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霊感ケータイ  作者: リッキー
混沌
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176.天は地なり


 チュン


  チュン・・



次の日の朝・・・

ヤスマサ邸宅の大広間にて、家来を交いての朝食が始まっていた。


「しかし・・」


箸をくわえながら嘆いて呟く和泉の君の視線の先には・・・






「ヤスマサ様、

 ご飯の御代わりを・・」


「望月様はヤスマサ様の御方様となる御方!

 お手を煩わせる(わずわらせる)訳には参りませぬ!」 


「いえ!

 あるじとなるヤスマサ様の御膳の世話は、正妻の仕事にて・・」


「い~え!

 望月様は、まだ、病み上がりにて療養が必要です!

 ここは、側室の私めにお任せ下され!」


ヤスマサを挟んで望月の君と紗代が御膳の御代わりを巡って言い争いになっている。


当のヤスマサは、どう対応してよいやら迷っている。

見兼ねた和泉の君・・


「兄上!!」


「なんじゃ!?和泉・・?」


「なんじゃ・・ではございませぬ!

 兄上の身の上が固まったのは良いのですが、

 この変わり様は何たる事ですか!!」



「良いではないか・・

 ようやくワシも身の振り方が決まった事だし・・」


「良くありませぬ!!!!

 兄上!!」


「はい!!」


大声を張り上げた和泉の君にビクッとなるヤスマサ・・


「正子をはじめ、家臣の目のやり場がないではございませんか!」


その言葉通り、部屋の天井を見ながら朝食を食べている家来たち・・



「望月様は、まだ祝言も上げていないし、

 紗代様も、実家の親御様の許しも得ておらぬのです!


 正式に正妻になったわけでも、側室になったわけでもございませぬ!

 謹んでくだされ!」


「はい・・・」


「すみませぬ・・・」


和泉の君の進言にたじたじになっている望月の君と紗代。





「全く・・・


 この御方たちは、

 今まで抑えておったモノが取り払われてしまったようじゃな・・・


 先が思いやられるわ・・・」


ボヤく和泉の君。

お目付け役・・ご苦労様です・・












信濃の山中・・


 バサバサ・・

   バサバサッ!



草をかき分けている音・・



 カーン!


   カーン!




 カン・カン・カン!!


激しく竹の棒で撃ちあう光と金時。

その様子を離れた場所で固唾を飲んで見守る芳子。


 カーン!!


  ビシ!!


金時が上段から長い竹棒を槍の様に振りかざす。それを打ち払う光。


両者が構えて睨み合う。

ニヤッと笑って、竹槍の構えを解く金時・・


「フフ・・さすがですな!」


「金時殿も!」


光も竹棒の構えを解く。



「ふぅ~。凄い撃ち込み・・両者互角ですな!」

芳子が声をかけるが・・



「いや!光殿は本気を出しておらぬわ!」


「それは、金時殿も同じで、ございましょう・・」



「分かり申したか・・

 だが、光殿は殺気がありませぬ。それでは相手に見抜かれてしまいますぞ・・」



「はぁ・・

 それがしは、あまり争い事は好まぬのです・・」


「光殿は、私の母上に育てられたのです。

 母上は礼儀や作法に厳しい上に、生きる者への慈悲の心も忘れるなと・・

 日頃から申されております故・・」


「さよう・・

 無意味な殺生はしてはならぬと・・

 教え込まれました。

 某も、そう思いまする。」



「なるほど・・・・

 御仏の道の教えですな・・


 生きとし生けるモノに慈悲の心を・・

 人として大切な心であります。


 じゃが、

 それが命取りになるやも知れませぬ・・

 特にいくさ場では・・」



いくさですか・・」










「地は天なり、天は地なり・・

 心は天にも地にも在らず・・」


いきなり金時が良くわからない事を言いだす。



「天は、地なり・・?」


疑問に思う光。



「さよう・・。

 天は則ち極楽浄土を指し、地は則ち地獄を意味しまする。

 この世の生を生き終えた者が死後にたどり着くのは、極楽、若しくは地獄と言われております。


 今生で良い行いをしたものが辿り着ける極楽。悪い行いをしたものが堕ちる地獄・・

 極楽へ参れば未来永劫、幸せな安住の暮らしが約束され、地獄に堕ちれば長い年月、苦行に身を投じなければなりませぬ。


 まさに天と地の差がありまするな・・。


 じゃが・・

 生きている時に、全てが善い行いをしている者は、この世には存在しない・・

 誰か一人を活かすためには、最低限、食べ物とするために、何がしらの殺生は必要です。


 人は生まれた時から罪を背負うと言う考え方もある・・

 逆に、悪しき行いばかりの者も居ないのです。


 生まれたての赤子は、皆、健気な瞳を持って、周りに希望を感じさせてくれる・・

 どんな聖人でも、どんな極悪人でもです・・


 人は生まれながらにして、幸せを掴むために生きているのだという考え方もある・・


 では、どこからどこまでが、極楽へ行けて、どこからどこまでが地獄行きなのか・・

 それは、一体・・誰が決めるのか、また、決めたのか・・

 難しい話となるのです。」



「そうですな・・

 赤子の頃から、悪人になろうなどという者はおらぬでしょうな・・」


芳子がうなずく。









「そして、極楽も地獄も、

 どちらも生きている者から見れば死んだ者の世界です。生きている者にとっては未知なる世界。

 希望というよりも恐怖の感情さえも覚えまする。」


話を続ける金時。


「人は、生まれた時から、『死』に向かって自分の道を歩みだす・・

 それは、どんな者でも同じです。


 生まれた者は、かならず死ぬ・・・

 『死』という人の最期は、決して逃れる事は出来ない・・・


 極楽へ行こうと良い行いを心がけた者でも、

 悪行に身を投じた地獄行が当然と思われる罪人でもです。


 人の命・・寿命・・というのは、誰もが変わらず、もっているものです。

 いや・・この世に生きる動物、植物・・全ての物に「命」がある。


 そして、この世で生きるモノとして、一番大切なモノは・・

 死んだ後に、どうなるか・・極楽へ行くのか地獄へ行くのかではない・・


 「命」をどう使うかなのです。」



「命の・・使い方?」



「さよう・・

 ひとえに「死」と言っても、誰かを活かす死に方もある。


 誰かを幸せにするため・・生きながらえる為に死を選ぶ事もある。

 罪人を死に至らしめる事で、世の中を平和に導くという死を選ぶ事もできる。


 逆に、他の人を不幸にする死に方もありましょう・・


 地獄へ行くのか、極楽へ行くのか・・それは、その者だけの問題です。


 だが、

 「死」そのものが、他人にどういった影響を与えるかどうかというのは、また、別問題であって・・

 実は、そちらのほうが死にゆく者の想いよりも大きい意味をもつ・・」



「死にゆく者よりも・・その者の死が、どう受け止められるか・・

 ということでございますか・・」








「人は、一人では、生きて行けぬのです・・・

 必ず、誰かの「死」というものによって、活かされている・・・


 そして、

 世の中を平和にするためには、

 時として、裁きを下さねばならぬ・・


 多くの命を救うために、裁きを下さねばならない時もある・・

 それが、上に立つものの定め・・」


「上に・・立つ者の・・定め?」




「さよう・・

 上に立つ者は、自らの命を捨てる事をしては、ならない・・・

 多くの者を路頭に迷わせる事になりかねないからです・・


 人の命を預かっておるも同然。

 時には、自らを鬼と化して、裁かねばならぬ・・


 むやみな殺生ではない・・人を活かすための殺生です。


 光殿・・

 あなたの剣は、その為の剣だと、心に命じなされ!


 あなたの剣が、多くの人を、活かしも殺しもするという事を・・

 良く肝に命じる事です。」



「私めの・・剣が・・・」



携えている達を握りしめて金時の言葉を受け止める光。



「それは、限られた者だけが背負う定め・・・

 そなたが極楽へ行こうが、地獄に堕ちようが関係ない・・・


 より多くの命を救うための道だけが残されている・・


 地は天なり、天は地なり・・

 心は天にも地にも在らず・・

 ただ、そこに心ある人が在るのみ・・・


 心は・・

 万人の命を救うために、ここにありまする・・」


そう言って、親指で自分の胸の心臓の辺りを指し示す金時。



「心は・・ここに・・」




「さよう!

 大きな志をもつのです!

 そなたには、それができる!」



「はい!金時殿!!」


金時に諭され、大きな志が湧いてきた光であった・・・





「さて!そろそろ、駿河と善光寺の別れ道になります。」


金時が改まって、芳子達に別れを告げる。



「金時殿・・」


少し寂しそうな表情になった芳子。



「光殿や芳子殿との旅は、楽しゅうございました!


 このまま一緒に旅を続けられれば良いのでしょうが、


 ワシにもお役目があり申す。


 辛いのはやまやまではありまするが・・」



「金時殿は、駿河に行かれた後はどうなさるのですか?」


光が聞く。



「さぁ・・


 この国を気ままに旅して歩いておるが故・・


 明日は陸奥か・・はたまた日向か・・」



「あの・・


 都へは参られませぬか?」


芳子が恐る恐る訊ねる。



「都でございまするか・・・


 あそこは、少々窮屈にございまする!


 倣いや仕来たりは、ワシには合いませぬ・・」



「さようで・・ございまするか・・」


再び寂しそうになっている芳子に明るく話しかける金時。



「また、どこぞの旅路でお会いすることもありましょう!


 その時まで、しばしの別れにてござりまする!」



「つつがなきよう・・お祈りしております。」



「かたじけのうござりまする!


 それでは!!」


そう言って、野道を南方の方へ意気揚々と歩いて行く金時。


しばしの間、見送っていた芳子達・・


「我々も参りまするか!」


「はい!早く紗代様の実家へ挨拶に行かねば!」


振り向いて、北の善光寺へと目指して歩き始める・・





その様子を林の陰から見ている者が居た・・


芳子達の後を付けて行くその者・・・




そして・・




「何奴??」


金時がその事態に気づく。


何やら胸騒ぎがしていた・・・




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