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霊感ケータイ  作者: リッキー
伊吹丸
78/450

8.都にて・・

次の日・・


山を登っている伊吹丸と翔子ちゃん・・

ハアハアと息が荒い。


「もう直ぐ頂上だ。」


「はい・・・ハア ハア・・ちょっと休みませんか?」


「ふふ・・意外に体力が無いのう・・」


「ハア ハア・・ だって・・ここ、富士山以上の高さはあるでしょ?」


高山植物も生えない、岩肌のごつごつした山頂付近だった・・


「仕方ない・・ちと休むか・・こっちへ来るがよい」


伊吹丸の居る方へと向かう翔子ちゃん。

峰になっていて、石が程よく並んでいる。


そこへ腰掛けようとしたら・・



「きゃ!!」


何と、その向こうは断崖絶壁だった!

岩一つを境に、遥か谷底へと垂直にそそり立つ崖になっていた。

足がすくむ翔子ちゃん・・手が震えて身動きも取れない。


伊吹丸は崖すれすれに立ち並ぶ岩に腰掛け、意気揚々と休んでいる。


「眺めが良いぞ!」


「そんな・・・怖いですよ!

 こんな高い所で・・」


「見てみるがいい」

登ってきた方を指差す伊吹丸。


翔子ちゃんが振り返る・・・


「わあ!」


今まで登ってきた道中と修行の場としていた小屋が遥か下方に小さく見え、森や湖、連なる山々が見渡せた。

まるで、アルプスの峰峰を見ているような風景・・

日本では、こういった光景は、まず、ないであろう・・


遥か地平まで山が連なっている。


この景観の、どこまでが修羅なのか・・


どこへ行けば、帰れるのか・・


全く検討がつかない・・・



「そなた・・空から降ってくるとは・・・いったい何処から来たのやら・・」


上空には、澄み切った空が広がるばかりで、その彼方に「霊界」があるはずなのだが・・

全く見えない・・・


「私・・帰れるのかな・・・」

美しい景観に酔いしれると同時に、途方に暮れた。



「寂しいか・・?」


「え?・・寂しくはないです・・

 伊吹丸様がおられるので・・」


「そうか・・・では?」


「う~ん・・早く帰りたいっていうか・・・ちょっと不安っていうか・・」


「ワシもそうじゃった・・・・」


「え?」


「見たことも無い都での生活は・・それまで育った場所と全く違った・・」


「そうですね・・伊吹丸様も、都は初めてだったんですよね・・・

 どうでした?都は・・?」


「うむ・・・ 慣れるとか慣れない等とは言ってはおれんかった・・

 いつ、敵に会うやも知れん状態だったからのう・・」


平安の頃を思い出す伊吹丸。



 ・

 ・

 ・


警備で五条大橋のたもとに来ていた。

川原には、死罪の刑場があり、先ほど、刑が執行されたばかりで、二人の罪人の屍骸が無残にも貼り付けられていた・・

四つに組んだ竹ざおの先に、死罪の者が縛られ、下から槍で突き刺す・・

手足は縛られ、胴体は力が抜け、垂れ下がり、首は骨が根元から折れて、ぶらぶらと揺れている。

目は至極の痛みゆえに上をカッと見開いて、舌が口からだらりと垂れ下がっている・・

都では見せしめに、しばらく屍がさらされることになっていた。


側まで行って、眺めている者・・遠くから気味悪そうに見ているものなど、様々だった・・

身内の者なのか、何人かの子供を連れた母親が、側に来て泣いている。

刑場の前に、立て札があり、何故、このような死刑を行ったのかが詳しく書いてあった。



都では、色々な者が横行しているとはいえ、こういった光景は田舎ではなかなか無い。

むしろ、直ぐにでも弔ってやるのが普通だった・・



「むごい事を・・・」


呟く(つぶやく)伊吹丸。



「ワシも都に上った当初は、そう思うた・・・」

ヤスマサが伊吹丸に答えた。


「降ろして弔えないのですか?」


「うむ・・ああやってさらさねばならない・・法度で決まっておる・・」


「見せしめですか・・」

呟く伊吹丸。



警備の一行は、その場を立ち去り、都の中央を目指した・・





とある寺の脇の道を歩いていく・・

少し先に、開けた広場があった。


その広場に抜けた瞬間・・・


「わあ・・・・」


伊吹丸が歓喜の声をあげた・・


『朱雀大路』・・道幅40間にも及ぶ都の中央を南北に走る大通りである。


広場に思えたのは、都を南北に貫く大路であった・・遥か向こうに大内裏が見え、


遥か彼方の山々には霞がかかっている。



大路の左右には、寺院や神社が立ち並び、大きな門を構えている。


赤と白で彩られた豪華な塀・・


塀の内側に広がる庭園が門から顔を覗かせ、塔があちこちに建ち並んでいる。



道は綺麗な彩色を施された貴族の牛車が往来し、


地方からの来訪や店で人々がごったがえし、賑わっていた。


色とりどりの華やかな着物をまとった貴族や女の衆・・


活気がみなぎり、圧倒される。




「これが・・・都・・・」



「そうじゃ!これが華々しい、都の表姿じゃ!」



大路の広さは都の壮大さを物語っていた・・国中の営みがこの都に集約されたようだった・・

その重圧が、伊吹丸にどっと押し寄せる感じがした。


「こんな広い都を・・我々で・・・」


まつりごとは、この活気に負けない威勢の良いものでなければ、成し遂げられないであろう?」


「はい・・」


「これだけの、ものを束ねるには容易ではない」


「確かに・・」


「それゆえ、先に見た、『戒め』も必要なのじゃ・・


これだけの都を統治するには、人の命も自由に操る覚悟もいるのじゃ・・」


華やかさと、戒律に支配された都の営み・・


明と暗、生と死、光と影が共存する国の中心都市。


それが、都の真の姿なのだった・・・




 ・

 ・

 ・


「へぇ~・・都って凄いところだったんですね~」

翔子ちゃんと伊吹丸が、山の中腹の峰で会話している。


「地方の者は、みな、都に憧れ、こぞって上ったものだ・・」


「現在の東京みたいなものですか・・」


「東京?東の方にも都ができたのか・・・」


「江戸時代になってからです。」


「江戸?はて・・そのような地名があったかの・・」


「華やかな都・・東京に修学旅行へ行く学校も多いですよ!」


「いつの時代も同じじゃな・・地方の者が行く場所も決まっておった・・」


「東京ディズニーランドとかって、隅々まで見るのに1ヶ月もかかるそうですヨ!」


「ディズニー?よく分からんが・・寺院か神社のようなものかの?」



「まあ、お城もあるし、アトラクションとか・・あ・・催し物です。」


「楽しい場所なのじゃな・・それが都というものじゃ!」


「ふーん」

遥か遠くの山々や眼下に広がるパノラマを見ながら、昔の都に思いを馳せる翔子ちゃんであった・・











夜の都をヤスマサと伊吹丸が二人で警備している。


「ヤスマサ様・・」


「何じゃ?」


「昨晩の盗賊の話では、狙いはヤスマサ様だという事ですが・・」


「如何にも・・あの頭がそう言うておったな・・」


「二人は、ちと、危険過ぎませんでしょうか?」


「ふふ・・怖いか?」


「怖くはありませぬが・・物騒ではないかと・・・」


「まあ、こうしておれば、向こうからやってくるというもの・・多人数だと尻込みもしよう・・」



寺の脇の大路から、小路へと曲がろうとする。

少し暗い道であった。


何か、気配がする・・


「ヤスマサ様・・」


「うむ・・いるな・・!」


「かなりの人数ですが・・・」


「まずいな・・」


刀に手を添えるヤスマサと伊吹丸・・

大路へ引き返して、一目散に逃げる!


その後を追う無数の人影・・






二人は、川原の手前まで逃げてきた・・


ハアハアと息を切らす伊吹丸・・


「ここまで来れば、大丈夫でしょう!」


「うむ・・ちと、油断しておったな・・」



また、歩き出そうとした時・・


「ヤスマサ様とお見受けしたが・・」


刀を抜いた侍が、小路から出てきた・・昨晩の盗賊の頭だ・・

待ち伏せをしていたらしい・・

後ろから、無数の侍の走る足音が聞こえる。



「二人相手に、多人数とは・・卑怯な!」



刀を抜いて、応戦しようとする二人。


「今宵は、昨日とは違うぞ・・!」

盗賊の頭が断言している。


「さて・・どう違うのかの~」

伊吹丸が問いただす。



バシュ!


一人の侍が、斬りかかってきた。

伊吹丸の袖が切り落とされるが、忍ばせておいた刀で、相手の刃を受ける。



キーン


集団で切りかかってくる侍達・・

動きに隙が無い・・


「暗殺専門の刀使いか?」


「如何にも!」



二人で背中合わせになって、刀を構える。


「これは・・いけませぬぞ・・!」




「やれ!」


その盗賊の頭の言葉と共に、刀を一斉に突いてくる侍達・・

逃げ場所が無い・・



「ぐはぁーーーー!」


四方から刀を刺され、無残に切り捨てられるヤスマサと伊吹丸・・・






「ふふ・・たわいもない・・」


子分に切られた死体を確認させる。


「これは!

 昼間、川原にあった死刑囚の屍です!」


「何?!」


亡骸の額に張られた人型の紙・・ヤスマサと伊吹丸の名前が書いてある。


「死者を操る術を使うか・・

 いかん!これは罠じゃ!


 皆の者!引くぞ!」


盗賊の頭が、そう命令した時、


  バババッツ・・・


縄で編んだ網が一同の上から掛けられた。


「何だ!」

網にかかって、動けない侍たち・・



「やったー!一網打尽作戦。成功~!」

イクシマが脇の塀に上がって喜んでいる。


何とか、盗賊の頭は刀で縄を切り、逃げることが出来た。


「くそ!」


縄で動きがとれない仲間を置いて一人で逃げていく盗賊の頭・・


物の陰に隠れていた伊吹丸が、その後を追う。

「逃がすか!」



寺に面した大路からとある小路に曲がった時・・


辺りが急に暗くなる・・


不吉な予感のした伊吹丸・・・








バサバサバサ・・・・



無数の「敷紙」が束になって伊吹丸めがけて襲ってきた・・


「誰だ!」


敷き紙を除けながら叫ぶ伊吹丸。




「あの者をこれ以上、追ってはならん・・・」


女の声が伊吹丸に答える。


「何奴!!」



塀の影から、姿を現す一人の女性・・


「女?」


「そなたの活躍・・しかと見届けました」


手をスッと差出し、パチンと指をはじく。

辺りを取り巻いて宙を舞っていた敷紙達が一斉に落下し、清閑な暗闇へと変化した。


暗闇に巫女姿の袴の上に神事の衣を纏った(まとった)美しい女性の姿が浮かび上がっている。


艶妖な雰囲気に包まれた女性と対峙する伊吹丸。


挿絵(By みてみん)


「我が名は、望月・・


 大納言様に仕える陰陽師・・」



品のある美しい声で名乗る望月。



「陰陽師?


 大納言様に仕えるなら、ヤスマサ様の御見方であろうが・・


 なぜ、止められる?」


ワケが分からなくなっている伊吹丸。




「そなた・・都に上りて、まだ日は浅いようじゃが・・


 この都には、知ってはならん事もある」




「知ってはいけない事?」





「知って良い事と悪い事をわきまえよ・・・


 悪しき事知れば、


 自分の周りに災いが起きよう・・




 そなたの、家族、友人、愛人に至るまで・・・


 災いが降り注ぎ・・


 やがて、我が身を滅ぼすことになる・・・」



暗示めいた言葉を放った望月。




「ワシの身が?


 滅ぶじゃと?」



「つつしむ事じゃ・・」


その言葉を残して、薄らと笑みを浮かべ、暗闇に姿を消した・・・





追っていた盗賊の頭も何処へ行ったのかわからなくなってしまった・・

仕方なく、今来た道を引き返す伊吹丸・・



「伊吹丸様!」


「おう・・イクシマ・・賊は皆、捕らえたか?」



「それが・・」



「どうした?」



「皆、舌を切って自害いたしました!」



「何??」


横たわる屍を調べているヤスマサの家来達。


「駄目です・・着ている物でも何処の者かも分かりませぬ!」


「そうか・・・お屋敷に運んで、弔おう・・」


「はは!」



自害した盗賊たち、秘密を守るために自らの命を絶つほど、重要な機密があったというのだろうか・・


『知ってはいけない事・・』


確かに、そういう事実が存在するようだった・・・








次の日・・・



川原の処刑場に、前夜に見た盗賊の頭の屍がさらされていた・・・


立て札には


「この者、都を騒がす『もののけ』に付、極刑に処する。」


と書いてあった・・


人ごみの中、ヤスマサと伊吹丸の姿もその中にあった。





「行くぞ・・伊吹丸!」




「何者が、あのような・・・」




「わからん!ただ、あれだけの妖術使いが殺されるだけの・・

黒幕がどこかに居るのじゃ!

この都の何処かにな・・・」




馬にまたがり、大路を歩くヤスマサ・・

何か、腑に落ちない伊吹丸。


昨日の陰陽師の言葉を思い出していた



・・・知って良い事と悪いことをわきまえよ・・・



知ってはいけない事もあるのだろうか・・?


だが、伊吹丸は「真実」が知りたかった。








再び、修羅の奥地・・


翔子ちゃんに昔の話をしていた伊吹丸。



「あの事件以来、ワシとヤスマサ様は大きな歴史の渦に翻弄されていった・・」


「知らない方が良かったんですか?」


「うむ・・じゃが・・ヤスマサ様が命を狙われていたのには変わりない・・」


「ヤスマサ様は見捨てられませんよね・・」


「今にして思えば・・イクシマの父上はこうなる事を知っていたのかも知れん・・」



「イクシマさんの・・


 お父さん?」



「うむ・・


 我々が京に上るように促したのは、イクシマの父上だった。


 都が危ういと毎日のように申されておった。


 持てる妖術をワシとイクシマに伝授して、追い出す様に我々を京へ向かわせたのだ。」



「都では、妖術と妖術の対決になったのですか?」



「そうじゃ!


 ヤスマサ様をお助けするのには、妖術を持つ我々の力が必要だった。帝をお守りする大義のために・・」



「凄い人達が、遠く越後から上って来たんですね・・」


 

感心する翔子ちゃん。


妖術同士の対決・・どんな戦いの話があるのか、期待を寄せていた。






「さて、もう少しだ!この山を登りきるとしよう!」


「え~・・まだ登るんですかぁ~?」


「苦労して得たものは、格別という・・行くぞ!」



「せっかく、時間稼ぎできたと思ったのに~」



「うむ?何か言うたか?」



「いえ・・」


再び頂上を目指す二人だった・・・









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