161.謝罪
ピッピッピッピッピッ・・
美奈子の心拍音が、また早まった。
「どうしたの?美奈ちゃん?」
千佳ちゃんが気づいて、美奈子に聞く。
驚いたような・・
まるで、時間が凍りついているような表情で、廊下の方を見つめている。
皆が、その視線の方向に振り向くと・・・
「部長・・」
「お姉ちゃん・・」
僕と先輩が廊下に立っていた。
先輩には、皆と出くわす可能性が高いと言っておいたのだが、案の定の展開になってしまった。
千佳ちゃんは先輩を信用できないと言っていたし、僕が先輩を追いかければ、部活は止めるとも言っていた。
彼女のお母様も、先輩には会いたくないという事だった・・
先ほどまで住職にその真意を聞いてはいたのだが、本当の所はどうなのだろうか・・
彼女も、僕と先輩が一緒に居れば、あまりいい気分でも無いだろう・・
まさにKYな展開なのだが・・
あえて、先輩はこの場に来たいと言っていた。
伝えたい事があるのだと・・
何かを決意した感じがしていたのだ。
皆が、あっけに取られている中、凛とした表情で、病室に入って行く先輩・・
「望月さん・・
具合はどう?」
先輩の方から切り出した。
「あ・・
少し・・
胸が・・」
気を取り戻した彼女が答える。
「痛む?」
「はい・・・」
彼女の脇に置いてある心電計から吐き出されている長い記録紙を見る先輩。
ここに連れてこられた時の状態も記録されていた。
「こんなに・・・」
記録紙を読み取っている先輩が呟く・・・・
「美奈ちゃん・・
かなり弱って、ここに担ぎ込まれたんです!」
千佳ちゃんが責めるような口調で先輩に言い放つ。
「そうね・・・
全て・・
私の責任よ・・」
そう言って、俯く先輩。
それっきり、何も言えなくなってしまった皆・・・・
記録用紙を眺める先輩を見つめるだけだった。
僕も、どう切り出したらいいのか分からなかった。
だが、その沈黙を破ったのも先輩だった。
「私は・・
この事実を、
直視するために、来たんです・・
自分のした事を・・
確かめるために・・」
少し顔を上げて、静かに呟く先輩・・
「先輩!
そうやって、綺麗事を並べて、
同情させて、
許してもらおうなんて・・
思ってるんじゃないでしょうね!!」
千佳ちゃんが、更に先輩を責める。
その言葉に、振り向いて答える先輩。
「そうよ・・
許して欲しい・・」
千佳ちゃんを直視して、見つめる先輩。
その仕草に、少し、千佳ちゃんも動揺したが・・
「やっぱり!
いくら謝っても駄目ですよ!」
「千佳ちゃん・・」
「ヒロシ君は黙ってて!」
僕が止めに入ろうとしたが、先輩に止められた・・
「どんなに、私が謝ろうと・・
自分が改心したと言ったとしても・・
私への不信感が拭い去られる事は、無いって・・
覚悟してるわ!」
「また・・綺麗ごとですか??
ドラマみたいに・・
自分が『悪い』って言えば、
皆に許してもらえるって・・
そういう作戦なんでしょう?」
激しく対立する千佳ちゃん・・
皆も、先輩と千佳ちゃんの対話に、口が挟めなかった。
緊迫した空気が流れる。
彼女のお母様も、その様子を見守っているのみだった・・・
「どう思われても仕方が無いわ・・
今まで、私は、そうやってきたんだから・・
私は、あなたの思っている通りの女よ。」
「素直に・・
なるって事ですか??
そうやって・・
お利口さんになって・・!!」
ギリギリと歯をきしませている千佳ちゃん・・
「千佳ちゃん・・
私も・・
悪かったんだから・・」
彼女が見兼ねて止めに入った・・
だが・・
「美奈ちゃんも黙ってて!!
これは・・
私と・・
先輩の問題よ!!」
キッと先輩を睨む千佳ちゃん。
ゴーストバスター部の中でも、千佳ちゃん以外に先輩に不信感を抱いているメンバーは居ないようだった・・
それは千佳ちゃんも承知している感じがした。
「宮脇さん・・・」
千佳ちゃんを見つめる先輩・・
先輩は見ていた記録紙を機械に戻し、千佳ちゃんの方に向けて正面を向く。
その場に膝をついた先輩・・
「何?
何のマネ??」
動揺する千佳ちゃん。
膝の前に、両手をついて、深々と頭を下げる先輩・・・
千佳ちゃんの前で、土下座をする。
「お・・お姉ちゃん・・」
プライドの塊のような先輩が、皆の前で頭を下げて謝っている・・・
「ごめんさない・・」
目をしっかりと瞑って皆に謝罪する先輩。
その出来事に、一同が言葉を失う・・・
だが・・
「ど・・
土下座??
ふざけないでよ!!」
強がる千佳ちゃん・・
「千佳ちゃん・・」
「いい加減にしてよ!
謝って済む問題じゃないのに!!」
「・・・・・」
その言葉に、何も言わずに、ただ単に頭を下げている先輩。
「頭を下げれば・・
何でも・・
許されるっての??」
「千佳ちゃん!
あなた・・この子は!!」
お母様が見かねて、千佳ちゃんを宥める・・
だが・・
「バカみたい!!
そんな事されれば・・・
こっちが、悪者に見えるじゃない!!
タクム!
行くわよ!!」
その場を去ろうとする千佳ちゃん。
「え?何処へ??」
「おじいちゃんが剣術の指南するって言ってたじゃない。
忘れたの?」
「あ、そうか!」
家に帰って夕食の支度をするという事だった。
「じゃあ、美奈ちゃん、お大事にね!」
「うん・・」
急いで、病室を後にする千佳ちゃん。
「待って!!」
今まで土下座をしていた先輩が呼び止める。
「な・・何よ・・」
動揺しながら振り返る千佳ちゃん。
頭を上げると、先輩の目には涙が溢れ、頬をボタボタと涙が伝っていた・・
一同が、その表情にあっけに取られている・・
「私も・・
私も!・・
剣術を習いたい!・・」
涙で訴える先輩・・
その表情をチラッと見て、向こうを向く千佳ちゃん・・
「警察の・・
警察の剣道場で7時からよ・・・
勝手に来れば!」
その言葉を残して、廊下を足早に去って行く千佳ちゃん。
「待ってよ!おねえちゃん!」
拓夢君と沙希ちゃんが、その後を追う。
「千佳ちゃん・・・」
その後姿を見守る彼女・・・