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霊感ケータイ  作者: リッキー
事件
398/450

124.告白



夕方


警察署・刑事課の野口の席・・・

携帯電話を見つめている野口・・・



あれから、千尋さんから連絡が無かった。

野口としては、帰宅時の警護もしたかったが、連絡が来なければ、それも出来ない。


ただ、

二人が会うことは、何か、気まずい様な気がした。


様々な心配が交差する中・・・



 ブルルル・ブルルル


千尋さんからメールが入った。

実に3日ぶりだった。



 駅前の喫茶店でお待ちしてます。

   千尋



何だろう?

いつもならば焦っている感じが文面から出ていたのだが、様子が変だ。


シンプルな文面というのか・・・

不思議に思いつつ、勤務時間が終わったのを確かめ、署を後にする野口。





夕暮れを見ながら、喫茶店の窓際の席で待っていた千尋さん。


「お待たせしました。」

野口が声をかける。


見上げて返事をする千尋さん。


「野口・・さん・・・」


いつもの表情と違っていた。

何か、思い詰めているような・・・・

目に薄っすらとクマも出来ていた。









「どうしたんですか?」

席に座り、千尋さんに訊ねる野口。


「あの・・・

 この間の事なんですが・・・」


「この間?」


「合コン後の夜の事です・・・・」



「合コン・・」


その言葉に声を詰まらせる野口。

お互いに顔を赤らめる・・・


いったい・・何が起きたのか・・・お互いに分からない事があるのだ。


野口にとっては、どこまで千尋さんが覚えているのか・・

酔った勢いで本心を告白してしまった事を千尋さんが覚えていれば、厄介な事になる。


千尋さんにしてみれば、あの日の事は全て記憶にない。

自分が何を言ったのか・・何をしたのか・・全く覚えていないのだ。


でも、薄らと告白をしたような覚えがチラっとあった・・・

どこまで自分が話したのか・・ずっと気になっていた。



「あの日・・


 私・・

 何か・・

 言いました


 よね・・・」


千尋さんが恥ずかしそうに話を続けた。


「は・・はい・・・」


それとなしに答える野口。

『やっぱり』といった感じの表情になる千尋さん。




「あの・・


 私・・

 自分の気持ちを、いつも抑えているんです・・・」



「そうですね・・

 千尋さんは、そんな感じがありますよ。」


控えめな千尋さん・・

積極的な性格というよりも、どちらかというと引っ込み思案の性格だ。

でも、それが魅力的でもあるのだけれど・・・


「だから・・・


 あの晩・・


 私が言った事は・・

 私の本心です・・・


 ひょっとしたら・・

 野口さんも

 驚いたと思うから・・・


 もう一度、


 改めて、

 聞かせていただきたいんです。


 野口さんの

 答えを・・


 私・・

 ずっと頭から離れなくて・・・」


コーヒーの飲むのが止まる野口・・・


あの夜・・


千尋さんの告白を受けて、野口もそれに答えた・・・

あの時の答えを、改めて教えて欲しいと言う。


千尋さんにとっては、酔っていて何もかも忘れて記憶になかった・・・

それを、そのまま言えば、綺麗に流すことができるだろう・・・


だが、それでは済ませない・・

抑えきれない思いがあった。


千尋さんの一世一代の「賭け」・・・・











「私・・


 この3日間・・・

 ずっと家に居たんです。」



「え?」


仕事にも出ないで、家に居たと言うのだろうか?


「野口さんの事を忘れようって・・

 思ったんです。


 ずっと会わなければ、

 忘れられるって・・・


 外に出なければ、

 警護してもらわなくても済むって・・・」


「千尋さん・・」



「でも・・・

 できなかった!!


 私の中で・・


 野口さんの存在が・・

 大きくなっていた・・・」



「それは!・・・」



「この続きは・・・

 私の部屋で・・

 したいんです。」


スッと席を立ち上がる千尋さん・・・・


「先に・・・

 部屋で待っています・・・・


 もし・・

 野口さんが・・

 私の事を想っていてくれるなら・・・


 部屋に来てください!


 来なければ・・・

 諦めます。


 この町を

 去ろうと思います。」



「千尋さん・・」


喫茶店を出る千尋さんを見つめる野口・・・






お互いに、岐路を迎えていた。

野口は、これ以上千尋さんとの関係を深める事は危険だと思っていた。


家族を持っている野口にとって、

千尋さんを受け止める事は人の道から外れる事に他ならない・・


あの晩の千尋さんの告白・・

あれは弾みで言った事ではないと、改めてこの場で強調していた。


寄った勢いで、思わず言ってしまったとしても、

自分には記憶の無い事だと、否定することもできたのだ。


そして、野口の、その時の自分の返事も覚えていることになる。


千尋さんの想いを受け入れようとしていた野口。



あれが、その場で対応して出た言葉なのか・・

その時から気持ちが変わっているのか・・変わっていないのか・・


改めて、千尋さんをどう思っているのかの答えを迫られている。


部屋へ行べきか・・行かざるべきか・・

千尋さんの人生にとっても大きな分かれ道となろう。



三日間も家にこもって、ずっと悩んでいたのだろうか?

千尋さんも野口の対応如何で、この街を去るとも言っている。


ストーカー男の追随から逃げる目的もあるのだろう。

住所を変えたとしても、また追ってくるのは必至だ・・


次の街の警察では、対応はできるのだろうか?

不安が残る・・

 



 













千尋さんのマンション

 

 ガチャ



ドアが開き、野口が入ってきた・・・・


「千尋さん・・・」

まるでお通夜に参列しているような・・

申し訳なさそうな表情の野口。



「野口さん・・」

見上げる千尋さん・・・



「お入りください・・こちらへ・・・」

玄関で立ったままの野口を、無表情で部屋に案内する千尋さん。



部屋の中央に置かれたちゃぶ台の座布団に座る野口。


前に来た時は千尋さんを落ち着かせるので精一杯だったが、改めて周りを見渡す。


千尋さんの部屋は、ワンルームで、大きな10帖ほどの洋間が一部屋あり、トイレと浴室がセットになったユニット。


玄関先に小さな流しが着いている程度の質素な作りだった。


狭いなりに荷物が整理され、こざっぱりしている。


部屋の片隅に置かれたベットと低いタンス以外は、家具らしいものも無く、「綺麗な部屋」という印象が強かった。


若い女性の部屋で迎えられるなんて、結婚前に法子さんの部屋に入った時以来、久しい・・



台所のコンロでお湯を沸かし終え、ティーセットを持って部屋に入ってくる千尋さん。


ガラス製のポットの中にお茶の葉を入れ、ティファール製のヤカンに入ったお湯を注ぐ。

透明のポットの中でゆらゆらとお茶の葉が廻りだす。


二人分のティーカップに注がれるお茶。

仄かに香るハーブの匂い。



「どうぞ・・・」


「ありがとう・・」


ハーブティーの香りを嗅いでから一口飲む・・

何から話していいのか戸惑っている二人・・・






でも、

千尋さんが沈黙を破る。


「この間は、ありがとうございました・・・

 二日酔いの朝、奥さんに御粥を作って頂いたんです。」


その話は、法子さんから聞いていた野口。


「いえ・・

 起きたら、

 いきなり違う家だったから、驚かれたでしょう?」


「はい!

 私、記憶が無くなるまで飲んだ事なんてありませんでした。


 でも、

 野口さんの家庭が見れて、良かったです。」


「ウチの上さん、ガミガミ煩いから・・

 子供もしつこいし・・」


「いい奥さんですよ。

 優しいし・・・


 お子さんも可愛かった・・

 私になついてくれました。

 『お姉ちゃん』って呼んでくれたんです。


 いいご家族ですよ。

 憧れます。」



「そ・・そうですか?」


日頃、一緒に居ると分からないのだが、第三者から見ると憧れの対象なのだろうか・・



「野口さんの家庭・・

 温かった・・・


 野口さんもそうだけど、ご家族皆が温かいんです。


 私には

 眩しすぎる・・」


そう言って、俯く千尋さん・・・


「千尋さん・・」




「私・・


 野口さんの家庭を・・

 壊したくない・・


 って・・思ってます。



 でも・・


 私も・・

 幸せになりたい・・


 あんな家庭が欲しい・・」








「大丈夫!

 きっと築けますよ。

 千尋さんなら、いい人が見つかると思います。」


希望的な意見を言う野口・・

千尋さんを安心させようとしている。


だが、

その言葉に、キッと目を見開いてこちらを向いた千尋さん。



「私・・

 野口さんが良いんです!

 私にとっての『いい人』は野口さんしか居ません!」


気迫に満ちた千尋さんにドキっとした野口。



更に話を続ける千尋さん・・・



「ずっと・・考えていたんです。

 三日間・・この部屋で・・


 私が、ここを離れて別の町へ引っ越せば、

 もう、野口さんに迷惑はかからない・・


 そのほうが、

 野口さんにとっても、ご家族にとっても・・

 良い事は分かっています。


 私の生活も

 何ら変わりはない・・


 ストーカーからの不安もそのままです・・ 


 でも・・


 一番辛いのは・・

 野口さんと別れる事!


 私の気持ちに反して、

 野口さんと別れる事が・・


 自分にとって・・

 最悪の事態なんだって!


 分かったんです。」



「千尋さん・・」


口を挟もうにも挟めない野口・・

千尋さんに圧倒されていた・・


「今・・

 ここに来られたという事は・・・


 私に

 想いがあるって事ですよね!」


強い口調で問いただされている野口・・


重い口を開く・・




「オレは・・・


 ・・・

 この部屋に来たのは・・・


 あなたを・・


 あなたに・・

 この町から出て行って欲しくないから・・


 あなたに、

 ここに居て欲しかったから・・


 来たんです・・」



「私に・・

 出て行って欲しくないだけですか?」


目に涙を溜めて訴える千尋さん・・







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