168.山賊
「ふふ!問答無用じゃ!ヤレ!!!」
山賊の頭の合図で、賊が一斉に振り回していた石を放つ。
四方から石がヒュンヒュンと飛んでくる。
一方からの攻撃ならば、何とか除けきれるが・・・
同時に方々から投げ付けられれば軽傷では済まない。
「ハ!!」
光が気合を込めて、印を打つ。
ビシィ!!!!
飛んでいた石が中空でピタッと止まり、ボタボタと落ちる。
「な・・」
山賊が、その光景にあっけにとられた。
「ほう!妖術師でござったか!」
光を見直している金時。
「正確には、陰陽師なのですが・・」
「く!怪しい技を操るか!!
お前ら!!
まとめてかかれ!!!」
「オオオーーーー!!!」
頭が叫び、山賊が刀を抜いて斬りかかって来た。
ギーン!
キィーン!!!
複数の山賊を相手に刀で応戦する光。
斬り込んでくる相手の剣を流しながら攻撃を交わす光。
素人を相手に、犠牲者を出したくなかった。
だが、相手も、剣術に長けているわけではなさそうだが、集団で連携している。
次から次へと、入れ替わりながら撃ち込まれて、徐々に押され気味になっていた。
「くそ!
意外に手ごわい相手ですぞ!
金時殿!!」
ブーン!!!!
槍を振りかざして、近づく賊を威嚇している金時。
長い槍に間合いを取って隙を窺っている山賊たち・・
「確かに!
ケガ人を出さずに引かせるワケにはいきませんかな・・」
「ふふ!
単なる山賊だと思って、甘く見るなよ!」
山賊の頭が不気味にあざ笑う。
サッと山賊の頭が手を振るう。
後ろの杉林に控えていた新手の賊が、今まで金時と対峙していた者と入れ替わる。
その手には、金時よりも長い槍を構えていた。
「く!
用心が良い輩だ!!」
その光景に怯む金時。
「臨機応変!!
強い相手には、それなりの対処をする。
己を知り、相手を知らば、百戦百勝!!」
山賊の頭が叫ぶ。
「きゃ~!!!」
芳子が数人の賊に取り囲まれている。
「いかん!
その御方に近づいては!!!」
芳子の方に向かって光が叫ぶが、光の周りも無数の賊が取り囲んできていて、手出しができない。
「ふふふ!
その娘は頂いていくぞ!!」
山賊の頭が勝ち誇っているが・・・
「いや!
その方の・・・」
光が呟く・・・
シャキーン!!!
脇差を抜いた芳子。
「わ・・私に剣を抜かせたわね~????」
短刀を構えた芳子の目つきが変わっている・・・
「その御方に、
剣を抜かせたら、
命はありませ・・・・」
光のその言葉が終わらないうちに・・・
「グア~!!!!」
「ギャ!!!」
バタバタと倒されていく芳子を取り囲んでいた山賊たち・・・・
「南無八幡大菩薩・・・」
呪文を唱えて手を合わせる芳子・・・
「あちゃ~。
遅かったか!」
頭を押さえる光。
「な・・何奴!!!」
山賊の頭がその事態に焦っている。
「私は殺生は好まぬが・・
芳子様は、そういうわけにいかぬのです・・・
何とか、抑えておったのに・・」
嘆いている光。
ザザッ!
草むらを素早く走り込み、山賊の頭の背後に回り込んで取り押さえた芳子が喉元に刃を突き付ける。
「動いたら首が飛びます!
家来の刀を引かせなさい!」
「は、早い!
そなた・・何者だ!」
ググっと短刀に力を入れる芳子。
山賊の頭の喉から血が滴る・・
「刀を引かせよと申しております!
さもなくば、皆殺しにします!」
「わ・・わかった・・」
賊に刀を引くように合図をする山賊の頭・・
ガチャ! ガチャ・・
その命令に従い、持っていた刀を、その場に投げる山賊達・・・
「あなたもです!」
芳子の言葉通り、無抵抗に、自分の刀を芳子に手渡す山賊の頭。
「よろしい!」
短刀を下ろし、山賊の頭を開放する芳子。
ドカ!!
その場に座り込む山賊の頭。
「ふん!
煮るなり、焼くなり、好きにするがいい!!
ワシの命など、くれてやるわ!!
じゃが、
子分供は見逃してやってくれ!!」
ザワっと山賊たちからどよめきの声があがる。
「お頭!!」
ビシ!!
山賊の頭が持っていた刀を振りかざす芳子。
「いい、御覚悟です!」
チャ!!
覚悟を決めた山賊の頭の首をはねようと、芳子が、剣を振りかぶる。
目を瞑り、手を合わせた山賊の頭に、金時が訊ねる。
「そなた・・・
この賊たちを、良く手なずけ、剣術も指導しておったようじゃが・・・
名は、何と言うのじゃ?
一介の地侍ではなさそうじゃが・・」」
「ふ!
ワシは、既に世を捨てた男よ・・
名乗る様な者ではない!
このような山賊に成り下がったワシなど・・
親方様にも会わせる顔も無いわ!」
金時に答える山賊の頭。
「親方様?」
芳子が聞く。
「ワシはナカヒラ様の家来であった、碓井貞光と申す者・・
所詮、ワシは賊軍・・
哀れ見る者など居らん!!
さあ!斬れ!!」
「なんと!
ナカヒラ様の・・
あなたは・・
ナカヒラ様の御家来だったのですか?」
ナカヒラ・・先の幼い帝と運命を共にした熊野の豪族である。
頼光によって、一族が血祭りに上げられたのであった・・・
「親方様をご存じなのか?」
目を開けて、芳子の方を見る山賊の頭、貞光・・
若い娘なのに、主君ナカヒラの名を知っているのが不思議だった。