七.初陣
「うっ…」
苦しそうな表情で固まってしまった彼女・・
何が起きたのだろう?
「どうしたの?」
彼女に訊ねるが・・・
「うう・・・」
声も、まともに出せない・・
金縛りにでもあったように動かなくなってしまった・・
金縛り??
そこに見えない何かが居るのだろうか?
何らかの「霊」が彼女の動きを止めているのか?
僕の手に握りしめられていた「霊感ケータイ」
この携帯の画面を見れば、彼女を抑えつけている「何か」が見えるのだろうか??
恐る恐る霊感ケータイを、彼女に向けてみる・・
カメラモードの携帯の画面を覗く。
なんと!
彼女の背後から黒い影がおぶさっているではないか!
彼女よりも一回りも二回りも大きな黒い影が、彼女を後ろから押さえつけて動きを封じている。
彼女が動けない原因は、この黒い影?
何も出来ずに、立ちすくむだけの彼女・・
「霊感少女」として、数々の除霊をしているというけれど、手も足も出ないのか?
黒い影の指先はとがっていて、彼女の肌をなでるように触っている。
彼女は、蛇ににらまれたカエルのよう・・
彼女の体中から油汗がにじみ出ているのが分かった。
その黒い影の爪が、彼女の頬を掠める(かすめる)・・
かすねた頬から血がにじみ出てくる・・・
ピンチだ!
何とかしなければ!!
でも何を???
僕には霊感も霊能力も何も無いのだ・・
ただ単にこの携帯電話の画面を眺めているだけなのか?
「南無阿弥陀仏!」
思わず口ずさんでいた・・
すると、両者とも不意を付かれた様子でハっとなって、こちらを見て固まっている。
効くんですか?
お経って・・・
いち早く振り向いた彼女は、何やら呪文を唱えている。
指を二本立てて黒い影に向けた。
彼女の姿にひるんだ黒い影は、それ以上近づこうとしない・・・
そして、数秒後にその場を去っていった・・
何やら彼女にメッセージを残して・・・
彼女はがくっと腰が抜けたようにその場に座り込んだ。
はあ、はあと息も荒くなっている。
駆け寄る僕に彼女は・・
「やばかった・・・」
「何が、どうなったの?」
「只の地縛霊じゃなかった・・・
何だか、たいへんな事になってきてるみたい・・・」
これは、僕たちを巻き込む大きな事件のほんの序章に過ぎなかったのだ・・