12.僕と父
僕の家
僕と父で、夕食を食べている。
男同士の食事なんて、会話は少ないけれど、今日は少し違っていた・・
「ヒロシ、勉強は進んでるのか?」
「うん・・ボチボチね・・」
父は図書館で毎日勉強している事を知っている。
そんな僕を少しは評価しているのだろうか・・
「そっか・・二学期の試験は頑張らなきゃな・・」
「うん・・頑張らないと・・でも・・」
僕には、もう一つ頑張らなければならないことがあった・・
ゴーストバスター部の部長を背負わされている事だ。
「でも?」
父が何のことか聞いている。
父には、あまり関係ない。変な事で気を使わせたくない。
只でさえ成績の事で心配をかけているのだ。
「いや・・何でもない」
そんな僕の答えに、少し不満そうな父だった。
「先生から聞いたよ!部活をまとめてるんだって?」
ああ・・雨宮先生から聞いたのか・・合宿も長引いたから説明があったかな?
「うん・・」
僕にゴーストバスター部の部長が務まるのか、心配だった。
実際、僕が一番霊感が無いにも関わらず、部長になっていること自体がおかしい・・
千佳ちゃんは、僕たちの足手まといになりたくないって言ってたけれど、僕が一番足手まといになっているような気がしていた。
「お父さん・・」
「何だ?」
「僕・・この部活をまとめられるかどうか、心配なんだ・・」
「ふふ・・」
何?その笑いは?
「先生がそう言ってたよ・・ヒロシがその事で悩むことがあるんじゃないかって・・」
先生に先を読まれていたか・・・・さすが担任!
「住職が今日も言ってたな~
霊は過去から逃れられない・・
人間は、未来を切り開けるって・・」
彼女のお父さんか・・ウチのお墓は彼女のお寺にあり、今日はお参りに行ってきたばかりだった。
お父さんは、本堂で和尚さんに会ってきたのだ。
「ヒロシもちゃんと立派に活躍してるって・・
未来を切り開けるって、言ってたよ・・
見てる人はちゃんと見てるから安心しろ!」
「そ・・そうかな・・」
赤面する僕。
彼女が、お父さんに色々と、話を聞かせているのだろうか・・
色んな人から見守られている・・
僕は一人ではない・・
そう思うと、何やら「勇気」のような不思議な想いが湧いてくる。
「ところで・・」
今度は何だろう?
「今日は、帰ってきてるのかな・・・?」
ん?帰ってきている?この家には僕と父しかいないぞ・・
「母さん・・」
キョロキョロ辺りを見回す父。
はぁ~ん。さては・・お盆だからお母さんが帰ってるって思ってたな??
あいにく、霊感ケータイは先生に貸し出しているので、ここには無い。
「うん。帰ってきてるんじゃない?」
普通なら、こんな風にキッパリと言い切れないのだろうけれど、霊感ケータイと彼女と出会ってから、確実に「居る」と言い切れる自信がついた。
そういう面では慣れたような気がする。
実際、母がこの近くに居るような気がしてならない。
特に、お盆の時期は、家族の元へ帰って来るという話は聞かされていた。
霊感ケータイがあれば、カメラで姿も見えるだろうし、会話もできる。
「あいにく、霊感ケータイは、雨宮先生に貸し出してるよ。」
「そうか・・先生も娘さん、亡くしてたんだっけ・・」
少し、がっかりしている。
明日にでも、返してもらって、お母さんの姿を見せれば、嬉しがるだろうか・・
父は、一度亡くなった母と再会している。悪霊と対決する前に霊感ケータイを使って・・
その時、どんな話をしたのか、聞いてはいないけれど、再婚の話とかしたのかな?
「なあ・・ヒロシ・・」
「何?」
今度は、何だろう?
「母さんの事・・忘れなければならないのかな・・・」
父が、ポツリと言った・・
あれだけ、頑なに母のことが忘れられなかった父がどうしたんだろう?
母の事は、僕も忘れない。
悪霊との事件の時も、必死で僕を守ろうとしていた。
いつも僕たちを見守ってる・・そんな気のする、かけがえのない母なのだから・・
「母さんの事は、忘れられないよ・・」
「そうだな・・・」
そのまま、食事は終わり、僕は自分の部屋へ入っていった・・
父は、食堂の机の前の棚に置いてある母の写真を見ながら、遅くまでビールを飲んでいたようだった・・
その夜・・・
ほろ酔い気分の父・・
何やら不思議な感覚になったそうだ。
酔いつぶれた父を二人の人が覗き込んでいる。
「お父さん!ヒロシ君のお父さん!」
「ん?ここは?」
目の前に、男女の姿がある・・
「直人さん!」
「?? 響子か?」
その隣に立っているのは・・
「あなたは・・?」
「はじめまして、翔子の父です。雨宮と言います」
「あなたが・・」
そこに、若い美男子の筋骨隆々の青年が立っていた。
翔子ちゃんは僕が見ても可愛い。可愛いというよりも、「美人」の系統だ。
それは、雨宮先生の面影もあるが、お父さんの血筋も継いでいる・・
そのお父さんは、やぱり美形だった・・更に地獄で修行をし、身体共に健全になっている様が見て取れる・・
この世の美を集約したような・・そんな感じのお父さんだった。
先生が惚れるのも十分理解できる。
「いつも、妻や娘がお世話になってます」
ペコリと頭を下げて挨拶をする翔子ちゃんのお父さん。
翔子ちゃんに関しては、僕が助けられてばかりである。
先生にも、力を借りてばかりだ。
「こちらこそ・・今日はお盆で、みんな帰ってきてるんですね。」
「先ほど、妻に会ってきました・・
・・ていうか、見てきたんですが・・」
「それは、良かった・・
懐かしかったでしょう?」
「はい・・
でも・・・」
「でも?」
「放っておけないんです・・」
「?」
「僕たち、亡くなった者は、生きている人間には干渉できない・・
ていうか・・手を貸そうにも、どうしようもできないんです。」
確かに・・霊はその存在はあったとしても、生きている人たちには直接、手は出せない。
そのもどかしさはあると思う。
霊感ケータイがあれば、少しは改善できるのだろうけれど・・
「妻は、急に思いつくと、わき目もふらない性格なので・・
何をしでかすか・・
さっきも、霊感ケータイを使って気絶しまして・・
下手をすると、病気か、あの世行きかと思うと・・ゾっとして・・」
「雨宮先生が?!・・それは・・・大変でしたね・・」
「あのまま、一人暮らしをさせておくわけにもいかない・・・」
「はあ・・」
「直人さん・・」
母が話しかける。
「私を思ってくれるのは嬉しいんだけど、そろそろ、新しい生活を考えてほしいの・・」
「新しい生活?」
「とぼけないでよ!」
「え?」
父が少し、青ざめている・・何だろう?
「雨宮先生・・気になってるんでしょ?
・・っていうか・・
ちょくちょく
会ってるじゃない!」
「う・・やっぱりバレてた?」
「当たり前よ!いつも見てるんだから!!」
少し、怒り気味の母・・
浮気現場を捕まえて、上位に立ったという心境?
「まだ、肉体関係は・・」
「当たり前です!!」
「はい!・・」
身を縮める父・・
「ヒロシ君のお父さん!」
「はい!!」
もう、相手の思うがままの父・・
「妻を、幸せにして欲しいんです。」
よく、「娘を幸せにしてやってくれ!」てのは聞くが、「妻を」ってのはあまり聞かない・・
「へ?」
「妻も、寂しさの限界にきてるんです。あんな辛そうな姿、見たくないんです。」
「直人さん!」「お父さん!!」
二人に囲まれて、たじたじの父・・