151.結末
「やめなさい!!!」
大人の女性の声がして、ハッとなった先輩。
ガシ!!
同時に、後ろから羽交い絞めにされ、身動きが取れなくなる。
「あ!・・あ!・・・」
声にもならない、うめき声を上げて、もだえる先輩。
何が起きたのか、自分でも分からなくなっていた。
「先輩!
オレです!!」
「オ・レ・・・・?」
顔を横に振ると、僕が居た・・・
「ヒ・・ロ・・シ・・君?・・」
放心状態の先輩が、今まで握っていた短刀を放し、スッと落ちた妖刀が地面に突き刺さる。
「その様な、殺気に満ちた気では、
霊を成仏には導けない!!!!」
「殺・・気??
・・・
陽・・子・・・さん・・・」
振り向いて我に返った先輩。
彼女のお母様が、先輩の様子を見届けて、妖麗の方へ向かって、話し出す。
「そこの下僕の霊よ!
無力である事の
恐怖が分かったか!!!」
先輩の前で腰を抜かしている妖麗に、お母様が叫び伏せさせる。
「は・・
は・・い・・」
涙目でお母様の方を見つめる妖麗・・・(僕には見えないけど・・)
更に、話を続けるお母様・・
「そなたは、一度、地獄に落ちて、
今生での悪行の報いを受けよ!
そこで、修行し、改めて、この世での精進が許される!!
南無大師遍照金剛!
大日如来のご加護を得ん事を祈るがよい!!」
「大日・・如来・・・」
呟いて、手を合わせ、目を瞑る妖麗・・・
だが、その時・・
バババッバッバッババ!!!!!!
一陣の風が吹きすさび、辺りに砂塵が巻き上がる。
「うわ!!!!」
そこに居合わせた僕や、先輩、お母様が、その攻撃に怯む。
砂埃の中、放心状態の妖麗を抱いた星熊童子が立ち塞がっていた。
「童子か!!!」
お母様がいち早く身構える。
「おのれ・・・
よくも・・・
妖麗を!!!」
「貴様も、
この世での悪行の数々の報いを受けねばならない!!」
「黙れ!!!
全ては、そなたの一族・・
望月家の・・・
いや!
望月の君と、頼光の血を受け継ぎし・・
『光』の因縁だ!!!
この恨みは・・・
百代先まで祟っても晴らせぬ!!!!」
「そんな・・・
何百年も前の・・事を!!!
こちらも、
貴様らの執念で・・
血を流している!!!」
「何百年、何千年経とうが、
そなたの血を・・
ヤスマサの血を・・
この世から抹消するまで・・
我らは戦い続ける!!!」
「く!!
ラチもない!!!」
身構えて攻撃を加えようとするお母様・・
「此度も・・
命だけは
助けてやる!!!!」
バシュー!!!!!!!!
地面が激しく爆発し、再び辺りは砂塵で見えなくなる。
「う!!!」
腕で、顔を覆い隠すお母様・・
その砂埃が止んだ時・・・
童子と妖麗の姿は無かった・・・・
放心状態の先輩・・僕にしがみついている。
「先輩・・大丈夫ですか?」
「私・・・何が・・何だか・・・」
無我夢中で短刀を振り回していた先輩。
少し落ち着いたようだが・・・
「パパ・・パパが、林の中に!」
少年を追っていたパパを思い出した先輩。
「パパ?」
お母様が聞き返す。
「私の元夫です!」
一緒に来ていた先生が代わりに答えた。
「林の中で、わら人形を打ち付けていた少年を追って行ったんですが・・
陽子さん、ここは私とヒロシ君で守っています!」
先輩の言葉を聞いて、林の中に入っていく彼女のお母様・・
少し林の中を入っていくと・・
「パパ?」
童子に攻撃され、倒れているパパを発見した。
駆け寄る陽子。
「大丈夫?」
腹部に重症を負っているのか、手で押さえて苦しそうなパパ・・
「う!
童子に・・
やられました・・・
あの、パワーは・・
私など、足元にも及ばない・・・」
「手当てを!」
「いえ・・
自分で治せます・・・
それより、
未来ちゃんは!」
「かすり傷程度です。
・・・・
でも、
問題は、それだけじゃないけど・・・」
「問題?」
その問いには答えず、辺りを見回す陽子。
「ワラ人形を打っていたっていう少年は?」
「取り逃がしました・・・
童子も、少年を逃がすのが目的だったみたいで・・・」
「あれは・・・」
正面の木の幹に、何かを発見した陽子が、そこへ近づく。
呪いのワラ人形が幹に打ちつけられていた。
顔に「望月美奈子」の名前が書かれた張り紙・・・
「これは・・・
確かに、古から都に伝わる・・・」
美奈子から聞いていたが、陰陽師が使用する本格的な儀式用の人形・・
その場で、九字を切って、呪いを解く陽子。
ブチ!
ワラ人形をむしりとる。
「童子に操られている少年・・・か・・・
厄介な相手ね・・・
確かに、
この少年を探すのも重要なのかも知れないけれど・・・」
振り向く陽子。
木にもたれかかって、自分を治療しているパパ。
かなり重症のようだった。
「犠牲が、かなり出たのね・・・
このままで済めばいいんだけど・・・」
林からワラ人形を持って、出てきたお母様。
「陽子さん!」
先生が、気づいて呼ぶ。
「これが、あったわ・・・
美奈子から聞いていたけれど、
強力な呪術用のワラ人形ね・・・
人の命を奪う事も出来るわ・・・」
「そんな、人形で、望月さんは・・・」
「さっきも、かなりのダメージを受けたみたいです。
当面、安静にしていないと・・・」
「少年は!
少年の行方は?」
僕にしがみつきながら先輩がお母様に聞く。
「パパも童子から攻撃をされて、重症よ・・・
少年も見失ったみたいね・・・」
「そんな・・・」
途方に暮れる先輩。
「その少年の正体を暴く為に、
多大な犠牲を出したわ・・・・
水島さん・・
あなたのやりたかった事は・・
こういう事なの?」
お母様が先輩に問いただす。
「・・・・・
こんな・・・
事に・・・」
中空を見つめている先輩。




