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霊感ケータイ  作者: リッキー
事件
396/450

122.後処理



警察署・刑事課・・・

野口が机に座って、携帯電話を眺めている。


何かを考えているように、ボウッとした表情・・

まだ、仄かに酔いが残ってはいるが・・・・


「千尋さん・・・」


昨晩の坂道での出来事・・

千尋さんから本心を打ち明けられ、自分の口をついて出てきた言葉・・・・


  ・

  ・

  ・


 私の事・・


 どう思っているんですか?



 他の人なら・・


 私と同じように


 親身になってくれましたか?


  ・

  ・

  ・


 千尋さん・・


 君は・・


 魅力的だよ・・




 始めて会った時・・


 可愛いって・・



 思った・・


  ・

  ・

  ・



今まで、一般市民に分け隔てなく接していたはずだった。「一人だけ」ではなく、特定の人のみを特別扱いするのは自分の主義ではないと思っていた。

いつの間にか、千尋さんを、単に守る存在だったのではなく、自分の中で大きな存在になりつつある・・


酔った勢いとは言え・・自分の心の奥底に、そういった下心のようなものがあったなんて・・

しかも、自分には家族が居るのだ。


そして、その後、千尋さんを抱きしめ、キスまでしようとした。


千尋さんが、「あんな」大惨事になっていなかったら、どうなっていたのだろう?

千尋さんの部屋へ行って、行き着くところまで行ったのだろうか・・


朝まで、千尋さんと一緒に、ベットの中で寝ていた可能性もある。

法子さんに知れたら・・・



そう思ったら、恐ろしくなった。


千尋さんは、泥酔状態だったが、どこまで覚えているのだろうか?

全てを記憶していたのなら、大変な事にならないだろうか?


 ・・ご家族にはご迷惑をおかけしませんから・・



そう言っていたが・・・













「おい!何ボウッとしてるんだ?」


背中をポンと叩かれて、ビクッとなる野口。

振り向くと、昨日合コンに参加していた同僚だった。


「お・・

 おう・・


 おはよう・・」


オドオドとして、とりあえず挨拶をする・・・


「昨日は、大変だったな!合コンの幹事!」


「あ・

 ああ・・

 ・・

 あの後、どうなったんだ?カラオケに行くって言っていたけど・・」



「二次会か~。

 お前の友人がマイクを離さなくってな~・・」


「今西か・・」


案の上、今西が盛大に二次会を盛り上げていたらしい。

参加者がカラオケの曲目を選んでいる間、自分の十八番をどんどん入れていった結果、半分は今西が歌っていたと言うことだ。


今の人自体、自分から曲を入れようなんて積極的な人はなかなか居ない・・

ましてや初めて顔を合わせる人達ばかりなのだから・・


そういう意味では、社交的な今西は、便利な存在だった。

合コンでも女性陣はじめ、男性陣も盛り上がっていたし・・

会も一応の成功を収めた。


「うるさ過ぎる」のが玉に傷だが・・


更に、同僚が話を続ける。



「お前の奥さんの友達の人と、また会いたいんだけど・・

 コンタクトとれるかな・・?」


「え?」


「いい人が居たんだよ・・

 なかなか声がかけられなくて・・・」


そう言って、合コンが終わる時に撮った全員の写真を見せてくれた。

その中の一人を指差す同僚・・


こういう状況もあるので、合コンの最後には全員で集合写真を撮っておくことをお奨めする。

いや・・酒で潰れる事も考慮に入れれば、スタート時か・・


 「せっかく集まったんだから・・」

という事で、幹事辺りが写真に収めると以外に後で重宝するのだ。



「なら、この写真を届けに行くついでに、デートに誘ったら?」


野口が提案をする。


「そっか!良い案だよ!連絡先教えてくれるかな~?」


「聞いておくよ」


その返事に、意気揚々と引き上げていく同僚・・

まあ、写真に関しては野口の奥さん経由で、その人に手渡されるのが普通だろう・・


だが、その辺りは、向こうも「リーチがかかっている」わけで断る確率も少ない。

お互いに気が合いそうだったら、会う機会を作るのも幹事の仕事なのだろうか?


「集団見合い」に近いイベントは幹事も、その後の処理が大変である・・・・











 ふう・・



引き上げる同僚の後姿を送り、再び携帯電話を見ながら、自分の事を考える。


他人の相談どころではない・・

千尋さんとの関係をどう進めていけばいいのか・・


ストーカー男に狙われているのは事実だが、その魔の手から守る行為を続けていくのに、千尋さんと親密な仲になっていくような・・そんな懸念があった。


それは、自分の心の奥底では、望んでいる事なのかも知れないが・・・

途中で止めては無責任だ。


複雑な心境の野口・・







そんな事を考えていると、



 ブルルル・ブルルル



見つめていた携帯電話が鳴り出す。

画面には今西の携帯電話の番号が表示されている。

廊下へ出て、通話をする野口。


「はい。野口ですが・・」


「おう!野口か?昨日はありがとう!」



「ああ・・

 あの後、カラオケでマイクを離さなかったんだって?

 お前らしいよ・・」


「ははは~!久々のカラオケで羽目外しちまってな~。

 ところでさ~!」



 来た・・


と思った野口・・


何故か、合コンの後処理で色々とやらなければならないと思い始めていた野口・・

しかも決まって無理難題を押し付けてくるのだ・・



「昨日のお局さんにあてがった文系の新入りが、

 今日、出社して来てないんだよ~。


 あの後、お局様と一緒になったらしいんだけど・・

 何かあったのかな~」



「え???

 そうなの???」


相談している割に、軽い言い方の今西・・

心配しているなら、もっと親身になってもいいではないか?


「オレも、必ず情報を引き出せって言ってたからな・・

 まさか、無理してお局に取り入ってるんじゃないかって・・

 あいつ、意外に責任感あるからな~」



   こいつは~!!!


部下に命令しておいて、自分は高みの見物か??

しかも、カラオケでマイペースに盛り上がっておいて・・


今西に、その文系の新入社員の責任感ってものを、少しでも見習って欲しいものだと思い始めた野口・・










「携帯に、連絡してみれば、いいんじゃないのか?」


「それが、怖くってさ~」



   おバカ・・・・


上司なら自分の部下の面倒くらい自分で見ろと言いたくなった野口・・


「其れとなしに、お局様に、どうなったのか、聞いてもらいたいんだけど・・」


「それも、お前の仕事じゃないのか?」



「お局に、『刺客』だって悟られたくないしな~

 新入りにも、変に根詰めさせても気の毒だし・・


 でも、情報は欲しいんだよ!!

 せっかく、スクープ性のある情報をお前から貰ったんだし・・」



そうだった・・・

情報があるから誘ったのは野口のほうだった・・・

ここで、持たなくてもいい「変」な責任感を感じた野口・・・



「お前しか居ないんだよ~。

 この穴埋めはするからさ~」


穴埋めったって・・何をしてくれるというのだろう?


「わかったよ・・

 それとなく調べておくよ・・・」

 

「ありがとう~!恩にきるよ~!!」


そう言って、一方的に電話を切られた・・・

携帯を見つめる野口・・


また、無理難題を押し付けられてしまったと後悔している。









「野口君!ちょっと!!」


小声で、廊下の向こうの方から呼ぶ声がした・・・

見ると、先ほどまで話題になっていた予防課の「お局様」が手招きしている。


  何か嫌な予感・・・・


無視するわけにもいかず、仕方なしに、そちらへ向かう野口・・


「はい・・何でしょうか?」


「あのさ・・

 昨日の子なんだけど・・」




 きたな!


と思った野口。

さては、今西の送り込んだ刺客の文系若手新入社員の事だろうか?

このお局から情報を聞き出すだけに使わされて来ていたなんて知ったら・・



「昨日、二次会にカラオケへ行った後、

 二人で飲み直しに行ったのよ・・」


二人で居なくなったのは、今西から聞いている・・いったい、そこで何があったのだろう??


「そしたら、話が合っちゃって!

 結婚を前提にお付き合いをしたいって、申し込まれちゃったのよ!

 私、どうしたらいいのかしら~??」



 え!!???


このお局が好みの人も居るのか???と一瞬ならず、しばらく何も言えずにいた野口・・

いや・・待てよ・・

ひょっとして、その文系の新入りが、このお局に近づく為に詐欺まがいの事をしているとか??


話も、お局に近づく為に無理やり合わせているのではないだろうか?10歳近くも歳が離れていて話が合うなんて考えられない。

それは、合コンを設定した側からもマズイ話だ・・


「そ・・

 それで・・

 昨日は、どこまで行ったの??」


恐る恐る聞く野口・・

女性にどこまで行ったなんて聞くのは失礼だとは思ったのだが・・

合コンを主催した手前もある。


またもや「変」な責任感からか?








「昨日は、彼・・私の家に泊まったの・・」


 何だって????


しかも「彼」と言い切るかぁ~???


  まずい!


相手は警察だ。しかも予防課で詐欺事件も熟知している。

結婚詐欺だなんて分かったら、半殺しどころでは済まされなくなる!



「まずいよ・・

 それは・・

 非常に・・まずい・・」


「そうよね~。

 まずいわよね~。会ったばかりなのに・・」


赤い顔をして恥ずかしがっている。

今までお局様だと思って接してきたが、意外に可愛い仕草をしている。

「女」だったんだと再確認した。(非常に失礼な言い方だが・・)


まさか、一夜を一緒に過ごしたのか??

犯罪に近い・・・


「で・・

 今朝はどうしたの?


 君の家から

 一緒に出勤したワケ?」


その男性社員の動向も気になる。今西の話だと今朝は出社していないという話だった。

最も、土曜日に出社する会社は珍しいのだろうけれど・・

ここ(警察)でも平日よりも人数は、まばらで閑散としている。



「いえ・・ここに来てるのよ。

 ちょっと見たいものがあるって・・・」


「え?」


お局の指し示す方向を見ると、廊下の向こうにお辞儀をしている若い男性・・昨日、合コンで一緒だった。


「この合コンで知り会えて感謝してるの。

 野口さんが設定してくれたおかげで・・」


まさか、本当に?一緒になるつもりなのか?

野口は、その男性社員の方へ向かった。



「おはようございます。」


挨拶をされた野口。


「おはよう・・ございます・・」


「昨日はお疲れ様でした。」



「いえ・・・


 あの・・

 今西から連絡があったんですが・・

 今日は、まだ、出社してないって・・・」


「はい・・

 無断で休ませてもらいました・・」


まじめそうな文系の「彼」が無断で休むなんて、よほどの事があったのだろう・・







とりあえず、聞いてみる。


「また・・何で・・?」


「『あの』情報を見せてくれるって話だったので・・」



やっぱり、それが目的だったか・・

罪悪感に苛まれる。


「今西の命令だとは思うけど・・

 『その気』もない人と付き合って、『その気』にさせるのは、あまり良くはないよ・・」


「『その気』って言いますと?」


「あのお局様と結婚を前提にお付合いしたいって聞いたんだけど・・」


「ああ!

 その話ですか!

 それは本心ですよ!」



「え?」


一瞬、耳を疑った野口。


「何か、馬が合うって言うか・・

 前世が一緒だったんじゃないかってくらいに・・

 気が合うんです。


 その・・

 体の方も・・

 相性がいいみたいで・・・」



照れながら離す新入社員・・どうやら心配していた事もなさそうだった・・・


「でも・・お局様の情報を今西に流すのって・・」


「それは、正直、罪悪感が伴いますよ。

 そのために近づいたんだって思われても仕方ないけど・・


 それは、はっきり言います。

 きっかけは、それでも、今は一緒に居たいんだって・・」


「そうか・・

 頑張ってね!」


「はい。

 でも、オレ感謝してますよ。」


「え?何を?」


「出会いの場を設けて頂いた事に、感謝してます。

 たぶん、合コンを企画する事自体、大変だったと思いますが・・

 あれだけ、多彩な面々でしたし・・」


「いや・・

 そういうカップルが一組でも出来れば、本望だよ。

 その為に、動いたんだ。」


「はい。

 ありがとうございます。

 それが言いたくて!」



そう行って、嬉しそうにお局様の方へ駆けて行く新入社員・・


感謝された野口・・今まで何かをしても「見返り」みたいなものが無く、達成感も無かった。

成果が実際に形となって、実になるのは、意外に気持ちがいいものだった。











お局様と今西の後輩の新人・・


太った三十路すれすれの気の強い女性と社会に出て間もない24歳のヒョロヒョロの少し気の弱そうな男性。

凸凹の珍しい組み合わせだが、本人の「相性が良い」と言っていた。


お互いに持ち得ないものを追い求めるのだろうか・・

姉さん女房と弟の様な夫・・お局様がより良くリードしていく・・


それはそれで、上手く行くのかも知れない。

昨日まで会った事の無い者同士が人生を共に歩んでいく・・「人の縁」というモノは不思議なモノだ・・・



新人男性に、


・・『その気』もない人と付き合って、


 『その気』にさせるのは、あまり良くない・・


と忠告した。


だが、

それは、言った本人が犯してしまっている。



千尋さんに『その気』があるように言ってしまった・・

千尋さんを『その気』にさせてしまったら、

それは『良くない』事・・・・


まさに、自分の方が当てはまっているのだ。

そんなヤツが人の行為を忠告できる立場なのだろうか?


歳は自分の方が上で、指導する立場の者の方が恥じる行為を犯すなど・・

ましてや、自分は警察官なのだ・・

人の安全を守り、模範となるべき立場の者が、率先して罪を犯して、どうするのだ?


思い悩む野口・・・





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