15.砦へ!
山城の門をこじあけ、山城を制圧した頼光の軍勢。
倒れている無数の屍。
山城の中を捜索しても、帝の姿が見当たらない・・
「親方様!帝のお姿が見受けられません!」
「うむ・・ここは時間稼ぎだったか・・」
逃げたと悟った頼光。
「ここから、近い拠点になりそうな所は?」
「ここから10里程行った次の山の中腹に砦があります!」
「そこだな・・・」
ニヤリと笑みを浮かべる頼光・・・
「20人ばかり、ワシに続け!
別部隊で騎馬隊と1部隊を砦へ向かわせろ!
抵抗の有無にかかわらず、皆殺しにせよ!」
「はは!」
山城の裏門より、馬にまたがり、砦を目指す頼光。
砦へ向かう帝の一行・・
女・子供による足では、なかなか思うように進まない。
日は西に傾き、辺りが暗くなり始めていた。
日が暮れるまで何とか砦まで何とかたどり着きたかった。
砦まで、あと半分くらいなのだろうか?山道を登るのは皆にきつかった・・・
頼光が馬にまたがり、兵を従えて追いついてきた。
「逃がさぬぞ!帝・・!いや・・先の帝殿!」
「くそ!頼光め!」
伊吹丸が叫ぶ。
わらわらと兵に取り囲まれる伊吹丸。
「イクシマ!皆を連れて砦へ急げ!」
「はい!」
「伊吹丸!」
心配そうな帝・・
「帝様! ここでお別れです・・
命があったら、また、お会いしましょう!」
「伊吹丸!死ぬでないぞ!」
茨木の君が伊吹丸に叫ぶ。
「はい!」
道から外れ、林へと逃げ込むイクシマ達・・
数十人の兵士達を相手に、戦う伊吹丸を横目に、頼光が帝達の後を追う。
「ふふ・・お前は、そやつらと戦っておれ!」
「く!」
容赦なく斬りつけてくる兵士・・
早馬を走らせ、高野山を目指すヤスマサ・・
その後ろにしっかりとつかまる和泉の君・・
「伊吹丸!無事で居ろよ!」
「伊吹丸様・・!」
遠く、山城の燃える煙が立ち上っている・・・
馬を止めて、眺める二人・・
「あれは!」
「ナカヒラ様の山城です!」
「帝が居りし・・山城が・・落ちたのか・・・」
「急ぎましょう!」
熊笹の生い茂る林の中を逃げる帝。
草を分けながら、その後を追う頼光。
ザザーーーー!!!!!!
木の上から、稚児が飛び降りてくる。
槍を持った4人の稚児。
「ここから先へは、行かせぬ!」
「小僧がーーーー!」
剣を降りまわす頼光。
その剣をすり抜けながら、槍を突く稚児。
四方から槍を突かれながら、思わず下がる頼光。
一人の稚児に、剣を振るう。
跳び下がって、槍を構える。
隣の稚児が槍を突いてくる。
「こしゃくな・・!」
頼光が脇差を抜いて、一人の稚児に投げつける。
「ぐ!」
「虎王丸!」
脇差が腹に刺さった。
その光景にたじろぐ稚児達・・
一瞬の隙をついて、剣を振る頼光。
二人の稚児が、その剣の餌食になる。
振り回されて、飛ばされる・・
「聖王丸! 熊野丸!!」
「兄上!お逃げください!!」
深手を負っている聖王丸が叫ぶ・・熊野丸は息絶えていた・・
「く!!」
逃げずに一人、頼光と向かい合う鉦王丸・・
「いい面構えだ・・もう10年もすれば、よい武将になったものをな・・・」
「よくも、父上を!」
槍を構える鉦王丸。
「安心せよ!他の稚児同様・・直ぐに両親の元へ送ってやる!」
「ヤ!」
その言葉に反応し、槍を突く鉦王丸。
ギーン!!
その槍を払いのけ・・
ザシュ!!
一刀でしとめる頼光。
鉦王丸の体が宙を舞う・・・・
その骸を振り返ることもなく、帝の後を追う頼光。
イクシマと帝、茨木の君が草を分けながら逃げている。
「ナカヒラ殿の稚児がやられたようじゃ・・・」
目頭を押さえる茨木の君・・
その様子を見て、イクシマが決心した。
「茨木の君様・・ここは私めにお任せください!」
「イクシマ・・ 頼むぞ!」
立ち止まって、後ろを振り返るイクシマ。
頼光が草をかき分けて迫っている。
裾から、剣の型をした「敷紙」を撒く。
「トウ!」
印を結ぶと、頼光めがけて「敷紙」が飛んで行く。
頼光に突き刺さる・・が、効き目が無い。
「敷紙が効かない?」
「ふふふ・・ワシの体には、魔除けがしてある・・妖術は利かん!」
脇差を抜き、構えるイクシマ。
その様子を見ていた茨木の君・・
「帝!」
茨木の君が叫ぶ。
「母上!如何しました?!」
立ち止まり、振り向く茨木の君・・
頼光との対決を決める。
「これから、何があっても、後ろを振り向いてはいけませぬ!」
「母上!!」
「母は、そなたと今生を生き・・、幸せでした・・・
帝は、生き延びて、平和な世を築かねばなりませぬ・・・
生き延びるのです!そなたは・・皆の希望です!」
「はい!!」
涙を流して草むらへ走っていく帝。
脇差を抜いてイクシマと対峙する頼光の方へ向かう茨木の君。
「茨木の君様!」
「イクシマ・・力を合わせましょうぞ!」
「はい!」
「ほう・・・姫君二人が相手とは・・『両手に花』といったところですかな・・」
二人が間合いを計りながら、頼光の左右へと回り込む。
剣を構え、双方に睨みをきかせる頼光。
山城へたどり着いたヤスマサと和泉の君。
頼光の軍勢が入り込んで財宝を運び出している。
「頼光様はどちらへ!」
ヤスマサが兵士に訪ねる。
「頼光様は、先の帝を追って、砦へ向かわれた!」
「砦?」
「この道を山へ向かって行けば、砦だ」
山道を指さす兵士。
「我々の仲間が先に向かっているがな・・・手柄は、もう無いぞ!」
「兄上!」
「うむ・・行こう!」
砦へと馬を走らせる二人。
キーン!
イクシマと茨木の君に挟まれながら剣を振るう頼光。
「ふふ・・ もう少し、楽しませて頂こう!」
「何を!」
短刀を構えて、茨木の君が叫ぶ。
「茨木の君様!落ち着いて!!」
冷静を促すイクシマ。
「そうじゃな・・!」
剣を構える頼光。
「冥土の土産に聞かせてやろう。そなた達の動き・・全て知っておった事を!」
「知っておった・・じゃと?」
「大納言殿に仕えし『望月の君』は、ワシに内通しておったのじゃ!
そなたらの動きはつつぬけだったのじゃ!」
「望月の君様が?」
驚きを隠せないイクシマ。
「あの者・・ヤスマサに掛かりし、我が追随を緩めんがために、
ワシの所へ、頼みに来おったじゃよ・・・
もともと、都での「もののけ騒ぎ」も、東方征伐にヤスマサの名をあげるための我らの策だった。
そうとも知らずに、向こうから折れてくるとは、好都合も良いところじゃった。
麗しきかな・・惚れた男を守るためには、
その身も、上司も・・
更には、帝をも犠牲にするとは・・・
女子も怖い生き物よのう・・・」
「ヤスマサ様の・・ために・・・望月の君様が・・・」
「噂では、身ごもって高野山にて密かに子を産んだと聞く。」
「あの時・・
ヤスマサ様が東方へ行かれる時・・
望月様の姿が無かったのは・・・」
イクシマが思い出している。
「誰の子かは知らんがな・・ヤスマサの子なのかも知れぬがのう・・
その間、大納言の密偵の動きも封じ込められたのよ。一石二鳥というところか!」
「おのれ・・!
何処まで卑劣な!」
茨木の君が睨む。
「全ては、関白様の為!この国の政を思うての事でござる!」
「許せぬ!!女子の男を想う心までも利用するとは!!」
茨木の君が怒りを露わにする。
「ふふ・・ どうなさいます?ワシを倒せるとでも思うておいでか?」
「きさまだけは・・ 刺し違えてでも・・ 息の根を止める!!」
「どうですかな・・」
頼光に向けて、二人が短刀を構える。
頼光も剣を構え、目を半眼に開いて、出方を窺う・・
「は!」
イクシマが頼光の顔をめがけて「念」を放つ。
バス!
妖術が効かぬまでも、頭が一瞬、くらっとなる頼光。
「や!」
イクシマが短刀を振るう。
キーン!
それを受ける頼光。
力でねじ伏せる。
「非力よのう!」
「ううう!」
押されているイクシマ。
剣を力一杯イクシマへ押し付ける。
「きゃ!」
短刀がはじかれ、地面に体を打ち付けられるイクシマ・・
「ハィヤ!!」
茨木の君が斬りかかる。
パシッ
剣筋を見切って、刃を交わし、茨木の君の腕を掴む頼光。
「く!」
「ははは!女子など・・ワシの敵でもないわ!!」
掴んだ腕を無理やり、放り投げると、茨木の君が宙に舞う・・
剣を構え直す頼光。次の瞬間、
ザス!
「あーーーーッ」
背中から切り裂かれる茨木の君。
その場に倒れる。
「茨木の君様!!」
イクシマが叫ぶ。
「ふ・・たわいも無い・・帝のお命は頂戴するぞ!」
そのまま、帝の方へと追いかけていく頼光。
横たわっている茨木の君・・
「茨木の君様!!」
イクシマが駆けつける。
「イクシマ・・・」
茨木の君を介抱するイクシマ。
「茨木の君様・・お気を確かに!
今、回復の術を!」
懐から敷紙を取り出して茨木の君にあてがおうとするイクシマ。
だが、それを拒む茨木の君。
「我は良い・・・帝を・・帝を頼みます・・」
「茨木の君様!!」
「イクシマ・・帝を・・!」
そのまま、力尽きる茨木の君・・
「茨木の君様・・」
目をつむり、帝の方へと急ぐイクシマ・・・
ガサガサ
熊笹の生い茂る草原・・その中を走る帝。
追いついた頼光。耳と目をこらして音の鳴るほうを探る。
ガサ ガサ
草の根をかき分けて進む音が聞こえる。
「こっちか!」
頼光が音の鳴る方へと突き進む。
走りこんできたイクシマ。
「帝!!そっちは危ない!!」
「ふっ・・小娘か・・」
イクシマをちらっと見て、剣を構えて、振りかざす頼光。
「そこだ!!」
先ほど音の鳴った場所へと、剣を突き刺す。
「う!」
頼光の剣が帝の背中を貫いた・・
「帝!!」
叫ぶイクシマ・・
「やったか?」
ニヤッと笑う頼光。
バサバサバサ!!
頼光の周りを無数の「敷紙」が舞う。
「妖術か!!」
敷紙にもまれる頼光。剣で薙ぎ払う。
その隙に、イクシマが帝の元へと走りこむ。
帝を抱きかかえる。
「小娘!」
目を見開き、剣を上段に構え、切りつけようとする頼光。
イクシマの手から、玉が投げられた。
その玉が宙で光り輝く。
パーーーーーーーー!
「クツ・・目くらましか!!」
目を手で覆っている頼光。
帝を抱いて、その場を逃げるイクシマ。
光が止むと、そこには帝とイクシマの姿はなかった。
「逃がしたか・・だが・・手応えは・・あった・・」
つぶやく頼光。
ようやく敵兵を鎮圧した伊吹丸。
帝の逃げていった方へとやってくる。
息の絶えた稚児が横たわっている。
「虎王丸!」
見渡すと4人の子供達が無残にも切り刻まれて冷たくなっていた。
「何と・・酷い(むごい)事を・・!」
気が焦る伊吹丸。帝や茨木の君達の安否が気にかかる。
草をわけながら突き進むと・・
「あれは・・!」
草むらに倒れている茨木の君の姿が目に入った・・
「茨木の君!」
瀕死の茨木の君を抱き寄せる伊吹丸。
「伊吹丸か・・・」
「すみませぬ・・遅くなりました・・」
「私はよい・・帝をお守りするのじゃ!イクシマと一緒じゃ・・」
「御意!」
「伊吹丸・・」
「はい・・」
「そなた・・ 我に仕えし、そなたの忠誠・・ 誠に うれしかったぞ・・」
「もったいのうございます・・」
苦しそうになって、悲しい顔になっている茨木の君・・
「最期の頼みじゃ・・・もう一度、『時子』と呼んでたもう・・」
「時 子 様・・」
笑みを浮かべる茨木の君。
「これで・・思い残すことは無い・・・
そなたの刃で、止め(とどめを)を・・刺してたもう・・・
そなたと・・過ごし・・日々・・楽しかったぞ・・・
帝を・・頼み・・ましたぞ・・」
その指が、伊吹丸の顔をなぞる・・
「や・・
さ・・
ぶ・・
ろう
さま・・」
かすかに微笑む茨木の君・・
伊吹丸は、目をつぶって、胸元に刃を向けた。
「ごめん!!」
グブッ
「う・・」
茨木の君の胸を貫く妖刀・・
力尽き、伊吹丸の腕の中で果てる茨木の君・・
頬から涙が落ちる・・
美しく流れるような姿・・
茨木の君の亡骸を抱き続ける伊吹丸。
「時子様・・」




