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霊感ケータイ  作者: リッキー
現場
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142.強襲


「ありがとうございました。」


携帯を先生に渡す先輩。


「今西さん達は、動けないの?」


「ええ・・今日の攻撃を考えると、まだ、陽子さんを狙ってきてるみたいで・・」



「油断もできないのね・・」


「学校はセキュリティーが万全じゃないから、安全なんですが・・

 先生も気を付けてください。」



「わかったわ・・

 でも、防犯態勢が万全じゃないのが安全って・・

 皮肉なモノね・・」


防犯カメラがあちこちに設置されている現代では、そのカメラをハッキングされてしまえば、逆に監視されているも同然だ。


そういった監視から逃れるには、セキュリティーの低い場所の方が有利と言うのも、先生の言う通り、皮肉なものなのかも知れない。



「台車、置いて来ましたよ。」


僕が1階の管理人室の方から戻ってきた。


「ありがとう。ヒロシ君。」



「あ・・昼間のニュース・・やってるんだ・・・」


TVに流れるニュースが目に入る。


「さっき、今西さんと連絡を取ったところよ。」


先輩が僕に報告する。


「無事に、アパートに帰れたんですか?」


「ええ。陽子さんも無事に帰れたみたいよ・・」



TVに彼女のお母様が追突してくる車を間一髪で除ける映像が流れていた。

昼休み、拓夢君のパソコンで見たモノよりも、32インチの画面で見ると臨場感がある。


本当に、マスコミの見ている前で、事件が起こったなんて・・無事で何よりなのだ。



「当面・・出歩かない方が良いですよ!

 こんな事件に巻き込まれていれば、いつかケガをしますよ!」


「ええ・・さっき、今西さんにも、そう言っておいたわ・・

 でも、あの人達の事だから、閉じこもっている事も出来ないと思うけど・・・」


確かに・・今西さんも彼女のお母様も、活動的だから、先輩の言う事を聞いている人達ではない・・



「やっぱり、霊感ケータイは、私が持っていた方が良いのかも知れないわ・・」


呟く先輩・・







「オレの霊感ケータイ・・・

 先輩が持ってた方が都合が良いと思いますよ。

 ミナには反対されたけど・・」


僕が霊感ケータイを取り出して、先輩に見せる。


「そうね・・反対されるでしょうね・・・」



「この携帯は、通話料が生体エネルギーなんです。

 疲労も早いから、長電話は命の危険に陥る・・


 相手が悪霊の場合は、一方的に通話してくることもあるんです。

 そういう時は、早めにスイッチを切らないと、知らない間に、フラフラになってしまう。」


霊感ケータイについて説明する僕。



「霊感ケータイを利用して、攻撃するのも可能なわけか・・・」


先輩が呟く。



「それに・・

 故意に、命を断つ事もできるんです。」


「自殺に・・使えるって事?」


「ミナの前の持ち主は、これで、命を絶ったって聞いてます。」



「そう・・ヒロシ君は使い慣れてるけど、

 本来は、危険な道具なのね・・」


「母とメールで連絡を取る程度なら、安全だと思うんですが、

 命を使う道具だって・・注意して使って欲しいんです。」


「わかったわ・・」


霊感ケータイを先輩に手渡す。

僕が彼女から譲り受ける時は、物凄い重みを感じた。


たった100グラム足らずの小さな板・・

それが、人の生死を分け隔てなく繋ぎ、自らの命もすり減らす道具なのだ。


先輩は、どの様に感じたのだろう?






「この携帯が無いって事は、ヒロシ君も先生も危険にさらす事になるのよ・・

 最終手段として、パパを召喚できる・・。」



「そっか・・

 あの人を呼べば、良いワケか!」


先生が納得している。

パパは地獄で特訓し、かなり力もつけてきている。守備系で鍛えているパパが居れば安心なのだ。



「私が、毎朝、迎えに来ます。

 夕方も一緒に帰る事になるんです。」


「水島さんがボディーガード役になるわけね。

 望月さんは、どっちかと言うと、そっちが気になってたみたいね・・

 ヒロシ君を盗られるって、心配してたけど、私も一緒だって分かれば考えも変わるかもね・・

 私から言っておくわ・・」


「お願いします。」


先生と先輩の間では、了承された。

彼女が気がかりと言う事か・・


僕からも、良く言っておこうかな・・・

今は都心に居る今西さん達と密に連絡し合う必要があるのだ。



「あ、充電器もあったんだ!」


思いだして、部屋へ取りに行く僕・・




「待って!」


先輩も僕の後を追った。そんな光景を、微笑んで見ていた先生だが・・



「あ!夕食の準備しなきゃ!」


キッチンへと戻る先生。









僕の部屋・・


僕の入る前は、翔子ちゃんの部屋だった。ベットは僕の家から持って来たモノだが、机や家具は小学校の女の子の物がそのまま置いてある。

机の上の携帯の充電器のコードを抜いて、先輩に手渡そうとした。


 カチャ・・


先輩が、ドアのカギを閉める。


「ヒロシ君・・」


ドアの前でポツリと言った先輩。



「どうしたんですか?」

そう言って、振り向こうとした時・・・


 フワッ・・・


先輩が、僕に抱きついてきた。

というか、僕をベットに押し倒して、僕と一緒にベットに飛び込む先輩・・



 バフ!!


僕の上に乗って、僕の胸に顔を押し当てている。




いきなり、何が起きたのだろう?



「ど・・どうしたんですか?」


ワケがわからずに先輩に聞く。

ムクッと顔を上げて、僕の上に四つ這いになり、顔を寄せる先輩・・・



「うふ・・


 分からないの?


 ヒロシ君を


 襲ってるのよ!」


不敵な笑みを浮かべる先輩・・

今までの大人しい感じではなくなっていた・・・



「え?」


これが、『襲う』って事???

戸惑っている僕の目の前で、かけていた眼鏡を外す・・


近眼なので、伏し目がちになる先輩・・


可愛い・・っていうよりも・・美人だ・・・


思わず、クラっとなった僕・・・




「ねえ・・


 抱いて・・・」


先輩の顔が、急に切なそうになった・・・







何も言えない僕に、更に、話を続ける先輩・・



「私・・

 さっきのニュースを見て、ちょっと恐ろしくなったの・・・


 本当に、陽子さん達が命を狙われているんだって・・・

 都心の集団自殺もそうだけど・・

 Hijiriや童子は、人の命を奪う様になってきてる・・


 私は・・

 そういう相手と戦ってるんだって・・

 思ったら・・


 怖くなってきた・・・」


「先輩・・」


「みんなを、守り切れるのか・・・

 私の判断ミスが、誰かを傷つけ・・

 死に追いやってしまったら・・」



「大丈夫です・・」


必死に答える僕を無視するかのように、話を続ける先輩・・


「それに・・・

 博士の実験も・・

 あんな事になるなんて・・

 思ってもみなかった!


 私が、今までやってきた事って・・

 あんな惨い事をするためだったなんて・・・」



先輩の目に涙が溢れていた・・


先輩だって、女の子なんだ・・・


頭脳明晰で、洞察力もあり、判断力もある。


人を引っ張って行く素質はあるけれど・・


人を指示、指導していく力はあるけれど、


その重圧に押しつぶされそうな時もある。

不安にかられる時もあるんだって・・


そして、

自分のしてきた事に自信を無くす事もある。

自分の思ってきた事と全く違った価値観を見せられた時・・

先輩の芯の部分にあったものが・・

音を立てて壊れていくような・・


そんな気がした・・








そんな時、僕に出来る事・・





先輩の背中に手を廻して、




ギュッと引き寄せた・・・






「あッ・・・」





先輩が短く声を上げた・・




頭に手を添えて、優しく撫でる・・・





「大丈夫・・・



 大丈夫です・・・」




そんな言葉に、何の保証も無い・・・



僕の言葉なんて、その場しのぎの、薄っぺらいもの・・・



何ができるわけでもない。



先輩の代わりに、良策が出るわけでもないし、



都心へ行って、母達のサポートに廻れるわけでもない。



行ったとしても、霊感も何もない僕に、



一体、何が出来るって言うんだろう・・・





ただ、



先輩を安心させたかった。










「うん・・・



 大丈夫だよね・・・」




僕の言葉に肯く(うなずく)先輩・・



ここで、何か、気の利いた事を言わなければならないのだろうけど・・・



男なら




女の子を安心させられるような、言葉を・・




「・・・・・・・・」



コトコトと台所から先生の包丁の音が聞こえてくる。




浮かんで来ない・・



頭だけを撫でるだけで・・




物想いにふける・・





そんな僕をフッと見た先輩・・




 クスッ・・




僕を見て、思わず笑った先輩・・




「な・・何ですか???」



こっちは、真剣なのに!



どうせ、ボキャブラリーの少ない中学生ですよ・・



僕は・・





「うふふ!

 ゴメン!

 ヒロシ君見てたら・・

 面白くって・・」


「面白い???」


何か、遊ばれてるようで、こっちは面白くない!

赤面する僕に・・


「大丈夫!

 私は、大丈夫だよ!

 ヒロシ君と居られれば、

 それでいいよ!」


「もう!」


どこまで、本当なんだか!・・

人が、心配して、気を落ち着かせようって頑張ってたのに!



そんな怒り気味の僕に・・


「ごめん・・

 私を

 励ましてくれたんだよね・・・


 ありがとう・・

 ヒロシ君・・」


そう言って、目を細めて、

唇を寄せてきた先輩・・



二人、目を閉じて、抱き合った・・・











  ごめん・・






   ミナ・・・




コトコトと、先生の包丁の音が聞こえた・・・







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