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05:幼女は醤油とお米をゲットした


「それでは落ち着いたところで頼みたい。こちらのお嬢さんに、セーユをいくつか都合してもらいたいのだ」



 クリフォードくんが、行商人のカクタニさんに、私を示しながらそう頼んだ。

 私は現在醤油を購入するために、海を越えて来た、他国の行商人と取引をしている。



「そちらのお嬢様にですか? ずいぶんと幼いお嬢様のようですが・・・?」


 

 私の見た目はまんま6歳だ。6歳の少女に醤油の取引をと言われて、戸惑っているのだろう。



「それではとりあえず醤油の味見を、それで気に入ったものを、購入するというのはいかがでしょうか?」



 行商人のカクタニさんは、醤油の販売について提案してきた。

 それもそうだ。味見もせずに購入して、実はセーユが醤油でなかったならば、目も当てられない。



「良いでしょう。その提案を受け入れましょう」



 私はその提案を受け入れた。



「誰か味見皿を持ってきなさい。醤油の味見をしていただくのだ」



 行商人のカクタニさんが命じると、商人見習いの少年が、味見皿に醤油を入れて持ってきた。


 

「どうぞ、お嬢様。お試しください」



 見ると味見皿は2皿あった。

 醤油の種類は、濃い口、薄口、たまり、再仕込み、白醤油の5種類あったはず。ならばあと3種類はどこに?



「セーユには5種類あったはずですが、あと3種類はどこに?」


「いえ。セーユは濃い口、薄口、たまりの3種のみでございます。申し訳ありませんが濃い口は品切れでございまして、ご容赦ください」



 なんとこの世界には、醤油の種類が3種類しかないのか? 再仕込み醤油、白醤油は存在しないのだね。

 しかし必要だった濃い口醬油がないのは残念だ。ここは薄口醤油で我慢するか・・・。



「では一皿目を・・・」



 私がいただいた一皿目の醤油の味は、コクがあり、甘味があった。

 これは間違いなくたまり醤油だろう。


 これがあればお刺身にも使えるし、何より私はたまり醤油の、卵かけご飯が食べたかった。



「たまり醤油・・・。この深さと甘味がたまりませんね・・・。卵かけご飯が恋しい・・」



 そしてもう一皿をいただく。

 こちらは、しょっぱくて、味がさっぱりしている。薄口醤油の味だ。



「薄口醤油・・・。しょっぱくてすっきりしています。お吸い物が飲みたくなりますね」


「これは驚きました。お嬢様はその幼さで、セーユの味がおわかりになるのですね? 何よりセーユの正式なよび名、醤油をご存じとは・・・」



 前世の私はここまで醤油に拘りはなかった。

 いつも家にある醤油を、何も考えずに使うような、ずぼらな感じだった。

 しかし異世界へ転生して、醤油が恋しいあまりに、細かく拘わるようになっていたようだ。



「こちらのお嬢さんはその年齢で、個人で料理研究所を持つほどの料理研究狂い。

 ビッグオストリッチの卵を使った白いソースやら、蜂蜜を使った個性的なお菓子など、手ずから開発して持ち歩くほどの酔狂ぶりなのだ。セーユ一つにも大変な拘りがあるのだろう」



 クリフォードくんが、私の所持品を得意げに暴露する。



「ほう。それはまた・・・。では、セーユの方はどちらをお買いになりますか?」



 行商人のカクタニさんは、私にどちらの醤油を買うのか尋ねてくる。


 そして私の答えはすでに決まっていた。



「そこにあるセーユ。全ていただきましょう」



 私はそこにある醤油が全て欲しかった。なぜならこの機会を逃せば、今度はいつ醤油が手に入るか、わからなかったからだ。



「こちらの品々は、危険な海を越えて来た貴重な品々です。値が張りますよ?」


「こちらでは足りませんか?」



 私は収納魔法で白金貨を3枚出して、扇子のように広げて見せた。



「これは驚きました。ずいぶんと資産家のお嬢様とお見受けします。

 しかしながら私は、お嬢様の所持品に興味を惹かれました。今回の取引、物々交換ではいかがでしょうか?」



 物々交換とは、ずいぶんと原始的な取引方法を、提示してくるものだ。

 しかしながら、私としては願ったりかなったりだ。食品素材はどれも潤沢にあるのだから。



「何かわたくしの持ち物で、気になるものでもございまして?」



 とりあえず行商人のカクタニさんが、何が欲しいのかを尋ねてみることにする。



「ビッグオストリッチの卵の、白いソースを見せてはいただけないでしょうか?」



 クリフォードくんが、口に出した時点で気になっていたのだろう。行商人のカクタニさんは、ビッグオストリッチの卵の白いソース、マヨネーズを要求してきた。



「ではお味見を・・・」



 私は土魔法の操土で、陶器のような味見皿を作ると。

 収納魔法でマヨネーズを取り出して、味見皿に盛った。



「これは驚きました。お嬢様はそのお歳で、魔法をお使いになられるのですね」



 たしかこの世界では才能のある人が、10歳から魔力が発現するんだっけ? 魔法を使ったのは少し軽率だったか? まあ今更だが・・・。



「はい。たしなむ程度にですが・・・。

 こちらはマヨネーズというソースです。どうぞお試しください」



 とりえず謙遜でもして誤魔化しておく。



「たしなむ程度には見えませんでしたが・・・。まあ良いでしょう。ではさっそくマヨネーズなるソースのお味見を・・・」



 そして舌を付けた瞬間に、行商人のカクタニさんの目の色が変わった。



「こちらのソースの製法ですが、いくらで教えていただけますか?」



 まっさきに製法を知りたがるあたり、さすがは商人だと思った。


 しかしながらマヨネーズの製法は、すでに商人ギルドで特許登録してしまっている。つまり製法が国で公開されてしまっているのだ。



「残念ですが、このソースの製法は、すでに特許登録しております」


「ば! 馬鹿な! このソースの価値を、どのようにお考えでございますか!?」



 行商人のカクタニさんは、私の話を聞いて、憤りを感じたようだ。


 たしかクマさんによると、マヨネーズのレシピは失われたレシピとかいう、大それたよび名があったはずだ。

 それを考えると、行商人のカクタニさんの気持ちも、わからなくもない。


 しかしながらそのレシピを隠すことで、争いになるのも嫌だ。争いの火種になるくらいならば、私はそのレシピを公開する。



「私はこのレシピを秘匿することで、争いが生まれる事態を望みません。そうなる前に、公開することを望みました」



 秘匿された知識はまれに争いを生む。マヨネーズごときとは思うが、見る人が見ればその価値は計り知れないのだ。


 とくにマヨネーズの知識がなかったこの世界では、その価値は計り知れないだろう。殺し合いが起きてもおかしくはない。自分が狙われる可能性すらあるのだ。



「はあ~。なるほど。お嬢様の考えはわかりました。

 ならばセーユ全部と引き換えに、マヨネーズ1瓶と、ビッグオストリッチの卵を2ついただきましょう」



 たしかビッグオストリッチの卵は、1つ大金貨1枚。

 マヨネーズはビッグオストリッチの卵を使ったものが、1瓶で大金貨1枚だ。


 ちなみにマヨネーズに使うビッグオストリッチの卵は、1瓶に4分の1だ。

 ビッグオストリッチの卵が2個とマヨネーズで大金貨3枚だ。

 大金貨3枚は日本円で30万円ほどとなる。


 醤油が全部で20瓶ほどあるので、30万円を20で割ると、1瓶1万5千円の醤油ということになる。

 前世基準で考えるならば、その価値は10倍以上。しかし私は躊躇しない。


 凍り付いたビッグオストリッチの卵2個と、マヨネーズを一瓶を収納魔法で取り出すと、そのまま浮遊させて、行商人のカクタニさんに差し出した。



「ビッグオストリッチの卵2個と、マヨネーズです。お受け取りください」



 行商人のカクタニさんは、一瞬躊躇したが、ビッグオストリッチの卵の状態を調べ始める。



「なるほど。凍らせてあるがいい状態のものですね」



 行商人のカクタニさんは、見習い商人の少年が持ってきた収納バックに、ビッグオストリッチの卵と、マヨネーズを大事そうに収納した。



「他に入用なものはございますでしょうか?」



 行商人のカクタニさんは、私に尋ねてくる。



「酢と味噌、それから清酒に純米酒や味醂はあるでしょうか? あとあればお米も欲しいです」



 私は思いつく和食の調味料や、お米を次々と上げて所望してみた。



「ほう? お嬢様は清酒や純米酒に酢もご存じなのですね? しかしながらこちらでは清酒や純米酒をセイクとよび、お酢をビネガーとよんだ方が、伝わりやすいと思いますよ」



 こちらの世界では清酒や純米酒はセイクで、酢はビネガーで流通しているのか。



「残念ながらセイクの方は、全て買い手がついておりまして、今御座いますのは味噌とビネガーとお米になります」



 お米!! お米があった!! それだけでも期待大!!



「も、申し訳ありません! 次こそは必ずお持ちしますので、どうぞお怒りをお沈め下さい!」



 え?? あ??



 行商人のカクタニさんは、なぜか私を見て怯え始めた。



「嬢ちゃん魔力を抑えろ。周りの人間が怯える」


「ふぁ!? これは失礼いたしました。わたくし興奮すると魔力が溢れてしまうんです。決して怒っているわけではなくてですね」



 そうだった。お米欲しさについつい興奮しすぎて、魔力が溢れてしまっていたよ。

 私はいったん落ち着くと、溢れた魔力を霧散させた。



「では今所望した物品を全ていただきます。念のためにお尋ねしますが、その中にクリフォード様の望むものはございますか?」


「いや。当家が所望するのはセイクのみなのだ。裏の方ですでに使用人が、持ち出しているはずだよ」



 セイク? セイクは確か清酒や純米酒のことだ。こいつ清酒か純米酒を購入していやがったよ。

 まあいい。お米が手に入ったのだ。ここは満足しておこう。



「こちらを全てご所望なのでしたら、それに見合うもの・・・そうですね。今度は甘味を見せていただきましょう」



 行商人のカクタニさんは、私が要求したものの代金として、次に甘味を要求してきた。



「いいでしょう」



 私は蜂蜜とフルーツの果汁を、収納魔法で取り出すと、指先に浮遊させて飴に変えた。

 そして行商人のカクタニさんに、蜂蜜フルーツ飴を進呈した。



 コロンッ!



 わざわざ魔法で作って見せた理由は、魔法による創作物の価値が高いからである。


 

「こ、これはどういった丸薬でしょうか?」



 丸薬? そうか行商人のカクタニさんの国では、丸い飴は丸薬に該当するのかもしれないな。



「それは蜂蜜とフルーツの果汁を混ぜて、魔法で固めたものです。硬いので、舐めながら唾液で少しづつ溶かしてお食べください」


「蜂蜜? 蜂蜜ですか? それは大変貴重なものを・・・」



 行商人のカクタニさんは、蜂蜜とフルーツ飴をまじまじと見ると、口の中に入れた。

 それを見習い商人の少年が、羨ましそうに見ていたのは見逃さない。甘味はどこでも好まれるね。



「う!? 甘い! 甘すぎる!!」



 行商人のカクタニさんには甘すぎたか・・・。でも見習い商人の少年は、それを聞いてよだれを流しているぞ。



「失礼しました。私には少々甘味がすぎるようですが、これを好むものは多いでしょう。それにこれほどの甘さです。おそらくこれはビッグハニービーのものでは?」



 私はこの世界のハチの名前をよく知らない。なのでクマさんの顔を見る。



「ビッグハニービー? たしかに大きな蜂だったが・・・こんな鳥くらいの大きさの」


 

 クマさんは、15センチメートルくらいの幅を、指で示しながら答える。



「その大きさでしたら、ビッグハニービーに間違いはありませんな。あのハチの蜜を取るのは命がけですから、なかなか出回りません。なぜなら刺されれば、即死することもあるそうですし・・・」


 

 ミツバチにしては大きいと思ったが、やはり普通のミツバチではなかったのか・・・。まあすでに、あの蜂蜜なしでは生きていけないし、今更クマさんにどうこう言えないが・・・。



「蜂蜜と飴、どちらを所望しますか?」



 私は行商人のカクタニさんに、蜂蜜と飴のどちらが必要か尋ねた。



「それでは蜂蜜の丸薬を20個。ビッグハニービーの蜂蜜を小瓶に二杯ほどいただきましょう」



 私は以前土魔法で作った、高さ50センチメートルほどの、陶器に酷似した大壺を収納魔法で取り出した。

 その中にはなみなみと、蜂蜜が注がれているのだ。



「おお!!」



 声を上げたのは、行商人のカクタニさんではなく、クリフォードくんだった。

 私は見習い商人の少年が持ってきた小瓶に、水魔法の水操作で蜂蜜を操って、次々に注ぎ込んだ。


 蜂蜜が空中で丸くなり、太陽の光を受けながら、浮遊して移動する様は、まるで黄金のようで、芸術的な光景でもあった。



「待つのだリンネ殿! 私にも、私にもその蜂蜜を、大金貨一枚で売ってくれ!!」


 

 そしてここに伏兵が現れた。その名もクリフォードくん。

 仕方ないので、クリフォードくんにも蜂蜜を売ってあげる。



「クリフォード様。小瓶はお持ちですか?」


「しまった! 失念していた!! こんな時に私は小瓶をもっていないとは!!」


 

 クリフォードくんは、小瓶を所持していないらしい。

 私は土魔法を使うと、小瓶を作成した。


 ユーモアで、小瓶にディフォルメされた蜂の絵を描くのを忘れない。

 蜂の絵の小瓶に蜂蜜を注ぐと、浮遊させて、小瓶をクリフォードくんに差し出す。



「ありがたい! お金は後ほど必ず!」



 そして蜂蜜を注ぎ終わった小瓶を、持ち去ろうとする少年を引き止める。



「お待ちなさい」


 

 私の言葉を受けて少年が立ち止まり、キョトンとした表情で私の顔を見る。

 私は蜂蜜フルーツ飴を浮遊させて、見習い商人の少年の口元にもっていく。

 実は意外にも蜂蜜フルーツ飴は、水操作で浮遊できてしまうのだ。



「これを舐めて味を覚えなさい。そして次に来る時は、私から買い取って、商えるくらいに精進なさい」


「はい! 頑張ります!」



 私の言葉を聞いた少年は意気込み、そして浮遊した蜂蜜フルーツ飴を口に含んだ。



「甘いです・・・」



 そう呟いたのが、飴を口に含んだ少年だったのか、行商人のカクタニさんだったのかは、わからないが、頑張っている子供を見ると、なぜか応援したくなる。



「ほう。これはずいぶんと面白い入れ物ですな」



 行商人のカクタニさんが、蜂蜜フルーツ飴の入った陶器の入れ物を、まじまじと見ながらそう言った。


 陶器はもちろん土魔法で作ったもので、ハチがリンゴを抱えて飛んでいる、ディフォルメされた絵が描かれている。



「もしやこの入れ物も土魔法で?」


「はい。入れ物にはそれぞれ10個ずつ蜂蜜フルーツ飴が入っています。入れ物はおまけですので、遠慮なく持っていってください」


「やれやれ。この入れ物だけでも大銀貨10枚の価値はありますぞ・・・」



 私は行商人のカクタニさんの言葉を無視して、そこにあった買い取り商品を、片っ端から収納魔法で収納していった。


 その様子を、唖然とした様子で見ている周囲の人々だったが、その中に悪意を持ったものがいるのを、私の魔力感知が捉えていた。



【★クマさん重大事件です!】↓


 お読みいただきありがとうございます!

 ほんの少しでも・・・・


 「面白い!!」

 「続きが読みたい!」

 「クマさん!」


 と思っていただけたなら・・・


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