17.砦で見たものは・・・
砦へたどり着いた伊吹丸。
兵士たちの屍が目に入る・・・・
「ここも・・落ちたのか・・・」
火が廻り始めている。
「帝~!!」
「イクシマー!!」
「何処に居るのじゃ!」
必死でイクシマ達を探す伊吹丸。
砦の見張り台のある階にたどり着いたとき・・・
「伊吹様・・」
イクシマの声がする。
見ると、帝の亡骸を抱えているイクシマ。
放心状態である。
「イクシマ・・」
その顔に帝の血を浴びて赤い顔になっているイクシマ。
「帝が・・お亡くなりに・・なりました・・」
変り果てた姿の帝。イクシマに抱かれている。
「帝~!!!!」
その亡骸に抱きつく伊吹丸。
「帝・・
帝・・・・
帝ーーー!!」
「伊吹様・・・」
その場で、悲しみに暮れ、泣き続ける二人であった・・
砦にたどり着いたヤスマサと和泉の君。
「ここか・・」
「兄上!」
馬を降りるヤスマサ。
砦に、火の手が上がっている・・・
「和泉・・お前はここで待っておれ!」
「はい・・」
「兄上!」
「如何した?」
「伊吹丸様を・・・」
「うむ!かならず、連れ戻してくる!」
そう言い残して、火が廻り始めている砦へと入っていくヤスマサ・・
「伊吹丸!!」
ヤスマサの声がする。
声のする方へ振り向く伊吹丸。
下階から階段を登って来るヤスマサ・・
「ヤスマサ・・様・・」
イクシマがつぶやく。
「伊吹丸・・イクシマ・・・無事だったか!」
「無事?・・帝は崩御なされました・・・」
伊吹丸が恨みを込めて答える。
「帝が・・・」
イクシマの抱く帝の亡骸を見るヤスマサ。
「これが・・人間のすることですか?・・人を騙し、人を殺める事を平気でやってのける・・・」
伊吹丸がヤスマサに問いただす。
「すまぬ・・ワシの力が足りなかったのじゃ!」
「私は・・力無くとも・・幼き帝に・・茨木の君に・・仕えましたぞ・・!
力のあるあなた方は・・弱い人達に・・よってたかって・・・」
「う・・」
「強い者が弱い者を助ける・・それが人間なのではないのですか?
全うな・・幸せな生活を夢見ていただけなのに・・・
なぜ・・帝を助けて・・よき政を行うことに精をだせなかったのですか・・
自分たちの勢力争いの道具に・・幼い帝を死に追いやるなど・・
ヤスマサ様・・これが・・人間のする事ですか!?」
イクシマの抱きかかえる帝の骸を指差して、ヤスマサに叫ぶ伊吹丸。
砦全体に火が回り、猛火に包まれている・・
そろそろ逃げ出さないと、皆が危ない状態だ・・
「伊吹丸!お前とは・・争いとうない!!」
剣を地に差すヤスマサ・・
「今更!何を言うのですか!!
戦をしたくないと・・・帝も・・申しておられました・・・・
関白とも手を結ぶ機会はあったはずなのに、
なぜ、止めなかったのですか!!」
「すまぬ・・」
「亡くなられた帝も・・・どれほど悔しい思いをされたことか・・・
茨木の君も・・」
見張り台のあるこの階も、天井や柱に火が廻ってきている・・
早く逃げないと、危ない・・必死で説得するヤスマサ・・
「伊吹丸!
悔いても悔やみきれない!!
謝っても許してはもらえぬだろう・・
でも、もう終わったのじゃ!!
帝も亡くなられ、、お前達が戦うこともない!!
ワシも、もう都に戻りとうない・・
帝や、茨木の君様の居ない都など・・見とうもない・・
関白の行う政に力も貸さぬ!
伊吹丸!イクシマ!
越後に戻って、仲良く暮らそう!
我らの元へ・・戻ってまいれ!!」
和泉も待っておる!
我ら、暇を頂きたいと、大納言様にお伝えした!」
「和泉の君・・・」
一歩足を出す伊吹丸・・
ヒュン!!
一本の矢が伊吹丸の肩に刺さる・・
「な・・・」
その光景に驚く伊吹丸とヤスマサ・・
忍び込んでいた兵が放った矢が当たったのだった。
キッとにらんで、兵の息の根を止める伊吹丸・・
バッタリと倒れる兵・・
刺さった矢を抜きながら
ヤスマサを睨む(にらむ)伊吹丸・・・
「おのれーーーー!!騙しおったなーーーー!!」
「違う!これは・・・」
「ヤスマサーーーー!!」
妖刀を振りかざす伊吹丸・・
その時、イクシマが飛び込んでくる・・・
「おやめ下さい!!」
振り下ろした刃がイクシマの肩から背中を一直線に斬る・・
「う!!!」
イクシマの返り血を浴びる伊吹丸・・
ヤスマサの前に立ちはだかり、伊吹丸の一撃を受けたイクシマ。
「ヤスマサ様・・」
かすかに、微笑むイクシマ・・
「イクシマ!」
伊吹丸の方を向くイクシマ・・
「あなた方が・・
争ってはいけません
お願いです・・」
イクシマが宙を舞い、伊吹丸の方へと身をよせる。
イクシマを抱き寄せる伊吹丸・・
「伊 吹 様・・」
笑みを浮かべて、息絶える、イクシマ・・
「あ・・ あ・・・ あああ
ワシは・・イクシマを・・・殺めてしまった!!
ワシは・・ ワシは~ーーーーー!
イクシマーーーー!!」
イクシマの亡骸をかかえて、叫ぶ伊吹丸。
伊吹丸の着物に火がついている・・・
「伊吹丸!!」
安否を気遣うヤスマサ・・
「ぐあーーーーーーーーーーー!」
炎に包まれながら
見る見る姿と形相が変わっていく・・・
「わ・・
我
は・・
酒
呑
童
子
なる!!」
「酒呑童子?!」
驚きを隠せないヤスマサが思わず叫ぶ。
「うおーーーーーーーーーーー!」
この世の恨みと怒りを一心に受けて、酒呑童子が唸り声を上げる。
豪火と共に、崩れ落ちる砦から、一筋の光の固まりが飛び出し、北西の方向へと飛び去った・・・
火災の渦巻く中、燃え落ちる屋根や梁を交わしながら、ヤスマサが姿を現す。
豪火の中、何とか助かったようだ。
和泉の君が駆け寄り、ヤスマサに聞く。
「皆は・・無事なのでしょうか・・?」
「イクシマが・・・死んだ・・」
「イクシマの君が・・・」
ガックリとひざを落とす和泉の君。
「伊吹丸様は?・・・」
「あれは・・
もう
人間では・・
ない・・・」
酒呑童子の飛び去った方角を見ながら・・・
「すまん・・・・」
ヤスマサがぽつりと言った・・・
この後、酒呑童子の術によって、四人の童子が復活し、
都は酒呑童子と四天王が荒れ狂う「もののけ」の巣となり、
ヤスマサと望月の君による長きに渡る妖怪退治の幕を開ける。
そして、その因縁は、ヒロシと美奈子の生きる現代にまで引き継がれていった・・。




