121.アパートで
野口の住むアパート・・・
「法子~~!!」
「何!???
女の子連れ込んで来たの!!!!」
酔って意識の無い千尋さんを抱え込んできた野口に驚く法子さん。
玄関先で叫ばれて、近所を気にしている野口。
「合コンで・・
皆に飲まされたんだよ~!!」
「こんなに、酔うまで飲ませる~???
普通~!!!」
「家まで運べないから、ウチに泊めてくれよ!!
この子、一人暮らしだから・・後が大変だろうし・・」
「もう!!仕方が無い!!!」
仕方なしにアパートに入れる法子さん・・
野口にとって、千尋さんのマンションで一晩過ごせば法子さんに疑われてしまうのが怖かった・・
畳に布団を敷いて、千尋さんを寝かせ、洗面器を枕元に置く・・
ウェ~~~!!!!!
何度も吐いている千尋さん・・胃液と食べ物や酒が混じった液体で洗面器がいっぱいになる・・
酸っぱい匂いで充満する・・
「全く!!こんなになるまで、飲ませて!!
女の子なんだから、気を配ってよ!!」
「それが、お局様達に睨まれちゃって・・」
「え?!!
さ・・
最悪!!!!」
合コンの場で、男性達に囲まれていたのが見つかり、年増グループに集中攻撃されて潰されたのだった・・
女同士の婚活をかけた激しい鍔迫り合い・・恐ろしい・・
チュン・・
チュン・・
朝・・
眩しい日の光が降り注ぐ・・
「うん・・」
千尋さんが目覚める。
「はッ?!」
飛び起きる千尋さん。
合コンが終わり、坂道を帰っていた途中まで覚えてはいるが、それからの記憶が全く無い・・
ここはいったい・・何処なのか???
女性モノのパジャマに着替えて、布団の脇に空の洗面器が置いてある。
自分の部屋と違う、見覚えの無い畳の部屋・・
誰かが、寝させてくれたのか?
それとも、連れ込まれて、イタズラでもされたのか?
体を触って確認するが、その形跡もなさそうだった・・
でも、頭が痛い・・額を手で押さえる千尋さん。
完全に二日酔いで、まだ頭がくらくらする・・
「ここは・・」
襖が、スッと開いて、女性の声がした。
「おはようございます。千尋さん!」
見知らぬ女性・・誰??
しかも、自分の名前を知っている?
「お・・おはよう・・ございます・・・」
一応、挨拶をした・・・
キョトンとしている千尋さんに微笑みかける法子さん。
「あ、私、野口の家内の、法子です・・。」
「野口・・さん?・・
あ・・」
いつの間にか、野口の家に厄介になっている事が、ようやく理解できた・・
布団の上に座り直して姿勢を正そうとしているが、ふらふらする。
「まだ、酔いがさめないみたいね・・
もうちょっと、休んでて!」
「はい・・
あの・・
野口さん・・
は・・」
「主人は、仕事に行きました。
朝食は御粥がいいかしら?・・」
「すみません・・」
襖が再び閉められ、布団に入って横になる千尋さん・・
窓の外を見つめながら、昨晩の事を想い出す・・
だが、全然記憶にない・・
不安になる千尋さん・・・
昨晩は何があったのか・・
変な事はしてなかっただろうか?
変な事を言わなかったのか?
気になるのだった・・
しばらく寝ていると、スッと襖が開いて、誰かが入って来た。
ス・・
ス・・
微かな(かすかな)足音・・
直ぐ脇に、誰かが覗いている気配・・
そちらを、向く・・
小さな男の子が微笑んでいる。
「お姉ちゃんだ!」
可愛らしい声で、自分をお姉ちゃんって呼んだ男の子・・
千尋さんも、微笑んで・・・
「君・・
颯太君?」
「うん!」
野口から子供の事を聞かされていた。
円らな瞳で見つめる男の子・・
「まだ、苦しいの?」
「だいぶ良くなったよ・・」
「こら!颯ちゃん!
起こしちゃダメよ!」
「は~い」
そう言って、台所の方へ駆けて行く颯太君・・
コトコトとナベの音がする。
トントンとまな板で何かを切る音・・
「お母さん!僕もおかゆがいいな~!」
「颯ちゃんは病気じゃないでしょ~?」
「えへへ~」
襖越しに、法子さんと颯太君の話し声が聞こえる。
幸せそうな家庭・・
布団に包まりながら、自分の小さい頃を思いだしていた千尋さん・・
懐かしい母や父・・・
都会に出て、一人暮らしをしていて、ずっと忘れていた家族と過ごした日々・・
寝ていた部屋からパジャマ姿で食堂に入ってくる千尋さん。
まだ、少しふらついている様だ。
「すみません・・
朝ご飯まで・・頂くなんて・・」
「いいの、いいの!
そこに座って!」
「はい・・」
御粥と少々のおかずが用意されていた席に座る千尋さん。
隣に颯太君が座っていた。
「お姉ちゃん、僕の隣だよ!」
にこっと笑う颯太君に微笑む千尋さん・・
嬉しそうに足をバタバタさせている。
「颯ちゃん!お行儀が悪いわよ!」
「は~い。」
「千尋さんも、まだ酔いがさめてないみたいね・・
御粥、ちょっと水っぽくしたけど、無理そうだったら言ってね。」
「はい・・ありがとうございます。」
「では、いただきます!」
「いただきま~す。」
3人で合掌して朝食となった。
「僕のも、御粥だよ!おねえちゃんと一緒なんだ!」
「そうね!」
「もう・・颯ちゃんがおねだりしてうるさいからね・・
お父さんには内緒よ!」
「うん・・」
御粥をフーフーしてちょっとずつ食べている颯太君。
千尋さんもおかゆを食べようと、茶碗を見る。
御粥の中に、三つ葉が浮かんでいた。
一口食べて、スプーンが止まる。
「どうしたの?まだ、具合が悪い?」
法子さんが心配している。
「え?
・・
いえ・・・
何だか、思いだしたんです・・」
「思い出した?」
「小さい頃・・
風をひくと、お母さんがおかゆをしてくれた・・・」
スプーンにすくった御粥を見つめながら、昔を懐かしんでいる千尋さん・・
その様子を見守る法子さんと颯太君。
しばらくの間、黙っていたが・・
「何だか・・
温かい・・」
千尋さんがポツリと言った。
「うん。フーフーしないと熱いよ!」
颯太君があどけない表情で答えて、再びスプーンに御粥を乗せて冷ましている。
微笑む千尋さん。
「うふふ・・そうね!」
そう言って、御粥を食べる千尋さん・・
その光景を、温かく見守る法子さん。




