さんとお婆と並んで、蜂蜜リンゴジュースを飲みつつ、アンパンを頬張りながら、その様子を見学する。


 なぜ外で作っているのか気になったが、畳に付けるご座を編み込む作業を、何と植物の蔓がしているではないか。


 これには少し驚いたが、同時に何本もの糸のように細い蔓が、ミミズのように這いながら、糸を縫い付けている様子は、驚愕の光景であった。


 そして瞬く間に出来上がる、畳の一部となるご座。

 確かにこれは、いい植物操作の練習にはなるだろう。

 集中しているのか、エフィちゃんはこちらには気づかないもよう。



「全く未熟者め。儂ならあの二倍の速度で作るぞ」



 何とお婆はあの驚異的な速度の、2倍の速度でご座を作るようだ。



「あぁぁ~! 狡い! 何皆でアンパン食べてるの!?」



 ようやく私たちに気づいたエフィーちゃんが、抗議の声を上げる。



「早よ作らんお前が悪いんぢゃ! とっとと畳ぐらい作らんかい!」


「も~! お婆の意地悪!!」



 複数の蔓に、同時に縫わせる制作速度は、確かに速いが、エフィーちゃんがアンパンを口にするのはまだまだ先のようだ。


 ちなみに奥さんとお婆が、畳に使うイグサは、染める専門のエルフがいるとか、できるだけ細い蔓を使わないと失敗するとかどうとか説明してくれるが、畳作りに対する興味が薄れていた私には、どうでもいい情報であった。



「田んぼに魔物が出たぞ!!」



 そのときだった。

 外の方から何やら不穏な叫び声が聞こえてきた。


 エルフの里には結界があり、魔物は入ってこれないという話を聞いていたが、どうして魔物が入り込んだのか?



「土雲で見てきます!!」



 私は土雲に乗ると、一気に風魔法の大跳躍で家の塀も飛び越えて、家の外に出ると、そのまま村の城門へと土雲を走らせた。



「くそ!! このままでは田んぼが食い荒らされるぞ!」


「ひぃぃぃ! うちの田んぼが!!」



 城門に到着すると、そこには人だかりが出来ており、何やら悲鳴のような声も聞こえる。


 すると人だかりの向こうに、魔力感知で見知った気配を感じた。

 クマさんとアリスちゃんだ。


 私は村の木々で出来た城壁を大跳躍で飛び越えると、一気にクマさんとアリスちゃんの前に躍り出る。



「な! 何だ!」


「上から降って来たぞ!」


「子供だ!」



 その様子に、周囲のエルフが驚く。



「嬢ちゃん! いいところに来たな!」


「あのおおきなまものがね。みんなのくさをたべてね。みんなないてるの!」



 アリスちゃんが私を見て、あわあわとアバウトな説明でまくしたてる。


 そして草改め、稲を食べている魔物を見ると、そこにはあの、超有名恐竜のトリケラトプスがいた。


 トリケラトプスは3頭いて、小さいのが1頭に、大きいのが2頭いた。

 親子にも見える。

 前世で図鑑で見たときは、全長9メートルほどだったと記憶しているが、そいつはどう見てもその二回りは大きく見えた。



「クマさん! 見てください! トリケラトプス! トリケラトプスがいますよ!!」



 私はそのトリケラトプスを見て、感激のあまりに興奮してはしゃいでしまう。



「嬢ちゃん今は落ち着け。そのトリケラ何とかはよくわからないが、今は目の前の火竜トリケロンを倒さないと、稲どころか、この村も危ない」



 え? 火竜トリケロン? トリケラトプスでなくて? 


 クマさんによると、火竜トリケロンは実際に火を放ったりするわけではないようだ。

 身体強化が得意な魔物で、その身体強化の際に全身が赤く変色し、火傷するくらいの温度になるようだ。

 草食だが沸点が低く、すぐに身体強化を使って突撃してくるらしい。



「何とか飼うことは出来ませんかね?」


「やめとけ! それこそ奴らの群れの本体を呼び寄せる、原因になりかねない!」



 群れの本体? ということはあれがまだ沢山いるということか?

 それはちょっとやばいかもね? 


 こいつらが一斉にやってくれば、村は踏みつぶされて、跡形もないだろう。



「悪いが今のオイラではどうにも相性の悪い相手だ。嬢ちゃん行ってくれるか?」



 それはクマさんのミスリルレイピアでは、倒しきれないという事だろう。



「はあ~。仕方ありませんね」



 私は大跳躍で、そこから一気に火竜トリケロンを飛び越えるように飛ぶ。

 そして飛び越えざまに、1頭の目のあたりを土銃で撃って、嫌がらせをしてみる。



 パン! パン! パン!


「グルルル!!」



 すると着地と同時に火竜トリケロンの1頭が、私の方に向き直って、赤く変色して、うなり声を上げた。


 あれが火竜トリケロンの身体強化か?

 他の2頭も警戒し、こちらの様子を窺っている。

 そして赤く変色した1頭が、突進前の牛のように、足で土を均すようにかき始める。



 ドドドドド!!



 そして次の瞬間に猛突進してきた!

 その3本の大きな角が迫る様子は、とても圧巻だ。

 そのプレッシャーはまるで大型トラックでも目の前に迫ってきているかのようで、すさまじい。


 ただあの手の輩は、ある攻撃に弱い。


 

「落とし穴!!」


 ドドン!!



 そう。それが落とし穴だ。


 私は奴の片足がすっぽり入るくらいの、1メートルほどの深さの落とし穴を瞬時に作る。



 ド~ン!


「グルォォオオ~!!」



 奴は構わず突っ込んできて、落とし穴に足をとられて転倒した。


 あの速度で突っ込んでくれば、奴らにとっては浅い段差でも、足をとられるのは当然である。

 火竜トリケロンが倒れたことで、地響きが起きて、大量の砂煙が周囲に舞う。


 そして奴が再び立ち上がろうとするその瞬間、大跳躍で奴の頭上に飛んだ私は、収納魔法でミスリル大太刀の鞘を出して握り込む。そのミスリル大太刀は3メートルもある、巨大な大太刀・・・。


 火竜トリケロンのその大盾のような頭蓋は硬く、厄介そうだが、私の狙いはその向こうの首の付け根だ。



 シュン!



 私は瞬時にミスリルの大太刀を抜き放つと、武器強化で魔力を流し込む。

 そしてミスリルの大太刀が、私の魔力で白く輝き始める。


 空中で風車のように回転して、大盾のような頭蓋に阻まれた、奴の首の付け根を、その裏から斬り込む。


 相当の硬さであろう奴の大盾ならば、そこで大太刀の斬り込みが止まって弾き飛ばされる可能性もあるが、首の付け根を斬られれば、奴もただでは済むまい。



 スパン!!


 

 そう思って抜き放ったミスリルの大太刀だったが、意外にも盾のような頭骨までもが、まるで大根でも斬ったように、綺麗に斬れた。



「おとと!! はっ!!」



 私はその反動もあり、空中で余計に二回も回転する。

 ついでにと、血がべっとりとついたミスリルの大太刀の血を、水操作で飛ばして払う。

 そして魔力消費の多いミスリルの大太刀は、瞬時に収納魔法でしまい込んだ。

 


 ドドドン!!



 着地と同時に火竜トリケロンの、絶命による転倒を確認する。



「グルォォオオ~!!」



 それを見ていた番らしき2頭目が、赤く変色して怒りのうなり声を上げる。



 ドドドドド!!


 

 そして突撃してくる。


 だが火竜トリケロンはミスリルの大太刀で、簡単に斬れることがわかった。

 ならば次は小細工はいらない。


 私は再びミスリルの大太刀の柄を収納魔法で出すと、その突進を大跳躍で躱しぎみに、ミスリルの大太刀を下から抜き放つ。


 そしてその丈夫そうな顔面を、白く輝く大太刀で、下からいっきに逆袈裟斬りに斬り上げる。



 スパン!!


 ズドドドン!!



 再び大根のように、斬り裂かれた火竜トリケロンは、そのまま勢い余って森の木々を幾本もなぎ倒しながら、倒れ込んで絶命した。



「グルォォ! グルォォ!」



 それを確認すると、悲し気に2回鳴き声を上げた小さな個体は、森の中へと逃走していった。


 そして戦闘が終わり、周囲を見ると、田んぼは荒らされ、見るも無残な様子となっていた。

 喜んで歓声を上げているエルフもいるが、泣いているエルフもちらほら見られる。


 何とも後味の悪い勝利だ。



「嬢ちゃん。よくやったな」


「リンネおねえちゃんつよ~い!」



 そしてクマさんとアリスちゃんが駆けつけて来る。



「でもクマさん・・・田んぼが・・・」


「あれを倒せただけでも良かった。生きていればまた田んぼは直せる」



 火竜トリケロンは、ミスリルの大太刀がなければ、上手く倒せたかわからない相手だ。

 私にはあれで精一杯だろう。

 でも他に方法があればと、思わなくもない。



「大活躍だったなリンネ殿。まさか火竜トリケロンを、一撃で斬り倒すとは思わなかったぞ」



 そしてファロスリエさんも駆けつけて来た。



「ちなみにあの2頭はどうするつもりだ?」



 ファロスリエさんが指さす方向を見ると、エルフたちが火竜トリケロンに群がり、解体を始めていた。



「私は火竜トリケロンの肉が一塊に、魔石が一個あればいいですよ。あとは皆さんで食べてください」


「火竜トリケロンの肉や魔石以外はどうするんだ? それも高く売れるぞ?」



 そういえば、魔物の骨や皮は、武器や防具となり、特殊部位は薬などになるんだったか?



「残りは稲が減った分の食料の補填と、被害に遭った方への、救済に使って上げてください」



 怪我をした人はいないようだが、全てでないにしろ、田んぼが潰れてしまっている。

 その田んぼの持ち主への保障と、稲が減ればエルフたちの食料も減るだろう。

 その減った分の食料の補填を、代わりの穀物などでしてほしいと思っている。

 そうでないと後味が悪すぎる。



「はあ~。君はずいぶんとお人好しのようだな?」



 ファロスリエさんはそんな私を見て、ため息をつく。



「小麦など大量購入であれば、私の伝手を使えば何とかなる。基本物々交換の村だ。田んぼなど、皆の持ち物に等しい。一部感情移入している者はいるがな」



 ファロスリエさんはそういえば、冒険者ギルド長だったな。

 任せておけばあの2頭を、上手く使ってくれそうだ。



「同胞を救ってくれて感謝する」



 そして唐突に深々と頭を下げると、ファロスリエさんは、火竜トリケロンの解体へと向かった。



「しかし結界の中に、どうして魔物が?」



 エルフの里には結界があり、田んぼには魔物は入ってこないという話だった。

 なのになぜ魔物は結界内に侵入したのか? 謎が深まるばかりだ。



「それについては、儂らが説明しよう」



 そこにやって来たのは、エルフの監視者ことミア婆ちゃんと、村長さんだった。



【★クマさん重大事件です!】↓


 お読みいただきありがとうございます!

 ほんの少しでも・・・・


 「面白い!!」

 「続きが読みたい!」

 「クマさん!」


 と思っていただけたなら・・・


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