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霊感ケータイ  作者: リッキー
夏の浜辺
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2.千佳ちゃん

図書館



合宿所の除霊さわぎから1週間が過ぎ、夏休みも中盤に入った。



彼女のお寺もお盆が近く、忙しいということだった。


彼女と住職の二人しかいないので、檀家の世話や法事で手一杯になってしまうらしい。


最近は、全然会ってないな・・・



僕は、相変わらず成績が落ちているのをカバーすべく図書館通いを続けている。


朝食が終わると、皿を洗って、父の出勤を見送ってから、家を出て、図書館へ向かうのが日課になっていた。

家から10分くらい中心街の方へ歩いた場所に図書館がある。

市営住宅の最上階の夏は特に熱いので、冷房の利いた図書館は憩いの場でもあるのだ。


中学2年ともなると、英語や数学が桁外れに難しくなる。

暗記科目の理科や社会も僕にとっては針の山に思える。


こんな僕でも、「ゴースト・バスター部」の部長が務まるんだろうか?

頼りない部長・・誰か代わってくれないかな・・


図書館の学習室に入ると、机に大勢の生徒達の姿が並んで座っていた。

みんな必至に調べ物や学校の勉強を持ち込んでいる。


みんな、頭が良さそう・・・



僕も、渋々、数学の教科書を拡げる。



昼食の時間が近くなった・・図書館は飲食は禁止なので、外で食べなければならない。

駅前の商店街へ繰り出す。


本屋で千佳ちゃんを見かけた。久しぶりに姿を見た。


相変わらず、オカルト系の本のコーナーに居るが、いつもの様子と違っている。

本棚を見ているだけで、何やら、もの思いにふけってるようだ。


どうしたんだろう?


「千佳ちゃん」

僕は声をかけてみた。


「あ・・ヒロシ君・・」


少し、よそよそしい感じの雰囲気の千佳ちゃんだった。

こんな所で声かけて、ちょっと失礼だったかな・・


「美奈ちゃんとは一緒じゃないの?」


「うん・・図書館で勉強してるんだ。」


「へえ~・・勉強家なんだね~! さすが部長!」


いや・・勉強できないから図書館へ通ってるんですが・・・

周りの僕を見る目と、実際の自分とは隔たりがある。部長だからって頭が良いわけでは無いのだ。成り行きでやってるだけで・・


でも、さっきの千佳ちゃんの本棚を見つめてボウッとしている表情が気になった。咄嗟に


「そうだ・・一緒に、お昼食べない?」


ここで千佳ちゃんを食事に誘うなんて自分でも思ってもみなかったが


「うん・・」


意外に僕の提案にすんなり乗ってきた千佳ちゃん。




千佳ちゃんと駅前のハンバーガーショップへと向かった。


二人で店内に入る。

窓際の席の人達が丁度食べ終わって立ち上がる所だったので、荷物を置いて席を陣取った僕と千佳ちゃん。


こんな所、彼女に見つかったら、何て言われるのか・・

「浮気者」とか言われるのかな・・

それ以上に、さっきの千佳ちゃんの様子の方が気になっていた。何か悩んでいるような感じだったのだ。

部長として、部員の困っている姿は見過ごせない。変なところで義務感が込み上げてくる。


「ハンバーガーで良い?飲み物は?」

「オレンジジュースが良いかな・・」

案外手慣れた感じでやり取りが進んだ。


二人分のハンバーガーとオレンジジュースを注文して席に戻る。

窓際に座って、物想いにふけっている千佳ちゃん


「どうしたの?元気、無いようだけど・・」

僕が訊ねる(たずねる)。


千佳ちゃんは、ちょっと考えて・・

「あのさ・・


 この間の合宿の事なんだけど・・


 いつも、あんな感じで除霊してるの?」


千佳ちゃんの問いに、合宿所での悪霊退治で、彼女と一緒に戦ったことを思い出す。

彼女も霊力が半減しているらしく、前の様子よりも弱くなっている感じだった。

翔子ちゃんが来てくれなかったらどうなったことか・・


「うん・・・悪霊相手だと、対決しなきゃならない時もある・・」

以前の悪霊との対決で彼女の霊能力も半減してしまった事等・・千佳ちゃんに話した。




「ヒロシ君は、怖くないの?」

僕の顔を真剣に見つめて聞いてくる千佳ちゃん。


そう面と向かって聞かれると、ちょっと考え込んでしまう。

幾つかの事件に巻き込まれていくうちに、場慣れしてしまったのもあるのかも・・


霊の世界に足を踏み入れた時、初めは怖いという感じは無かった。

霊感ケータイで初めて話した人は、僕のお母さんだし、生霊に会ったのも翔子ちゃんだ。

霊を見たのは霊感ケータイを通して・・その時は彼女も一緒だった。


  でも・・


悪霊との対決は、やっぱり怖い・・

命を危険にさらすこともある。

この間の合宿所での悪霊退治でも、危険な事をしていたのだ。


そう思い出した時、急に恐怖の感情が込み上げてきた。


「確かに怖いよ・・今になって、ちょっと怖くなったかな・・」


「怖い?そんな感じに見えなかったよ。」


「いや・・あの時は必死だったし・・・・望月さん一人に任せるわけにもいかないし・・」


「ふぅ~ん。やっぱヒロシ君、望月さんラブだねぇ~。」


「え?!」

からかわれていたのだろうか?

顔を赤らめる僕を見つめて微笑む千佳ちゃん。

さっきまで考え込んでいたのに・・・女の子ってどういう思考回路をしてるんだろう。彼女といい、千佳ちゃんといい、わけが分からない。





「5番でお待ちのお客様、ご注文の品が揃いました」

店内にアナウンスが流れた。何も言えなくなった状況で、タイミングが良いのか悪いのか・・カウンターまで二人の注文したハンバーガーを受け取りに行く僕。



「はい・・」

千佳ちゃんの分のハンバーガーとオレンジジュースを渡した。


「ありがと。」


ちょっと微笑んで受け取る千佳ちゃん。

そのまま、二人で無言のままハンバーガーを食べ始める。

ちょっと気まずい感じになっている。

何か言いたくても、切り出しにくい。


そんな状況を察したのか、千佳ちゃんがハンバーガーを食べるのを止めて、紙ナプキンで口を拭きながらポツリと言った。


「ごめん。怒った?」


「え?」


「ヒロシ君を、からかうつもりは無かったんだよ。

 望月さんがうらやましいなって、思っただけなの。」


そう言われても、結局はからかっていたのではないのか?

複雑な心境の僕。何と答えて良いのか迷ってしまった。

そんな僕を見て、千佳ちゃんが。


「でも、凄いよね。体張れる所は、さすが部長だよね!」


「それは・・・

 一応、オレも部長だし・・・」

変な感じの答えになってると自分でも思った。

急に褒められて少し照れも入ってしまっている。




「私も・・

 あんな事できるのかどうか・・・・」


そう言って、再び窓の外を見つめる千佳ちゃん・・また考え込んでいる感じになっている。



悪霊退治は、普通の人の想像を絶する恐怖を体感し、勇気が要る事なのだ。

そんな状況に、千佳ちゃんを強要することもできない。

むしろ、危険な目に合わせたくない。そんな思いがにわかに込み上げてきた。


「あのさ・・千佳ちゃん・・ゴーストバスター部・・」

僕が言おうとした時・・



「ふふ・・ちょっと不安になっただけ!忘れて!!」


こちらを向いて、千佳ちゃんが笑みを浮かべた・・

何やら無理をしているようにも思えた・・


その時、窓越しに表の商店街を歩いてくる彼女の姿が見えた。

相変わらず、普段は眼鏡とポニーテールの冴えない姿・・

街中では、その異様な容姿が目立ってしまう。


ガラス越しに目があった僕と彼女。



  まずい!千佳ちゃんと一緒に居るのを見られてしまった!!


一瞬、彼女の眼鏡がキラッと光ったように見えた。

和気藹々と昼食を共にしている僕と千佳ちゃんは、どう見てもデート中ではないか。

この状況はどう説明して良いのやら・・・冷静を装いながら、内心焦っている僕。


自動ドアから入ってくる彼女・・


「ヒロシ君、千佳ちゃんも、おそろいだったんだ~」

眼鏡の奥で微笑む彼女が僕には恐ろしく見えた。

何と返答して良いのやら・・

ドギマギしている僕をよそ目に


「あ、美奈ちゃん!!ダンナ借りてるわよ!!」


ダンナ・・って・・


僕は呆然とし、彼女は赤面した・・

千佳ちゃんって、時々、大胆な発言をするのだ・・・


戸惑っている僕たちを笑って見ている千佳ちゃん。



「美奈ちゃん、あのアップル・パイ美味しそうだよ!!」


「え~・・どれどれ?」

レジの天井に掲げてある写真を眺める彼女。


「ふふふ・・美奈ちゃんって、甘いの本当に好きだよね~」


「うん!甘いの大好きだよ!!」


和やかな会話になったが、僕はさっきの千佳ちゃんの話を思い出していた・・

ひょっとしたら、千佳ちゃんは、この部活を辞めたいのかも知れない・・

でも、辞めた場合は人数が3人確保できないから、部活としても成立しない。

雨宮先生が奔走し、合宿所の除霊までして、ここまで来た部活も、短命で終わってしまうのかと思うと、何とも言えない気持ちになるのだ。



彼女がアップルパイを買って机の上に置いた所で、


「あのさ~!!」


千佳ちゃんが話を変える。


「みんなで海にでも行かない?

 夏なんだし!」


これから海へ行こうと提案する千佳ちゃん。


「う・・海~??」


僕はあまり気がすすまなかった・・

僕は、運動もしていないから、体つきもよくない

図書館ばかり居たから、日にも焼けてないし、

・・ひ弱な感じで、あまり、「見れる」体ではないのだ・・



「うん!賛成~!!

 昼から用事無いんだ~」


彼女は賛成のようだ・・何が楽しいんだろう??



「ああ~ 海!・・


  砂浜・・


  海の家・・

  

  スイカ・・ カキ氷・・


 ソフトクリーム・・」


彼女の頭の中には、甘いものでいっぱいのようだ・・

水着とか小麦色の肌とか・・そういったレベルではなさそうだ。

男女の恋愛物語で砂浜を駆ける風景とは程遠い。



「うふふ・・わかったわかった・・


 海行こうよ!ね!ヒロシ君!!」


こっちに話を振られた。

彼女の願望もかなえなければなるまい・・


「う・・うん・・」


仕方なしに話を合わせる僕だった・・

何だか、僕って、みんなを引っ張っていくタイプじゃ~ないよな~・・
















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