141.連絡
先生のマンションに到着した僕と先生、先輩。
「ヒロシ君、生協の荷物をお願いするわ!」
「はい・・」
管理人室の前に、昼間届けられた生協の荷物が積んである。
昼間、買い物に行けない先生は、こういった宅配サービスをよく、利用する。
食材などが発泡スチロールの箱の中に入っていて保温されている。3箱くらい積まれている。
野菜や食肉、冷凍食品などが入っているのだが、これが意外に重い・・・
管理人室の脇に台車が用意されていて、その上に荷物を置いて、ガラガラと運ぶ。
「凄い量ですね・・」
先輩が感心している。
「ホント・・童子の監視があるから、滅多に買い物にも行けないのよね~
生協も配達は1週間に一度だから・・」
先生が嘆いている。
「これ、一週間分ですか?」
「そうなのよ・・・
ヒロシ君も食べ盛りだからね・・
お弁当も3人分だから、どうしても量が多くなるのよ・・」
え?僕の影響で、これだけ荷物があるの??それは罪悪感も伴ってしまう・・・
「オレ・・
食べる量・・減らしましょうか?」
食べるのが悪い気がして、先生に提案する僕・・
「あ・・大丈夫よ!
どのみち、スーパーで買うかのどっちかだから・・」
焦って間をつくろっている先生・・
まぁ、生協で買うにせよ、スーパーで買うにせよ、一週間分の量はそんなに変わらないのだろう・・
ただ、毎日自由に買い物が出来れば、荷物の量も少なくて済むのだ。
「憎むべきは、童子よ!
早く、退治しましょう!!」
先生も意外な方向から、童子の対応を迫られているのだった・・・
ガチャ・・
「ただいま~」
鍵を開けて、ドアを開けて、誰も居ない部屋に帰りの挨拶をするのも変なのだろうけれど・・
一応、挨拶をして入る・・。
習慣というモノなのだろうか・・
生協の食材を冷蔵庫の方まで持って行き、僕は台車を管理人室の所まで返しに行く・・
先生が、冷蔵庫に食材を入れている間に、先輩が居間のテレビのスイッチを入れた・・
夕方のニュースだが、昼間に都心で起こった事件が報道されていた。
朝の集団女子高生自殺と合わせて、マンションに軽自動車が突っ込んだ事件が繰り返されている。
「相変わらず、盛大に報道してるわね・・」
冷蔵庫のドアを開けながら、先輩に話しかける先生・・
「はい・・
じっくり見なかったけど、凄い事になってたんですね・・」
先輩は、霊感ケータイで僕の母から中継の連絡で、おおまかには様子を掴んでいたようだが、
実際に、その事件に関与していたというのを、改めて感じながら、TVの画面を見つめている。
軽自動車がマンションの玄関に突っ込む直前、立ちすくむ女性レポーターを導いて、間一髪で除ける陽子の姿が映されていた。
ニュースの解説員とコメンテーターの会話のバックで、繰り返し、繰り返し、その映像が流れている・・
車が、マスコミのカメラ陣の中を抜け、
彼女のお母様が、寸前で除ける・・
目の前で起きた惨劇を必死にレポートする女性レポーター
そして
お母様と野口さんらしき人物が、走って逃げる・・
何度も・・何度も・・
その映像を、ずっと見ている先輩・・・
「凄いわね!陽子さん!!」
対面のキッチン越しにTVを見る先生が、驚いている。
その声に、ハッと我に返る先輩。
「何か・・
後になってみると、身がすくむ思いですよ・・
一歩間違えば、大変な事になっていたんですから・・」
「都心は都心で、厄介な問題続きなのね・・」
「それでも、警視庁が力を貸してくれることになったみたいで・・」
「今西さんと連絡してみる?」
先生が携帯電話を渡そうとキッチンから出てきた。
「でも・・通話料、結構かかりますよ・・」
「そ・・そうよね・・」
通話料金を考えると、躊躇してしまう先生・・霊感ケータイならば、通話料金はかからないのだけれど、ダイレクトに連絡が取れないのが不便でもある。
「う~ん!
仕方が無いわ!童子との対決なんだもん!!!
憎むべきは、童子よ!!我が家の家計も直撃よ!!」
決心をして、電話を渡す先生・・
自由に買い物にも行けず、携帯の料金はかさみ、
僕の生活や家計に大きな影響を与えている童子との対決・・
早く退治せねば!!(僕の小遣いに響くかも・・)
「わかりました。
連絡してみます!」
今西さんの安否を確認し、不安を脱ぎ去りたい先輩・・
トゥルルル・トゥルルル
「はい、今西です・・
・・
ああ!水島さん?」
都心の弘子さんのアパートに厄介になっている今西がかかってきた電話に出る。
この日は、マンションの前での追突事故以来、日中はアパートにこもっていた今西。そして陽子・・
「良かったです!
無事に着けたんですね!」
「ああ!
水島さんのアドバイスで、
何とかなってるよ!」
「あの・・陽子さんも?」
「陽子は、目の前の事故で、ちょっと動揺してたけど、
今は気が落ち着いてるみたいだ。」
「そうですか・・
でも、無事で良かったです。
TVとかの映像を見ると、
本当に寸前で逃げてるから・・」
「ああ・・
紙一重で命拾いしてるのも、
水島さんの御蔭だって思ってるよ。
陽子も、ね!」
チラッと、陽子の方を見ると、微笑んで合図をしている姿・・
今西の声を聞いて、少し安心した先輩。
次の展開に移らねばならない。
話題を変える先輩・・
「それで、あの後はどうでした?
警視庁の調べは、順調なんでしょうか?」
「野口に、自動車の事も含めて、探ってもらっているよ。」
「TVだと、SNSゲームの名前が公表されています。
既に、新規会員が30万人以上になっているので、Hijiriにとっても好都合になってます。」
「マスコミは、とにかく報道したがるからね・・
もう規制は効かないよ・・」
「霊感ケータイのアプリについては、内密にして欲しいんです。」
「野口に言っておくよ・・
ところで、樋口って検視官と直接連絡を取りたいって話だけど・・」
「Hijiriについての情報を、交換できればって思っているんです。」
「うむ・・警視庁が力を貸してくれれば、心強いんだろうけどね・・
こっちは、今後、どういう動きをすれば良いのかな?」
「そうですね・・
今日の件で、陽子さんは、まず、狙われているのは確実です。
携帯でHijiriに操られてる人も増えると思います。
そこから出ない事をお勧めします。」
「ここで、陽子と二人か・・・」
「編集社も警視庁も監視されてると踏んでいいと思います・・
危険な場所へは行かない事です・・
携帯も、通話は良いですが、メールは控えて下さい。」
「わかったよ!
野口とは通話のみの連絡にするよ!」
「大変だとは思いますが、
頑張ってください。」
「ありがとう!」
先輩との通話を切る今西。
「水島さん?」
陽子が、電話の相手を確認する。
「ああ・・
この場所は動かない方が良いそうだ・・」
「そうね・・
昼間の攻撃を考えると・・
私はずっとマークされてるみたいだしね・・・」
「動けないのは、残念だが・・
君の命もかかっているんだ・・
ここは辛抱しなければな・・」
「今西君と、二人っきりになるワケ?
ちょっと・・・それは・・・」
「あのな~・・
もう一人、響子が居るって事も忘れちゃ困るよ!
3人何だよ。3人!」
考えてみれば、幽霊の監視付きなのでもあった・・昨日の教頭先生との密会からずっとなのだ。
「そうね。
響子が居れば、あなたも滅多な事は出来ないものね・・」
安心した表情で、微笑む陽子。
「全く!
幽霊と一緒なんて・・・
考えただけでもゾッとするぜ・・」
今西君・・ここは我慢だよ!




