3.海水浴場
30分後に駅に待ち合せの約束をした。
それぞれが家に帰って海水浴の仕度をする。
僕の家が一番遠いので、ぎりぎりの時間だ・・駅に着くと二人が先に待っていた・・
「遅いぞ~。ヒロシ君!」
千佳ちゃんが走って来る僕に檄を飛ばす。
「ごめん、ごめん」
小走りになる僕・・
「遅く来た人が、荷物持ちね~!」
「え~??」
一番遠いんだから、少しは多めに見てほしいものだけれど・・
結局、荷物持ちですか・・・3人分はきついな~・・
彼女・・浮き輪も持ってきてるし・・
隣の駅に海水浴場がある。
電車に揺られて10分程で到着する駅の近くに海があるのだ。
走り出した電車の中で、情報通の千佳ちゃんが話し出す。
「あの海水浴場って、幽霊が出るって噂だよ。」
また、幽霊ですか・・
さては千佳ちゃん、「これ」が目当てで海に誘ったのか?
「どんな霊なの?」
僕が聞いてみる。
「聞いた話だと、夕方や夜に砂浜とか、別荘街で女の人の幽霊が目撃されてるって話よ。」
別荘街・・
この海水浴場の近くの小高い丘は、別荘が点在するロケーションの良い場所がある。
その一帯が、心霊スポットになっていたとは、全然知らなかった。
やっぱり、千佳ちゃんは、その手の情報に詳しそうだ。
「千佳ちゃんも見てみたい?」
彼女が千佳ちゃんに聞く。彼女は霊を見る事には慣れているのだろうけど、さすがに千佳ちゃんは躊躇気味・・
「う~ん・・ちょっと気味が悪い・・カナ・・」
怖いもの見たさもあるのだろうけど・・彼女と居ると、ホントに見そうで怖い・・
そんな話をしている間に、目的の駅に着いた。
無人の改札口を出て、少し急になっている坂道を下ると、砂浜が広がっていた。
磯の香が漂っている。
お盆の帰省客で、普段より人が多いようだ。
「結構、来てるね~」
「海の家、キープしとこうよ!」
「あそこがいいかな~?」
二人の荷物を両肩に下げながら、後を追う僕・・
ようやく入る所が決まったらしく、一軒の海の家に入っていく。
「ヒロシく~ん、こっちだよ~!!」
「はいはい・・」
真夏のカンカン照りの日差しを受けながら、必死で彼女達に着いて行く、汗だくの僕だった・・
海の家で着替えを済ませ、浜辺へ駆け出す彼女と千佳ちゃん・・
彼女は眼鏡と髪止めを外している。可愛いバージョンだ。
う~ん・・水着の彼女もいいな~・・
千佳ちゃんも可愛いし・・
来て良かったカモ・・至福の時を堪能する僕だった。(読者の方々には見せられないのが残念!!)
水際で、しばらく遊んでいた二人だった。
ビーチボールをバレーでもしているかのように投げ合いながらジャレあう二人・・
浜辺で遊ぶ女の子のよくある光景だ。
それを見ながら、僕は砂浜に座っていた。
荷物の番をしながら・・
っていうか・・見とれていたというところか・・・
熱い日差しも忘れてしまう。
こんな平和な海水浴場に、女性の霊が出るって本当なんだろうか・・
まだ明るいうちは、出ては来ないのだろうけれど・・
周りを見ると、帰省の時期のせいか人が多くなっている。
気を付けないと隣の人に当たってしまう程なのだ。
ふと見ると、千佳ちゃんの動きが止まっていた。
一点を見つめている千佳ちゃん。浜辺から少し離れた草原の辺り・・
彼女も千佳ちゃんと同じ方向を見つめている。
その方向には、誰も居ない・・
「あそこ・・」
千佳ちゃんが指さして彼女に伝えた。
「見えるの?」
彼女が千佳ちゃんに聞き返す。
「うん・・何か、ぼんやり・・」
彼女の話では、白いワンピース姿の女の人がこちらを向いて立っているという・・
僕は、脇にある荷物の中から霊感ケータイを取り出して、カメラを作動させた。
確かに、白いワンピース姿の女の人が立っていた。
日本人の雰囲気ではなく、どこか異国の人の感じがした。
僕達の方を見ている・・
何か、物思いにふけっている感じだった。
千佳ちゃんが電車の中で話していた例の女性の霊なのだろうか?
千佳ちゃんは、ぼんやりと気配が分かったという。
僕達3人が見ているのに気づいたのか、その女の霊が、別荘街のある小高い丘の方へ歩き出した。
「どうする?」
彼女が皆に聞いてくる。
「行ってみる・・」
千佳ちゃんが答える。
千佳ちゃんが行くというのなら、行くしかあるまい・・
僕が反対した所で、ここに止まる二人ではない。
荷物の中から皆のTシャツを取り出して、水着の上から着て、その女の人の後を追うことにした・・
浜辺の際に続く野道をしばらく歩いて行く。
向かっている小高い丘の方に、別荘が建ち並ぶ一角が見えてきた。
ゆったりとした敷地に建つ洋風の建物の数々。
パステル調の薄い色で塗られた木の板の外壁や、しっくい壁で塗られた外装・・屋根も赤茶けた鱗瓦だったり、緑のスレートだったり・・
低い木の塀や、ガーデニング等の植栽で囲まれた芝生・・石畳のアプローチもあれば、レンガを敷き詰めた通路もある。
まさに箱庭の様な光景だった。
高級別荘街といったところだろうか。
その別荘地へ導くかのように歩いて行く女の人・・
彼女が先頭になり、僕と千佳ちゃんがその後を追う・・
やはり、霊能者である彼女のほうが「見える」のだ。
千佳ちゃんは気配を感じるだけだという事だったが、僕にはさっぱりわからない・・
霊感ケータイもバッテリーがもったいないので、カメラの電源は切っている。
それにしても、千佳ちゃんに霊感があるなんて意外だった。
そう言えば、合宿所の除霊でも、霊媒の役をしていたので、多少の霊感はあるというところか?
一番、霊感が無いのは僕だけだったのだ・・何とも情けない部長だ・・