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霊感ケータイ  作者: リッキー
事件
391/450

117.打診


刑事課の自分の席に帰ってきた野口・・

携帯電話を見つめながら、千尋さんの事を考えていた。


女性警官のネットワークでは、ストーカー行為を行っている相手の男性は消息不明・・

何処に住んで、いつ狙ってくるかもわからない。


ひょっとしたら、あの坂の近くに住んでいて、監視をしている可能性もある。

姿を直ぐに消せる場所に居て、千尋さんの帰りを狙っているのかも知れない・・


そんな事をして、何の得があるのだろう?

人を驚かせたり、脅かせたりして、面白いのだろうか?


好いて欲しいはずの人から、逆にどんどん嫌われていくだけなのに・・


いや、犯罪を犯しているという事を自覚しているのだろうか?

見えない相手・・・不気味な存在だ。



「千尋さん・・」

心配になる野口・・


その時、


 ブルルル・ブルルル


携帯電話のバイブレーターが鳴り出す。

千尋さんからのメールだった。



 先ほどは、ありがとうございました。

    千尋


御礼のメールだった。

返信する野口。



 少しは落ち着きましたか?

    野口



 はい。

 だいぶ、落ちつきました。

 ありがとうございました。(*^^*)

    千尋



若い女の子らしく、顔文字も出すようになってきた。

千尋さんが、落ち着きを取り戻したようで安心した野口・・


だが・・

先ほどの女性警官から得た情報を伝えるべきか迷った。

ストーカー男の所在が分からないという不安要素を伝えるべきか・・


消息不明と言う事で、

近くに住んでいるなんて思い込んで、ノイローゼにならないか・・


いや・・


実際、近くに潜んでいれば被害に遭う事も考えられる。危険な状態になってしまうだろう・・

誰かが、護衛する必要がありそうだが・・








 誰か、身内の方は、この辺りに住んでいませんか?

   野口




 どういう事ですか?

   千尋



 知っている人が居れば、

 そこに身を寄せて欲しいんです。

   野口






 知人は居ません。

 田舎から出てきて、

 ずっと一人暮らしです。

   千尋





東京に一人で出てきた千尋さん・・

身を寄せる所があれば、直ぐにでも身を寄せているであろう・・

それが出来ないから、警察に助けを求めていたのに、最終的に住所を移転する必要があった・・


野口も、上京して今の家庭を設けるに至るまで、寂しい生活を送っていた。

女性ならば尚更、心細いだろう・・


千尋さんに親近感を覚えつつ、その身の上の心配もつのる・・

そんな想いで、次なるメールを送った。




 帰り道に付き添おうかと思っています。

   野口




変な提案をしてしまった・・

こちらが誘っているなんて思われたらどうするのか・・

妻子を持っている身でありながら・・

引いてしまうかも知れない・・







 どういう事なんですか?

 何か分かったんですか?

  千尋



鋭い・・・

誘っていると言うことよりも、何かしらの情報を得たと思われてしまった。

隠しても仕方が無いのかも知れない・・

正直に伝えるしかない。



 ストーカー男の居場所が分からないんです。

 ひょっとしたら、近くに住んでいるかも知れない。

   野口











そのメールに、直ぐに返答は返って来なかったが・・




 そうですか・・

 やっぱり、最悪の事態になってる様ですね・・・

 でも、

 ありがとうございました。

 調べて頂いたんですね。

  千尋



 あなたの周辺が危険です。

 あまり出歩かないほうがいいのと・・・

 帰り道も気をつけて欲しいんです。

  野口



  

 それで、先ほどの提案になったのですね・・・

 私のことを気遣って頂いたんですね。

 ありがとうございます。

 私も今の仕事を抜ける事も出来ないので

 無断で休むわけにもいきません・・・


 野口さんさえ宜しければ、

 帰り道に付き添いをお願いします。

   千尋



 わかりました。

 帰りの時間が合えば、なるべく警護するようにします。

   野口




 ありがとう。

 心強いです。

   千尋




千尋さんの帰宅に付き添う約束をした野口・・

付き添うと言っても、大々的に一緒に帰るわけにもいかない。


いくら人が多い都会と言っても、自分の住んでいる近所なので、若い女性と一緒に居ては変な噂もたてられそうだ。

早めに犯人を見つけ出して、嫌がらせも止めさせたい。


だが、

これは仕事なのか・・

探偵ごっこに近い。


どう考えてみても職務の権限以上の事をしているのだ。


「市民の生活と安全を守るため」とは言いながら、若い女の子を助ける・・


他の人なら、同じ事ができるのだろうか・・

正義感から出てくる優越感を得たい為なのか・・


それとも、趣味なのか・・


千尋さんから良く想われたいだけ?

妻の法子さんは、何て言うのだろう・・・


しばらく携帯を見つめていた野口・・・










その時・・


「おい!仕事中にメールか?」

同僚の検視官に肩を叩かれた。


振り返る野口・・


「ああ・・ストーカーに遭ってる人が大変なんだ・・」


「お前、また、変な事件に顔突っ込んでるのか?

 熱血もいい加減にしないと、怒られるぞ~!」


「それは・・そうなんだけど・・」


そう答えて、男性検視官の顔を見ているうち・・もう一つ大変な事を約束していたのを思い出した・・・


「あ!!そうだった!!!」


いきなり叫んだ野口に驚かされた検視官。


「な・・なんだよ!いきなり!・・」



「お前さ~。

 予防課の女の子達と合コンしないか?」



「な・・何だって?予防課のブス共と合コン~??」


そうなのだ・・未だ独身なのには理由があった・・

ルックスは意外に良いのだが、刑事課も上から目線で見下す女性が多く、近寄りがたい面々なのだ。

要は性格がキツイとでも言うのか・・職業柄、そうなってしまうのか・・


交通課に配属され、可愛いキャピキャピの新入警官は直ぐに付き合いだして嫁に行き、残っている女性警官が予防課へ移動してくる構図になっていた・・


「予防課だけは・・勘弁してくれよ!」



「う~

 お・・オレ・・どうすれば・・

 約束しちまったし~」


「何だよ!丸め込まれたのか~?」


「助けてくれよ~・・」


「え~?交通課ならともかく・・」


その言葉に、素早く反応した野口。


「そういえば、交通課も誘うって言ってたよ!」



「え?本当か?

 でも、可愛い子が居たけど、付き合い始めたって話だしな・・

 密かに狙ってたんだよ!」


「狙ってたんだったら、アタックしろよ~」



「それが出来たら苦労はないよ~

 お前は良いよな~綺麗な奥さんがいるから・・」


出会いのきっかけはあるのだろうけれど、付き合うきっかけが掴めないのが、それ以上進展しない理由なのだろう・・

熱血漢のある野口は、その点、スムーズに行ったようである。








「場慣れするにも良い機会だよ!

 合コンで、少しは慣れておいたら?」



「合コンでか~?」


「いつまでも一人で良いのか?

 機会を逃せば、どんどん可愛い子が居なくなってくぞ!」



「そ・・そうだよな・・」


何だか、こっちのペースになってきた・・

もう一押しだ!



「この合コンで、一皮剥くチャンスだよ!」



「うう~・・


 なら、

 他に誰か可愛い子も呼んでくれよ!

 こっちも、人数揃えるようにするから~」



ここでも交換条件を出されてしまった・・

だが、そこは何とかするしかあるまいと諦める野口だった。

貧乏くじを引くタイプなのだな・・野口君も・・・










次の朝・・・


夜勤が明けてアパートに帰ってきた野口・・

徹夜で、さすがに眠そうである


「ふわぁ~・・・」


勤務中は、何も無かったものの、色々と難題が目白押しで、気が重い。


「只今~」


アパートのドアを開ける野口・・



「お帰りなさ~い・・」

颯太君を保育園に預けて、洗濯をしていた法子さんが、野口を出迎える。



シャワーを浴びて、脱衣から上がると食卓に朝食が用意されていた。

朝食を食べ始めるが、元気の無い野口に、法子さんが聞く・・


「どうしたの?浮かない顔して・・」


「あぁ・・昨日から、変な事ばかり起って・・」



「変な事?」


千尋さんのストーカー事件を話そうとしたのだが、怒られそうなので・・・



「合コンの設定してくれって・・頼まれた・・・」



「合コン?あなたは、もう結婚してるじゃない?」



「それが、予防課のお局に、相手を探してくれって頼まれて・・

 独身女性の可愛い子も呼ばないと、刑事課の野郎共も動かないし・・」


「結婚相手の斡旋~?

 また、変な事頼まれたわね・・」


「だろう?困ったよな~」


「何で、そんな事になったわけ?

 よっぽどの事でないと、そんな交換条件出せないでしょ?」



「お局から情報を貰ったんだよ。」



「ふ~ん・・何の情報?」



「それが、千尋さんの・・

 ・・・・


 あ!・・・」


口を手で押えるが、もう遅い・・

ニコニコ顔の法子さん・・

この奥さんも一枚上手なのだ。


仕方なしに千尋さんの一件を説明する・・(恐る恐る・・・)








「あなた・・

 まだ、千尋さんにチョッカイ出してるの?」



「メールが来たんだよ・・・

 足音に驚いて・・今回は声も聞こえたって・・」


「メルアド教えるから、こういう事になるのよ!

 ずっと、この先、呼び出されるわよ!」


「仕方ないじゃないか・・

 市民が困ってるんだから・・」


「そこへ行く~?

 千尋さんを『あわよくばモノにしよう』とか思ってないの?」


「それは、無いよ~。」


「どうだか!」

プイとそっぽを向く法子さん・・


でも、よく考えれば、千尋さんにとっては、生きた心地がしない事態が続いているのだ。

自分が同じ状況になれば心細いことも理解できる。



「悪質な嫌がらせなのかな~・・

 この辺りにそんな変質者が住んでるってのも、気味が悪いわね・・」


「そうだろう?!

 早く見つけ出したいんだよ!!」


何とか言いくるめたい野口をヒンシュクな目で見つめる法子さん・・



「わかったわ!あなたが困ってるんだもの・・

 協力しますか・・」


「ありがとう!法子~」



「そのかわり・・」

急に笑顔になる法子さん・・


「え?そのかわり???」

嫌な予感がする・・


「欲しい服があるんだけど・・・

 来月のあなたの小遣いから引いとくわね・・」




「・・・・・・・」


何か・・踏んだり蹴ったりの野口君・・・







 

「まずは、合コンの相手か~

 刑事課はあんまりパッとしない男の人ばかりでしょう?」



「誰か、男友達でも居ないか~?

 年頃の男は・・」


「あんたと一緒にしないでよ!

 男友達なんて居るワケないでしょ~?」


「そうだよな・・・」



「どっちにしろ、警官だけじゃサマにならないわよ・・

 合コンというより「お通夜」になっちゃうわよ!」


「交通課の女の子もそうだよな・・・

 予防課は、嫁に行きそびれてる掃き溜めだから・・

 話題も交通取締とかストーカー事件とかじゃ・・盛り上がらないだろうな~」



かなり一方的に酷い事を言っている野口・・まぁ、実際そうなのだが・・



「まぁ、

 女の子は私の友達にリーチかかってる子がいるし・・


 でも、

 お局様の気を引ける相手が居ないと、満足できなさそうね・・

 誰か、若い男の人、居ないかしら・・

 若しくは、何かで釣るとか・・」




「釣る相手・・ね~・・・」


首をかしげる野口・・

その時、データベースで見た、「ある」情報が頭に浮かぶ・・


「あ!そうだ!!!」


携帯で電話をかけ始める野口・・









月刊オカルト編集社にて・・・


「おーい!今西~。電話だぞ~。」


電話に呼び出された今西が受話器を取る。


「はい。月刊オカルト・編集の今西です。」



 ・

 ・


「何~?!!!

 それは願っても無い!!!」

野口の提案を受けるなり、今西の眼の色が変わった。


何やら・・嵐の予感・・ 



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