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霊感ケータイ  作者: リッキー
混沌
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171.敷紙


美濃の山中・・

紗代の実家を目指し、旅を続ける芳子達の一行・・

もう少しで、信濃に入ろうという所・・


丘の上の大きな老木に向かって手をかざす芳子が、都からの朗報に目を輝かす。


「光殿!一大事です!!!」


「ど・・どうされました?」


木の幹に寄りかかって休んでいた光が飛び起きる。



「叔父上と望月様が、婚礼の儀を行うとの事です!!」


「ヤスマサ様と母上が?

 そ・・それは!

 吉報でございますな!」



「祝言は今月の内にとの事です!

 私達は出られないのは残念ですが・・」


「それは、また、早々と・・」



「大納言様が、早く二人の夫婦姿を見たいとの事だそうです・・」


「それは、致し方ございませぬな・・」




芳子と光のやりとりに耳を傾けていた金時が聞いてくる。


「ほう・・

 都の事が、遠く離れた、この地に居ても分かるのですか?」



「はい。

 都に居る姉上と伝想の術を使って交信しているのです。」


「伝想・・

 あなた方は、不思議な術を用いるのですな・・」



「古木に宿る気を利用すれば、離れた場所でも想いが伝わるのです。

 私と姉上は午の刻(正午)にお互いの事を木に流す事に決めていました故・・」






「なるほど・・

 旅の途中でも、お互いの様子が分かれば、これほど頼もしい事は無い・・

 我らが、わざわざ脚を使ってまで、使いに出る事もありませぬしな・・」



この時代、遠く離れた者同士の通信手段としては、「手紙」や「口伝え」しかなかった。

直接、誰かが文やメッセージを伝えに旅をするのが一般的だ。


飛脚を使った通信手段は、江戸時代になってから・・平安の時代に比べれば新しい考え方である。


他に「のろし」を使った通信手段があったが、あらかじめ、合図を決めて、経路沿いに何か所もノロシを上げる場所を設定しておく必要があった。


現代の「電話」や「電波」、「ネット」が発達した時代には考えられない話ではあるが、芳子達が使う「伝想の術」は、更に考えられない事であろう。

実際、古木に手を当てて離れた人に想いを伝えるという事例は存在するらしい。



「紗代様の件は、いずれ側室にとの話もまとまっているようです。」


芳子が光に告げる。


「この旅の意義も出来たという事ですな・・

 紗代様の実家にて、許しを乞うという重大な役目を担っております!」


「はい!

 二人で、このお役目、必ずや成功させましょうぞ!」


芳子と光が意気込んでいる。


それを温かい目で見守る金時・・

再び、紗代の実家を目指して歩き出す。








ヤスマサの邸宅。


縁側で何やらしている紗代・・

そこへ廊下から和泉の君が歩いて来る。


「紗代殿、何をなされておるのですか?」



その声に振り向き、作業を止めて答える紗代。


「折り紙にございます。」



「折り紙?」


「はい。我が家に代々伝わる呪い(まじない)の方法ですが・・」


「呪い?」



紗代の手元を見ると、何枚かの紙を切ったり折ったりして、何かの形に仕立ててあった。





「このお屋敷を出るのは危ないので、

 こんな呪いでも役に立つかと思ったのです。

 望月の君様の痛みが少しでも和らげば・・」


そう言って、和泉の君に人型に折った和紙を見せる。


「これは!」


紗代の手にしている折り紙に見覚えがあった。

思わず声をあげる和泉の君。


「そなた、この形、誰に教わったのじゃ?」


「はい。祖母より教わったのです。

 我が家に代々伝わる呪いだそうで・・」


紗代の見せた折り紙は、イクシマの使っていた敷紙にそっくりだった。



「使い方が分かりまするのか?」


和泉の君が、更にたずねる。


「この場所に名前を書いて使うのです。

 儀式を行わなければなりませぬが・・」


「儀式・・とな・・」


イクシマの敷紙とは少し使い方が違うようだった。


妖術では敷紙に念を込め、敷紙そのものに効果を宿させるのだが、紗代の場合は儀式を行い、折り紙は補佐的なモノだと言う・・


だが、人型の敷紙に瓜二つ・・


以前、イクシマの敷紙が、望月の君の頭の鎮痛に、一番効果があったとヤスマサから聞いていた和泉の君。

その折り紙を持って、ヤスマサの元へと向かった・・・









ヤスマサの部屋に和泉の君が慌ただしく入って来た。

居合わせていた望月の君と正子にも、先程の縁側での一連の話をした和泉の君・・



「これが、その折り紙なのか・・」


「はい・・。」


ヤスマサの前に差し出された人型の折り紙。


「確かに、イクシマの敷紙に似ておるが・・」


折り紙を手に取って見ているヤスマサ。



「望月殿・・どう思われまするか?」


望月の君に手渡すヤスマサ。


「この形は、全くと言って良い程・・

 イクシマ殿のモノと瓜二つ・・

 そんな奇遇な事があるのでしょうか・・?」




「分からぬ・・


 じゃが・・

 望月殿の頭の痛みはどうなのですか?」


頭を押さえて答える望月の君・・


「常に・・頭に重い痛みがありまする・・

 こうして、話をしたり、集中している時は良いのですが、

 安静にしている時は、痛みが襲うのです。」


一般に、気が立って興奮している時は、意外に痛みを感じないモノである。

寝ている時などだと、それまで忘れていた痛みが戻ってくる。


「そうですか・・

 それ程までに・・」


絶望的になるヤスマサ。

どんどん痛みが増しているという・・・









「ヤスマサ様・・


 大納言様の前でも申しましたが、

 私は、いつ、命が尽きてもおかしくないのです。

 その様な者にヤスマサ様の妻が務まるかどうか・・」


「いや!

 病気や家柄で選りすぐるような事はありませぬ!

 望月殿は、私が上京した折り、始めてお会いしてからより、心に決めていた相手!

 無理はさせませぬ!」


ヤスマサが元気づける。



「そうです!

 我らも控えております、

 家事や職務に負担はかけさせませぬ。

 なるべく療養に専念して下され!」


和泉の君と正子が揃って望月の君に迫る。



「皆さん・・・」


温かい言葉を受けて、涙ぐむ望月の君・・・



「わかりました・・

 紗代殿の『呪い(まじない)』を受けてみようかと思います。


 少しでも、良くなる可能性があるのなら、

 少しでもヤスマサ様の御側でお役に立てるよう・・長生きをするために・・」


紗代の儀式を受ける事を決意する望月の君・・・




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