33:チャールズ侯爵からの呼び出し
「今日はサファイヤをばんばん掘りますよ」
現在私たちは、鉱石採掘4日目に差し掛かっている。
中心に探しているのがサファイヤで、これは加工して窓ガラスにしたり、食器をいくつか作ろうと思っている。
望遠鏡も頼まれているので、そちらが先だが。
「アリスあかいのたくさんほるの」
アリスちゃんがなぜ赤いサファイヤに執着しているかというと、昨日私が遊びで作ったサファイヤのお皿のせいである。
そのお皿には模様はもちろん、中央にはクマさんのシルエット、その下に適当な文字が金で描いてあるのだ。
見た目が華やかで、面白いお皿になった。
アリスちゃんはその赤いお皿が欲しいのだそうだ。
今のところお皿は青色しかないからね。
「オイラは望遠鏡が早く欲しいな」
クマさんはアリスちゃんと組んで、鉱石の探査役を引き受けている。
アリスちゃんは護衛騎士ゴーレムのいっちゃんを使って採掘はできるが、鉱石を探り当てることはできないからね。
私は一人寂しく鉱石を探っては、ゴックさん一号に掘らせている。
たまに強引に操土で出すこともあるけどね。
「そういえば今日は冒険者の数が多いですね。とくに鉄鉱石が出る階層の人数が、極端に増えている感じがしました」
初日翌日と、数人とすれ違うことはあったが、今日はあちらこちらで冒険者を見かけた。
「あ~。それは君たちのせいだよ」
質問に答えたのは、冒険者で探索者のエイダさんだった。
エイダさんによると採石場は10ヶ所以上もあり、その中でここは断トツで魔物の出現が多く、冒険者が避ける傾向の強い採石場だったようだ。
そこへきて私たちの出現により、魔物が狩られまくった影響で、魔物の数が激減して、採掘には最適な環境になったのだとか。
情報源はエイダさんなのだそうだが、冒険者のネットワークは大事なのだそうで、他の冒険者とも、この情報を共有しているとのことだった。
「で? 何で今日はサファイヤばっかり掘ってんの?」
エイダさんが、私たちのサファイヤ掘りに興味を示した。
「あ~。お皿や望遠鏡が欲しくて掘っているんですよ」
私は収納魔法で出した、サファイヤのお皿をエイダさんに見せ付ける。
「うわ! もしかしてそれサファイヤのお皿!?」
「げっ! 見ろアンガス! 宝石のお皿だぜ!!」
「そんな高価な品を、気安く見せびらかしてはダメですよ!」
するとキャロライナさんに、注意を受けてしまった。
出しかけていた望遠鏡は、そっとしまう。
そんなに高価な品なら、チャールズのおじさんに一式くらいは献上していないと、あとで揉めそうだな。
ミスリルのお皿立てと、カトラリーも含めてあとで作っておくか。
お屋敷に帰宅すると、夕方近くにチャールズのおじさんに呼び出されたので、さっそく準備して、チャールズのおじさんの執務室へ向かう。
「非常に申し訳ない!!」
するとなぜか、チャールズのおじさんに謝られた。
理由を聞くと、何でも10日の期限であった鉱石採掘を、今日で止めてほしいという内容だった。
「たった4日でミスリルやサファイヤを、一ヶ月分も採掘するとは思ってもいなかったのだ」
「え? 冒険者が一人で採掘する量の、一ヶ月分も掘っていましたか?」
「いや。冒険者全体が採掘する量の一ヶ月分だ」
なんと私たちは気づかない間に、冒険者全体が採掘する鉱石一ヶ月分を、1日は休んだので、3日で掘ってしまっていたことになる。
「そのほとんどが嬢ちゃんの仕業だがな」
クマさんが私に責任を擦り付けてきた。
クマさんの説明によると、ときたま私がやっていた、操土による根こそぎ採掘が、一番の原因だとか。
そういえば、サファイヤやミスリルが固まっている場所を発見すると、興奮してまとめて採掘していた記憶はある。
「チャールズ様。それは申し訳ないことをいたしました」
「いやいや。それは約束を破ったこちらにも非はあるのだから・・・」
お互い謝罪して納得したタイミングで、私はお土産をチャールズのおじさんに渡す。
お土産は土魔法で作った、簡素な白い箱に入っている。
「これはつまらないものですが、どうぞお納めください」
「ん? つまらないものとは?」
あれ? この国ではつまらないものとかいう、社交辞令的なのはなかったかな?
「嬢ちゃん。その品をつまらないもの扱いは、嫌みに聞こえるぜ?」
そしてクマさんの指摘を受ける。
「いったい何が入っておるのだ?」
そのクマさんの言葉を不審に思ったチャールズのおじさんは、徐に箱の蓋を開けると、中のものを確認しだした。
「こ、これはサファイヤのお皿か!? それにミスリルのカトラリーまであるのか!?」
箱の中には、クマさんのシルエットと模様が、金で描かれた緑のサファイヤのお皿と、ミスリルのカトラリー一式が入っていた。
「すいません。まだ一式しか用意できなくて」
私はお屋敷に到着して、一時間ほどで呼び出されたために、お皿とカトラリーの一式を作る時間しかなかったのだ。
「こ、これは・・・国宝級の品ではないか?」
「そんな大げさな。深い意味はありませんよ。感謝の気持ちと思い出の品ということで、受け取っていただけるとありがたいのですが・・・」
お土産とは思い出のおすそ分けである。
そのおすそ分けを友人に送るのは、当たり前なのである。
「お、思い出の品? これが・・・思い出の・・・」
「チャールズ。諦めろ。嬢ちゃんにはそれが、粘土細工程度にしか見えていない」
クマさんはそう言うが、私にとってはただ魔力でこねて作っただけのお皿なので、それは粘土細工が妥当なところだ。
ただ心を込めて作っているので、受け取っては欲しいけどね。
「わ、わかった。これは受け取ろう。だがこの一式だけで十分だ」
欲のないおじさんだ。賄賂にでも見えてしまったのだろうか?
いや。この世界で賄賂は当たり前だから、もっと別の理由だろう。
そしてなぜか、お金の大事さについて、こんこんと説き始めるチャールズのおじさん。
クマさんと私はその言葉に、ただ頷くばかりであった。
「あと最後になるが、ワイバーンの陛下への受け渡しの期日が、10日後に決まった」
その知らせを最後に、私たちはチャールズのおじさんの執務室をあとにした。
「嬢ちゃんは王都での用事が済んだあとは、どうするつもりだ?」
クマさんは唐突にそんなことを聞いてきた。
王都での用事とはおそらく、ワイバーンの受け渡しのことだろうが・・・。
「とくには決めていませんが・・・クマさんは何かあるんですか?」
クマさんの意味深な言葉に、私はクマさんがどこかに行きたがっていることを察した。
「オイラそのままエルフの里に行こうと思っている。嬢ちゃんもついてくるか?」
しかしクマさんのその言葉を聞いた私は、その意味を察する余裕すらなくなっていた。
エルフの里!? ついに来たテンプレ、エルフの里!!
「行きます!! 行きたいです!!」
「即決だな? あんな田舎面白くもなんともないってのに・・・」
「何を言っているのですかクマさんは!? エルフの里ですよ!? 超テンプレですよ!?」
「ちょ~テンプレがどこかはしらねえが、嬢ちゃんがエルフの里にすごく行きたがっているのはわかった。だからその興奮は抑えような?」
こうして私たちの次の行先は、決定したのだった。
【★クマさん重大事件です!】↓
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