29:エルフとアンパンの価値
しばらく客間で休憩した後、今度は食堂に案内された。
食堂は床が木で出来ており、床には藁の座布団が敷いてあった。
その中央には囲炉裏があり、エルフは囲炉裏を囲みながら食事をするのだなと、そう思った。
囲炉裏を囲んでの食事は初めてなので、少しわくわくする。
食堂には村長さんの一家全員が集められた。
そして自己紹介から始まる。
「初めまして妻のラエルノアです。聖獣様のお気に入りの食べ物をいただけるということで、とても楽しみです」
エルフの奥さんは見た目30歳といったところか? エルフの民族衣装に身を包んでいて。金髪を上げて団子にしている。
「娘のエフィーだよ。13歳」
娘さんは可愛らしい短髪の青い髪だ。お転婆そうな顔つきだ。
「お爺ぢゃ。そんでこっちはお婆」
「はあ? 爺さん今なんて?」
爺ちゃん、婆ちゃんはまあ・・・王国と変わらない風貌かな? 衣装は民族衣装だが。
エルフは長命だが、子孫ができにくいと聞いたことがある。
子供はあのエフィーという子一人だけというのは少し寂しい気がする。
一部面白そうな爺婆コントが始まったが、まあ放っておこう。
そしてアンパンの4分の一が、それぞれに皿に乗せられて配られた。
「お前たちにはそれを食べて、各々の価値を示してほしい」
「随分と少ないですが、これはこういう食べ物ですか?」
奥さんが4分の一に切られたアンパンについて質問する。
「聖獣様のいた王国では、それ一個が畳12枚の価値があるらしい。その一欠けらでも畳4枚分ということになる」
それに答えたのは村長さんだった。
「ええ!? これが畳4枚分ですって!?」
その答えに驚く奥さん。
「ただ王国の者の価値観と、我々の価値観は違う。なのでエルフ基準の価値がわからないのだ。
聖獣様のお付きのリンネ殿が、畳を甚く気に入り、そいつと引き換えに取引したいそうだ。そこでそいつが何個で畳一枚分になるのかが知りたいのだ」
「なるほど・・・それではさっそくいただきましょう」
そう言うと奥さんは、躊躇なく4分の1に切ったアンパンを、口に放り込んだ。
畳4枚分と聞いて驚いていたのに、躊躇なく口に放り込むところ、やはりどこでも母ちゃんは度胸があるなと、しみじみと思う私だった。
「むぐむぐ・・・」
その様子を固唾をのんで、周囲が見守る。
「うみゃい!!」
その返事をしたのはお婆だった。
そしてその後、何事もなかったようにお茶をすするお婆。
ボケておられるのだろうか?
「これはとんでもないものですよ! まずはこのものすごい甘さ! そしてこの豆の優しい香り! 口当たり! この表面の生地も、口の中でとろけるくらい! 素晴らしいわ!」
そのお婆のボケを無視して、アンパンを絶賛し始める奥さん。
「ほう・・・そこまでか? では私も一口」
次に村長さんがアンパンを口に放り込んだ。
「むぐむぐ。う~ん。随分と甘いな・・・蜂蜜か? これは貴重だぞ?」
「美味しい!! これもっとくれないかな!?」
「わしゃ甘いものは苦手でな・・・」
一人空気の読めないお爺はいるが、全員アンパンを絶賛した。
そしてお爺のアンパンがいつの間にやら消えていたので、後で誰が食べたのかと、騒ぎにならないかと心配になったが、まあそこはここの家族の問題だよね・・・?
「畳は私が作るわ! 畳作りはエルフの専売特許ですもの!」
え? 奥さんが畳を? いつの間にやら畳を作ると言い出す奥さん。
「い~や! ここは若いものには譲れんて! 儂が作ろう!!」
「エフィーも畳作るよ! エフィーもアンパンが欲しい!!」
次に娘さんとお婆がそれに参戦。
畳を作るとか言い出す始末だ。
ていうかお婆、普通に耳聞こえたんだね?
「えっと・・・。畳はエルフなら誰でも作れるものなんでしょうか?」
家族の3人が畳を作ると言い出したのだ。
これを聞かねば取引にならないだろう。
「ああ。一般的に畳は、エルフが植物魔法を使う練習で作るんだ」
何と畳は植物魔法の練習用の教材だった。
つまり植物魔法の練習でできた畳を、取引で貰うということなのだろう。
「ところでクマさん。私には植物魔法は使えないんですか?」
今のところ全ての魔法が使えているのだ。
私に植物魔法が使えても、おかしくはない。
そして植物魔法があれば、畳が自作できるではないですか!?
「植物魔法は魔法技術の一つなんだぜ。正式には属性魔法ではない。植物に好まれる魔力を持つものが、植物に魔力を与えることで、植物を操作するんだぜ。嬢ちゃんの魔力は・・・色々あれだからな・・・無理かもな?」
色々あれとは何だ?
まあ植物魔法が使えないのが確定したので、少しがっかりする。
そして私の畳自作の夢が潰える。
「では畳は1人1枚ずつということで、アンパンは1人に1個ずつ差し上げましょう」
畳を10枚も20枚もいらないからね。第一管理が面倒だ。
人にあげるにしても、王国で欲しい人がいるかもわからないし、1人1枚ずつなら3人で3枚だし、村長さんや、ミア婆ちゃんは作るとか言い出さないよね?
あ、ただ中途半端なものを作られても困るし、景品に蜂蜜リンゴ飴を出そうかな?
「ええ? 1個か・・・1個で満足できるかな?」
このタイミングで娘さんがごねはじめた。
「ならば一番良い畳を作ったエルフには、このアップルを差し上げましょう」
私は宝石のごとき輝く、蜂蜜リンゴ飴を、頭上に掲げた。
「何その宝石みたいなアップル!? 美味しいの? 味がわからないよ?」
ならば仕方ない、リンゴの果汁を使った蜂蜜フルーツ飴を進呈しようではないか。
「この一粒はこのアップルと同じ味のものです。どうぞ手に取ってお食べください。あ、硬いので口の中で、舌でころがしてくださいね」
私は蜂蜜フルーツ飴を、一粒ずつエルフたちに進呈した。
「甘い!!」
「甘いわ!! これ蜂蜜の塊ね!?」
さすが奥さんは気づきますか。
「つまりそのアップルは、この蜂蜜と同等の甘さがあると?」
村長さんが尋ねてくる。
「アップルを固めた蜂蜜で包み、さらにアップルにも、たっぷりと蜂蜜がしみ込ませてあります」
「何それ絶対に食べたいやつじゃん!!」
「これは食べないわけにはいきませんね!?」
「ごめん! 何方かおられるか!?」
するとどうやらこのタイミングで来客のようだ。
土間のほうから声が聞こえた。
そして行ってみると、蜂蜜フルーツ飴をあげた子供の親が、畳を一枚ずつ、村長さんの家に持ってきた。
「これは先ほど娘や息子がいただいた、お菓子の代金です。何でも宝石に匹敵するお菓子だったとか」
エルフのおっさんは蜂蜜フルーツ飴が宝石と同等とか、とんでもないことを言い出した。噂って怖い。
確かに蜂蜜フルーツ飴の原料には、小瓶で大金貨一枚の、ビッグハニービーの蜂蜜が含まれる。
ただし含まれるのは小瓶の20分の1にも満たないだろう。
その価値は一個大銀貨3枚くらいではないだろうか?
希少性からその価値はさらに跳ね上がる可能性はあるが、それはこの際考えないでおこう。
「これで足りなければ、息子たちにも作らせて持って来させますので、どうかそれでご勘弁を・・・」
「リンネ殿。どういたすのだ?」
村長さんは困り顔で私に確認してくる。
それにしてもこのおっさん、何でこのタイミングで畳で代金を支払おうとするかな?
何かフラグでも立てたか?
「いえ。その畳をいただくわけにはいきません。あれは私が子供たちに好意であげたものですから」
「そう言われましても、聖獣様のお付きの方に、何の対価もなしにものを貰ったなどと噂になれば、非難の嵐ですよ」
聖獣様のお付き・・・けっこう面倒くさい。
「ならばその畳はいただきましょう。しかしそれでは正直こちらが貰いすぎです。これをお受け取り下さい」
と言って私が渡したのは、砂糖不使用の例の大福が6個入った器だった。
これならば高価だとか文句は言うまい。
「あの・・・お付きの方、これは?」
「レッドビーンを使ったお菓子ですよ。エルフの主食のダンプリングで作りました。蜂蜜や砂糖は使っていませんので、あまり価値はありませんが」
まあ正直それでもこっちが貰いすぎだとは思うが、ここはこれで納得してもらうしかない。
しかしこれが更なる騒動を引き起こすことを、今の私はまだ知らない。
【★クマさん重大事件です!】↓
お読みいただきありがとうございます!
ほんの少しでも・・・・
「面白い!!」
「続きが読みたい!」
「つっこみどころ満載だぜ!」
と思っていただけたなら・・・
ブックマークと
画面下の広告下【☆☆☆☆☆】から評価をお願いします!!
【★★★★★】評価だと嬉しいです!
いつも誤字報告を下さる方、ありがとうございます!!




