10:ホテルくまちゃんとノエルの夢
ノエルさんという、クノイチの従者を得た私は、再びUFO型ゴーレムヘンツさんに乗り込み、今夜の野営地へと向かった。
ヘンツさんならば今日中には、エテールの街には着くのだが、おそらくは夜遅くになるだろう。
夜遅くには街の城門も閉まる。そこで野営地に向かうことになったのだ。
ドドド~ン!!
そして野営地に到着すると、私はホテルクマちゃんを野営地に設置した。
ホテルクマちゃんは二階建ての建物で、野営用に土魔法で造った建物だ。
長方形の二階建てのビルのような見た目で、取り付けられた看板には、この世界の誰もが読めない日本語で、ホテルクマちゃんと書いてある。
「何っすかこの建物!?」
「常識を疑う収納魔法だな」
初めてホテルクマちゃんを見る2人は、若干引き気味だが、慣れた私たちは何事もないように中へ入る。
「中は食堂のようになってるっすね。さすがリンネ様っす」
それがホテルクマちゃんの内装を見た、ノエルさんの感想だった。
何がさすがなのかはわからないが。
ホテルくまちゃんの一階は、カウンター席に2つのテーブル席、カウンターの向かいにある、黒い鉄板が特徴だ。
今は夕方なので、カーテンを閉めていて見えないが、窓もディテールを凝らしていて、なかなかの傑作なのだ。
「だが不思議な感じもするな? どこか遠い未来の建物のようにも感じる」
ファロスリエさんも、ホテルクマちゃんの内装を見てそう感想をもらす。
チャールズのおじさんも、ファロスリエさんと同じようなことを言っていたな。
ホテルくまちゃんは、サイラス棟梁の教えを受けて造ってはいるが、基本は私の前世の建物に関する、記憶をもとに造られている。
そのためこの世界の人は、違う感覚を受けるのかもしれない。
「皆さん先にご飯にしましょう。カウンター席へどうぞ」
私は食事をするために、皆にカウンター席を進める。
「わ~い! ごはんだ~!」
「嬢ちゃん今日のご飯は何だ?」
「今日はホタテのフライにしますよ」
港町で購入した巨大ホタテは、今も冷凍状態で、収納魔法の中でかさばっているのだ。
そのホタテの貝柱を、今日はトンカツのようなフライにするのだ。
貝ひもは出汁を取って、スープにしようかな?
ついでにアワビも鉄板で焼こう。
ジュ~~・・・
美味しそうな音を立てて、アワビが鉄板の上で焼ける。
「これは本当に野宿か? 魔物に幻惑でもかけられた気分だ」
「リンネ様にお料理をさせているのが、すごく申し訳ない感じがするっすけど、この匂いはお腹が減って辛抱たまらんっす!」
ジュジュ~!
アワビの鉄板焼きに、バター醤油のソースをかける。
すると辺りに焦がし醤油の香りと、バターの香りが立ち込めて、さらに食欲が掻き立てられる。
「まずサラダからどうぞ」
今回のサラダはあまり凝ってはいない。
強いて言えばメロンの小さな角切りが、潜ませてあるくらいか?
ソースは皆大好きマヨネーズだ。
「美味! 何すかこの白いソースは!?」
「本当だ美味い。食べたことがないソースだが、何のソースだ?」
2人はこのマヨネーズが、何で出来ているか知りたいようだ。
でもこのマヨネーズの中身を教えると、大概驚かれるんだよね。
「ビッグオストリッチの卵のソースだぜ」
クマさんがマヨネーズの原料をリークした。
「げ!! 高級食材すね!!」
「ほう? また贅を凝らしたソースなのだな?」
そんなクマさんのリークに、ノエルさんは驚くが、ファロスリエさんは慣れているのか、あまり驚かない。
「ホタテの貝ひもスープができたので、そちらもどうぞ」
私はホタテの貝ひもスープを、カウンター席の4人に配る。
「その焼かれている貝が気になるっすけど、とりあえずスープからいただくっす」
私もホタテの貝ひもスープをいただいてみる。
ホタテの出汁がよく効いていい感じだ。
それにネギのシャキシャキ感が心地いい。
ホタテの貝ひもは小さく切っているが、その存在を主張するように、ネギの間からむにむにした歯ごたえを伝えてくる。
「ごくごく! ぷは~! 絶品すねこれ!!」
私の感想をノエルさんが代弁するように言う。
そんな飲み方をして、舌を火傷しないのだろうか?
ファロスリエさんは、静かにゆっくりと、ホタテの貝ひもスープを味わっているようだ。
「お待たせしました。アワビのステーキです」
「待ってました!」
「まってました!」
私の言葉に、ノエルさんが歓喜の声を上げた。
そのノエルさんを真似るアリスちゃん。
「この海の香りは馴染めんが、悪くはない」
森の民エルフは、やはり海のものには馴染めないのか?
「何すかこれ! 美味いっすね!!」
ゆっくりと綺麗な所作で食事をする、クマさんとファロスリエさんとは対照に、フォークに刺して豪快にアワビにかぶり付くノエルさん。
アリスちゃんもノエルさんの真似をしはじめたので、そろそろ注意しないといけないかもね。
私もさっそく、アワビのステーキをいただいてみる。
貝とは思えないほどの肉厚な食感から、バター醤油の香りが口いっぱいに広がる。
鼻を抜ける磯の香りが、自らを海の貝だと主張する。
「美味い!!」
そして次にホタテのフライだ。
巨大なホタテ貝柱を厚切りにして、卵と小麦を合わせたバッター液に付け、パン粉をまぶして油で揚げるのだ。
ジュ~~~バチバチ!
「か~! それ油っすか!? 高級な油をそんなに使ってどんだけっすか!?」
「王侯貴族が食すような、贅を凝らした料理だな。楽しみだ」
「アリスもたのしみ~!」
そして中まで火が通って、カラッと揚がれば完成だ。
「少し固めですので、ナイフで切ってお食べください」
「うんま~い! なんすかこの溢れる汁は!?」
て聞いちゃいねえよ。ノエルさんはまたもやフォークで刺して、豪快に食べ始めた。
「ほう! 海のものとは思えぬ美味さだな」
「おいしいね!」
ホタテのフライは皆さんに好評のようだ。私も一口。
サク! もにもに・・・油が肉厚なホタテの甘味を引き出し、ホタテ独特の風味が鼻を抜ける。
口いっぱいにホタテの汁が広がって、磯の香りも混ざりだす。
パン粉のサクサク感が、ホタテの肉厚な食感と合わさって心地良い。
「美味い!!」
そしてデザートにはプリンを出した。
プリンは言うまでもなく、皆に好評だったよ。
食後ノエルさんは放心状態となり、しばらく天井を見つめている。
クマさんとファロスリエさんは、先ほど私が進呈しようとした蜂蜜フルーツ飴をめぐって、オセロ対決を始めてしまったよ。
アリスちゃん? アリスちゃんはもうお眠だが、一度起こしてお風呂に入れないといけないな。
「ウチもいつかこんな天国を創ってみたいっす・・・」
不意にノエルさんがそんなことを呟いた。
「その時は協力しますよ」
ノエルさんが作りたいのはきっと料理屋だろう。
彼女を見ていてそう思った。
料理で誰かを幸せにしたいと思う気持ちは、誰しもあるものだ。
いつかノエルさんが料理屋を開くときは、彼女に色々レシピを伝えて、お店に食べに行くのもいいかもしれない。
「くっ! クマジロウめ許せん!」
オセロ対決ではクマさんが勝利したようだ。
悔しがるファロスリエさんの前で、悠々と蜂蜜フルーツ飴をなめるクマさん。
「さあ皆さん寝る前にお風呂ですよ!」
「はあ? 風呂だと?」
「お風呂っすか?」
またまたお風呂で色々波乱はあるのだが、途中からお眠だった私は、その時の記憶があまりない。
【★クマさん重大事件です!】↓
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「クマさん!」
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