18.修羅の奥地で・・
修羅・・
「あなたは!!」
翔子ちゃんが叫んでいる・・
「あの時の・・・
悪霊・・?」
頭を抱えながら話をしていた伊吹丸・・・
「う・・・う・・・う・・・ イ・・イク・・シマ・・・」
もがき苦しんでいる伊吹丸。
「親方様!」
熊童子と虎熊童子が部屋に飛び込んでくる・・・
「あなた達は!」
「きさまは・・あの時の・・ 小娘!!」
合宿所での除霊を思い出した熊童子・・
「そうだ!ワシもこいつに!!」
虎熊童子も叫んでいる。
「う・・うううう・・・」
狂った狼のようなうめき声を上げている伊吹丸。
「そなたら・・この小娘に・・・」
片手で、頭を抑えながら翔子ちゃんをにらみつけている・・
「よくも・・ワシの可愛い子分を・・・」
「ワシを騙したな!!」
「お・・お師匠様・・」
「だまれ!人間は・・・人間はーーーー!!!!」
「うおーーーーーーー!」
伊吹丸の顔が、見る見る変容していく・・・
「我は・・・酒呑童子なる!!」
辺りの家具が、宙に舞っている・・
その場から脱出する翔子ちゃん・・
部屋を出ると・・
バキーーーーーー!!!
「う!!こ・・これは・・」
翔子ちゃんが恐怖におののく・・
今まで居た小屋が吹き飛んだ。
背丈が二倍ほどに膨れ上がった酒呑童子が姿を現す・・
小屋の破片と共に、林の方に飛ばされていく固まりを見つけた。
「あれは!」
林の方へと走り出す翔子ちゃん・・
「逃がさんぞ!」
熊童子と虎熊童子が立ちはだかる。
「く!」
行く手を遮られた翔子ちゃん・・
「そこをどきなさい!さもなければ!!!」
「ふ・・小娘が!」
「ハ!!!!!!」
翔子ちゃんが気合を入れる。
バン!!!!!!
熊童子の左手が吹き飛ぶ。
「ギャ!!」
虎熊童子がその様子に目を疑う・・
「何!?こやつ!!」
今まで翔子ちゃんのいた場所を見たが、そこには姿が無い。
「どこだ!」
虎熊童子の後ろに立っている翔子ちゃん・・
バス!
手刀を一撃喰らわす。
地面に顔を打ち付ける熊虎童子・・土煙があがる。
その様子に構わずに林へ向かう翔子ちゃん。
「逃がすか!!」
立ち上がりながら叫ぶ虎熊童子。
片腕を抑えている熊童子・・
ガサガサ・・・
林を駆け巡る翔子ちゃん・・
バシ! バシ!
草を切り裂く虎熊童子の攻撃。
それを避けながら林を走っていく・・
「あった!!」
草むらの中に落ちている何かを拾い上げる翔子ちゃん・・・・
バキーーーーン!!!
目の前の木が急に吹き飛んだ。
今までの攻撃と桁違いの破壊力・・
「小娘ーーー!!!」
後ろを向くと、酒呑童子が恐ろしい形相で迫っていた。
バシュ! バシュ!! バシュ!!
目の前の木や草が一瞬に消しさられていく・・
酒呑童子の攻撃を交わしながら、逃げていく翔子ちゃん。
林が開けて、野原へと出た・・もう隠れる場所が無い・・
「もう、逃げ場はないぞ!」
先回りをしていた熊童子達に立ちはだかれる。
野原の真ん中で立ち止まる翔子ちゃん・・
ハアハアと息が荒い・・・
「ふふふ・・あきらめたか・・」
酒呑童子が翔子ちゃんを追い詰めて勝ち誇る・・
「お師匠様・・私は、あなたを憎めません!」
翔子ちゃんが酒呑童子に向かって叫ぶ。
バス! バス!! バス!!
酒呑童子の手刀が翔子ちゃんの脇を掠める(かすめる)。
「ワシは、きさまの師匠でも無い!」
「いえ・・私に・・色んな話をしてくれました・・」
「イクシマさん・・ヤスマサ様・・
そして・・和泉の君様・・
みんな、あなたの仲間でした!!」
「ワシは裏切られたのだ!!仲間にも!!人間にも!!」
バシ!!!
翔子ちゃんの頬を手刀がかすねる。
頬から血を流す・・
「戦え!ワシと戦って!無様な負け方をするがよい!!」
「いえ・・・私は お師匠様と戦えません!!」
「小娘め!まだ言うか!!」
「これを見て!!」
手を差し出す翔子ちゃん。
その手には、ヤスマサの笛が握り締められていた・・・
「そ・・それは・・・」
「イクシマさんの想い!!
ヤスマサ様だって、和泉の君様だって・・・
あなたに・・戻ってきて欲しかった!!
平和な・・あの時に!!
戻って欲しかった!!
あなたに地獄に落ちてほしくないって
イクシマさんは願っているわ!!」
「ううう・・・」
酒呑童子の動きがおかしい・・・
「親方様!こんな小娘の言うことなんか!!」
童子達が、元に戻るように促す・・
よろめいている酒呑童子・・
「イ クシ マ・・・」
「和泉の・・ 君・・・」
宙に手をかざす・・
酒呑童子に近づく翔子ちゃん・・・
「戻ろう!あなたは・・やさしい・・伊吹丸様に・・戻れるよ!!」
翔子ちゃんを見る酒呑童子・・
少しずつ背が縮んでいる。
顔も、元の伊吹丸に戻りつつある・・・
翔子ちゃんが手を差し出す・・
一瞬・・イクシマの姿に見えた・・
「イ・・ク・・シ・・マ・・」
翔子ちゃんに手を伸ばす酒呑童子・・
伊吹丸の姿になっていた。
「親方様!!人間を信じるな!!我々はそうやって騙されて殺されてきたんだ!!」
「イクシマ様を殺したのは、憎っくきヤスマサと、その血だ!!」
童子達が、叫んでいる・・
「うう・・!!」
伸ばした手で、急に翔子ちゃんを掴む伊吹丸・・
「きゃーーー!」
逃げようとしても、その力には叶わなかった・・
伊吹丸に引き寄せられ、体ごと持ち上げられる。
翔子ちゃんの首を絞めている伊吹丸・・・
半分、酒呑童子の悪霊の顔になっている・・
「伊吹
丸様・・・
だめ
だよ!
ここ
で、
殺生
を犯
しては!!」
「うるさい!!裏切り者が!!」
翔子ちゃんの気が遠くなっていく・・・
涙を流す翔子ちゃん・・
「お
師
匠
様・・」
ガクっとなる翔子ちゃん・・
涙が伊吹丸の手に落ちている・・
カッと目を見開く伊吹丸・・
翔子ちゃんとの修行の時の映像が頭に浮かぶ・・
二人で過ごした修行の時間・・
滝に打たれる翔子ちゃんを暖かく見守る・・
笛の音に酔いしれる翔子ちゃん
昔の話を聞かせている伊吹丸
それを楽しそうに聞いている翔子ちゃん・・
一緒に山へ登り、遠くの山々を眺める二人・・
「お師匠様!できました!」
翔子ちゃんの笑い顔・・
「やったな!!」
嬉しそうに褒める伊吹丸・・・
鬼ごっこをする・・
楽しそうに、追いかけてくる翔子ちゃん・・
気がつくと・・
そこに、酒呑童子の姿は無く・・・
伊吹丸の姿があった・・
そして・・
手には・・
力尽きた
翔子ちゃんの亡骸があった・・・
我に返る伊吹丸・・
「ウワーーーーー!!!!!」
翔子ちゃんを抱きしめる伊吹丸・・
「親方様ーーー!」
辺りが光に包まれる・・
熊童子、虎熊童子がその光に巻き込まれる・・
半径四方十里が、光に包まれ、
次の瞬間・・
全てが消え去っていた・・
生い茂っていた木々は無くなり、荒れ野が広がっている。
童子達の姿も消し飛んでいた・・
「ショウコーーーーーー!!!」
翔子ちゃんの着ていた服だけが残る
修羅の奥地に、伊吹丸の声が響き渡った・・
霊界
翔子ちゃんの体が、
僕のお母さんと翔子ちゃんのお父さんの所へ、戻っている・・
裸の体に、毛布を一枚かぶせた状態・・
「う・・ん・・」
息を吹き返す翔子ちゃん・・
「翔子!!」
「翔子ちゃん・・」
「ここは?」
目覚めた翔子ちゃんが、お母さんに聞いている。
「元の場所よ!!」
お花畑が広がっている。
「私・・今まで・・・」
ハっと気づく翔子ちゃん。
「伊吹丸様は・・?」
記憶を取り戻して、彼の姿を探す・・
「彼は・・あなたを、殺してしまった・・」
「え?」
「修羅で、永遠に戦い続けなければならない・・酒呑童子として・・」
お父さんがポツリと言った・・
「そんな・・・」
「私のせいで・・・」
「あのお方の人生を狂わせてしまった・・!」
「私が、あそこへ行かなければ・・やさしい伊吹丸様でいられたのに・・」
「そうじゃない・・自分を責めないで!翔子ちゃん!!」
「いえ・・・」
上空を見上げて、手を合わせる・・
「南無・・十一面観音様!!」
「私は・・あの人に殺されていません・・自分で死んだの!!」
「恨んでもいません!!」
「あの人を・・救って下さい!!あの人を!!!」
泣き叫んでいる翔子ちゃん・・
「翔子・・・」
虚しく翔子ちゃんの声が響いていた・・・




