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霊感ケータイ  作者: リッキー
研修旅行
97/450

7.合宿所の裏山で・・

夕食の時間が終わり、入浴までの間は自由行動となっていた。


沙希ちゃんの「忘れ物」を取りに行こうと、恐る恐る付き合って裏山へと登る事を決めた拓夢君。




懐中電灯を片手に、日の暮れた山へと入る二人。


辺りは真っ暗になり、合宿所の明かりだけが頼りだった。


月明かりも無く、鈴虫やコウロギの鳴く声が周りに響き渡る。


少し肌寒い。




(う!・・やっぱり、明るい時のほうがいいかな・・・)


心配になった沙希ちゃん。


別に、この時間に行かなくてもいいのだが、仲間の女子に迫られている。帰れば、後で何を言われるか・・


実際、「忘れ物」なんて、思いつきで言ったので、木を切り倒した場所に行って、何を探せばいいのか悩む沙希ちゃんだった。




「じゃあ、行ってみる?」



沙希ちゃんの少し前を、拓夢君が懐中電灯を照らしながら進んでいる。


沙希ちゃんは、拓夢君の足元を照らして、根っこに躓かないようにしている。


昼間と違って、夜の山道は危険がいっぱいだ。






先回りしていた、先ほどの女子達・・


草むらに隠れて、何やら長い竿のようなものを構えている。


竿の先に紐が結ばれ、コンニャクが吊るされている。


何とも原始的な肝試し用グッズであるが、即席で作った割には本格的だ。


「ふふふ・・明日の食材から失敬してきたわ!」


「やるわね~」



「あの二人、やっぱり、離れて歩いてるみたいだね・・」


「全く・・ムードが無いんだから・・」


「このコンニャクで脅かせば、くっつくんじゃない?」



「これも、沙希のためよ!」


本当に、沙希ちゃんの為なのか、面白がってるだけなのか・・・







懐中電灯の光で足元を照らしながら山道を登ってくる拓夢君たち。


「だいぶ、歩いたみたいだけど、まだ、あの場所に着かないのかな~」


沙希ちゃんが恐る恐る拓夢君に聞いている。


「うん・・昼間と違って、足元が暗くって・・よく歩けないな・・」


その言葉の通り、暗い山道は、懐中電灯の明かりだけが頼りだった。

あたりは真っ暗で、足元を照らしているとはいえ、進む方向が全く見えない。

昼間に進める距離も、何倍もの長さに感じる。

まだ、目的地への半分も来ていないようだった・・・

心細くなる二人。



「やっぱり、引き返す?」


「う・・うん・・」


沙希ちゃんが諦め始めて、そう返事をした時・・







  ペチャ・・・




何かが沙希ちゃんの頭を掠めた(かすめた)。



    「何!!」




思わず、叫ぶ沙希ちゃん。



    「え?」




何が起こったのかわからない拓夢君。



「何か・・柔らかいものが・・」




今度は、反対側の頬を、柔らかく、生暖かい物が、ピタリとくっつく。



   「ひゃ!!~~」


その場に座り込む沙希ちゃん。


「どうしたの?」




先ほどの、女子達のコンニャク攻撃が始まっていた。

コンニャクを、肌で暖めて、人肌のような感触にして、竿で操りながら沙希ちゃんの辺りを吊るして回していた。

暗いので、良くは分からないが、沙希ちゃんの懐中電灯の明かりが頼りだ。


座り込んだ沙希ちゃんの反応に、残念がる女子達・・


「うう!!沙希!何やってるのよ!!」


「拓夢君にすがりつかなきゃ!」


「全く、ムードの無い!」


そうは言っても、実際、暗闇で襲われたら、誰もがこういう反応をすると思う。

お化け屋敷でもなく、男女が寄り添いながら歩いているわけではないのだから・・・



「大丈夫?沙希ちゃん!」


座り込む沙希ちゃんに、近寄る拓夢君。


「な・・なんか・・触ったの!」


泣きそうな表情で、恐怖におののく沙希ちゃん。



「沙希・・怖い!!」


肩を抱えながら、うずくまる沙希ちゃん。

今にも泣きそうだ。





懐中電灯で、沙希ちゃんの辺りを照らす拓夢君。


「何も無いよ・・」


「でも・・」


恐怖におののいている沙希ちゃんの姿を見て、安心させようと、肩を抱く拓夢君。


「え?」


その行動に、ふっと顔を見上げる。



「大丈夫!・・・何も居ないよ!」



「何も居ない?・・わかるの?」



涙を目に貯めながら、見つめる沙希ちゃん。




「え?・・うん・・


わかる・・・」



いったい、何が分かるのか一瞬、不思議な感じになった沙希ちゃん。



拓夢君には霊感がある。



「霊」を感じることのできる拓夢君には、沙希ちゃんの周りに「霊」が存在しないことを確認した。

夏休みにゴーストバスター部が徹底的に除霊していたので、安心していたのもあった。


普通、山に入ると、何かしら、得体も知れない者を感じることがあったが、不思議と、その気配もない。

それゆえに、沙希ちゃんには「何も無い」と断言できた拓夢君だった。





「お!いい感じになってるじゃない!あの二人!!」


「その調子だ!頑張れ!沙希!!」


女子たちも、拓夢君が寄り添って介抱している姿を見て、興奮気味だった。


「そこで、抱きつけ~!沙希!!」


オイオイ・・・




二人は、抱き合うわけでもなく、話を続けていた。


「わかるって・・・何が?」


拓夢君は、一瞬、戸惑ったが、タネをあかす事を決意した。








「僕さ・・・見えるんだ・・」



「見える?って・・何が見えるの?」



「霊が・・」



「え~~~?! 拓夢君・・・霊感があるの??」



霊感を持っている拓夢君に、驚く沙希ちゃん。



「うん・・・はっきりとじゃないけどね・・何となく・・ぼうっと・・・」


「私の周りには?」


「大丈夫!何もいないよ。安心して!」


安心してと言われても、霊感があるという拓夢君の意外な正体に、あっけにとられている沙希ちゃん。

拓夢君も、今まで、怖がられるので、その事実を隠していた。

小学校の頃から、そういう能力があるということで、気味悪がられていた事もある。



「あ・・・でも・・・さっき・・・」



拓夢君が何かを思い出した。


「さっき?」


「源さんが、木を切る時・・・何か感じた・・・」


「何かを?」


源さんにチェーンソーを向けられ、命を奪うと迫られたとき、風が吹いてきたのを思い出した。そして・・・



「さっき、風が吹いたとき、何か感じたんだ・・


そういえば・・・お昼ごはんの時も・・・」



「風?」



「うん・・・さーーーって吹いた風だけど・・・」


そう言って、昼間、木を伐った場所を見る拓夢君・・・







「あ!!!」


「え?」


木を伐った場所を指さす拓夢君・・



「あれ・・・」



昼間の木を伐った広場のほうに、青白い光の固まりが僅かに震えながら、左右に移動しているのが見えた・・・

怪しい光を放ちながら、二つの火の玉が踊るように蠢いて(うごめいて)いる。


「キャー!!!人魂!!!」



脇の草むらに潜んでいた女子達が、いきなり、出てきた。


人魂を目撃し、肝試しどころではなくなってしまった・・



二人が、その急な出来事にあっけにとられているうちに、女子達が合宿所の方へ一目散に逃げて行く・・



「あれ?あの女子達・・」


「あ・・さっきの、変な感触・・・」


足元に投げてある竿と、コンニャクが懐中電灯に照らされる。

彼女達が肝試し用に使っていた道具だ。


「コンニャクか・・・・また、原始的な道具だね・・」


「こんなのに驚いてたんだ・・・私・・・」


「ふふ・・そうだね・・」


「じゃあ、あの人魂も??」


「彼女達が逃げていったってことは、彼女達の物とは違うようだ・・・」


「本物?」


その光は、未だに、先ほどの場所、昼間、源さんの倒した木の周囲で、左右に蠢いて(うごめいて)いる。


「誰かのいたずら?」


「わからない・・でも・・気になる事もある・・


あの風・・気になるんだ・・」





人魂の方向を見つめる拓夢君。

その真剣な横顔に、かがんでいた沙希ちゃんが、立ち上がる・・


「行ってみようか!」


「え?」


その言葉に、驚く拓夢君。


「だって・・あそこ・・何があるのか分からないんだよ!」


「うん・・怖いよ・・怖いけど・・


行ってみたくなったの・・


ねぇ・・タクム君・・・」



「何?」


「私を・・守ってくれる?」



「え?」


拓夢君の腕に、しっかりとしがみつく沙希ちゃん。

胸が腕に押し付けられている。でも・・彼女の胸では、あまり押し付けられている感じではなく・・(うるさい!いいじゃない!)


「こうしてると、安心する!」


その仕草に、赤面する拓夢君・・


「行ってみる?」


「うん!」


拓夢君が先の方を懐中電灯で照らし、沙希ちゃんが足元を照らし、足元の状態を見ながら危険な所に注意を促した。力を合わせて山道を再び登り始める二人・・






木が伐採された現場。開けた草むらに、倒れた木が横たわっている。

真っ暗な空間に、二つの人魂が浮かんでいる。


めらめらと燃える青白い炎・・


上下にかすかに震えながら左右に動いている。


不気味な光景であるが・・








「おい・・あの

女子達・・驚いて逃げてったぞ!」


「ふふ・・驚かす側が、逆に驚かされてるんじゃ、世話無いよな~」



サトシ君達であった・・・・


その手に握られた木の枝の先に、何か液体を湿らせた布が縛り付けられていた。その布が燃えているようだ。


「源さん達の、焼酎を使うなんて、お前も考えるよな・・」


「今頃、校長先生も必死で探しているだろうな~」


アルコール度数の高い焼酎をしみこませて、青白い光を演出していたようだ。



「あの二人、まだ登ってくるみたいだぜ!」


「ふ~ん・・根性あるな~」


サトシ君達は一度、松明の灯を消して、姿をくらます事にした。

拓夢君達を驚かす作戦を練り、草むらに、身を隠す二人・・・






拓夢君と沙希ちゃんのカップル・・

腕組みして、端から見たら和気藹々といった感じだが、本人達は恐る恐る必死に夜道を歩いていた。

どんなに歩いても、目的地に近づいている気がしない。


松明が消えたことに気づいた沙希ちゃん。


「あれ?消えちゃったよ!人魂・・」


「ほんとだ・・」


「人魂・・終わっちゃったのかねぇ~」


人魂が終わるという表現も、おかしい感じもするが・・


拓夢君は、微妙に流れる風を感じ取っていた。


「何か・・ちょっと雲行きが怪しくなってきたぞ・・・」


「どういうこと?」


カサカサと辺りの葉っぱが風になびいて音を立て始めた・・・

その異様な様子に、沙希ちゃんの拓夢君の腕を掴む手に力が入る。


拓夢君の腕に胸が押し付けられる・・あまり、大きくない沙希ちゃんの胸・・(だから!余計なお世話だって!!)


「急ごう!」

足を速める拓夢君・・





暗い広場の草むらで、身を潜めているサトシ君達・・


サトシ君も、辺りの異変に気づき始めていた。


草が風にたなびいているのかカサカサと音を立てている。


「?何だ?」


ザワザワと木の枝が揺れて音を立て始めた。

周りが、急に異様な雰囲気となった・・


「どうしたんだろう?」


「この風・・何だ?」


倒れた木の上で、木の葉が舞っている・・

つむじ風に捕らえられたように、くるくると回る・・


その方向を、見つめるサトシ君・・何やら青白くぼうっと明るくなっている気がした。


「あ・・あれ・・・・!」


サトシ君の隣の男の子が、叫び声をあげる・・


その、明るい部分に、人の影が浮かんできた・・


大人よりも、一回りも二回りも小さい影・・子供??


子供用の着物を着た髪の長い、青白い肌をした女の子が立っていた。



この世の者とは思えない表情・・うっすらと笑みを浮かべている。




背筋に寒気が走ったサトシ君達・・




「お兄ちゃん達・・・私と遊んでくれるの?」



声を出すでもなく、脳に直接響いてきた・・




腰が抜けて、思うように動けない・・・




金縛りにかかったような・・・



当然、声も出ないのだった・・




「あ・・あああ・・・お・おれ・・・たち・・・」



まともに話せないサトシ君・・


恐怖にひきつった表情の二人に、近づく女の子。



動けない二人に、容赦なく、足音も立てずに寄ってくる・・・



直ぐ近くまで来て、二人の顔を覗き込む。



女の子の冷たい視線がサトシ君の体を舐め回す・・


長い髪の毛が風になびいている・・・


あどけない面立ちに、女性の色気を併せ持っている。面妖な雰囲気の少女・・


生唾を飲むサトシ君・・


目に、涙があふれているのが分かった・・・



そんな様子をあざ笑うかのように、うっすらと笑みを浮かべて、少女が話しかける・・




「なぁに?さっき、面白そうな事してたじゃない・・・」



蛇に睨まれたカエルのように、身動きもできず、その場であたふたとしているサトシ君達・・


脂汗が流れ出てきている事に気づいた・・





そこへ、拓夢君たちが到着した・・

懐中電灯で照らされるサトシ君達・・


「そこ・・・誰か、居るの?」



「サトシ君?」


沙希ちゃんが、サトシ君達を見つけた。


その名前を呼んだ時、もう一人、立っている人影があることに気づく・・


「あなたは?」


女の子の姿に気づいた、沙希ちゃん・・

霊感の無い人にも、この子が見えるのだろうか・・


「う・・ああ・・タクム・・・た・・たたた・・」


サトシ君が、拓夢君に気づき、助けを求めている。




「君・・・」



拓夢君も、女の子に気づいた。



「お兄ちゃん・・・さっきの?・・・」


少女が、拓夢君の方を向く。



見つめ合う拓夢君と女の子・・



先ほど?


やはり、木を伐る時の風に、この少女が関係していたのだろうか?



拓夢君はポケットの中で、布を握り締めていた。般若心経の書かれた護身用の手ぬぐい・・



女の子の注意が、拓夢君に向けられ、身動きのできるようになったサトシ君達が、その場から逃げていく。



「うわ~!!!!でた~!!」


道を転がるように走りながら叫び声を上げている。




その姿を見送る沙希ちゃん・・


これから何が起こるのか・・


拓夢君の腕を握りながら、後ろに身を潜ませ、女の子を覗き込んだ。


握る手が、微かに震えている。



「大丈夫・・僕が守るよ!」


「うん・・」



拓夢君が沙希ちゃんをかばう。


その仕草に、ちょっと、「キュン」となった沙希ちゃん・・


拓夢君も、一度悪霊と対決はしたものの、幽霊を前にすると足がすくむ・・








「お兄ちゃんたち・・・


遊んでくれるの?」



頭に直接、かわいらしい声が響いてくる。拓夢君だけではなく沙希ちゃんにも聞こえているようだった。




拓夢君は、何かを話さねばならないと思っていた。



「も・・もう・・暗いから・・


遊ぶのは、ちょっと危ないよ・・・」



何とか、口から言葉が出る。幽霊と話すのは勇気がいる・・・



「そうだね・・・もう・・暗いね・・・」


辺りを見回す少女。どうやら、襲ってくる様子は無さそうだ。


「じゃあ・・お話して!」



「お話?」



「うん・・何か、面白い話・・」


拓夢君は少し迷った。


幽霊に聞かせる面白い話なんて・・どんな話があるのだろう?

沙希ちゃんを見るが、首を横に振る・・まあ、気の利いた話なんて、そうあるものでもない・・



「ど・・どんな・・お話が・・好きなの?」


今度は、沙希ちゃんが、勇気を振り絞って聞いてみた。沙希ちゃんも意外と勇気がある。



「そうね~・・昔、村のおばあちゃんが、よく、お話してくれたな・・・


神社に集まった子に、聞かせてくれたの・・」



「神社で?」



「昔話?」



「神社の境内には、たくさん子供が集まって、遊んでいたわ・・


山で遊んだり、川に入ったり・・皆と楽しく遊んだ・・」


「子供たちと遊んでたの?」



「うん・・たくさんの友達がいた・・」



この近所の子供たちと遊んだという・・


それは、この少女の生前の記憶なのか・・それとも、幽霊となった少女と、子供たちが「霊」とも気づかずに遊んでいたのだろうか・・





少女が、源さんの伐った木の切り株の上に立った。


そっと目を閉じ、何かを感じ取ったかと思ったら、また目を開けて、眼下に広がる林と、合宿所を見回した・・



「あの学校には、昔、たくさんの子供が通っていたのよ・・教室が溢れる程だった・・」



「学校?」



合宿所の事なのだろうか・・


廃校となり、久しかった古びた校舎が改装されて、合宿所として使われるようになってから、既に20年以上が経っていた。


少女の記憶は、更に昔にさかのぼっているようだ。



それにしても、こんな山奥に、そんなに子供が大勢いたのだろうか?


拓夢君は、少し、不思議に思っていた。


そんなに子供が居たならば、成長して、この地に住んでいてもおかしくはない。


町があっても良さそうなのに、今は、一軒も家らしきものは無いのだ・・・



「何で、人が・・家が無くなってしまったの?」



「うん・・・私・・ずっと見てたの・・・」



「見ていた?」



「あの道は、町に通じる道は、昔は、細い道だった・・


みんな、町に行くのに、歩いて行ったり、自転車で行ったりしたけど、それは大変な道のりだった・・


崖を超えて行かなければならなかったし・・」



町へ通ずる道路を指さしている少女・・


その道は、少し行くと、カーブの多い崖に沿った道なのだった・・


夏休み、あの合宿所へ向かう道中、僕が先生の車の運転で、ひやひやした思い出のある道だ。


女教頭先生への対抗心でいっぱいだったのを覚えている。


「あの道が、良くなって・・


皆、町へ買い物に出かけるようになったわ・・・


私と遊ぶ事も少なくなっていった・・・」



道が良くなり、舗装がされると、町への行き来が容易になる。


それと同時に、山に住んでいた人たちは、麓の町へ行く機会が増えたという。


物も豊富で、便利で、新しい物事が詰まった町は、それまで質素に暮らしていた山の人たちに、煌びやかに見えたのだろう・・・




「みんな、遊んでくれなくなった・・・


町へ遊びに行ったり・・


町へ引っ越す子も増えていったのよ・・・」





「気が付いたら、私は一人、取り残されていた・・・」


少女の目に、うっすらと涙があふれてくるのが見えた・・


見えたというよりも、そんな感じがしたのだ。


この少女は、ここにあった村の証人のような存在なのだろうか・・・




伸び放題に伸びた長い髪に、昔の子供の着物を着て、青白い肌に、吊り上った目・・


その目を見ると、引き込まれそうになる。



オカルト研究会に所属しながら、不思議な現象の調査をしていた中で、思い当たる項目があった。



---- 座敷童 ----


ワラシコとも言う・・


拓夢君は、その少女の着ている服や、容姿、話の内容から、この子が座敷童だと悟った・・





いつの時代か・・おそらく大正や明治よりもずっと古い時代・・


この少女は何らかの事故や病気で亡くなったが、自分が死んだと自覚せず、自分がまだ生きているものと思い込んで、他の子供と遊んでいたのだ。


幼い頃には、こういった霊を死霊とも思わずに無邪気に遊んでいることがある。


大人が、人数を数えると、決まって一人足りないという。


昔は、子供が大勢いて、何処の子と意識しなくても、遊び相手として色んな子と付き合っていた。


こんな山奥にも、沢山の子供であふれていたのだ。


座敷童の伝説には、寝ている枕元に姿を現わしたり、布団と掛け毛布を反対にするなどのイタズラもしたとある。


総理大臣になりたい政治家が、座敷童に会うと、成功するという言い伝えもあり、座敷童の出る宿へ泊まる事もあるという。


ある程度の神通力のような不思議な力を持った「座敷童」もいるようだ。






座敷童の住みつく家や、村が、何らかの原因で姿を消してしまったら、座敷童だけが村のあった場所で、いつまでも、漂い続けていくのだろうか・・


全く姿形を失った家や村、住んでいた人々は、この座敷童の記憶として生き続けるのだろうか・・・


そこに村のあった証・・


忘れ去られてしまった山の集落・・


今は、この合宿所だけが、そこに学校があったと思わせるだけだ・・


周辺に家など跡形も無いのだ。


人が居た当時は、学校があふれるくらいの子供がいた・・


山や川にも、たくさんの子供が遊んでいた・・


そんな活気など・・今はどこにも見当たらない・・



一本の道が整備されるとともに、流れていった住民たち・・・



日本に点在した多くの集落は、そうやって姿を消していったのだ。


廃墟と化していった村は、計り知れない・・




「わたし・・寂しかったの・・・」




「朝・・バスを見ていたのも・・君だね・・・?」


拓夢君は、ここに来るバスの窓から、不思議な物を見た事を思い出していた。



「うん。皆、楽しそうだった・・


この村に人が来るのも、久しぶりなんだもん・・・」



合宿所に、噂が立ってから、部活の合宿所として使われる機会も無くなってしまった・・・


この夏休みにゴーストバスター部が除霊を行い、何の現象も起こらない事を確認し、ようやく、合宿所として使われるようになった・・


そして、この地で研修が再開され、この少女と出会うとは、何とも奇遇なものだと拓夢君は感じていた。




「ねえ・・あなた・・何て名前なの?」


沙希ちゃんが、少女に聞いてみた。沙希ちゃんも、少し、慣れたようだ。



「私?  もう忘れちゃった・・・


でも・・・


遠い昔、アヤメって呼ばれていた・・」




「アヤメちゃん・・か・・


可愛い名前だね・・」



少女がその言葉に、少し照れた感じになっている。


にっこりと笑った少女・・


「お姉ちゃんは?」



「サキって言うの・・」



「僕はタクム・・」



お互いに、少し、仲が近くなったような感覚になっている。


幽霊と友達になるなんて、滅多に無いことだし・・


拓夢君は、もう既に、ポケットの中の布きれを離していた。危険な子でもない。むしろ、友好的な感じさえあった・・


沙希ちゃんは、まだ、少し怖い想いが残っていた。拓夢君の腕を握りしめながら、半分、身を隠している。






「大人が、迎えに来たみたい・・


もう帰る時間だね・・・」



少女がつぶやく。


その視線の方向に、無数の懐中電灯がチカチカと辺りを照らしながら、こちらに向かってきていた。


源さんや校長先生が、血相を変えて合宿所へ逃げ込んできた女子やサトシ君の話を聞いて、拓夢君達を探しに来ているのだろう・・




「お兄ちゃんたち、あの合宿所に泊まっているの?」





「うん、明日、明後日とあの合宿所に泊まるんだ。


でも・・・」



座敷童に、夜な夜な出てもらうと騒ぎになるので、それは避けたかった。



「昼間の授業で、疲れているんだ。ぐっすり眠らせてよ!」



「うん・・・夜は、遊びに行かないヨ・・」



「約束してくれる?」



「うん・・・



じゃあ・・明日、



私と遊んでくれる?」



拓夢君と沙希ちゃんはお互いに顔を合わせた・・


幽霊と遊ぶというのも、どうしたものかと、少し考えたのだが・・


夜に出ないと約束したのだし、こちらも約束をしなければならないという義務感にとらわれたのだった。


幽霊との約束をやぶったら、何をされるか分からない。



「うん・・いいよ!明日ね!」


そう答えたのは、沙希ちゃんだった。


拓夢君は少し動揺していたが、沙希ちゃんがOKをだせば、それに従おうと思っていた。



少女は、その答えを聞いて、にっこりと笑った。



「じゃあ、また・・明日ね!」


そう言い残すと、少女の姿がスゥ・・・っと消えていった。




広場に取り残された拓夢君達・・


辺りは、真っ暗になっている。


空には、満点の星空が広がっていた。






「おーい!タクム~・・どこだ!!」


源さんの声が近くから聞こえてきた。


二人が振り返ると、懐中電灯で照らされた。



「そこに居たか!」


「大丈夫か?君たち!!」


学年主任の先生が聞いてきた。


「はい・・大丈夫です」



「先生・・」


沙希ちゃんは、大人たちが来て、安心したのか、目からどっと涙があふれ出してきた・・・

そのまま、先生の元へと泣きじゃくる沙希ちゃん・・


「怖かったヨ!先生・・・」


沙希ちゃんを介抱している先生。その姿を見つめ、気が付くと、べったりとその場に座り込んだ拓夢君・・


少し、震えている。


それまでの緊張感が緩み、一気に、恐怖感が湧きあがってきた。



「何を見たんだ?」


源さんが、拓夢君に問いただす・・




「座敷童が出たんです・・・」


一点を見つめながら、源さんに今までの事を話す拓夢君。



「座敷童?」



「ええ・・小さい女の子が、今まで、そこに居たんです。」



学年主任の先生と顔を合わせる源さん・・


研修で、そんな噂が立つのもまずいと思った。



「でも・・・大丈夫ですよ・・」



「え?」



「寝てるときは、出てこないって・・約束してくれました・・」


「約束?座敷童と約束したのか??」


源さんも、座敷童など、初めて聞いた。噂話には聞いてはいたけれど、現実に、近くで「見た」という証言に当たるのも初めてだ。







「君たち・・幸運じゃないか!」



「え?」


一同が、その声に振り向いた。

校長先生が、やっとの思いで登って来た。



「座敷童と言えば、見た人を幸運に導くという妖精だ!


純真な子供と遊ぶ事もあるという・・


君たちは、本当に、透き通った、純真な心の持ち主なのだろうねぇ・・・」



学年主任の先生に身を寄せている沙希ちゃんの頭を優しくなでた。



「校長先生・・」


涙目の沙希ちゃん。



「まあ、この世に生きている人間と別の次元の者を見たんだ・・


怖いのは当たり前だよね・・


この世界には、人間の目に見えない、不思議な世界があるんだよ。」



「見えない世界?」



「我々の住む世界でも、見えない世界でも、命の循環・・それは共通の事だ・・」



「命の循環?」



「ありとあらゆるものに、命がある。


それは、村や建物、自然も同じだ。」



「ここにも、昔、村があって、たくさん人が・・子供があふれてたって言ってました・・」


拓夢君が、先ほどの少女との会話の事を思い出した。



「うん・・・あの合宿所は、昔の廃校になった校舎を改装したものだ・・


昔は、この辺りは、子供が大勢いたそうだよ・・


村も賑やかだったそうだ・・」








「昔は、山の木を伐り出すという産業があったんだ・・」


その会話に、源さんが入ってくる。


「また、農作物を作ったり、山で薪を拾ったり、家で蚕を飼ったり、杜氏に出稼ぎに行ったりと・・


村の暮らしを支えていた色々な仕事があったものだ・・



じゃが・・・



技術が進歩し、便利になり・・また、安い海外製品に圧されて、


村での産業が衰退すると、


やむなく、村を出て町へと移住するしかなかったのじゃ・・」





「町や村にも、寿命があるのです・・」


校長先生が話し出す。



「そこに住む人たちが、いなくなれば、町はその役目を終える・・


もともとは、自然の山や丘を切り開いて住み着いた場所だが、


人が居なくなれば、直ぐに自然に返る・・



人が生まれ、育ち、そして死んでいくように、


町や村も生まれては、死んでいく・・


その命の循環の中で、我々はわずかな時間を、こうして共にしているのです。




そこに、人が住んでいたという思い出や、私たちがこうして会っていることも・・


ひょっとしたら、そういった座敷童みたいな妖精しか記憶に残さないのかも知れませんね・・」





沙希ちゃんが、きょとんと、その話を聞いていた。


なにか、神秘的な・・不思議な感じになったのだった。


怖かったという思いは、ほとんど脱ぎさられ、ようやく落ち着きを取り戻した様子・・・



沙希ちゃんが学年主任の背中におぶさり、毛布が掛けられ、麓へと降りていく。



「立てるかい?」


源さんが拓夢君に聞いている。


「はい・・」


拓夢君も立ち上がり、自力で山を下りていく。



振り返ると、昼間切り倒された木の切り株に、ボウッと、あの少女の姿が浮かんでいるような感じがした・・・・





合宿所に、拓夢君達が戻ってきた。


いち早く迎えたのは、女子達だった。


「沙希!大丈夫!?」


「うん・・・」


学年主任におぶさった沙希ちゃんが弱弱しく返事をする。


「一人で歩けるかい?」


「はい・・」


毛布を掛けられたまま、床に降ろされる沙希ちゃん。

何とか足をついて、何とか歩ける程度だった。少し、ふらついている感じもした。


その周りに、駆け寄る女子達。

肩を抱き合って、無事を喜ぶ。


「無事で良かった!」


「うん・・みんなも大丈夫?」


「途中で転んじゃったけど、大丈夫だよ!」


「人魂ってサトシ君達のイタズラだったって?」


「そうみたい・・」


「でも・・・見たの?・・・幽霊・・・」


「サトシ君達、凄い形相で合宿所に逃げてきたんだよ!」



「うん・・・」


「襲われなかった?」


「うん・・大丈夫だった・・」


「怖くなかった?」


「怖かった・・・


でも・・・


タクム君も


居たし・・」



拓夢君の方を見る女子一同・・・



「あはは・・」


苦笑いする拓夢君。




「さすが、オカルト研究会とゴーストバスター部をかけもちしてるだけ、あるわね!」


「頼りになるんだな~・・タクム君って!」


「うん・・・幽霊とも話したんだよ!」




「え~?!!!!」


二人とも、その言葉に驚きを隠せなかった・・


確かに、如何に心霊現象に詳しくとも、霊と交信するくらいの度胸のある人はそうはいない・・


ゴーストバスター部では日常茶飯事なのだが、普通の人にとっては、とんでも無い事なのだ。


「沙希も話したの?


幽霊と・・?」



「うん・・ちょっとだけどね・・」


顔を見合わせる女子・・何だか、とんでもない体験をしたようだ・・

その原因が、実は、自分たちにある事に少し罪悪感を感じていた。



「沙希・・ごめん・・・」


「え?」


「私が、『あの木の所へ行けば!』って言ったばっかりに・・怖い思いをさせて・・・」


「ううん・・いいんだよ・・気にしてないよ」



「でも・・・」


「みんなが、私とタクム君をくっつけたい一心でしてくれたことなんだもん・・気にしてない」


まあ、半分は興味本位もあったのだろうけれど、一歩間違えばとんでもないことになりかねない。

現に、サトシ君達は、イタズラが過ぎて、拓夢君達が来なければ、どうなっていたのか分からないのだ。



「君たち、ちょっと、こっちへ来るんだ!」


源さんが、拓夢君や女子、サトシ君達を呼んでいる。


校長先生や学年主任の泊まる部屋へ、来るように言われた。



皆が、顔を見合わせる・・





先生たちの部屋・・

前に僕が、ゴーストバスター部の合宿の時に、追いやられた宿直室だ。食堂の隣の4畳半くらいの小さな畳の部屋。


そこに、校長先生と学年主任の先生、源さんの3人の前に、拓夢君達のグループ6人が並んで座らせられていた。


廊下では、他の生徒たちがはしゃいでいる声がしている。


そんな開放的な雰囲気とは裏腹に、この小部屋だけは、静まりかえっていた。



沙希ちゃんは未だ、震えが止まらず、涙目で毛布に包まっていた。


サトシ君達も、先ほどの幽霊を目撃したせいなのか、青白い顔だった。


拓夢君や二人の女子は、少しは平然としてはいたが、校長先生に呼び出されて、何を言われるのか心配で落ち着かない様子だった。



校長先生が、話し出す。


「皆さん、何故、ここに呼ばれたか分かりますか?」


サトシ君はうつむいている。


皆の顔を見回して、校長先生が続けた。



「この合宿所は、古い廃校になった校舎を改装して作られたものです。


歴史も古く、校舎だった当時は、生徒の数も多かったそうです。


この近くにも、村があったのですが、既に、その村もありません。


自然に満ち溢れた、環境の良い合宿所ですが・・・



先人たちの想いが詰まった場所でもある・・・



そういう場所では、我々は、外から来た客人なのです。


あなたは、自分の家に、他人が入り込み、勝手に荒らされたら、どういう気分ですか?」



女子の一人に聞いている。



「私の家で、勝手な事をされるのは・・嫌です」




「あなた方は、そうした行為をしてしまった・・・


山に対しても、この地に住んでいた人に対しても・・



幸い、事なきを得たのは、そこにいる拓夢君と沙希さんの純粋な心が、怒りを鎮めてくれた・・」


一同が、拓夢君と沙希ちゃんを見る・・


そんなに大したことはしていないのに・・・


そんな顔をする拓夢君と沙希ちゃん・・








「でも・・これは、本当に幸運な事なのです。


普通だったら、怪我人や死人が出てもおかしくない・・



皆さん・・



こうした、自然や見ず知らずの土地で、悪ふざけをしたり、


興味本位で荒らしたり、その地を汚すことは、絶対にしないでください。」



腕組みをして見守る源さんや学年主任たち・・


校長先生の言葉に、一同が反省をしている。



「それから・・・


今日起こった事は、他の生徒たちには話さないように!


パニックになる事が、一番、危険なのです。


興味本位で話したりすれば、また、同じ事をする生徒も出てきます。」



「分かったかな?」


学年主任の先生が、念を押す。


「はい・・」


重い空気の中で、返事をする生徒たち・・


二度と、同じ事はするまいと、皆が反省していた。



「よろしい・・では、皆さん、お風呂に入って、就寝の支度をしてください・・」



その言葉に、解放された一同だった。


でも、その足取りは重く、楽しい合宿を満喫しようという気分でも無かった。


各々、心霊体験や、怖い思いをしたのだから・・・





生徒たちを見送って、部屋に入る先生たち・・


「大丈夫ですかね・・あの子たち・・」


「だいぶ、反省していたみたいじゃ・・大丈夫じゃろう・・・」



「この合宿所では、色んな事が起こりますな・・・昔から・・・」


校長先生は、この合宿所で起こった事件を、思い返していた。

その、除霊は、先のゴーストバスター部の合宿にて徹底的に行われたけれど、未だに、事件を巻き起こしている合宿所・・・


この地に見えない因縁があるような、そんな気がしていたのだった・・・



「校長先生・・まあ、気分を変えて、一杯やりましょう!」


「そうですな・・」


「ワシのとっておきの、焼酎が、ここに!!」



そう言って、部屋の片隅に置いておいたはずの、瓶を出そうと思ったのだが・・・



「あれ?無い!無いぞ~!!!!

 誰じゃ~!!!ワシの取っておきの焼酎を持って行ったのは~!!!!」



その瓶は、先ほどの木を伐採した場所に、冷たくなっていた・・・

サトシ君が後で、こっそりと返そうと思っていたのだが・・


座敷童の事件があり、置き忘れてしまったのだった・・・



サトシ君・・災難です・・・




あ・・



源さんか・・・

























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