125.一線
その問いに、静かに答える野口・・
「最初は・・
立場上・・
あなたを守らなければって、
職務上の責任の方が強かった!
良く考えれば、
家庭を持ちながら、若い女の子を守ろうっていうのは・・
変でした。
心のどこかに、
『あわよくば、あなたをモノにしたい』って
想いがどこかにあった!
それは・・
単なる『遊び』みたいなものです。
守っているんだって、優越感に浸りたかったのもあるし・・
恋愛の関係に落ちて、性的な欲求を満たせれば、最終地点だって・・
そんな男女のゲームに似た事ができればなって・・
でも、
千尋さんに関しては、
そんなんじゃない・・
本当に守りたい!
ストーカー男の魔の手からだけでない・・
あなたに降り注ぐ、全ての困難から
あなたを守りたい!
それは、
オレの家族には申し訳ないけれど・・
あなたが魅力的なんだって・・
一緒に居たいって
想いから出てきた事なんだって・・
気づいたんです。」
「野口さん・・」
「でも、オレには・・
家庭がある。
あなたよりも
もっと、
守らなければならない
家族が居るんです!
法子と颯太・・
オレにとって
かけがえの無い家族です。」
野口の頬にも、いつの間にか涙が伝っていた・・・
「ううう・・・
私・・
どうしたら・・
いいんですか?
野口さんも好きです・・
奥さんも
お子さんも好き!!
どうして・・
どうして!
私達は・・
出会ってしまったの?」
不思議な出会いだった・・
ストーカーに怯える千尋さんと、それを守る警官としての野口との出会い・・
いつしか、お互いに求め合う仲になっていた・・
この二人が、もっと早く出会っていたら・・
法子さんの代わりに、幸せな家庭を築いていたのだろうか?
そして、
野口の代わりに、千尋さんを幸せにする相手は、現れるのだろうか?
「あなたは・・・
幸せに、ならなければならない・・・」
野口がポツリと言った。
「きっと幸せになれる・・
その相手は、
オレではない・・
あなたに、良い人が現れるまで、
オレは見守り続けようって、
思っていました。
あなたを
綺麗なままで・・
汚したくない!
でも・・
そう思った時・・
実際、あなたにふさわしい人が現れた時・・
オレは・・
その相手を嫉妬してしまうでしょう・・
あなたを幸せにするのが
自分でないという事が・・
オレにとっての屈辱・・
あなたを、
手放したくない!!
誰か、他の人の手にかかって・・
あなたの綺麗な心が
その人のモノになるくらいなら・・
オレを想ってもらえるうちに・・
あなたと
愛し合いたい!!」
「野口さん!!」
「あなたを、幸せにしたい!」
「はい!
私を・・
幸せにして!!」
泣きながら、抱き合う二人・・
女性は男性と出会う時、「恋」に落ちるという。
特定の男性そのもの、仕草、身に着ける者・・
その全てが自分にとって興味対象になる。
食事も喉を通らないという事もある。
熱烈な「恋」というのはこの時期である。
生物学的に見ると、自分のDNAと遠いDNAを持った異性を求めて、脳内に麻薬の様なモノが分泌され、その人以外は見えなくなるのだ。
そして、その男性と一緒になり、子供を身ごもり、出産し、子育てに集中するうちに、その子供に情が移る・・
その途端に、今まで愛していたはずの男性への興味が薄れてしまうのだ・・・・
それまで、まるで魔法にでもかかっていたように、洗脳が解けたかのように・・・
男性のサイトではどうだろうか?
自分を愛してくれていたはずの女性が、子供に愛情を注ぎ始め、それに嫉妬をする男性・・・
毛嫌いされてしまう事もしばしばだ。
世の男性が不倫に走るのはこの時期に多い・・
他の女性が現れるとなびきやすい・・
男性は特定の女性のみを愛するということにはこだわらない。
自分を「より」好いてくれる人の方へ行く。
ただし・・・
別れる時に、いつまでも未練があるのは男性の方である。
女性は意外に割り切って次の男性へとシフトするが、男性の方は情が続き、いつまでも付きまとい、最悪のケースはストーカーとなり、女性を暴行、殺害にまで至らしめる事もある。
人間は基本的に動物の延長・・
生殖を行い、子孫を残すために、さまざまな生理現象と行為を繰り返す。
「好き」や「嫌い」が脳内のホルモンによって誘導される。
しかし・・
人間は単なる機械や動物ではないのだ。
「心」を持って人と交わる。
もう一つの精神世界が絡み合う複雑な系列・・
精神世界では、同じ波長を持った魂同士が出会い、触れ合う。
動物的な離れた遺伝子を求め合う事と反比例する。
野口と千尋さんは、どちらなのだろうか・・・
それとも、別の次元の力が関与しているのだろうか・・
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野口さんと
幸せに
なりたい
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千尋さんの心に広がった強い想い・・・




