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霊感ケータイ  作者: リッキー
少年兵 サム
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2.サバイバル

「それで・・ここでは、どんな修行をするんですか?」

恐る恐る、鬼に聞いているお父さん・・

まさか、ここで、戦いの実践をするのではないかと内心ヒヤヒヤしていた・・



「うむ・・・ここで、戦闘をしてもらう!!」


「え~~!!?」

やっぱり・・と驚く二人・・




「お前達に、教えたはずだ・・呪文を唱えれば、


相手を倒す事が出来る神通力を・・・」




「あ・・あれですか?」


念仏を唱えると、光の矢が放たれることを教わった・・

恐ろしい技なので、滅多に使うなと言われていた。



「相手を殺そうと思えば、強力な光となるが、抑えれば気絶程度で済む・・『念』が全てだ!」



悪霊との対決には、必修なのだろうけれど、こんなに早く実践するとは思ってみなかった・・


「ここで死ねば、元の霊界へ戻ってしまう・・あの技を使いながら、上手く、逃げおおせてみよ!

 人間界で言う、『サバイバル』というものだ・・」



修羅でサバイバル・・これ以上の実践もないだろうが、プロの兵士を相手に何てハイレベルな修行なんだ・・


「一言、注意しておく・・

 ここでは、殺生を犯してはならん・・殺生を犯せば、永遠にこの地に取り残される・・」




「この地に・・永遠に・・」


修羅に取り残されて、永遠にさまよい続ける・・

それは大変だ・・



「ふ・・お前達は、間違っても、人を殺そうなどという思いは浮かんでこないだろうがな・・

 まあ注意しておけ!

 ここでの修行は10時間だ!


 では・・・また会おう!!」


   「あ・・待って下さい!」


そう言い残して、二人の前から姿を消した・・

草原に二人、ポツンんと立っている・・



「行っちゃったね・・」


「うん・・・」


「ここは、目立つから、あっちへ行ってみようよ!」

草原から、林の方へと歩いていく二人だった・・・



林に隠れながら何処へ行く宛てもなく進む二人・・


林の向こうの草原には、戦国時代の兵士達が集まり始めている・・


この場にいると、危ない・・



林の奥へと入る翔子ちゃんとお父さん・・


ガサガサと葉の音をさせながら、歩いていく。


この世界に来てから、かなりの時間が過ぎていた・・



「でも、逃げてばかりだと、修行にならないのかな・・」



「そうね・・鬼さんに教えてもらった神通力を使っていかないと・・」



あまり、戦うのは気が進まない二人だった・・


「少し、休もうか・・」



「うん・・」



そう言って、近くの石に翔子ちゃんが座ろうと頭を下げた時・・




 パーン


近くで銃声が聞こえた・・


 ピュン


と翔子ちゃんの頭上を何かがかすねた・・





「う!!」



見上げると・・いきなり、撃たれたお父さん・・


胸を弾丸が貫通していた。


胸から血が噴き出している・・



「すまない・・翔子・・ゲームオーバーだ・・」



そういい残すと、お父さんの姿がスーっと消えていく・・霊界へ導かれたようだった・・


「パパ!!」


危険な事態に気づき、その場に伏せる・・


一人取り残された翔子ちゃん・・



「誰??」


振り向いて、銃を撃った者に尋ねる・・


向こうの草むらがガサガサと音を立てている・・



「武器を捨てろ!」



「武器??持ってないわよ!!」



「持ってない?民間人なのか??」



「そうよ!」



少し、考えているようだった・・


「信じられない!」



「これでも?」


手を上げて、立ち上がる翔子ちゃん・・

無防備で銃を持った相手に身を任せる。

いつ、打たれるかもしれない恐怖を感じていた。




「わかった・・!」


どうやら、敵ではないということを理解したようだ・・

ほっとする翔子ちゃん・・

草むらからガサガサと音を立てて、銃を持った少年が姿を現した・・



「すまない・・敵じゃなかったみたいだな・・・」



草むらから出てきた黒人の少年が謝っている・・

翔子ちゃんと同い年くらいだろうか?


「あなたは・・?」



「僕は、サム・・少年兵だ・・」


「少年兵?」




こちらへ歩いてくる少年・・

お父さんの死骸が無い事に気づいた。


「僕がさっき、撃った人は?」


「パパは、霊界へ戻ったわ・・」



「霊界?」



「あなた、ここが何処だか知ってる?」



「いや・・ジャングルで戦闘中だったんだけど・・いつの間にか、こんな場所に来ていた・・」


「ここが、何処だか分からないの?」


「うん・・」


どうやら、この少年は自分が死んで、この「修羅」に飛ばされてきたことを理解していないらしい・・



「ここは不思議な所だ・・


 僕は、何度も撃たれたんだけど、その度に直っているんだ・・


 撃たれた時は、すごく痛いのに・・


 仲間もそうだ・・

 撃たれて倒れても、しばらく経つと、また動くようになるんだ・・」




この少年は、既に何ラウンドかを経験したらしい・・ひょっとしたら何十年もここに居るのかも知れない・・



「そうね・・ここは、生きている時に、争いに明け暮れていたり、人をあやめたりした人が来る場所よ・・」



「生きている時?」




「そうよ・・あなたは、一度死んでいる・・」



「そんなバカな・・

 僕はこのとおり、ピンピンしてるよ!」


この少年は、自分が死んだことさえも分からないようだった・・

ジャングルで戦闘中に、戦死し、そのままこの修羅へと送られてきたのだろうか・・


この少年の家族はどう思っているのだろう。

幼くして、死んでしまった子を哀れと思っているだろうか・・


心配していないのだろうか・・気になった・・


「あなた・・ご家族は?」



「・・・・」



「どうしたの?お父さんとか、お母さん・・」



「家族は・・僕が殺した・・」



「え?」



「上官に命令されて、僕の家族を殺せって・・」



何と、この少年は、自分の実の母親、父親、兄弟に至るまで、自分の手で射殺していたらしい・・

その罪によって、この「修羅」に来てしまったのか・・


それにしても、家族を殺させるなんて、上官もひどすぎる!


「あなた・・自分の家族を殺め(あやめ)たの?・・・」


「うん・・・それからは、人を殺すことは平気になった・・!」



その、恐ろしい事実を前に、翔子ちゃんは何も言えなかった・・・



「君は、どうなの?」


「え?」


「こんなジャングルの中で、たった二人で居たなんて・・」


「うん・・仲間とはぐれちゃったの・・」


鬼と修行にきているなどと言っても、本気にはしてもられないような気がした・・




「あなたは?仲間は居ないの?」


「僕の所属する中隊は、ここから南へ10キロだ・・」


「大人達がいるの?」


「いや・・僕と同じ年の兵ばかりだ・・」


何と、子供だけで中隊を組織しているらしい・・



「子供だけの?」


「大人は、信用できない!」


「そうね・・あなたにひどい命令をした上官がいたんだもんね・・」


「君も一緒に来るかい?」



お父さんが居ない以上、一人でこの修羅で逃げ切るのも大変だと思い、この少年に付いていくことにした・・


「うん・・私も連れてって!」


「じゃあ、夜が明けてから動く!」



日は西に傾いていたので、野営の準備をするという。


サムのリュックからテントと寝袋を取り出す。


テントは手際よく瞬く間に、張られた。

携帯の食料を取り出して、二人で分けて食べる・・



「あなたは、ずっとこんな暮らしをしてるの?」



「うん・・軍隊に連れてこられてから、ずっとだ・・」



「連れて来られた?」



「世間では『誘拐』っていうらしい・・」



「普通に暮らしていて、誘拐されたの?」



「もう、昔の事は覚えていない。」


この少年は、村で暮らしている時に、軍隊に誘拐されて少年兵にされたらしい・・


「武器の事は、小さいころから教わった・・


たいていの武器は扱えるよ・・」



そして、一番初めの命令が、家族を殺すことだったらしい・・

仲間の少年兵は皆、そうやってきたそうだ・・


物心つく前から、軍隊に拉致され、少年兵として育てられ、いつのまにか戦死した・・



生きているのか、死んでいるのかもわからないまま、この修羅での生活をしている。


死人が生き返ったりする現象が全く人間界ではありえない事だと認識できないらしい・・

さらには、自分や仲間が死んだことなども理解できないのだろう・・


こういった霊は、どうすれば、この修羅から解放されるのか分からなかった・・

永遠に、魂が浮かばれないのなら、この少年達は、不幸な存在だと思った。




そんな事を考えながら眠りにつく翔子ちゃんだった・・




朝が白々と明けていく・・霧が深い朝・・


サムが翔子ちゃんを起こす。


まだ、時間は早いようだが、辺りが全く明るくならないうちに、ここを出るという。


「よく、眠れた?」


「う~ん・・まだ眠い・・」

寝ぼけ眼の翔子ちゃん・・着替えも歯磨きもしていないので、寝た感じがしない。


テントや寝袋をリュックに仕舞いながら、サムが話している・・


「僕の妹は、この時間帯に殺されたんだ・・」


「あなたの妹さん?」


「うん・・」


「家族を殺さなければ、妹を殺されるところだった・・」


「でも・・・」



「その妹も、僕の目の前で、撃たれた・・

 まだ、朝、起きて間もない時に・・

 だから、この時間は気をつけなければならないんだ!」



「そう・・」


妹を守るために、家族を死に追いやった・・その選択の時も悩んだのだろう・・

そして、妹が助かったにも関わらず、その妹が目の前で撃ち殺されてしまった悲劇・・

彼の何気ない仕草に、今まで受けてきた苦難を耐えてきた直向さを感じた。

そして、少しでも生き残るための知恵を身に着けてきたことに、

自分と同じ位の年頃なのに、こうも「動き」が違うものかと、半分驚いてもいた・・



「私も手伝う・・」


そう言って、周りに注意をする翔子ちゃん・・

何かの気配に気づく・・



「まって・・誰か居るよ!」


「何?」

サムが驚いている・・


「気づいたことを、悟られないように、そのまま仕事をしていて!」


「わかった!」



木々の生い茂る向こう側に、何か人の気配がしたのだ・・

修羅という場所に、野生の動物が居るはずがないと思った・・

ならば、動くものは、人の霊しかいないハズ・・


殺るか殺られるかのどちらかなのだ・・・



でも、鬼の言った言葉を思い出す。


ここで殺生を犯せば、ここから永遠に出ることは出来ない・・


翔子ちゃんは、念仏を唱え始めた。

相手を殺すことなく、気絶させる!そんな器用な事ができるのかどうかわからなかったが、一か八かである・・


その時・・




タタタッ タタタッ



自動小銃の音が鳴り響く・・・

目の前の草むらから血が噴出している・・

二人の兵士が、悲鳴をあげることなく、息を引き取っていた。

急所を狙い撃ちしている・・





振り向く翔子ちゃん・・


サムが銃を構えている。


「もう安心だよ!」


「あなたが?」


「殺らなければ、殺られる・・それが、戦場だ!」


この少年は、常に自分が戦場に居ることを認識している・・

でも・・この修羅で、人を殺せば・・もう元には戻れない・・



「行こう!他に仲間がいるかも知れない!」


足早に、この場を去るサムの後を追っていく・・





林を歩いていく二人・・

足音を立てるなと注意されているが、なかなか出来ない・・


「そんなことでは、ジャングルでは生き残れない!こうするんだ!!」


サムが足音を消す方法を教えてくれた・・

教わった通りに、足裁きと重心の移動に気を配りながら歩く・・


翔子ちゃんが慣れるまで、なかなか進まない・・

それでも、敵に察知され、襲撃を受けるよりもいい。


サムが先に前に行き、しばらく歩いた場所で、止まり、辺りを見回す・・

その間に、翔子ちゃんが、後を追う方法に変えていた。


始めはぎこちなかった翔子ちゃんも、何とか歩き方を習得することができた。




















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