165.交差点
ガバ!!
「ヒロシ君!!」
ハッと目が覚め、飛び起きる・・
暗い部屋の中・・
布団が敷かれ、畳の向こうに月明かりで照らされた障子・・
拳に握られた汗・・
「ここは・・・」
呟いて、自分を見る。
一糸も纏わぬ(まとわぬ)自分の姿に気づく・・
自分の肩に手を添えると少し冷えていた。
周りを注意深く覗う。
自分の寝ている布団・・、隣から、力強い寝息が聞こえる。
男性が一緒に寝ていたようだった。
半身を起こして見渡している姿に気づいて、その男性が声をかけてきた。
「どうしたのですか?」
優しく声をかけられて、何が起きていたのかを思い出す・・・
「また・・
あの夢を見たのです・・・」
「あの夢?」
「遠い未来なのか、遠い過去なのかも分かりませんが・・
私とあなたが、別れなければならない夢・・」
呟いて、俯く・・
その表情を見て、優しく布団を肩にかけてくれた男性・・
「夢ですよ・・・
元気を出してください。
私は、あなたから離れませんよ。」
「嬉しい・・・
ヒロシ君・・」
そう言って、男性に抱きつく。
が・・
「ヒロシ?」
不思議に思った、その男性・・
「あ・・・
夢の中の・・
あなたの名前でした・・・」
「ヒロシ・・
そうでしたね・・
あなたは、確か・・」
「美奈子と呼ばれていました・・・」
「美奈子・・ですか・・
良い名前です。
私は、
どんな名前で呼ばれようとも・・
あなたが
どんな名前になっていようとも・・
あなたと共に生きるのが
嬉しいのです。」
優しく抱き寄せ、髪を撫でる・・
「私もです・・・」
男性の胸に頭を寄せる・・
だが、その頭の中では、鈍い痛みが常に襲っていた・・・
思わず、頭に手を添える。
「痛むのですか?」
男性が気遣ってくれた。
「はい・・・
また・・
痛みが・・・」
「紗代殿の札でも効きませぬか・・・」
「遥々、仁和寺まで赴いて下さったのですが・・・
祈祷師の札でも効果が薄れています・・」
「イクシマの敷紙が、一番効果があったのですね・・・」
「はい・・
あの御方の霊力は、父親の玄海様譲りでしたから・・」
「あとは、薬師寺・・
今度、薬師寺に一緒に参りに行きませぬか?」
「今は、共に童子達に狙われている身です・・
二人がここを離れては、危険です!」
その返答に、もの悲しい表情で見つめる男性・・・
それに気づいて、間を取り繕おうと明るく振る舞う。
「ヤスマサ様!・・
私は、こうして、ヤスマサ様の御傍に居るだけで、
十分、痛みも和らぎます。」
「望月殿・・」
ヤスマサに抱きつき、背中に手を伸ばす望月の君・・
しかし、心そこに非ずと言った表情になっていた。
自分の寿命も、あと僅かと察している望月の君・・
脳の腫瘍が広がりつつあった・・