148.公園で
丘の上の公園の樹林帯・・
その一本の木に向かって、一人の少年が幹に打ち付けられたワラ人形に5寸釘を撃ちつけていた。
ワラ人形の頭部には、「望月美奈子」と書かれた紙が貼り付けられ、胸の部分に突き刺さる5寸釘・・・
頭に鉢巻を撒き、そこに大きなロウソクを二本灯して、不気味な雰囲気となっていた。
大きく金槌を振りかぶって、5寸釘の頭を目がけて振り下ろす。
ビン!!!!
「ぎゃ!!!!」
5寸釘の頭が欠け、少年を目がけて飛んできた。
額に五寸釘の欠片が当たり、悲鳴をあげる・・・
呪いを受けている相手が結界を張り、その効果が、仕掛けている本人に跳ね返ってくるのだ。
額を押さえる手の隙間から流れてくる血・・・
「ううう・・・」
その脇に立つ、星熊童子・・・・
童子が憑依して、この少年を操っていたのだった・・・・
「結界を張ったか・・・
今宵の攻撃は、ここまでか・・・」
呟く星熊童子・・
「聖様!!!」
その声に振り向く星熊童子。
「妖麗か・・
守備はどうだ?」
「はい!中校舎で足止めをしました。
美奈子は動けないはずです!」
「ふふ・・
これで、かなりのダメージを受けているはずだ・・・」
あざ笑う星熊童子。
「この少年も、呪いの反動を受けたようですが・・」
跪いている少年に気づく妖麗。
「うむ・・
こやつの正体がばれないうちに、
引き上げねばならぬ・・」
「都会と違って、貴重な工作要因ですからね・・
う!・・」
妖麗の方を改めて見る星熊童子。
「妖麗!
傷を負ったのか?」
左手の爪が折れている。
指先も火傷を負っているようだった・・・
「この程度・・何ら支障はありません・・・」
「都会に戻って、女子の生気で癒すのだ!」
「はい・・あれが一番効果がありまする・・」
ニヤッと笑う妖麗。
女子の生気・・・都会で起こった集団女子高生の自殺によって犠牲になった少女たちの生気で、妖麗の体を再生していたようである。
その時・・
ブルルル・ブルルル・・・
その少年の持つ携帯が鳴っている。
ポケットから携帯を取り出した・・メールの様である・・・
ピ・・
メールに表示されたメッセージ・・・
未来がそちらに向かっている
そこから、速やかに撤退せよ
Hijiri
都心に潜むHijiriからのメールだった。
街の各地に設置してある防犯カメラに映った先輩の姿を捉えていた。
了解
聖
メールを返信して、それまでに交信していたメールの内容を消し始める。
妖麗に再び、話し出す星熊童子。
「未来が向かっている様だ・・
シンガリを頼む!」
「御意!
既に、
一人、来ている様です!」
そう言って、公園の広場の方へ向かう妖麗・・
「どこに居るんだ?
この公園のはずだが・・・」
公園の広場にパパが到着していた。
呪いのワラ人形の衝撃波は止まっているが、この公園の方から来ていたのは確かだった。
樹林帯の方へと向かおうとした時・・・
「貴様は!!」
パパが立ち止まる。
樹林帯の方からゆっくりと出てくる妖麗の姿があった・・・
「ここからは、何人たりとも通す事、まかりならぬ・・・
命が欲しければ立ち去られよ・・」
余裕で立ち塞がる妖麗。
長い爪で威嚇する。
命が欲しくて・・と言われても既に死んでいるパパ・・
霊気を消されて、再起不能にでもなるのだろうか?
「く!
童子の手下か!
やはり、
この場所で、儀式を行っていたな!!」
身構えるパパ。
先日の戦いでは、手下と言えど、低級霊の霊力を吸収し、童子と互角の霊気を放っていた。
同じタイプの悪霊ならば、油断が出来ない。
キキー・・・
自転車で走って向かっていた先輩が駆けつけてきた。
「パパさん!!」
霊感ケータイで、パパの位置を確認する先輩。
公園の広場の真ん中の水銀灯の下あたりに、パパの姿があった。
戦闘態勢になって、構えている目線の先に、浮かび上がる妖麗・・・
「あなたは!!!この間の!!」
その声に、振り向く妖麗の姿が映し出される。
教頭先生の実家の門の前で、対戦した相手・・
妖麗・・
小学校高学年くらいの容姿だが、その指先に伸びた長い爪で威嚇している。
片方しか爪が無い所を見ると、負傷していることが分かる。
彼女と戦った時なのか・・
チャラララ・チャラララ・・
霊感ケータイが鳴り響き、自動で通話に入る。
「ふふふ・・
また会ったな・・・
ヤスマサの侍女よ・・・
今宵は、前の様にはいかぬぞ・・・」
「ヤスマサの・・侍女?」
「未来ちゃん!携帯の電源を切るんだ!!!」
霊感ケータイに更にパパの声が入って来た。
通話によるエネルギー消費は早いのだ。
「はい!」
ピ・・
電源を切ったが、はぁはぁと息が切れている先輩。
ほんの数秒足らずの通話でも、100mを走ったくらいのエネルギーを消費している。
霊感ケータイでも攻撃できる・・
ヒロシから携帯を渡された時の言葉を思い出す。
悪霊は一方的に通話してきて、霊感ケータイの持ち主の生体エネルギーを消費させる攻撃をしてくるのだ。
霊感ケータイが使えない以上、自分の目でしか妖麗を追う事はできない・・
目を凝らして、先程の場所を見ると、ぼんやりと光が見えた・・・
「あそこね・・・」
自転車のかごの手提げ袋から、棒状の物を取り出す先輩。
それは、陽子から預かった、妖刀・・晦冥丸であった・・・
鞘から短刀を抜く先輩・・
妖麗に向かって構える。




