13.先生のマンションで・・
はっと目覚める父・・
時計を見ると夜中の2時を回っている・・
少し、心配になった・・(雨宮先生が・・)
霊感ケータイを使って、息も絶え絶えという事だったが・・
ガタン
市営住宅の重い扉を開く音・・
ガチャリと鍵を閉めて、父が、夜中に家を出る・・
僕は、深い眠りの中にいた。
自転車に乗って、ペダルを漕ぎ出す父。
まだ酔いが完全に抜け切っていないのか、よろよろと蛇行している。
お盆の夜は、静かだった。
自動車などの騒音はほとんど無く、鈴虫の音色が響き渡っている。
昼間の暑さの感覚は無く、涼しさを感じる。
もう秋はすぐそこだ。
先生のマンションにたどり着いた。
近代的なマンション。僕の住んでいる市営住宅とは全く違う。
床や壁には大理石調のタイルが張り巡らされ、高級感をかもし出している。
エントランスのガラスの自動ドアの脇の数字版の所で、何やらボタンを押している。
自動ドアが、すっと開く。
慣れた様に、エレベーターに入る父・・
先生の部屋のドアの前・・
ドアに付いているテンキーのボタンを押している。
電子ロックのマンションは、鍵なしでも入れる便利さはあるのだが・・
ガシャ!
鍵が開いた・・
ドアを開けて、中に入る。
廊下に倒れている先生の姿・・
「雨宮先生!」
父が叫ぶ。
台所から自分の部屋へ向かったが、力尽きてしまったらしい。
駆け寄って様子を見る。
息はある・・
うつぶせに倒れているのを、返して、仰向けにする・・
気が付く先生。
「あ・・直人・・さん・・」
「大丈夫ですか?」
「私・・もう・・だめ・・です・・」
涙ぐむ先生。そのまま、お父さんの胸へと顔をうずめる。
弱気の先生も始めて見る。
先生が落ち着いたところで、その体を抱き上げて、寝室まで運び込む父。
ベットに寝かせて、布団を掛ける。
ベットの脇に座る父。
先生は、無抵抗だが、襲わず、紳士に行動をする。
その側には、翔子ちゃん、お父さん、お母さんが見ているはずだ。
変な行動はできないのだ・・
「しっかり休んでください・・」
お父さんが話しかける。
皆が見ている前で、正しい行動をするのは大変だ。
実際、父の周りには、3人が座って、一部始終を見届けていた。(姿は見えないけど・・)
「はい・・」
少し、嬉しそうに返事をする先生。
「じゃあ・・」
立ち上がろうとする父。
この状況は、精神的に苦痛だと思い、その場を離れようといった様子。
「待って!」
その手を掴む先生の手。
父の動きが止まる。
「一人に・・しないで・・ください・・」
「う・・」
皆の視線が気になる。
何を言って良いのか・・・
「皆が見ているのは分かってます・・」
「へ?」
「翔子も、私の主人も、たぶん・・
あなたの奥さんも、来ているんでしょうね・・
でも・・もう限界だって・・
先程、思ったんです・・
一人で居ると、怖くて、不安で、狂ってしまいそうで・・
私の事・・
嫌いですか?」
うるんだ瞳で見つめる先生・・
ここまで、言われて、もう、父も逃げるわけにもいくまい・・
先生の手を握り締めて、父が話し始めた・・
「僕には、愛する妻がいました・・
5年も前に他界したけれど、彼女の事が忘れられない・・
でも・・いつまでも過去に縛られ続けては、前には進めない・・
ヒロシと共に、新しい生活を考えなければ、いけない時期に来てるって思ってました・・
だからって・・
そこにいたのが、ご主人や娘さんを亡くした雨宮先生だったからって・・
都合の良い付き合いはしたくない。
僕は・・
あなたに、会った時から・・
素敵な人だって・・思ってました。
僕には、息子が一人居ます。自慢の息子です。
こんな頼りない僕ですが・・
よろしければ・・・
結婚を前提に・・お付き合い下さい。」
言ってしまった・・赤面する父・・
先生の目から涙がポロポロと流れ落ちる・・
「はい・・」
先生が返事をする。
手をしっかり繋ぎ合う二人・・
チャラララ チャラララ
霊感ケータイが鳴り出す。
先生がボタンを押す・・
ピ・・
ママ ヨカッタネ!
アナタ スバラシイ プロポーズ ダッタワヨ!
ナオトサン ツマヲナカセタラ ショウチシマセンヨ!
皆からメッセージが届く・・
顔を見合わせて、赤面している二人。
「・・と、いうことで、雨宮先生が我が家に来ることになりました~。」
僕の家・・
次の日の夕食・・
テーブルに、僕と父、そして雨宮先生の三人が座っている・・・
「よろしくね!ヒロシ君!!」
「何が、『・・という事』 だよ~!!」
ちゃんと説明して欲しい僕だった・・・




