131.結末
「私達は、あなたを見守るわ!
私の夫が・・今まで・・
そうしたように・・・
私達家族が
あなたを守る!!」
「私を・・
守る??」
「千尋さん!」
野口の隣に、法子さんと颯太君が寄り添う・・
家族3人が一丸になって千尋さんに詰め寄る・・
眩しいくらいの、家族の姿だった・・
あと一歩で、千尋さんまでたどり着こうとしたとき・・
ち・ひ・ろ・・・・
一緒に・・・
来るんだ・・・・
楽になれるよ・・・
誰かの声が、頭に響き渡り、急に目つきが変わる・・
憑依されているのだろうか??
「ダメよ!!
私は死ぬのよ!!!」
再び、屋上の手摺に身を乗り出して、飛び降りる体勢になる千尋さん。
「危ない!!!」
咄嗟に野口が千尋さんの手を掴む。
その時、
「南無大師返照金剛!!」
ビシー!!!!!!
陽子がたどり着き、呪文と共に『印』が放たれた。
「ギャーーーーーー!!!!!!」
何かが悲鳴をあげて消え去った音がした。
同時に、千尋さんの腕を引き寄せ、屋上の床に押し倒す野口。
「千尋さん!!!」
千尋さんの上にのしかかり、拘束する野口。
「うわ~~~!!!!!!!」
泣き叫ぶ千尋さん・・・
「ふう・・・間に合ったようね・・・」
安堵している陽子。
「陽子!!」
今西が歓喜の声をあげる。
「全く・・あの量の低級霊を消すのには時間がかかったわ!!
来る途中でも邪魔が入ったけど、何とか、たどりつけた・・・」
「いったい、どうなったんだ??」
今西が、状況の説明を求めてきた。
「あのストーカー男の霊の邪念が強すぎたのよ・・
千尋さんをあの世へ連れ込もうとしていた。
さっき、退治したから、もう大丈夫よ!」
「ストーカー男の霊が?」
「千尋さんに執着していたのよ・・
昔、優しくしてもらった念が、まだ残っていて、
それにすがっていた・・・
千尋さんの命までも奪おうとしていた・・
同じ念を持った無数の低級霊がそれに加担していた・・」
何かに気づいて、見上げる陽子・・
「おじいさんね!
ありがとう!
助かったわ!!」
陽子の目線の先に、あの変死体のおじいさんが浮かんでいた。
「あなたの御蔭で、
あの親子が救われたわ!」
その言葉に、少し戸惑っている感じのおじいさん。
陽子に、何やらメッセージを伝えている。
「え?
礼を言うのは、あなたの方??」
野口に受けた恩を返したというのだろうか?
その状況に、唇が緩む陽子・・
「ふふ・・
野口君も
いい人に巡り遭えたわね!」
「陽子・・・ひょっとして、霊がいるの?」
今西が聞いている。
「ええ!
野口さんに良くしてもらったおじいさんよ・・・
千尋さんのオーラとシンクロさせて、おじいさんの幽霊の幻影を見せる事ができたし・・
おじいさん、
大活躍だったわね!!」
その言葉に、嬉しそうな表情になっているお爺さん。
ペコリとお辞儀をしている。
「私から、野口君に伝えておくわ!
ありがとうございました!」
その言葉に安堵して、おじいさんの姿がスーっと消えて行く。
手をふって送り出す陽子・・
そして、野口達の方を向き直す・・・
「さて・・・
まだ、あの人達の問題は解決していなかったわね・・・」
野口の目の前に手を差し出す千尋さん・・・
自分に手錠をかけるように促している。
「私は・・
犯罪人です・・・
あなたに・・
捕まえてほしい・・」
「千尋さん・・・」
腰の手錠に手をかける野口・・・
如何に、知人とはいえ・・
自分の妻を未遂ではあるが・・死に追いやろうとした千尋さん・・
法を守る警官としては、見逃すことはできない・・
千尋さんを特別に扱うことは許されない事だった・・・
手錠を振り上げて、時間を確認する。
「午後6時18分・・・現行犯で逮捕する!!」
目を瞑って、千尋さんの両腕に手錠を振り下ろそうとした時・・・・
「待って!!!!!」
法子さんが野口を止める。
「法子・・」
振り向く野口・・
「警察は、被害届が出なければ動けないんでしょ?
私は、被害届を出そうとは思っていないわ!
颯太の分もね・・・」
「法子・・・」
耳を疑った野口・・
そして、思わぬ言葉に動揺している千尋さん。
「私は!法子さんを・・・殺そうとしたんですよ!!」
その言葉は無視をした法子さん・・
野口をキッと睨む。
「道照さん!!!
あとは、
あなたが、被害届を出すかどうかよ!
最も・・
あなたの対応次第では、
私は、あなたと離婚する!!」
「法子!」
唖然となる野口。
「野口君!!」
野口を呼び止める陽子。
振り向く野口。
「望月・・」
「あなたに忠告したはずよ!!
あんまり、他人に親密にならないほうがいいって・・」
「それは・・」
同窓会の時に陽子から言われたのだった・・・
「自分の家庭があるのにも関わらず・・
他の人にも『その気』があるみたいに・・言った結果がこれよ!
『その気』にさせた、あなたにも罪がある!!
自分の家族を危険に巻き込み、
千尋さんも不幸にした!!
全て、あなたに原因がある!!
言葉は・・
人を動かす力があるのよ!
あいまいな言葉や態度は・・
人を不幸にすると言うことを、
よく覚えておくことね!!
あなたが、人を裁くのなら・・
自分も裁かなければならない!!
けじめをつけなさい!!
野口君!!」
「う!」
しばらく俯いた野口・・・・
だが、何かに決心をしたのか・・・
その場に、ひざまずき、両手を床に付いた・・・
「すまない!!
オレが・・
全て悪かった!!!
許して欲しい!」
頭を下げた野口・・
「あなた・・・」
「野口さん・・・」
野口に寄り添い、泣き崩れる二人・・・
その姿を腕組みをして見守る陽子だった・・・