34:ボルッツア領陥落
第三人称視点~
「どういうことだ!? なぜ帝国への亡命が認められない!?」
ボルッツア子爵が憤り、帝国の将校に声を荒げる。
王国軍の侵攻を恐れたボルッツア子爵は、帝国の将校に、帝国への亡命を申し入れたのだが、断られていた。
「イーテルニル王国への侵攻は、我が国の皇帝陛下の意向でありまして、それを達成できぬ我らに、帝国の土を踏む資格はないとのお言葉でした」
「ではどうするのだ? 聖女がおらぬ今、我々には王国に勝ち目などないのだぞ? あの話に聞く巨人やら、ドラゴンスレイヤーが出てきた日には、我らは皆殺しだぞ!?」
以前ボルッツア子爵は、リンネ・イーテ・ドラゴンスレイヤーからトラウマを植え付けられており、とくにドラゴンスレイヤーには過剰反応を示していた。
そして巨人とは、以前王国に侵攻しようとした帝国軍の前に現れた、リンネの巨大なゴーレムのことであろう。
「ドラゴンスレイヤーについては未知数だが、もうあの巨人には後れを取りませんぞ」
以前、帝国軍が撤退したのは、巨人の何か洗脳に近い力で、帝国兵全体が恐怖状態に陥ったのが原因であると、帝国の将校の間では結論づけられていた。
そこで帝国の将校は、あの巨人の声さえ聞かなければ、洗脳などされないと見ていた。
「ではその巨人に対する有効手段はあるのかね?」
将校の言葉は、洗脳さえされなければ勝てるという風にも聞こえる。
それならば何か巨人に対する有効手段があることだろうと、ボルッツア子爵は思い至る。
「実は現在エインズワース領を占領しておる部隊がおりまして、その部隊がワイバーンを、2体も保有しておるのです」
現在エインズワース領には4人の将校と、ワイバーン騎兵2組を送っている。
領地はエインズワース侯爵が不在で、帝国のスパイがエインズワース侯爵の妾となり、その領地のかじ取りをしているという話なので、将校はすでにエインズワース領は、陥落しているものと思い込んでいた。
まさかエインズワース領が、すでにリンネやエインズワース侯爵の活躍で、取り返されているなどと、思いもよらないだろう。
「実はこういう事もあろうと思い、すでに一週間も前に、エインズワース領に向けて知らせを送っているのですよ」
一週間前といえば、帝国が敗走を始めた翌日からである。
この時から帝国の将校は、すでにエインズワース領に向かったワイバーンに、頼ろうと考えていたのであった。
「申し上げます!! ワイバーンが1体!! 街から西の森の中へ降りたそうです!!」
その時一人の兵士が、急ぎの知らせを持ってきた。
もちろんこれは、あらかじめワイバーンを見たら、知らせるようにと伝えてあったものだ。
「ははは! でかしたぞ! ワイバーンがいれば、巨人やドラゴンスレイヤーに対抗もできよう!」
ボルッツア子爵が上機嫌な様子で、帝国の将校を褒めそやす。
「はは! もったいなきお言葉! しかしなぜワイバーンはそんな森に降りたのだ?」
その時森に降りたというワイバーンは、実は帝国へ向かうリンネたちを運ぶワイバーンであった。
このあと当然ではあるが、このワイバーンはボルッツア領を抜けて帝国へ向かう。
「何!? ワイバーンが帝国へ向けて、飛んで行ってしまっただと!?」
その事実を知ったボルッツア子爵は、衝撃を受ける。
「我らを無視して帝国へ向かうなど、いったい何を考えておるのだ!!」
帝国の将校は激怒するが、たとえワイバーンが1体いたとしても、時間稼ぎが精々だったであろう。
まだワイバーンで逃げた方がましである。
ただその場合は、帝国では敵前逃亡罪になるために、二度と帝国の土など踏めないだろうが・・・。
「申し上げます!! 王国軍及び巨人が、ボルッツア領めがけて進行中であります!!」
「追ってきたのか!? あの巨人が!?」
「いえ! 別個体と思われます!! 巨人は鉄の鎧を着た、騎士のような容姿でした!!」
確か以前帝国軍の前に立ち塞がった巨人は、石の鎧を着こみ、でっぷりとした樽のような体型をしていた。
鍛え上げた騎士のような体型であれば、確かに別個体の可能性はある。
「すぐに全軍に通達して迎え撃たせよ!! その際に全員に耳栓を忘れるなと伝えよ!!」
その耳栓は、当然洗脳対策であろう。
だがその戦いはもう、洗脳とかいう以前の問題であった。
ドン! ドン! ドン! ドン・・・・
巨人は大きな足音を響かせながら、ボルッツアの街に向けて接近してきた。
そして巨人の巨大な頭が、遠くからでもはっきりと確認できた。
「一斉に矢を射かけろ!! これだけの矢を受ければ、あの巨人も怯むだろう!!」
それは甘い考えであった。
なぜなら彼らが巨人だと思っているのは実はゴーレムで、恐怖など微塵も感じない存在なのだから・・・。
ピュピュピュピュピュ!!!
100を超える数の矢が、一斉に巨人に降りかかる。
だがその矢が一本たりとも、巨人にダメージを与えることはなかった。
矢は巨人の鎧で弾かれ、いなされ、空しく地面に落ちていく。
ぶおぉぉぉぉぉぉ!!!
そして巨人の突風のような咆哮が、帝国の兵士たちを吹き飛ばす。
これはゴーレムに付与された、風魔法で発生させた、咆哮のような突風を巻き起こす魔法である。
「ひっ!! ひぃっ!!」
「俺は嫌だ!! もう戦わん!!」
トラウマを思い起こされた帝国の兵士の多くが、その咆哮を恐怖し逃げ惑う。
たとえ耳栓をつけたところで、その大音響で奏でられる咆哮を、完全に防ぐことは不可能であった。
「こら!! 敵前逃亡は重罪であるぞ!!」
逃亡する兵士たちに、もはやその将校の言葉が届くことはなかった。
それでも逃げずに、勇敢に巨人に向かっていった帝国の兵士たちには、さらに惨い未来が待ち受けていた。
カンキン!! カンキン!!
「くそう!! びくともしねえ!!」
「何だこの硬さは!?」
槍で刺そうが、剣で斬ろうが、巨人の鎧に傷一つ付けられない。
ドバァァァァン!!
挙句は巨人の5メートルはあろう、燃え上がる巨剣が薙ぎ払われると、巨人の付近にいた数十名の帝国兵が、瞬時に真っ二つとなる。
さらに巨剣から発生した炎の刃が広範囲に広がり、何百人という規模の帝国兵を焼き払っていく。
もはやそれは戦いではなく、虐殺であった・・・。
「何だあの化け物は・・・。あのような化け物が、王国にはおったのか・・・」
その巨人の凶悪な戦いの様子に、指揮をしていた帝国の将校は、絶望しながら膝をつく。
巨人が走り抜けると、それだけで衝撃波が起こり、巻き込まれた多くの帝国兵が跳ね飛ばされ、散っていく。
そして生き残ったわずかな帝国兵は、座り込んで、すでに戦う気力すら残っていないように見えた。
その後3000の王国軍が突入し、捕虜を捕縛し、逆らうものは容赦なく斬って捨てられた。
こうしてボルッツア領は、瞬く間に陥落したのだった。
「わ、儂は知らん!! あの聖女に騙されただけだ!!」
拘束されたボルッツア子爵は、往生際の悪いことに言い訳をして騒ぎ立てた。
しかし猿轡をされ口を塞がれ、空しく牢へと連れていかれるのだった。
「聖女の屋敷を捜索しましたが、聖女らしき人物は見当たりませんでした!」
「報告ご苦労」
その報告を受けたのは、今回の戦いの最高指揮権を任された、ギディオン王国最高騎士団長であった。
「生き残った帝国の将校の証言によると、聖女は確かにこの屋敷にいたはずなのだ。やつが嘘をついている可能性もあるが、真実だとすると、あの聖女を逃がしたのは大きな痛手かもしれんな・・・」
そう一言呟くとギディオン王国最高騎士団長は、馬に跨り、その場から立ち去って行った。
ところ変わってイーテルニル王国の王宮では・・・。
「ボルッツア領が陥落いたしました!」
「ほう! 随分早かったな? あの巨大ゴーレムが活躍したのか?」
国王は報告をしてきた騎士に尋ねる。
そして騎士により、巨大ゴーレムによる活躍が報告されると、周囲にいた貴族も唖然とした様子となった。
「これで帝国もおいそれと、王国には手を出してこぬでしょうな?」
エドマンド宰相が、国王に安堵したように目を向ける。
「ああ。ここまで一方的に蹂躙されたのだ。もう戦う気力など起らぬだろうよ」
そして国王が、エドマンド宰相の言葉に答える。
「あと追加で報告ですが・・・」
「何? まだ報告があるのか?」
騎士の追加の報告に、何であろうかと一度思案する国王。
「続けよ」
エドマンド宰相が報告を促す。
「はっ! リンネ・イーテ・ドラゴンスレイヤー様が、帝国に押し入り、帝国のワイバーンを3体テイムして来たと、エインズワース侯爵閣下から報告がございました」
「はあ? 何だそれは? リンネの嬢ちゃんは帝国でいったい何をやらかして来たのだ?」
その予想だにしない斜め上な報告に、国王は唖然とする。
「そしてそのワイバーンの内の1体を、陛下に献上したいそうです」
騎乗可能なワイバーンが、手に入るのならば悪い話ではない。
帝国への報復処置としては少し手ぬるいが、帝国に何らかの爪痕は刻んだであろうと、国王は納得した。
「ならばそのワイバーンの献上の儀も、領土奪還の凱旋パレードと同時に執り行えば、さらに民の士気は上がろう」
こうしてワイバーンの献上の儀の日取りは、決定したのだった。
【★クマさん重大事件です!】↓
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