02:エテール領の発展
今回は第三人称視点でいきます。
第三人称視点~
ここエテール領は、かつて盛んだった林業が出来なくなり、長い間貧困に喘いでいた。
突然現れたドラゴンの影響で、木材を運搬していた水路が使えなくなり、変化した魔物の生息地域により、森に入ることが難しくなったからだ。
そして貧しさから命を落とした人々は多い。
ドラゴンに挑んで死んでいった者もいた・・・。
だがある日現れた、一人の少女がドラゴンを倒したことで、来年にでも林業は再開される見通しとなった。
そして彼女のもたらした天使のパンの影響は大きく、今まで貧しかったエテール領も、持ち返すことが出来たのだ。
天使のパンの名の由来は、そのパンが販売当初は白く、そして彼女が製法を伝えたのが孤児だったことから、純白の子供が作るパンということで、天使のパンと命名されたのだ。
そして現在そのパンの販売を取り仕切っているのは、エテール領の領主であった。
「お父様。現在この街にある5ヶ所全ての孤児院で、天使のパンを製造しています。それでも搬入が追い付かず、周辺の貧しい村々にもその役割を、任せている状態です」
この娘、エリザべート・イーテ・エテールは、領主の娘にして、商業ギルドのギルド長でもあった。
そして現在天使のパンの搬入について、領主である父、フォンティール・イーテ・エテール伯爵に、報告を行っていた。
「まさかあの天使のパンが、ここまで売れるとは、予想もしなかったな」
「はい。全てはあの娘のおかげです」
エリザベートはあの娘にあった当初は、なんと恐ろしい存在かと肝が冷えたものだが、徐々に心も打ち解け、また彼女の魔法の料理の虜にもなっていた。
そしてその少女に、なんとか報いたいとも考えていた。
「ところで、天使のパン第二弾の噂が、販売前からあちこちでささやかれているが、あの娘の影響だろうな?」
「はい。おそらくあちこちで振る舞っているのでしょう。あの娘は」
天使のパン第二弾とは、例の少女が開発した、アンパンなるパンのことであった。
アンパンは高価な砂糖が使われていることから、その価値は天使のパン以上になるのではと、予想されていた。
「ところで例の孤児院では、すでに天使のパン第三弾の座を巡って、連日グルメ対決をしているそうではないか? 吾輩はまだその第三弾の候補のパンは、口にしておらんが、いったいどのようなパンなのだ?」
例の孤児院とは、例の少女が天使のパンや、奇抜な料理の製法を伝えたとされる孤児院である。
その孤児院では、連日ジャムを開発するシェリーという少女と、ウスターソースを開発する、ビリーという少年がいた。
彼らは直接、例の少女に影響を受けたとあって、そのパンや、料理の製法は抜きんでていた。
そしてアンパンを、天使のパン第二弾の座に押し上げたのは、シェリーという少女であったのだ。
この少女が次に天使のパンにと推しているのは、もちろんジャムパンであった。
「はい。まだ納得いく仕上がりではないそうですが、試作品がございます」
「おお。待っておったぞ」
そこには皿にのせられた、ジャムパンと、焼きそばパンがあった。
「ははは! 美味いな! 吾輩はこの焼きそばパンが気に入った!」
領主は二つ食べ比べた結果、焼きそばパンに軍配を上げた。
しかしこの領主・・・甘いものが苦手であった。
「お父様。このジャムパンもなかなかですよ。シェリーが研究に研究を重ねたジャムの味は、最高です」
エリザベートは甘いもの好きなことから、ジャムパンに軍配を上げるのだった。
トントン!
「父上。今よろしいでしょうか?」
「入れ」
突然の来訪者。その聞きなれた声に、領主は入室の許可を出す。
「父上にエリザベート。天使のパンについての報告中だったか?」
中に入ってきたのは、エテール家の長男であり跡継ぎの、フェリックス・イーテ・エテールであった。
彼は父である領主と似た顔をしているが、領主のような筋骨隆々な体ではなく、優男のようだ。
領主同様長身ではあるが、口髭はなく、伸ばした金髪を後ろで束ねている。
当初彼はエテール領を貧困から救うために、他領に勉強に出ていたのだが、領地が盛り返したというので、呼び戻されていたのだ。
「はい。その第三弾のお試食を、お父様にしていただいております」
「何!? もう第三弾が出来たというのか!? あの第二弾でも絶句するほどの美味さだったのだぞ? それはあのアンパンを上回るほどなのか?」
彼、フェリックスはスイーツ男子であった。
なので甘いものには目がなかった。
「ではお兄様もどうぞ」
エリザベートは兄フェリックスにも、ジャムパンと焼きそばパンを差し出した。
「う~ん・・・。焼きそばパンも捨てがたいが・・・私にはやはりジャムパンだな!! このフルーティーな甘みが堪らん! このような甘味は王都にもなかったぞ! シェリーは天才だな!」
そして天使のパン第三弾についての、議論の決着がつくこともなく、次回に持ち越しとなったのだった。
トントン
「入れ」
「失礼します」
本日3人目の来訪者は、執事のピエールであった。
「リンネお嬢様より手紙が届いております」
「ほう? リンネ嬢からの手紙とな? 拝見しよう」
領主は執事から手紙を受け取ると、その手紙にある封蝋をまじまじと見た。
「龍の文様か。リンネ嬢に相応しい文様だな」
「リンネ嬢はたしか、ドラゴンスレイヤーの名を陛下から拝命されたのでしたな? いったいどのような娘なのですか?」
フェリックスがエテールの街に帰還した時は、リンネという少女はすでに王都へと旅立っていたのだ。
なのでフェリックスは、リンネという少女が全く想像出来なかった。
あのドラゴンを倒すほどの少女だ、さぞかし屈強な少女かと思えば、小さな可愛らしい少女だと、どこへ行っても噂されていた。
「そうね。可愛らしいの他には・・・料理好きね。いつもお屋敷の庭に屋台のような建物を出して、料理の研究をしていたわね」
「可愛らしい少女が、屋台を出すというのが想像できないのだが、うちの庭で好き勝手に屋台などを出していたのか?」
エリザベートの言葉をそのまま解釈すれば、少女がどこからか屋台を引っ張って来て、勝手に領主の屋敷で、料理を作っているようにしか思えないだろう。
「あの娘の作る焼うどんは絶品だったな。また食べたい」
「父上はその娘を、相当甘やかしておいでだったのですか?」
エリザベートのあの言葉の後に発せられた、領主である父の言葉に、その少女を父が甘やかしていたのではと疑うフェリックス。
「いや。あの娘は幼いながらも相当達観しておってな。甘やかすどころではなかったぞ?」
そして返ってきた父の言葉に、フェリックスはさらに困惑するばかりであった。
「ふむふむ」
そして手紙を開き、読み始める領主。
「お父様。手紙には何と?」
「近くこの街に戻るそうだ」
それはリンネという少女が、この街に、久々に帰って来るという内容であった。
【★クマさん重大事件です!】↓
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