17.サスマタ
土手に座って川の流れを見つめている拓夢君・・
「拓夢君・・!」
振り向くと、彼女が居た・・
「望月先輩・・」
そのまま、川のほうへ目をやる。
「千佳ちゃん、心配してたよ!」
「もう・・いいんです・・
僕・・何だか・・
皆に利用されるだけの・・男なんじゃないかって・・」
水面をみつめながら、途方にくれている拓夢君・・
彼女が声をかける・・
「ねえ・・私の家へ来ない?」
「へ?」
「見せたいものがあるの・・」
拓夢君は、何やら思いつめていたが、
「望月先輩!
僕・・オカルト研究会のスパイなんですよ!
そんなに情報をどんどん流して・・
不利になりますよ!」
何でも簡単に秘密を話してしまうゴーストバスター部の姿に思わず打ち明けてしまった・・
「知ってたわよ・・」
「へ?」
「雨宮先生の娘さん、この間亡くなったんだけど・・
ヒロシくんをサポートするために頑張ってるの!」
何と、彼女が翔子ちゃんに相談していたのは拓夢君の後をつけてもらうように頼んでいたのだった。
知らないうちに翔子ちゃんに周囲の情報を調べられていた事に驚いた拓夢君。
「亡くなって?・・ 幽霊なんですか?」
「あなたの後をつけさせてもらったわ・・」
「僕の?」
「だから、お相子!」
スパイが逆にスパイされていたなんて・・
それも幽霊に・・
自分の想像以上の事をしていると驚いている拓夢君だった・・
「来て!」
「はい・・」
もうわけも分からずに、彼女に着いて行く拓夢君・・
彼女のお寺・・
本堂に二人の姿があった・・十一面観音のある本堂。
その脇に、閻魔様の像がある・・
彼女が閻魔様の脇に飾ってある棒状の物を取り出してくる。
短い柄の先端に、二方向に分かれた刃のついた武器のような形状だ・・
「サスマタ」という・・昔の武器・・
最近では、暴行を振るう犯人を追い詰めるためや防犯上で使用されるケースが多い。
昔から伝わる秘宝・・
「このサスマタは昔、何百人も命を奪った『妖刀』を鍛え直した物なの・・」
「殺人器?」
少し、戸惑う拓夢君・・そんな物騒な物だとは・・
「私の先祖が祈祷をして、全く別のものに生まれ変わった・・妖怪や悪霊を封じる武器としてね・・
私の家に伝わる、唯一の悪霊退治の『武器』よ!
昔の『妖刀』の名残で、持つ者を見定める・・
自分にふさわしい主であるかを・・
選ばれた者でなければ、このサスマタは使えない。
私のお母様は、このサスマタを使えたわ・・持ってみて!!」
サスマタを恐る恐る手にする拓夢君・・
刃の部分を見つめる・・
キラリと光る剣先・・自分の顔が映っている・・
「宗派は何でも良いわ・・念仏を唱えてみて!」
「念仏を?」
「念仏を唱えると、精神が集中できるのよ!」
「精神を集中する・・?」
般若心経をぶつぶつと唱えだす拓夢君・・
「その刃先に神経を集中してみて!」
彼女の言葉の通り刃先を見つめて神経を集中する・・
すると・・・
二方向に分かれた剣先が光りだす・・
「これは・・」
彼女が驚いている・・
さらに、続けていると、刃の柄の取り付け部分まで、光で満ちていく・・
「すごいじゃない!私には出来なかったのよ!!」
「望月先輩でも?」
「あなたは、選ばれし者なのよ」
「選ばれし者・・」
その時、
「あ・・・」
急に話すのを止め、何かにとり憑かれた様に宙を見る彼女・・
「どうしたんですか?」
「翔・・子・・ちゃん ?千佳 ちゃん たち が・・」
はっと我に返る彼女・・
「拓夢君!皆が襲われてる!!」
「え?」
「学校へ!急ぐのよ!!」
学校
音楽室
バサバサバサッ!!!
楽譜が舞っている・・
ポルターガイスト!!
「きゃーー!」
「千佳ちゃん!僕から離れないで!!」
「うん!!」
「くそ・・!!」
霊感ケータイから不気味な声がする・・
「ふふふ・・やっと見つけたぞ!!」
この間の、『虎熊童子』の声だ・・・
霊感眼鏡を掛けた千佳ちゃんもタオルを手に応戦しようとしている・・
翔子ちゃんは、気を失った先生をかばっている・・
「お父さんを呼んでるけど、間に合わないかも!!」
僕に残されたのはタオルくらいしかない・・
そんな、ささやかなアイテムで、皆を守りきれるのか??
彼女達が来るまで、時間を稼ごうと霊感ケータイで悪霊との交信を試みる・・
エネルギー消費は仕方が無い・・
「お前は、『酒呑童子』の手下なのか?!」
「その通り・・」
会話ごとに、スイッチを切る操作を繰り返す・・
こっちの話している間は、スイッチを切っても、相手は聞いているのだ・・
「何で、この学校を狙うんだ?」
「敵討ちさ!お前に倒された親方様のな!」
「他の子は関係ない・・お前の狙いは僕だけだろう?」
「ふふ・・お前と、あの小娘を倒した後は、ここの生徒を血祭りに揚げてやる!!」
「何?!」
「そして、ここを我々の拠点として、この国に君臨するのだ!!」
「そんな事はさせない!!」
「ふ!力の無いお前に何が出来る?時間稼ぎか??」
こちらの思惑を読まれている・・この悪霊・・力もあるが頭もそれなりに良いらしい・・
その時、窓の外に彼女と拓夢君が自転車に乗ってかけつけてきたのが見えた・・
「急いで!」
「はい!!」
音楽室は、特別教室の3階だ。
逸る気持ちでいっぱいだった。
僕は、霊感ケータイを使って、ダメージを食らっていた・・
生態エネルギーを消耗し、頭がくらくらしてきていた。立つのも容易でなくなってきている。
戦わずして力尽きてしまうとは・・
「ふふふ・・お前も、力が無くなってきた様だな・・」
「く!!」
「ふふふ・・この部屋はワシが占拠した!!」
バンバンバン!!
扉をたたく音がする・・彼女達が到着したらしいが・・
「結界が張られている!」
彼女が驚いている・・
「駄目です!ビクともしません!!」
拓夢君の力では、動かない・・
バシ!!
彼女の手刀を試すが、歯が立たない・・・
強力な結界が張られている。
「私の力でも、駄目よ!!」
「ど・・どうすれば・・」
ピアノがでたらめに鳴り響く・・
「ははは!ゆっくりとなぶり殺しにしてやるぞ!!」
先生のほうへ狙いを定める悪霊・・
「先生!!」
僕が先生をかばう。
僕がタオルを両手で張って、悪霊に向ける。
突進してくる悪霊・・霊感ケータイで位置を確認しながら押さえ込もうとするが・・
バシー!!
タオルが吹き飛び、僕が飛ばされる・・
「う!!」
「ふふふ・・非力だな!!」
今度は、千佳ちゃんのほうへ牙をむいている・・
霊感眼鏡をかけている千佳ちゃんは、自分を向いている悪霊に怯えている・・
タオルを手には巻いているが・・ブルブルと振るえていて、悪霊を交わせそうにない・・
「た・・助けて!!」
「千・・佳・・ちゃん!」
僕も、助けたいが、ダメージが大きくて思うように動けない。
「千佳先輩!!?」
廊下で叫ぶ、拓夢君・・
何が起こっているのか分からないが、千佳ちゃんがピンチなのは察した。
「叫べ!!叫べ!!恐怖の表情をもっと見せろ!!」
その時・・
パキ----!!!!!!
結界が割れる音がした・・・
「何?!」
サスマタが扉を貫通している・・
「ワシの結界が破られた??」
扉をこじ開け、中に入る拓夢君・・
「拓夢くん!!」
千佳ちゃんが叫ぶ。
バシーーー
「ウッ!!」
悪霊の体に、彼女から放たれた光の塊が刺さる・・
「拓夢君!千佳ちゃんから霊感眼鏡を受け取って!!」
彼女が、拓夢君に指示を出す。
「はい!」
彼女が悪霊めがけて、手を向ける。
バス バス バス!!
彼女が、何発か手刀を放つが、悪霊は跳ね返している。
「ふ・・こんな子供だまし!!」
その隙に、拓夢君が千佳ちゃんの元へとたどり着く・・
「千佳先輩!!眼鏡を!!」
「はい!!」
眼鏡をかける拓夢君・・
悪霊の位置を確認し、サスマタを向ける。念仏を唱え始め、サスマタの先端が光り始める。
「翔子ちゃん!お願い!!」
彼女の力だけでは、悪霊を止められないようで、翔子ちゃんに助けを求めた。
「うん!!」
翔子ちゃんが援護する。
悪霊の周りをグルグルと廻っている・・
「何だ?この娘は!!」
その隙に、拓夢君がサスマタを構え、狙いをつける・・
サスマタの先端が光に包まれている。
「うわーーー!!!」
決死の覚悟を決め、そのまま突進する。
無我夢中で、涙目になっている拓夢君・・
手ごたえがあった・・
「ぐ!!」
サスマタの刃部が悪霊の胴体に食い込んでいる。
「き・・キサマーー!小僧!!!」
「色即是空!!」
般若心経を唱えると、更に光が増す・・
そのまま、力まかせに押す・・
「ぐあーーーー!!」
悪霊の胴体をサスマタで切り裂いた・・
真っ二つになる悪霊・・
「この・・俺様が・・ こんな・・ ガキ に やられる のか・・」
シュウシュウと切り口から霊気が抜けていく・・
彼女が 『九字』 を唱え、印を切る・・
消えていく悪霊・・・・
「終わった・・」
彼女がポツリと言う・・・
「や・・や った・・」
ハアハアと荒い息をしている拓夢君・・
「や・やりました・・・・先輩!!」
自分でも、驚いている・・
「う・・ん・・」
涙目の千佳ちゃん・・
「あはは・・」
恐怖から開放され、なぜか笑いになっている・・
千佳ちゃんの方を振り返る。
「大丈夫ですか?先輩??」
「こ・・怖かったよ~!!」
拓夢君に抱きつき、泣き出す千佳ちゃん・・
抱きつかれて恥ずかしがっている拓夢君だったが、千佳ちゃんを勇気付けようと介抱する・・
「もう・・大丈夫ですよ!!」
僕は、霊感ケータイを使っていたので、力が出ない・・
悪霊にやられたようで、腹部を手で抑えて、何とか立っている状態だった。
でも、先生も心配だ・・
「しょ・・翔子ちゃん・・ママは?」
ダイジョウブ キヲウシナッテルダケ ダヨ!
メールが入ってきた・・
「良かった・・」
何とか凌いだようだ・・・
でも・・・
四天王の魔の手は、確実に迫っている。
油断は出来ないと思った・・・
でも、、
サスマタを持った拓夢君・・
新たな戦力となりそうだ・・
眼鏡をはずしながら・・こちらへと歩いてくる・・
「僕・・
オカルト研究会に籍を置いているので・・
この部活には入れません・・
でも・・
僕は・・・
この部活が好きだし・・
皆さんの力になりたい!」
拓夢君の手が僕に差し出される・・・
「うん・・ よろしく!!」
握手を交わす僕と拓夢君・・・
僕より背が低く、まだ幼い彼の姿が
何故か力強く思えた・・・
拓夢君は、あの女教頭の顧問の部活に所属しているようだった・・
でも、この学校に迫っている危機から、協力して守っていかなければならない・・
敵とか味方とか言っている時ではないのだ・・




