134.現場検証
マンションの前に群がるマスコミをかわして、ブルーシートが張られている玄関脇へと向かった。
警護している警官に警察手帳を見せて、中に入る野口。
陽子も後に続いた。
ブルーシートの中なら
監視の目も行き届かないはずです。
現場を注意深く観察してください。
未来
「了解よ!」
陽子が返事をする。
玄関の反対側・・
マンションの裏側の広場に、人型に白線が引かれていた・・
頭部の部分に出血の跡がビシャっと飛び散ったように黒い染みになっている。
「ここが、現場だよ・・」
野口が指し示す・・
「ここが・・・」
10階建てのマンションの屋上から、女子高生が飛び降りたという・・
手には携帯電話が握られていたらしく、数m先に所持していた携帯電話の位置がマークされていた。辺りに壊れた破片が散乱している。
見上げると、2階の手摺から張られたブルーシートの隙間から、飛び降りたであろう屋上がちらっと見える。
30mも上方から落下すれば即死であろう・・・
如何に「死」に直面する場面を多く見てきた陽子であっても、想像すると居た堪れない気持ちでいっぱいになる・・
早速、霊視を始める陽子・・
目を瞑り、周りの気を読み取る・・・・
だが・・
「おかしい!」
陽子が叫ぶ。
「どうしたんだ?」
野口が問いただす。
「ここには・・・
霊も居ないし・・
思念波も消えている!」
「霊が居ない?
成仏したんじゃないのか??」
野口も多少は霊の世界を容認している。
今西とまではいかなくても、知識はあるようだった。
「野口君!
遺留品はある?」
「ああ・・
まだ、検視官が引き返してないから、
あると思うが・・」
近くの検視官に、遺留品の場所を聞く野口。
シートが地面に敷かれ、そこに遺留物が一個一個ビニール袋に入れられて置かれていた。
壊れた携帯電話や靴の破片、髪止めなどが入っている。
それらに、手をかざして、気を探る陽子・・・
「おかしい・・
ここにも、思念波が・・残ってない・・・」
「どういう事なんだ?」
「思念波まで消えているって事は・・
意図的に、この場の証拠を隠滅している!!」
「証拠隠滅??
『犯人』でも居るっていうのか???」
霊の世界で犯人がいるというのもおかしな話だったが、そうと考えるしかないようだった・・・
「そうよ!
相手も、用意周到!
霊能者に・・・
いえ・・
私に、証拠を掴ませない・・
誰かの仕業なのよ!」
「君に・・
証拠を掴ませない・・
だって???」
「実体の世界と、霊の世界の両方から、工作をしている!
こんな芸当ができるのは、Hijiriと童子しかいない!」
そう叫んだ時、響子が助言をする。
「陽子・・
証拠が残っていないのなら・・
ここは、あまり深入りしないほうが良いのかも知れないわ・・」
「そうね・・
水島さんに連絡してみて!」
陽子が中空に浮かぶ響子に指示をした。
これは、罠の可能性があります。
直ぐに
その場を離れてください
未来
「屋上も見た方がいいのかしら?」
陽子が再度、先輩に聞く。
いえ、
長時間の滞在は
危険です
未来
「了解よ!
野口君!
駅まで
走るわよ!」
「何が起こったんだ?」
「いいから!」
ブルーシートをまくり上げて、3人が現場の方から姿を表わした。
マスコミのカメラが一斉に、陽子達に向けられた。
TV局の中継の時間になっていた。
「まずい!」
一瞬、そう思ったが、そのまま走り抜けるしかない。
壁伝いにマスコミの脇を通り過ぎようと方向を変える。
野口刑事と樋口は、マスコミの人ごみを通過できたが、陽子が取り残された。
「事件は、どのくらいまで捜査が進んでいるんですか?」
女性レポーターにマイクを向けられる陽子。
ハンチング帽を下げて、顔を隠すが、
「あれ?あなたは・・
女性?」
不思議に感じたレポーターが呟いた。
「すみません!通して下さい!」
必死にマスコミをかき分ける陽子・・
女性だという事で、恰好の餌食になっている。
その時・・・
キキー!!!!!!!
急ブレーキの音がした。
以前、駅前のロータリーで今西と共に襲われた時と同じだ!
「皆さん!逃げて!!!」
陽子が叫ぶ。
その異変に気づいて、マスコミが一斉に振り向く。
脚立に乗っていたカメラマン達が、その場を離れる姿を見て、周りのマスコミも危険を感じ、避け始める。
「わーーー!!!」
逃げ遅れたマスコミ関係者が数人はじき飛ばされて、軽乗用車が突進してきた。
「危ない!!」
すくみ上っている女性リポーターを抱えて、脇へと逃げる陽子。
ガッシャーン!!!!!!!!
マンションのエントランスに突っ込んで止まる軽自動車・・
玄関先のガラスが割れて散乱し、自動車の前面が大破している。
運転席のエアバックが展開し、身動きが取れなくなっている運転手。
その手に、携帯電話を携えて放心状態だ・・・
間一髪で自動車の進路から逃げる事が出来た陽子とリポーター・・
「な・・何が・・・起きたの?」
倒れ込んでいる女性レポーターが目の前の自動車を見て叫んでいる・・。
マスコミ関係者も唖然としている。
「野口君!逃げるわよ!!」
「わかった!!
望月!!
こっちだ!!」
何事が起きているのか分からないが、命を狙われているのは理解した野口。
その場をいち早く離れる・・・
都内のネットカフェ・・
モニターを前に、あざ笑うHijiri・・・
「ふふふ・・
予定通りだな・・」
画面にはTVの中継の映像が表示されている。
マンションの玄関前で大破した自動車・・
慌しいマスコミの様子・・
「女子高生の自殺現場に、突如、自動車が突っ込んできました!!」
リポーターが必死になって報告をしている。
「さて・・
陽子達は、何処まで行ったのかな?」
モニターを切り替えるHijiri・・
地下鉄のホームの映像が映し出される。
ファン!
電車がホームの前に滑り込んできて、ドアが開く。
ゾロゾロと乗客が降り出し、それを待っている人の中に、あの3人が映っていた。
「この先は監視不可能か・・
さすがは・・水島未来・・的確な誘導だ・・
最も・・
奴らの追跡が目的ではないがな・・・」
そう言って、モニターを別の画面に切り替える。
陽子達の追跡をしないという・・・
では、今回の目的とは?
ハア・・ハア・・・
何とか地下鉄に乗り込んだ3人・・
「大丈夫か?望月!」
吊革につかまりながら、陽子を気遣う野口。
「ええ・・・
何とかね・・・
でも、
樋口君の方が、疲れているみたいだけど・・」
ドカッと席に座って、ゼイゼイと息が荒い樋口。
「俺たち外回りと違って、
日頃から、あまり運動していないからな・・」
「10年分・・
くらい・・
走りました!」
呟く樋口・・
「ふ!バカモンが!!」
半分、軽蔑した目で見る野口。
「でも、今日はこれ以上の詮索はしない方が良いわね・・」
「ああ!
望月たちが狙われてるって事は、分かったよ!
しかも・・
無差別に犠牲者を出すなんて・・普通じゃない!」
「マスコミの人達・・・大丈夫かしら?」
「わからない・・
自殺の件も合わせて、結果は報告するよ・・」
「お願いするわ!
響子!水島さんに連絡して!」
車内の宙空に叫ぶ陽子。
周りの乗客は、あっけにとられている・・・
集団・女子高生自殺の件が、
童子やHijiriの仕業だという事が分かっただけで
成果はありました。
昼からは、授業に出るので、アドバイスは難しくなります。
なるべく出歩かない様にしてください。
樋口さんとは、コンタクトを取りたいです。
メールアドレスを教えてください。
未来
「了解です・・」
呟く陽子。
「その、水島って子・・
凄く、キレるんだな・・
頼もしいよ・・」
野口が感心している。
「ええ・・
でも、まだまだ分からない事だらけよ・・
連携していかなきゃね!」
「ああ・・」
「オレも、
署で
色々調べて
みます・・」
樋口も調査に乗り出すようだった。
新宿駅から弘子さんのアパートまで送ってもらい、野口達と別れた陽子達・・・