37:聖獣とエルフの誓い
「失礼ですが、アポはお取りでしょうか?」
現在私たちは、ギルド長のファロスリエさんを訪ねて、王都の冒険者ギルドまで来ている。
ファロスリエさんを訪ねた理由は、エルフである彼女に、エルフの里への案内人を頼むためだ。
エルフの里には案内人がいないと、入れないらしい。
「アポは取ってねえ。でも会いに来た」
アポも取らずに、冒険者ギルドのギルド長に会おうとして、偉そうな態度をとっているのはクマさんだ。
そして話している相手は、当然、受付担当であるギルド嬢だ。
「失礼ですが、聖獣様でいらっしゃいますよね?」
「そうだぜ」
「少々お待ちください」
あれ? もしかしてこれ、アポも取らずに会えたりする?
しばらく待っていると、ギルド嬢が戻って来た。
「ギルド長が会うそうです。訓練場までいらしてください」
会えるらしい。聖獣設定最強だな。
訓練場は、冒険者の初心者が戦い方を学んだり、冒険者同士の争いの決着をつけるために、決闘したりする場所だ。
私たちはギルド嬢に、その訓練場に案内された。
すると誰かが、特訓をしている様子だった。
「どうしたアルフォンス!! そんなことではあのリンネ殿に、傷一つ付けられないぞ!?」
いたいけな幼女を傷つけるような、野蛮な特訓は止めていただきたい。
どうやらアルフォンスくんが、ギルド長のファロスリエさんから、戦闘訓練を受けているようだ。
すでに座り込んで肩で息をしているのは、ボビーくんだね。
「はあはあ! くそ~! まったくかすりもしない!」
そして倒れ込むアルフォンスくん。
「今日はここまでだな」
しかしあのファロスリエさんが、アルフォンスくんの訓練をしてあげるなんて意外だ。
以前会ったときには、見向きもしなかったのに。
「で? クマジロウは私に何の用で来たんだ?」
しばらくして、ファロスリエさんが、クマさんの方に向き直る。
「おめえに嬢ちゃんの案内役を頼みたい」
クマさんが告げると、二人の間に沈黙が流れた。
「クマジロウ。それが何を意味するかは、わかっているのだろうな?」
しばらくしてファロスリエさんが口を開く。
何やら深刻な空気が流れているようだが、何だというのだろうか?
「ああ。おめえに頼みてえ」
クマさんの返事を聞くと、ファロスリエさんはクマさんの目の前に歩み出て、かしずいた。
そして祈るように目を閉じる。
「聖獣様との盟約により、エルフの代表として、命をかけてその役目を全ういたします」
ファロスリエさんは静かに・・・そう呟いた。
これがクマさんでなく、本当の聖獣だったら絵になったかもしれない。
かしずき、静かに呟くファロスリエさんは、美しく神秘的に見えた。
これがエルフの本当の姿なのかもしれない。
「其方の働きに期待する・・・」
クマさんが聖獣らしい台詞で、ファロスリエさんに答えるかに見えたが・・・。
「ぷっ!!」
噴き出しやがったよこいつ。
台詞の最後で噴き出しやがったよ。神秘的なシーンが台無しだよクマさん。
するとファロスリエさんの顔は、みるみるうちに赤くなり・・・。
「その口か! エルフの誓いを笑ったのはその口か!!」
クマさんに飛び掛かった。
「ぷぷ~!! 似合わねえ! おめえには全く似合わねえ!」
「このクマジロウが!!」
二人は絡み合い、じゃれ合いを始めてしまった。
お互いの頬をひっぱり、逃げ回り、罵倒し合う。まるで子供だ。
まあクマさんらしいと言えば、クマさんらしいな。
むぐむぐ・・・
そしてアリスちゃんと、アンパンを食べつつ二人を見守る。
「お! アンパンか! 僕にもくれ!」
「何だそれ? 美味いのか?」
アルフォンスくんとボビーくんにも、アンパンをお裾分けする。
「美味っ! 何だこれ!?」
ボビーくんは、アンパンは初めてだったね。
まあお気に召したのなら良かった。
「なあ? あれ止めなくてもいいのか?」
それは遠回しに、私に止めろと促しているのだろうか?
面倒だから嫌なのだが。
「その栄誉はアルフォンス坊ちゃまに差し上げますわ」
「また坊ちゃま呼びかよ・・・てかお前、いつもそれふざけて言ってるだろ?」
私のおふざけに気づくとは・・・子供の成長は早いものだ。
「オイラにもアンパンくれ」
ようやく決着がつきましたか・・・。
「はあはあ! あれだけやって息も切らせぬとは! む!!」
クマさんはアンパンを受け取ると、ファロスリエさんの口に突っ込む。
そして自分のも受け取ると、食べ始めた。
「ん? 何だこれ? 天使のパン・・? いや、違うな・・・?」
ファロスリエさんは、天使のパンを食べたことがあるんだね。
「もぐもぐ。甘い・・! 豆の風味・・・これはエルフの好みに、とても合う食べ物かもしれないな!」
にこやかな表情で、アンパンを食べ始めるファロスリエさん。
エルフは豆が好きなのかな?
テンプレでよくエルフは肉を食べず、豆や野菜を好むとあるが、この世界のエルフもそうなのだろうか?
それをファロスリエさんに確認を取ると・・・。
「何を言っているんだ? エルフも肉くらいは食うぞ。豆や野菜を好む者は多いがな」
違った。
ファロスリエさんの話によると、エルフは狩りをし、狩った獲物の肉を食べたりするそうだ。
もちろん森の野草や、野菜を栽培して食べたりもするそうだが、豆や芋が特に人気が高いそうだ。
まあよく考えたら、テンプレなエルフが肉を食べないのに、弓矢を持って狩りをしているのもおかしな話だ。
「ごくごくごく! 甘い!! ご馳走になった」
豪快に、冷たい蜂蜜リンゴジュースを飲みほしたファロスリエさんが、空になったコップを私に返しながら言う。
「案内については10日ほど待ってくれ。ギルド長業務の引き継ぎや、こいつの特訓相手の後任を探さねばならないからな」
と言いつつアルフォンスくんの頭を、ポンポン叩くファロスリエさん。
意外に面倒見が、良いのかもしれない。
その様子を見るに、ボビーくんはついでなのだろう。
そして私たちの出発は、10日後に決まった。
【★クマさん重大事件です!】↓
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