21:幼女空の旅
「グルォォォォ!」
現在私たちはワイバーンに乗って、帝国を目指している。
といっても、全員がワイバーンの背中に乗るわけではない。
背中には家族のいる故郷の場所を知る、バートくんが乗りワイバーンを先導する。
クマさんと私、アリスちゃんとジーナちゃんは、ワイバーンが足に掴む籠に乗っている。
この籠はもともと帝国の人たちが乗って来たもので、再利用させていただいているのだ。
上空は地上よりも気温が低く、この暖かい時期であっても少し肌寒い。
ワイバーンの背中は風も強いし、バートくんが少し心配だ。
「バートくん! そっちは寒くないですか!? ぺろぺろ」
籠の中にいても、クマさん以外は全員ローブを羽織っている。
「俺の故郷は年中雪が降るんだ! これくらいは寒くもなんともね~よ!」
帝国は寒い場所と聞いていたので、きっとバートくんは寒さには強いのかもしれない。ジーナちゃんは例外のようだが。
「ぺろぺろって・・・。あ! お前らまた何か食ってるのか!?」
「はい! 蜂蜜リンゴ飴をいただいております!」
蜂蜜リンゴ飴は、水魔法でリンゴの中に蜂蜜をしみこませ、飴みたいに固めた蜂蜜でコーティングした、とても甘い一品なのだ。
「何これ!? 甘~い!!」
「おいし~!」
「ちょ!! お前らばっかり食うなよ! 俺にもよこせ!」
背中に乗っているバートくんとは距離があるので、蜂蜜リンゴ飴を渡すのは難しい。
飛べば可能だが、飛んでいるワイバーンの掴む籠から背中への移動は、ちょっとしんどいかもしれない。
それにしても叫ばないと聞こえないような距離から、よく食べ物の気配を感じ取るものだ。
エインズワース家の方々に見送られながら、エインズワースの街を出て早2時間、私たちの乗るワイバーンは、他の領地に差し掛かっている。
「もうオールポートに差し掛かったのか? さすがワイバーンは速いな」
クマさんがワイバーンの飛行速度に感心する。
この領地はオールポート領とよばれていて、おもに穀倉地が広がっているのだそうだ。
「クマさん、他の領地の領空を無断で横断しても、大丈夫でしょうか?」
ワイバーンに乗っての移動のために、街などに設置されている関所は、無視して通過してしまっているのだ。
関所では、その領地に入る許可をもらうことができる。
「嬢ちゃんも知ってのとおり、この国で飛行手段を持つ者はまずいない。着陸しないかぎりは大丈夫だと思うぜ」
そんな感じで会話しながら3刻が経過して、オールポート領を通過すると、ボルッツア領に差し掛かる。
「そろそろワイバーンを休憩させるために降りるぞ!」
バートくんの、ワイバーン着陸の合図が告げられる。
着陸地点は、魔物が横行する深い森に囲まれた海岸で、まず兵士が確認になど来ないらしい。
ワイバーンもいるため、滅多に魔物が襲ってくることもないそうだ。
そしてここが今日の野営地となる。
「こんな場所があればワイバーンで侵入し放題じゃないですか!?」
この場所は帝国の領地にも近い。
もし侵入しようと思えば、ワイバーンに乗れば、簡単にできてしまうだろう。
「まあ他国への侵入くらいは、間諜が普通にやっていることだからな」
クマさんがこの世界のスパイ事情を暴露する。
その話が本当なら、スパイはあちらこちらにいたのかもしれないな。
帝国でいろいろ知られている以上、警戒は必要かもしれない。
着陸が完了すると、まずは頑張ったツヴァイをねぎらう。
「ツヴァイよお食べ~」
「グルォォ・・・」
私は桶に水を入れてツヴァイの側に置き、ゴロッと肉の塊を差し出すと、ツヴァイはそれをくわえて地面に置いて、少しずつついばみ始めた。
「帝国ではいつも干し肉だったからね。ツヴァイも喜んでいるよ」
ジーナちゃんは、ツヴァイの食べっぷりを眺めながら言った。
帝国は食料事情が厳しくて、食料はほとんど保存食にしていたそうだ。
寒くて土地が痩せているせいで、作物の育ちも悪く、食料を求めて他国へ攻め込むことも、しばしばあったそうだ。
「それじゃあ私たちも、ご飯にしましょうか?」
ドドド~ン!
まずは土魔法で地面を整地してから、収納魔法でホテルクマちゃんを出す。
「おお! 何だこりゃ~!」
「!!」
初めて見るホテルくまちゃんに、驚くバートくんとジーナちゃん。
「こんなでっかいのどこに入っていたんだ?」
ホテルクマちゃんは2階建てのビルくらいの大きさはある。驚くのは無理もない。
「さあ私たちも晩御飯にしましょうか?」
「お? 今日の晩御飯は何だ?」
クマさんが私に尋ねる。
「今日は体が冷えましたし、鶏肉入りのなべ焼きうどんでも作りましょうかね」
「アリスおうどんすきだよ!」
「嬢ちゃんはうどんに拘りがあるからな」
「リンネ様、私にも何か手伝わせてよ」
そして私たちは、賑やかにホテルクマちゃんに入っていき、夕食のなべ焼きうどんの準備をする。
バン! バン!
「相変わらず戦闘用ゴーレムに、料理を手伝わせるのね?」
ジーナちゃんのゴックさん1号に対する認識は、戦闘用ゴーレムなんだね?
うどんの麺はゴックさん1号に打たせる。
怪力なゴックさん1号の打った麺は、コシがあって美味しいのだ。
「野菜を食べやすいサイズにお願いします。私は肉の方をやりますので」
「了解」
野菜をジーナちゃんに任せて、私は鶏肉の処理をする。
鶏肉を一口サイズに切って、さっと湯をかける。
「リンネ様って物知りだよね。どこでこんな料理覚えたの?」
「は、はは・・。それはあれですよ・・・」
私の料理の知識は、基本前世のものなので、説明がしにくい。
すでに席についているクマさんは、睨んでいるし、あまり吹聴するのもよくないのかもしれない。
「あ! 聞いちゃダメな内容だった?」
そんなクマさんに気づき、詮索を中断するジーナちゃん。
「ほらほらクマさんもそんなに睨まないで。それとも何か言いたいことでもあるんですか?」
最近のクマさんはアリスちゃんにべったりで、どこかよそよそしい。
「嬢ちゃんはこいつらのことが解決したらどうするんだ? エインズワース領に残るのか?」
「何でそうなるんですか? 普通に旅に出ますよ?」
私は冒険者だから、世界を旅したいと以前言っていたのに、クマさんはなぜそんなことを聞くのか?
「だって嬢ちゃん、チャールズと友情の契りをしていただろ?」
「ふぁ? 友情の契り? 覚えがないのですが?」
チャールズのおじさんとは確かに友達にはなったが、クマさんの言う友情の契りとやらは覚えがない。
ていうか友情の契りってなんだ?
「チャールズと手の内側を重ねていたろ? あれは貴族同士の友情の契りのはずだぜ?」
何だそれ? 初耳だ。
確かにエインズワースの街奪還前に、握手をした記憶はあるが、あれはあくまでただの握手だ。
「嬢ちゃんまさか知らないでやったのか?」
「私は一応6歳の幼女ですよ? この世界の常識なんて、まだほんの少ししか知りません」
私の言葉を聞いて、あきれ顔になるクマさん。
思い返すとクマさんがよそよそしくなったのは、チャールズのおじさんと握手をしてからだったかもしれない。
そう考えるとこれは、クマさんの焼きもちとも考えられる。
「でもクマさんとはすでに友情の契りをしていますよね?」
「え? いつだ? オイラ覚えはないけどな?」
「ほら。ウエストウッド村で手をつないで、村の入口に行ったじゃないですか?」
私とクマさんは過去に、ウエストウッド村で手をつなぎ、門番に話しかけている。
「あんなの友情の契りじゃねえよ。ノーカンだぜ!」
「じゃあ今から友情の契りをしますか?」
「ば! 馬鹿! こんなところで恥ずかしくてできるか! それにオイラは貴族じゃねえ!」
クマさんは私がカウンターから手を伸ばすと、避けるようにそっぽを向いた。
「あれ? リンネ様って見た目幼女な聖獣様じゃないんですか?」
そしてジーナちゃんが突然妙なことをのたまった。
そうか、バートくんとジーナちゃんの私への様付けは、私も聖獣認定されているのが原因だったのか。
ここでその誤解を解いておけば、よそよそしい様付けからも、解放されるかもしれない。
「はい。私はどこにでもあるような貧しい村で生まれた、普通の6歳の幼女です」
「はいはい。そういうことにしておきますよ。リンネ様」
説得は失敗に終わった。
「お待ちどうさま。なべ焼きうどんですよ」
そしてなべ焼きうどんも完成する。
ぐつぐつとまだ煮立っていて、こんな寒い夜には丁度良い一品だ。
「もぐもぐ。何か変な味がするな? でも不味くはない?」
バートくんは、なべ焼きうどんを食べながら感想を言う。
変な味? いったい何が変なのか? つるつる。私も味見をしてみる。
うん。普通のなべ焼きうどんだ。でも個人的にはもう一味欲しい感じだ。でも変ではない。
「あ~。この調味料のせいじゃない?」
ジーナちゃんが醤油を指さす。
そういえば醤油は味を調えるのに使ったな?
外国の人は醤油の味に慣れない人もいると聞いたが、そのせいかもしれない。
「それは豆を使って作った調味料なんですよ」
「へ~そうなのか。まあ豆の味だと思えば美味しくも感じるかもな?」
汁をすすりつつバートくんは答える。
「バートはリンネ様に会ってから少し贅沢になったよね? このスープでも帝国にいたころには口にすらできなかった程のものよ」
そんな会話をしつつ食べ終わった私は、次にお風呂を沸かしにお風呂場へ向かう。
「あ! アリスもついていく~」
アリスちゃんはお風呂を沸かすのに、いつもついて来たがるが、何が面白いのか?
子供の気持ちはよくわからない。
「え? お風呂? 帝国ではお風呂じゃなくて、サウナの習慣があったから、お風呂は初めてなんだけど?」
帝国はサウナ文化なんだね。
でも熱いサウナに入ったあとは、冷たい水に浸かるから、お風呂とそう大差はない気もする。
そしてワイワイとお風呂に入るのだが、ジーナちゃんはやはりサウナが恋しいようだ。
ちなみに一部の人は期待していただろうが、バートくんにはラッキースケベ属性はない。
え? 私? いつものように目のやり場に困っていたさ。
そして翌日は上空の寒さも考えて、少し遅めの日が昇ったころに、出発することになった。
朝ごはんはチーズたっぷりのチーズトーストに、ケチャップをかけて食べたよ。
帝国にもチーズはあるようで、このチーズの使い方は、バートくんとジーナちゃんにとっては、贅沢すぎるという評価だった。
アリスちゃんとクマさんは、普通に食べていたけどね。
そして出発前には、クマさんお手製のカイロや、ローブの下に着こむコートやマフラーの準備をする。
この先は帝国に近づくにつれて、どんどん気温が下がるので、寒さ対策は怠らない。
そして昼前には出発だ。
それぞれに間食用にとハンバーガーと、蜂蜜フルーツジュースと、おやつを渡してあるので、各々好きなときに食べるように言っておいた。
ワイバーンは基本的に3刻ほどしか飛べないので、3刻の飛行の後に2つ目の野営地に着陸する。
ちなみに3刻とは、この世界では6時間くらいだ。
その日の夜は体の温まる煮込みうどんを食べて、お風呂に入って就寝した。
明日はいよいよ帝国に入国する。
そしてエインズワース領を出発して、2日目の朝を迎えた。
【★クマさん重大事件です!】↓
お読みいただきありがとうございます!
ほんの少しでも・・・・
「面白い!!」
「続きが読みたい!」
「クマさん!」
と思っていただけたなら・・・
ブックマークと
画面下の広告下【☆☆☆☆☆】から評価をお願いします!!
【★★★★★】評価だと嬉しいです!
いつも誤字報告を下さる方、ありがとうございます!!




