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霊感ケータイ  作者: リッキー
事件
390/450

116.情報網


警察署に戻った野口が真っ先に予防課へと赴く。


普段はフロアーが異なるので、滅多に出入りすることはないのだが、千尋さんとの約束を果たす為に、係りの方へとやってきた。

机に座りながら、眠そうにしている少し太った女性の警官・・


「あの・・

 ストーカーの係って・・ここ?」

野口が何食わぬ顔で訊ねる。


「何?

 刑事課が何の用事なの?」

少し太った女性警官が対応する。

いつもの受付けの子と違って、何だか怖そうな雰囲気だ・・


「実は、ストーカーで困ってる子がいるんだけど・・」


「ストーカーにはウチの課の皆が、困ってるわよ!

 年々件数が増えてるから、対応が大変なのよ!全く!」



そういう割には暇そうなのだ・・

被害者が困っているというよりも、この女性のほうが対応に困っていると言う感じだ・・

野口も、こんな対応では被害者が不安になるのも仕方がないと思い始めた。


だが、そんな事で言い争っていては先に進まない。

低姿勢で何とかしてもらおうかと、拝みたおす。


「そこを、何とか・・

 話にのってもらいたいんだけど・・」


「何?

 奥さんか誰かが困ってるわけ?」


「まぁ・・

 そんなとこだよ。」


「ふぅん・・・

 下着とか盗まれたり、ガラスとか壊されたりしたの?

 不法侵入とか・・」


「いや・・今の所は・・」


ストーカー行為が犯罪として取りざたされてきたのは、被害者が精神的に追い詰められているというよりも、直接危害を加え始めたからである。

窃盗事件がエスカレートして殺害されるに至るが、それは氷山の一角でしかない・・


見ず知らずの人物に追われる事もあれば、会社の同僚や店のお客、元付き合っていた人が、ストーカーに走っているケースもある。

更に、最近ではネットで出会う場合もある。


かと言って、全ての行為が、ストーカーに当たるかどうかは微妙なところだ。


「精神的な被害」というのは実証も難しいし、被害者側が一方的に被害妄想に陥っている場合もある。


「いやがらせ」・・も定義が難しい。

過剰反応や勘違いという場合も有りうる・・








「物的証拠がないと、こっちも動けないわね・・

 刑事課だってそうでしょう?」



「まぁ・・そうだけど・・

 でも、君だって、知らない人に追いかけられたら怖いだろ?」



「ん~・・

 そうかね~・・逆に来て欲しいけど・・」


確かに・・この女性警官に付いて来る男なんて居ないかも・・

ストーカー行為をされる女性は、精神面が弱かったり、比較的美人であったりと・・共通点も多い・・


俗に「隙がある」人が狙われやすく、その「隙」を突いてくるのだ。



野口にとって、相談する相手を間違った感じもしていた・・

だいたい、ストーカーに付かれた人でなければ、その恐怖は分からないだろうし・・

全く経験もない人が、ストーカーの被害に遭っている人の事などわかるはずもない・・


見るからにストーカーとは縁もなさそうな、女性警官・・








ガックリきている野口を見て、女性警官が微笑む。


「ふふ・・


 刑事課の熱血君の頼みだから・・


 聞いてあげるかな・・」



「え?本当?」



「聞くだけよ!それ以上は、どうするかは話次第よ!」


今まであった出来事を話す野口・・


 ・


 ・

 ・





「ふぅん・・・

 足音だけか・・・」



「今日は名前を呼ばれたって言ってたよ。」



「姿を見せずに、足音と声だけでプレッシャーをかけてきてるのかな・・・

 それなら、質の(たちの)悪い相手かも知れないわね。

 その不審人物らしき人は特定できてるの?」



「いや・・

 今回は、その人が、犯行に及んでるかどうかは分からないんだ・・


 以前、後をつけられたってのは事実らしい・・

 何度も引越しをしているけど、その度に住所を調べられている。

 この人なんだけどね・・・」



千尋さんから預かった名刺を見せる野口・・


「この署の管轄外か・・

 これじゃあ、手出しは出来ないわね・・」


離れた都心の住所だった・・


「現行犯逮捕って言うか・・

 その女の人が襲われてるときに捕まえる以外に方法はなさそうね・・


 でも、この課では逐一、その女性についてるわけにもいかないわ!

 ストーカーなんて、山ほど居るんだから!

 一人ひとり見ているほど、暇じゃないのよ・・」


「それじゃあ、直接被害に遭うまで、何もできないって事かい?」


上手く動いてくれない対応に、少々、怒り口調の野口。



「残念ながらね・・

 こういうのは、

 探偵とか弁護士の仕事だと思うけど・・」



隙間産業というべきか・・かゆい所に手が届く存在は無いのだ。便利屋のような探偵が居れば、そこに頼む以外に方法が無い・・


もしくは身内が解決するのが一般的なのだろう。

しかし、千尋さんには、頼るべき身内が近くに居ない様だった。





途方に暮れた顔をしている野口に、女性警官が話をもちかける。


「困ってるようね・・

 じゃあ、こっちの言うことを聞いてくれるなら、

 力を貸してもいいわよ!」



「え?

 それは・・」



「ウチの課の女の子と刑事課の独身男性の合コンの設定をお願いしたいんだけど・・!

 なかなか出会いが無いのよ!

 来るのは女性ばっかだから・・

 あ、交通課の子達も飢えてたカナ・・」



「うう・・

 合コンの設定???」


そんな条件を付けるとは思っていなかった・・

こちらの要望に対して、かなり不利な事を押し付けてきている・・


「嫌ならいいんだけど!」


「わ・・わかったよ・・」


渋々条件を引き受ける野口・・千尋さんの為と思って断念する・・




「おっけ~。約束よ!」


そう言って、机の上のパソコンを広げる女性警官・・何をしようというのだろう?






 

「さっきの名刺・・見せてくれる?」


キーボードのすぐ脇を指し示す女性警官・・

そこに名刺を置いてくれと言っていた。


その通りに、そこに名刺を置く。



「東京都・・港区・・か・・」

名刺の住所を打ち込む女性警官。


「この署の管轄外なんじゃないの?」


不思議がっている野口・・

先ほどは、署の管轄外だと言うことで手が出せないと言うことだったが・・



「管轄外ではあるけど、情報は流れてるわよ。」


「情報??そんなのが、あるの?」


きょとんとしている野口に、得意そうに話し出す女性警官。


「私達だって、遊んでるわけじゃないのよ!

 各交番や交通課の皆でデータを共有してるの!


 この署だけでなく、広範囲に話を通してあるわ。

 女性警官同士のネットワークってやつね!」



「女性警官同士の??」


「個々で調べるには限界もあるでしょ?

 日頃、地道に調べた事を共有しておけば、いつかは誰かの役に立つのよ。

 私の弟にデータベースを作ってもらってるの!」



「はぁ・・」


そんな手前味噌のような情報網が役に立つのだろうか・・

合コンの約束までして、騙されているような気がしてきた・・









「ほら!あったわ!」

女性警官がモニターを指し示す。


そこには、ストーカー行為をしているという男性の顔写真と住所、年齢、勤務先、前科など・・細かい情報が書いてある。


「千尋さんって人?

 ストーカー行為の届出が出てるわね・・」


「そうだよ!

 その女性が狙われてるんだ!」


被害届を出した人の名前まで載っていることに驚いている野口。

俄かに(にわかに)期待が持てる気がしてきた。




「何度か違う警察署で届出が出てるみたいね・・

 後をつけられてたり、家を監視してたみたいだけど・・


 ・・・

 あら、

 裁判所から警告も出されてるじゃない!」


過去の裁判の結果まで記録されているのか・・

何か凄いデータベースだ・・・


「でも、まだ、ストーカー行為をしてるみたいだけど・・」



「この間、この署に来てるわね・・

 被害届までは出さなかったみたいだけど・・」


つい最近の事まで事細かく記録しているらしい・・・

女性警官のネットワークに驚かされるばかりの野口だった。



「でも、この住所には、居ないみたいよ・・」


「え?」


名刺に書かれた住所から移転したと言う・・


「じゃあ、今は何処へ?」



「さぁ・・そこまでは分からないわ・・

 職場も辞めたみたいね・・

 裁判所の通告があってから、解雇されてる。」


現在では居場所も分からないと言うのだろうか・・



「この携帯の番号も?」


「たぶん、変えてると思うわ・・

 次に事件を起こすか、交番の人が運よく訪問しない限りは出てこないでしょうね・・」



「そうか・・」


振り出しに戻った感じがした・・

せっかくの女性警官の情報網だったが、限界もあるようだった。


居所も連絡先も分からない人物に狙われているのだ・・

やっかいな展開となった・・











だが、違う方向からも調べてもらう事にした野口・・


「そうだ・・

 あの坂の近辺で、不審者とか出てないかい?」


「不審者の情報?」


再び、パソコンに向かう女性警官。


住宅地図が表示され、被害状況が出てくる。



「ふ~ん・・・

 足音が聞こえるとか・・

 追いかけられたってのは、

 その千尋って女性の一件だけね・・・」



「そうか・・」


別の不審者が居て、いたずらをしている可能性もあったが、その線は薄れた・・

やはり、あの男性に狙われているのだろうか・・


その時、妻が話していた不審者の事件を思い出した。



「ついでに・・

 中学生が追いかけられたってのは?」


「ああ ~あの事件ね!

 全然違う場所よ。

 何人か犯人の候補者はあがってるわ。

 解決も時間の問題ね・・」



署の管轄内の事件や不審人物が網羅されている・・

女性警官の情報網も隅に置けないと思った野口。



「あと、こんなのもあるのよ!」

パソコンに向かって、キーボードを打つ・・


何なのだろう?


「未解決事件や、怪奇事件と思われる事件のリストよ!」


「え?怪奇事件??」



「犯人が特定できなかったり、『幽霊を見た』とか・・

 変なクレーム事件も参考に集めてるのよ。」


「そんなのも、あるの?」


「凄いでしょ?」



「ああ・・なんか・・凄い・・」


郷里の同窓会の際、今西に頼まれた事も思い出した。

こんな情報は喉から手が出るほど欲しいのだろう・・・


「この情報って、貰えるの?」


「ダメよ!個人情報保護法ってのがあるでしょ?

 こういうリストがある事自体、極秘事項なのよ!」



まぁ・・そうだろうな・・

女性警官達の日々の努力の賜物なのだ。そうそう簡単に出せるものでもない。

若い独身男性との合コンという条件を出さない限りは・・・



「野口君!約束は守ってね!!」



「う・・うん・・」


情報は得たものの・・

進展もしない割に、かなり大変な約束もしてしまったと、少々後悔している野口だった・・


にこにこ顔の女性警官に見送られて、刑事課へ引き返す・・


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