15.次の日
夜が明けてうっすらと空が明るくなっている。
鳥たちの声で目が覚めた。
ああ、夜が更けたんだな・・
でも、何だか様子が変だ・・寝返りが打てない・・
両腕を何かに掴まれているようだった・・
これが俗に言う、「金縛り」なのか??
手を動かそうにも、動かない・・
・・というよりも、やはり「何か」に掴まれている感じだ。
顔に脂汗がびっしりと出ているのに気がつく・・
ああ・・このまま、幽霊の姿を目撃してしまうのか??
彼女は「いない」って言ってたのに、
やっぱり、一人になると危ないんじゃないか?
手が動かなければどうしようもない。
勇気を振り絞って、恐る恐る、横を見る・・
・・誰かが寝息を立てていた・・
パジャマ姿の女の人・・
僕の手を握り締めている・・
雨宮先生??
じゃあ、こっちの手は誰が握ってるのか・・
反対方向を振り向く・・
すやすやと寝ている・・
彼女・・
彼女の手が、僕の手をしっかりとつかんでいる。その隣に千佳ちゃんの姿が・・
へ??いつの間に???
部屋の様子をうかがってみた。ここは確かに僕が追いやられた宿直室・・
僕が寝ぼけて彼女達の部屋に忍び込んだわけではない。
・・てことは、僕の寝ている間に、彼女達がこっちへ移動してきたって事か??
何があったのか分からないが、何でこんな状況に??
それにしても、こんな間近に、女の人が居るなんて、初めての体験だ!
ちょっと興奮気味の僕・・
まだ、起床時間には早いので、もう一眠りしようと思ったのだが、とてもできなかった・・
「う・・ん・・」
先生の寝言・・
間近に寝顔が迫っている・・
綺麗だ・・!
そして可愛い!学校中で人気の先生が直ぐ隣に居る!!
しかも、パジャマ姿で・・
「ヒロシく~ん・・」
僕の名を呼んだ?
彼女の寝言のようだ。
反対の彼女の方を向いた僕・・
自分の寝言で目を覚ます彼女・・
彼女と間近で目が合う・・
「ヒロシくん・・・!」
はっとなる彼女・・
僕は、両腕をつかまれているので、身動きが出来ない・・
この状況・・
僕はどうなったのか分からないんですけど・・
困った表情をする僕・・
彼女の手は、ぼくの手を掴んだままだ・・
飛び起きる彼女!
「あ・・そうか・・・」
彼女が何かを思い出している様子・・
「ごめん!ヒロシくん・・!」
「何が起きたの?」
「私たち、トイレに起きたら、怖くって・・」
自分たちの部屋へ行かずに、僕の所へ来たらしい・・
外の林の中の音が気になって、怖くなったということだ。
宿直室を覗いたら、僕がぐっすり寝ているのを見て、思わず、こちらに移動してきたとのことだが・・・
あれだけ、男を毛嫌いしていたのに・・
何だか、僕も腑に落ちなかった・・
「うーん・・」
先生も、目覚めたようだ・・
僕を掴んでいた手をいきなり離して・・
「あ・・!ヒロシくん!!・・」
「おはようございます・・先生・・・」
僕は、少し怒り口調で言ってみた・・
散々な目にあわせておいて・・
「あはは・・ヒロシくん・・おはよう・・ 面目ない・・」
半分笑顔で、半分引きつっている・・
僕は、起きようとしたのだが・・起きれなかった・・
僕の「あそこ」が・・張っていたから・・
先生は、それを察したらしく・・
「あはは・・ヒロシくん・・」
僕は、赤面して、布団にくるまるだけだった・・
ああ~僕は遊ばれてるんだ~ ホント・・僕って貧乏クジを引くタイプなんだな~・・
千佳ちゃんが起き出す。
その様子を見て、先生が・・
「千佳ちゃん・・おはよう!朝食を買いに行きましょう!」
「あ・・はい・・先生・・」
寝ぼけ眼の千佳ちゃんが、布団から出て行く・・
「あ・・ヒロシくん・・おはよう・・」
「おはよう・・」
僕は布団にくるまったまま、動けない状態だ。
何故なのかは気にもしないようだったが・・
「行ってくるね・・」
彼女が優しく僕に声をかける・・
彼女たちが宿泊室に向かい、しばらくして着替えが終わったようで、車が出て行く音がする。
また、僕は一人で取り残されてしまった。
昨日の彼女の話では霊が一体も居ないとの事だから、少しは安心していられるが、やはり一人は心もとない…
僕も体が落ち着ちついた所で宿直室の隣の調理室へ移動した。家庭科室を改装したのだろうか…炊事場と食堂が一緒になっている。
明るい調理室は、合宿所の暗いイメージではなく、家庭的で生活感があり、ここには霊も出てきそうもない感じだ。
近くのパン屋さんといっても、ここから車を20分くらい走らせた所にある。
この合宿所は、かなり人里離れた場所にあるのだ・・
僕は、みんなが帰ってくるまで、お湯を沸かし、スープでも作っておくことにした。
何かしていれば、一人でいる怖さを紛らわしておけそうだ。
冷蔵庫には、昨日の食材がある。
こんな時は、父との二人暮らしの習慣が役立つ・・
フライパンに卵を落としたときに、外で車の音がした。
「ただいま~焼きたてのパン、買ってきたよ~!」
先生の声がする。みんなが帰ってきたようだ。
「お帰りなさい」
「あら、ヒロシくん・・料理作ってくれてたんだ・・」
「はい・・・」
「あ~・・スープだ~。」
「ふふ・・ヒロシくん・・いいダンナさんになれるね!」
先生がお世辞を言ってくる・・
三人が目を合わせて笑っている。何故か、彼女が赤面していた・・
(何か、車の中で、僕の噂してたな?)
朝食を済ませ、合宿所内の掃除をした後、この建物を捜査することにした。
少し、怖いけれど、僕と千佳ちゃんで霊感ケータイを使うチームと、彼女と先生のチームの二手に分かれての捜索だ。
僕は、霊感ケータイのカメラを作動させ、廊下を見渡す。
千佳ちゃんが不思議そうに見ている。
「その携帯電話って、特殊なの?」
「うん。カメラでは、霊の姿が映し出されるんだ。」
「そんな、事できるの??」
「今は、何も映ってないけどね・・」
街中では、沢山の人がいるように、霊の数も多かった。
でも、この建物内は、霊の姿が全く無いようだ・・それも気味が悪い・・
「へぇ~、霊の世界が見えるんだ・・」
「他に、霊と直接話すことができるよ」
僕は、お母さんや翔子ちゃんの話をした。亡くなった人とも会話ができる道具であることも千佳ちゃんに教えた。
「ふ~ん・・凄いんだね~」
でも、会話には通話料として生体エネルギーが消費されるので、滅多に使わないほうが良いとも言っておいた。
それにしても、何も映らない・・
安心したような、不安なような・・
「ちょっと貸してくれる?見てみたい!」
千佳ちゃんが自分で使ってみたいとせがんでいる。
「うん・・」
ケータイを受け取り、辺りを見回す千佳ちゃん。
さっきは、何も見えなかったから、変な映像は見えないと思うが・・
「あ、あれ・・・」
窓の外を見た千佳ちゃんが、何やら見つけたらしい・・
「何?」
とっさに、千佳ちゃんに駆け寄る。
初っ端から、恐ろしい映像は、千佳ちゃんに見せたくない。
「林の奥に、黒い影が見えた・・」
「何処?」
「あの辺り・・」
窓の外の林を指差す千佳ちゃん・・
僕が見たときは、何も無かった。
念のため、千佳ちゃんから霊感ケータイをもらい、確認してみる。
カメラ越しに、見えたという辺りを見ていた。
窓越しに千佳ちゃんと林の方を捜索する。
「う~ん・・見えないね~」
僕が霊感ケータイでくまなく探してはみたが、それらしき影は見当たらない。
何かの見間違いだったのではないだろうか?
「おかしいな~、貸してみて!」
千佳ちゃんが再び、霊感ケータイで林を見てみる。
その時・・
僕の肩が背後からポンとたたかれた!
「ぎゃ!!」
不意をつかれて驚いた僕は、思わず飛び上がってしまった。その声に驚く千佳ちゃん。
恐る恐る、後ろを向くと、
「やあ、君達・・頑張ってるかね!!」
「校長先生!!」
微笑んでこっちを見て立っている校長先生の姿が・・・
「すまん、すまん・・驚かしちゃったようだね・・」
僕達の声に気づいた彼女達が駆けつけてきた。
「ヒロシくん!大丈夫??」
「あ、校長!!」
「やあ、雨宮先生。
調子はどうですかな?」
「は・・はぁ・・」
突然現れた校長先生に、対応がおぼつかない先生。
聞けば、僕たちのことが心配になって、来てしまったとのことだった。
先ほどの影は校長先生だったのだろうか?
僕達は、今までの事を校長先生に報告する。
「そうですか・・何も居ない・・」
何やら腑に落ちない様子の校長先生。
「本当に、この合宿所で事件や噂があったのでしょうか?」
先生が校長先生に聞きただす・・
「う~ん・・
確かに、一連の事件はあったのですが・・
そうだ・・!
どうせ話すならば、百夜話風にしてみますか・・」
校長先生も、大胆な事を提案する・・
「百夜話~??」
百夜話とは、怪談を話しながらロウソクを消していき、最後の一本を吹き消した時に、亡霊が現れるという儀式なのだ・・
「どうせなら、夜にしましょう!怪談をすると、霊が寄ってくるという話を聞きましたが・・」
彼女の方を見る一同・・
「確かに・・怪談は霊の波長に近づくので、寄ってきますが・・」
皆の不安をよそに、霊が居ないのなら、こちらから呼び寄せようという校長先生の作戦が決行される事となった。
この合宿所で起った事件とは・・?




