13.勅命
頼光の軍勢が、三河を下り、駿府へと向かう。
その間に、東方征伐に加わる地方豪族を合わせると、10万以上の軍勢に膨れ上がっていた。
一方、都に残る護衛は、近衛の卜部氏率いる5千の兵のみとなっていた。
手薄となった都。
熊野のナカヒラの軍勢は2万・・
更に、西方の豪族は、ナカヒラの挙兵にあわせて集結するという密約をしていた。
東方の軍勢と力を合わせれば、頼光の10万の軍勢を挟み撃ちにできる。
頼光亡き後は、一気に関白の勢力を一掃できる。
まさに千歳一遇のチャンスであった。
この作戦こそ、伊吹丸が熊野詣出の際に、ナカヒラに語った策略の全容なのだ。
ナカヒラは熊野にて、帝の勅命を待ちわびていた。
帝の命令ひとつで都へ軍勢を送れる体制を整えていたのだ。
「帝!ご決断を!」
茨木の君が、帝にせまる・・・
「・・・・・」
黙っている帝。
「今のままでは、関白の思い通り・・ますます悪風漂う世の中となりましょう!」
「母上・・どうしても、戦をせねばなるまいか・・?」
「良い国を作るためには、犠牲も必要です!」
「犠牲の上に建つ、良い国とは・・何ぞや・・」
辺りを見回す帝。
皆、無言のままである。
「朕は、戦はしとうない!」
「帝!」
「話し合いで、何とかならぬのか?」
「話してわかる相手ならば、今まで、やっております。
それよりも、何度、帝のお命を狙われた事か・・」
「それは・・・」
「このままでは、いつ帝のお命が無くなるかわかりませぬ!」
「やられる前に、やれというのか・・・」
「御意!」
「・・・イクシマ・・・」
「帝・・」
「そなたは・・どう考える?」
「私めは・・政の事は良く分かりませぬ・・・
分かりませぬが・・・
帝が、どんな国を作りたいか・・それが一番・・肝心かと思いまする・・・」
「どんな国・・」
「さようでございます。その国づくりに賛同される方々が、帝に力を貸されるでしょう・・」
「朕は・・
戦いのない、平和な、皆が笑って暮らせる国を作りたい!
そのために・・・
今の・・
関白の業事は・・・
朕の考えとは真っ向から違う!
良き国を作るに・・
悪しき者を成敗せねばならぬ!」
「帝!」
茨木の君が、歓喜の声を上げる。
「関白を成敗せよ!帝の勅命なる!!」
「聞いたか・・帝のお言葉・・ 国の道を正すために、立ち上がるのじゃ!」
「おーーーーーーー!」
・
・
・
・
・
小屋の中で話を聞いている祥子ちゃん。
「帝が立ち上がったのですね!」
翔子ちゃんが歓喜にわく。
「うむ・・あの時の帝の言葉を聞いて、この国も生まれ変わるのだと思うたのだ!」
「凄いです!幼くして国の行く末を考えるなんて!!」
「皆、我慢しておったのじゃ・・
関白の悪政に苦しんでおった!」
「これで、全てが変わるのですね!」
「うむ・・皆がそう思うておったのじゃ・・・
じゃが・・・」
「え?」
・
・
・
・
・
東方へと向かう頼光の軍勢・・
頼光の陣営に、早馬にて都から知らせが来る。
「頼光様!都でナカヒラ殿が挙兵しました!」
「何?!」
「関白様の邸宅を襲っているよしにございます」
「誰の命じゃ!」
「帝の勅命との事です!」
「く!!我らの留守に・・挙兵とは・・・
ナカヒラ・・・やってくれたな・・・・
よくも! よくも! よくも!!!」
地団駄を踏む頼光。だが・・・
「よくも、やってくれた!!!ナカヒラ!!
我らの術中に、こうも上手く、はまってくるとは・・・!!」
ニヤリと笑う頼光。
「この日を待ちわびたぞ!
皆の者!都へ戻るぞ!!!」
「御意!」
ここは、近江・・都から半日もしない場所である。
影武者の率いる軍勢を東方へ向かわせ、頼光はこの地に潜んでいたのだった・・
軍勢の主力の大半は、残していた・・・
「敵は、都にあり!いざ!出陣じゃ!!!!」
「おーーーーーー!」
小田原付近で陣を敷いているヤスマサ。
敵の軍と距離をおいて、にらみ合いが続いていた。
「ヤスマサ様!」
伝令の兵士が駆けつける。
「何用じゃ?」
「敵の陣営が、降伏をしたいと申しております」
「何?それは、誠か??」
「はい!」
それまで、必死に抵抗していた敵が、急に降伏をしてくるのも、変だと思ったヤスマサ・・・
さらに、伝令が走って来る・・
「ヤスマサ様!都で内乱が起こっております!」
「何!!?」
「熊野のナカヒラ様が挙兵し、帝に加勢しているそうです!」
「関白様と交戦しておるのか?」
「御意!」
胸騒ぎがしたヤスマサ・・
「敵の大将を呼べ!直ちに、降伏に応ずると伝えよ!
我が軍勢は、即刻、都に戻りて、大納言様をお守りするのだ!」
「ははーーー!」
ヤスマサの軍は、降伏を受け入れ、都へと引き返した。
命令を伝えたヤスマサは単独で早馬に乗り、都へ急ぐことにした。
関白の私邸を攻めていたナカヒラ・・
「親方様!」
邸内を探査していた部下が戻ってくる。
「どうした?」
「関白の邸内、もぬけの空となっております!」
「関白はどうなったのじゃ?!」
「全く、姿がありませぬ!」
更に伝令が到着する。
「親方様!大変です!!」
「どうした!?」
「頼光の軍勢10万が、近江より引き返してきております!!」
「何?!
東方へ向かったのではないのか?」
「主力は近江にて潜んでいたと思われます!!」
「おのれ・・・・頼光!謀ったな!!!
帝の命が危ない!宮中へ遣いをまわすのじゃ!」
「わーーーーーーーー」
遠くで大軍勢の雄たけびがあがる・・・
「親方様!頼光の軍勢が攻めてまいりました!
五条大橋にて我が軍と応戦中です!」
「く!!こんなに早く戻ってくるとは・・・」
頼光の策略により、総崩れとなったナカヒラ軍は、都を逃げ、熊野へと引き返した。
帝は勅旨として全国の地方豪族へ挙兵するように促したが、頼光の計らいで全て寝返られ、
帝の味方となる軍勢はナカヒラのみとなった・・・
関白は、この機に新たな帝を誕生させ、先の帝を討つ勅命を出させた。
情勢は、一気に関白の優勢となり、中立を決めていた大納言も関白側へと傾く。
已む無く、都を落ちる幼い帝と茨木の君・・・
「ナカヒラ殿!」
「帝・・・我らと一緒に、熊野の方へお逃げ下さい!
生き延びれば、必ずや好機はあります!」
ナカヒラの軍勢と共に熊野へと落ちる帝・・
・
・
・
・
「そんな・・・全て、関白の陰謀だったなんて・・・」
翔子ちゃんは驚きを隠せなかった。
「我らは、まんまと、術中にはまったのじゃ・・」
「他の豪族達は、どうしたのですか?」
「皆・・どちらが優勢かを見極めようとしておったのじゃ・・・
この当時は、勝つか負けるかで、生死が決まった・・
どちらに付くのか、決めてはいても、いざ、その時になれば優位な方へ付く・・」
「殆どが関白側に付いたのですか?」
「さよう・・・」
「でも・・都を落ちても・・また建て直せば・・」
「一縷の望みを託して、皆、熊野へ身を寄せたのじゃ・・」
「翔子・・・」
「どうしたのですか?お師匠様!」
「何だか、頭が痛とうなってきた・・」
頭を手で押さえる伊吹丸・・・
修行の疲れでも出たのだろうか・・・
「無理をなさらないで下さい・・」
「うむ・・」
「ここからの話は・・
ワシも思い出しとうない・・・
遠い記憶の奥底に仕舞い込んでいた・・・
自分でも、何があったのか良く覚えておらんのじゃ・・」
「お師匠様・・・」
「じゃが・・・
その記憶の糸を手繰り寄せ・・
真実を話さねばならぬ・・・
話さねばなるまい・・
そして、思い出そう・・
あの後の出来事を・・・」




