四. 霊感ケータイ
チャラララ・チャラララ・・・
その携帯電話から待ちうけメロディーが鳴り響いている。
「トワイライト・ゾーン」のテーマだ・・
悪趣味だ!
何て悪趣味な待ち受けなんだ・・・
さすが霊感少女の持つ携帯電話は一味違う。
そして、待ち受けの表示に電話番号が流れる・・
090―○△□―○○○○
その番号を見て、目を疑った僕・・見覚えがある。
これって・・
母さんの電話番号じゃないか???
まぎれも無く、僕の母が死ぬ前に使っていた携帯の番号だ。
忘れるわけが無い。
母が入院している間、どんなに待ちわびたかわからない電話番号。
無事に退院する知らせを心待ちにしていたのに・・・
でも、母が他界してから5年も経っているのだ。もう、他の人の電話番号になっているはず・・。母の番号であるはずもない。
おそるおそる、その携帯を手にとってみる。
ピッ・・
通話ボタンを押して、耳にあてがってみた。
「もしもし?
どちら様ですか?」
他人の携帯にかかってきた、名も知らない人に応対するのも勇気がいる。
これ以外にどうやって応対しろというのだろう?
しかし、その携帯電話から聞こえてきた声は・・
「もしもし・・ヒロシ?」
紛れもなく母の声だ!
やさしい声で語りかけてくる・・・
いや、そんなことはない。
母は5年も前に死んでいるのだ。
母の声が聞こえるなんてありえない。
自分の耳を疑いながら、携帯電話を耳に力強く押し当てた。
他人の声かもしれない。
でも、僕の名前まで呼んでいた・・
「ヒロシ。
元気にやってる?」
再び聞こえてきた声・・、やはり母の声だった・・
5年前に他界した母が、電話の向こうに居るというのだろうか?
何と答えれば良いのだろう?
とりあえず、答えようとした僕。
「母さ・・・」
と言った瞬間・・携帯電話が僕の手から奪い取られていた。
「見~た~な~????」
霊感少女の「可愛い」顔がアップで僕に迫っていた。
正確に言うと、「可愛い」というより「怖かった」・・・
彼女の一連の行動も本当は見てはいけないものだったろうし、着替えまで覗いていたのだから・・
「ヒロシく~ん・・
秘密守れる~?」
まるで、幽霊のように迫り来る彼女の顔・・蛇ににらまれたカエルといったところか・・
我ながら情けない。
「はい。守れます!」
思わず返事をしてしまった・・・
「この携帯電話はね、ある人から譲り受けたものなの。
普段使っていたら、変な声が聞こえるって言われて、
よく調べたら、特殊な波長に反応している事がわかったの。」
人間同士でも「波長が合う」ということは良く言われる。
何となく一緒に居て気持ちの良い人・・
長い時間、一緒に居ても疲れない人・・
発展すれば、好きで好きでたまらなくなる。
そういう場合はお互いに「波長が合う」と言うのだが・・
霊能力を持つ人は、人間ではなく「霊」との波長が合うことでコンタクトが取れるという。
そして、携帯電話の中にも霊界の波長を捕らえることのできるものが何万個に一個の割合で存在するという。
普通は「故障」ということで廃棄されるのだけれど、見る眼のある人は、こういった携帯電話を捜し求めているのだそうだ。
これを使えば、霊感を持たない普通の人でも霊界とコンタクトが取れるという。
「私たちは、こういう特殊な電話をこう呼んでいるわ・・・
霊感ケータイ
って・・」
「れいかん・けーたい???
じゃあ、さっき話したのは・・・」
「そう。本当のお母さんよ。
生前利用していた電話番号でつながることが多いそうよ・・」
この電話があれば、いつでも死んだ母と話すことができるのか・・
なんて便利なアイテムなんだ!
欲しい!
思わず、心に響いた。
他人のものではあるけれど・・
得体の知れない不思議なものだけれど・・
僕の欲求を満たしてくれる道具が目の前にある。
もっと母と話したい!
生前話せなかったこと・・
聞きたかったこと・・
たくさんあるのだ。
「でもね・・、
この携帯電話の通話料は、生体エネルギーなのよ。
普通の人がちょっとでも通話すると疲れるよ。
下手をすると病気になるか死ぬかもね・・」
どよ~ん・・・
確かに、さっきから体がだるい。
この電話を使ってからだと思う。
ほんの5秒足らずの通話で、校庭のトラックを一周、全力疾走したような疲れを感じた。
こんなにエネルギーを消費するのか・・・
恐るべし・・霊感ケータイ・・
「ところでヒロシくん?
いったい、いつからそのロッカーに入ってたわけ?」
彼女が急に話を変えた。
着替えを覗いていた事に気づかれてしまった!
「あ、
あの、
その・・」
答えに困っている僕に・・
「見~た~なぁ~!!!
悪霊め~!!」
御幣(ごへい=ギザギザの紙が先についた棒)を振り回しながら彼女が逃げる僕を追い回す。
霊感美少女 美奈子・・
普段の眼鏡とポニーテールの冴えない容姿とは裏腹に、実態は可愛い美少女であった彼女の秘密は、まだまだこんなものではないことを、これから嫌やというほど知らされる。
そして霊感ケータイとともに幾つかの事件に巻き込まれていくのだった・・