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霊感ケータイ  作者: リッキー
事件
389/450

115.マンションで


マンションのエントランスの自動ドア・・

キーボードが設置され、電子ロックになっている。


「ここの、505号室が私の部屋なんです。」

部屋の番号を押すが、震えて、何回も打ち直した。


「暗証番号は、私の誕生日なんです。

 2月14日・・バレンタインデーなんですよ・・」


「え?そんな事・・オレに教えて・・」


「いいんです。

 信用してますから・・」



そう言って、暗証番号を押して、ロックを解除する千尋さん。自動ドアがスーッと開いた。

エントランスを横切り、正面のエレベーター入る野口と千尋さん・・


若い女性と二人きりで乗るエレベーター・・

行き先の回数のボタンを押して、ドアが閉まると、仄かに甘い香りがした。


それと同時に、野口の方から、一歩足をひいて身構える千尋さん・・

さすがに、男と一緒では、身を守る習慣になっているのだろうか・・


少し、申し訳ないような表情になっっていた・・


「済みません・・

 私・・

 助けられたのに・・」


「気にしてませんよ・・」


微笑む野口。

まぁ、仕方ない仕草だと諦めている。






エレベーターのドアが開き、長い廊下を半分ほど歩いた5号室が千尋さんの部屋だ。

ここも電子ロックになっていて、ボタンを押して鍵を解除する。


先ほどの誕生日の番号に設定しているそうだ。


「どうぞ・・お入りください・・」


「はい・・」


一瞬、入るのをためらったが、これも職務だと割り切る野口。

だが、千尋さんの足が動かない・・


「どうしたんですか?」



「まだ、心臓が・・落ち着かないんです。」

胸に手を当てている千尋さん・・未だ心臓がバクバク言っているらしい・・


しばらく、玄関先で、介抱をする。

落ち着かせてから部屋に入る事にした・・








玄関から入った部屋の中央のちゃぶ台に座布団が敷かれているのが見えた。

そこに千尋さんを座らせる。


ドッと、今まで溜まっていた恐怖や疲れの様なものが押し寄せている・・

何とか、ここまでたどり着いたという感じだった・・


膝を抱えてうずくまる千尋さん・・



「私・・

 いつまで、こんな生活をしなければならないんですか?」


野口の方を悲しく、愁いに満ちた目で見つめている。



「そ・・

 それは・・」


途方に暮れて立ち尽くす野口。

返す言葉も無い。


そんな表情を見て、ハッとなる千尋さん。



「す・・

 すみません!

 野口さんに、言う事じゃなかった・・」


「いえ・・

 オレも不甲斐ないって思いますよ。」


警察の対応に不甲斐なさを感じていた野口。

今まで3回も引っ越させ、こんなに不安になっている人が居ても、何もできない・・

更に、ここを引っ越したとしても、また同じ事の繰り返しなのだろうか・・

市民が安心して暮らせる世の中を実現するための警察なのに・・



「被害届を出すにしても・・

 千尋さんだけが物音を聞いただけでは・・

 オレには聞こえなかったし・・

 不審者も見当たらないんです。」



「精神病だって・・思われても仕方が無いですよね・・

 嘘つきだって・・思われても・・」


再び俯く千尋さん・・

「足音」や「声」を聴いたというだけでは、物的証拠どころか被害届自体も出せない。



「オレは信じますよ!」


その言葉に、顔を上げた千尋さん。


「野口さん・・」



「こんなに、あなたが怯えているんだ・・

 怖い思いをしているのは、まぎれもない事実ですよ!

 あなた一人で抱え込ませるわけにはいかない。」


その言葉に、瞳が潤みだした千尋さん。


「ありがとう・・・」


そのまま、ちゃぶ台にひれ伏して泣き崩れる・・

野口に出来る事は、その脇に寄り添い、肩を優しく叩くのみだった・・








「私が悪かったんです・・


 前の会社で、

 好印象でいたかったから・・

 誰とでも親しく接するようにしてた・・


 あの人にも・・

 他の人からは良く思われてなかったけど、


 そんな事は無いって・・

 私は避ける事はしなかった。」



「あの人・・

 ストーカー行為をしている人ですか?」



「はい・・

 笑顔で接していたら・・

 私に気があるんじゃないかって・・

 勘違いされてたみたいで・・


 誘われる事が多くなっていた。

 断れば良かったけど、

 悪いって思って・・」



「付き合ったんですか?」



「はい・・

 私は社員同士の付き合いとしか思ってなかったんですが・・

 向こうは私と本当に付き合っているんだって思っていたみたいなんです・・」



「勘違いされる人」は何処にでも居るもので・・八方美人系の人に多い。

誰にでも良く見られたいという心理から、誰でも分け隔てなく接する人・・

自分は何とも思っていなくても、相手は好意をもってしまう事もあるのだ。

社会に出て間もなく、世の中の事も良く知らないで、人との接し方も分からないと、意外な落とし穴がある。

自分の意思をはっきり言わないと、ズルズルと行ってしまうケースもある。



「何度か飲みに付き合ってたら、

 私の家に迎えに来るようになったんです。


 私の携帯に毎日メールを送って来るし・・

 返信しないと機嫌も悪くなるみたいで・・

 仕事にも支障をきたしていた・・


 会社でも、馴れ馴れしくされる事があって・・

 同僚に注意されて、始めて気付いたんです。


 あの人を避けるようにしたけど・・

 もう、

 手遅れでした・・」



泣く泣く、その職場を辞めたそうだが、その男性からの行為は続いたそうである。

何度も警察に相談をしたが、対応も不十分で、引っ越しをするしかなかった・・


引っ越しても、その先に現れる男性・・・



「あの足音を聞く度に、背筋に寒気が走るんです!

 今日は声までかけてきたし!

 もう・・どうすればいいか・・・」


途方に暮れている千尋さん・・


 





「わかりました・・

 オレも、動いてみますよ!」


「え?」

野口の申し出に、耳を疑う千尋さん。


「オレの居る刑事課としては、被害届も何もない状態では動く事すらできません・・

 でも、今の話を聞けば、予防課も動くような感じもします。

 予防課で動かなかったら、オレが何とかします!」


「野口さんが?」



「市民の安全を守るのが役目ですから・・

 家内からも『連携できないのか』って言われてるんです。」


「奥さんから?」


「頼りない警察だなんて、思われたくないですから!」


野口の申し出に、口元が緩む千尋さん。


「野口さんって・・

 面白い人ですね・・」


「え?」


「今まで、警察へ行っても、野口さんみたいに親身になってくれる人なんて居ませんでした・・」


「よく上司に言われますよ。

 今時、『お前みたいな熱血は珍しい』って・・」


打ち解けた雰囲気に包まれる二人。







そして、思い立ったように、部屋の片隅にあるタンスの引き出しを開ける千尋さん。

一枚の名刺を差し出す。



「この男の人です。」


表には会社の住所が書いてあり。裏返すと、その男性の住んでいる場所と携帯の連絡先が書かれていた。

加害者と思われる人の所在が直ぐに分かる・・

ここに問い合わせれば解決するような気もした。



「都内のマンションですか・・」



「はい・・

 私は、怖くて・・・

 近づく事もできません。」



「そうでしょうね・・」


ストーカーを行っている人に自ら近づくなど、若い女性ができる事でもない・・

ましてや、交渉など、できるはずもない・・


弁護士を付けて交渉するにしても、社会に出て間もない女の子が思いつくようなことでもないし、

弁護士の費用が高額だという印象もある。

敷居が高く見えても仕方が無い・・


やはり、自分が一肌脱ぐしかないのだろうか・・



「今も、この住所に住んでいるんですか?」


「たぶん・・同じだと思います。」


「では、時間のある時に調べてみますよ!」


乗りかかった舟である・・千尋さんにも安心して生活してもらいたいし、時々、このように呼び出されても困るのが実情・・

奥さんにバレでもしたら離婚を迫られそうな勢いなのだ・・


早めに解決をしたい。



「本当ですか?

 ありがとうございます!」


嬉しそうな千尋さんの表情・・喜ばれるのが一番嬉しい・・



「では!失礼します!」 


そう言って、警官の様に敬礼して、速やかに立ち去る・・






マンションを出て、階段をトントンと下りていく野口・・




その後姿を、じっと見ている目があった・・・




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